スライムスレイヤー ~イシノチカラ~

作者:亜形


第86話 持ってる男


 中央大陸の北西に位置する都市ヨゴオートノ。娯楽や催し物が盛んであることから興行都市とも呼ばれている。

 今は亡き元国王ヨーゴは興行好きであった。身を引いた後は災害から復興したあとの娯楽を考えた事業を興すことに注力していた。
 ヨーゴが考えたのは発掘された迷宮を利用したダンジョン計画だ。

 迷宮内の各所に財宝を設置するまでは良かった。冒険好きが集まるだろう。だが、それだけでは面白くないと考えたヨーゴは劣悪な環境に強い植物の種を迷宮の至る所にまき、植物が育ち始めると生け捕りにした動物を迷宮内に解き放った。
 水場は地底湖など元からある。あとは自然の摂理に任せるだけだ。
 冒険者が迷っても水があり、植物、動物が生息する環境ならばしばらくは生き残れるだろうという考えだった。
 やがてヨーゴはとんでもないことをしでかしたと気づいた。迷宮内でもスライムが発生し出したのだ。
 その後、迷宮からモンスターが湧き出るようになり迷宮への入り口は封鎖された。

 ヨーゴの計画は頓挫したかに思えたが抗魔玉の力を伝達する武器の登場で風向きが変わった。武器があればモンスターを容易に倒せる。モンスターが落とす魔石や素材は金になる。
 計画頓挫から十数年後、ヨーゴは迷宮をダンジョンとして解放する事にした。

 南西側にある2つの迷宮はダンジョン1、ダンジョン2
 北東側にある2つの迷宮はダンジョン3、ダンジョン4

 数字が大きいダンジョンがよりモンスターが多く危険度が高い。今ではダンジョン1、2の中間、ダンジョン3,4の中間に小さな宿場町ができていてダンジョンに挑む討伐者は大抵そこに集まっている。

 現在、ダンジョンを管理する興行主は元国王ヨーゴの意思を強く引き継いでいる子孫のレヨゴという人物だ。都市の中枢機関はレヨゴが元王家だと知っているので強く苦言できない。実際、ダンジョン興行は上手くいっていて、他の土地からも噂を聞いた討伐者がダンジョン目当てで多く集まって来ている。文句のつけようがない。

 ヨゴオートノ管轄区域には力自慢をしたい猛者が多いので都市には闘技場まであり、賭け事も盛んだ。賞金、賞品を受け取った勝者を影で狙う輩も現れている。
 そこでできたルールが『鉄の掟』。
 当初は勝者を狙った者はモンスターと同様の扱いで生死問わずのクエスト対象としてギルドに依頼するというものだった。今では勝者を討伐者に置き換え、討伐者全員で追い込むという意味に変えて世界各地のギルドにその文言が飾ってある。

◇◇

 ユニオン・ギルズ。
 ギルをリーダーとした討伐者パーティーの4人は都市内の闘技場に来ている。闘技場内に解き放たれたモンスターを倒す催しの大会にギルは単独で参加していた。

 一回戦の結果。
 一位 チーム ワイルド・レオ(3名) 魔石6個
 二位 チーム 三槍無双(3名) 魔石5個
 同位 ギル 魔石5個
 四位 チーム ルーキークラブ(3名) 魔石4個

「現在大会のトップは魔石6個獲得のワイルド・レオ!
 武器のパイオニアであるワイルド・ライツ社の回し者か~。
 次点で三槍無双の槍三人組!
 なんとそれに並んで単独で参加しているギル選手が魔石5個を獲得しております!
 ルーキークラブは序盤で負傷者が出た為、思うようにモンスターを倒せていない状況でしたー。さて、二回戦はどうなるのでしょう~」

 ワー、ワー。

◇◇

 選手控室。二回戦開始までは30分の休憩時間がある。

 汗をかいて座っているギルにタズは声をかけた。

「ギルさん、今、2位ですよ! 凄いですー」
「あの若い三人がドジっただけだ。それにワイルド・レオの大剣持ったレオってやつ。あいつ一人で爪猫倒してやがった。他の二人は防御はしても見てただけだ。槍の三人組はバッチリ連携してやがる。やっぱ一人じゃ勝ち目ないかもな~」

 チーム ワイルド・レオはそのまま三人組の討伐者パーティーである。

 レオ(リーダー)・・・20歳、身長200cm。均整の取れた体格に引き締まった筋肉。ライオンの鬣のようなボサボサ頭の男。
 クルーロ・・・21歳、身長167cm。標準的な体型だが珍しい白髪の色白な男。
 リサレーチナ・・・19歳、身長160cm。猫耳フードを被った猫好きの女。モンスターの猫は可愛くないので許さない。

 実はこの三人がメルクベルの博士の邸宅の部屋を留守にしているメンバーだ。

「ねー、レオ。ボクたちワイルド・ライツ社の回し者って言われてたにゃ?
 パーティー名にワイルドってつけたの失敗にゃ?」
「手持ちの武器はワイルド・ライツ製なんだからあながちウソとは言えんだろ?」
「確かに世話にはなってるけど、俺は回し者じゃねーし。心外だよ!」
「名前が売れればどうでもいいじゃねーか?」
「レオに任せたのは俺たちだけど、ワイルドなんてつけるから悪目立ちすんだよ。
 パーティー名そのまんまチーム名で使っちゃうし」
「ボクは名前なんてどうでもいいにゃ。
 しいて言うならレオよりキャットが良かったにゃ?」

「皆様、そろそろ三回戦のお時間です。各人闘技場へお入り下さい。
 尚、ルーキークラブが棄権を申し出た為、二回戦は残り7名で実施されます。
 相手は牙犬20体に変わりありません。
 命の危険を感じた場合は闘技場内に設置してある柵へ逃げ込んで下さい。
 ただし、試合中柵に逃げ込んだ選手は棄権とみなされます」

 二回戦の結果。
 一位 チーム ワイルド・レオ(3名) 魔石7個 計13個
 二位 ギル 魔石7個 計12個
 三位 チーム 三槍無双(3名) 魔石6個 計11個

「なんとなんと、ギル選手が単独で2位をキープ! 大接戦です。
 これは三回戦まで分からないですよ〜。
 尚、最終結果が魔石同数の場合、オッズは分配。
 優勝賞品はくじ引きでの授与となります」

 ワー、ワー。

◇◇

 選手控室。

「ねー、レオ。ホントにボクたち見てるだけでいいのかにゃ?」
「お前ら得意じゃねー短剣と盾持ってるじゃねーか?
 そもそもやる気なんてねーんだろ?」
「うっ、ボクはクルーロが言うからにゃ」
「ははー、バレてたか。それに俺の得意とする武器はここには置いてないもんな。
 でも、見てるだけでいいって言ったのレオだぞ」
「分かってるって。勝ちが目的じゃねーし。
 これはお前らが頼んでる防具ができるまでの退屈しのぎさ」
「退屈しのぎで30万も出して俺らも参加させる意味あんの?」
「ダンジョンで稼いだから金は使ってもいいだろ?
 オレに向かってくるモンスター少ないから追うの面倒なんだよ。お前らはエサだ」
「おいっ! エサだと? 一応、俺のほうがレオより年上なんだからな。
 チナ、絶対レオに協力すんなよ!」
「もうまた。チナって言わないでって言ってるにゃ。
 ボクの名はリサレーチナにゃ」
「チナでいいだろ?
 長えしさっきは名前なんてどうでもいいって言ってたじゃねーか?」
「レオまで・・・。なんで名前の後ろ側を取るにゃ。
 短くするならせめてリサにゃ!」
「「リサって感じじゃねー」」
「にゃ~! どういう意味にゃ!」

「皆様、そろそろ三回戦のお時間です。各人闘技場へお入り下さい」

「さてと、行くか。多分、勝つのは単独で参加しているあいつだろ?」
「なんでレオじゃないんだよ?」
「オレの大剣、あと何回もつと思う?」
「あ、もう壊れんの? バカ力で叩きつけるからだよ」
「量産品だからな。手伝ってくれてもいいんだぜ?」
「誰が手伝うか!」
「ボクも手伝わないにゃ!」

 三回戦の結果。
 一位 ギル 魔石5個 計17個
 二位 チーム ワイルド・レオ 魔石3個 計16個
 三位 チーム 三槍無双 魔石2個 計13個

「なんと、なんと、なんと! 大番狂わせが起きました!
 単独参加のギル選手の勝利です~!
 レオ選手の大剣が崩壊したのが痛かったですね~。
 どうしてあれが壊れるんでしょう?
 ワイルド・レオは早々に諦めて三人とも脇で座ってしまう始末。
 なのにモンスターは彼らに近づきもしませんでした。
 一方で三槍無双は同時に3体のモンスターに襲われ大苦戦。
 2体倒したところでギル選手に最後の1体を持っていかれた感じでしたね。
 素晴らしい戦いを見せてくれました! 次回の開催をお楽しみに~!」

 ワー、ワー。

 観戦席で見ていたタズたちは結果に驚いていた。

「ギルさん勝っちゃいましたね」
「持ってるわねー。ギルって時々バカみたいにツイてるときあるわよね?」
「そう言われると船のときもそうでしたね」




※この内容は個人小説でありフィクションです。