スライムスレイヤー ~イシノチカラ~

作者:亜形


第96話 雲泥の差


 ダンジョン3の入り口で待機していた2組(ロッカ、バン、セキトモ、イズハ)の4人も出発し、頂上である第1層の管理小屋で荷物を預けたところだ。

 ロッカは1組と書かれた箱に入っている荷物を見ていた。

「1組の連中、絶対私たちを待ってないと思ってたわ」

「荷物は置いてありますし、出発しているのは確かでしょうね」

「しかし、驚いたよな~。
 この山脈の頂上が緑の大地なんて下では想像もしてなかったよ。
 早く行きたいって気持ちも分かる」

「結局、ユニオン・ギルズの4人は来なかったっすけど、来るんすかね?」

「タズ以外みんなお酒飲んでたからね。
 レオとクルーロがあんなになってたし、寝坊確定でしょ。
 今日はダンジョン入らないって可能性もあるわ」

「では私たちもそろそろ出発しましょう」

 2組は第1層の順路である坂道を下った。

「周囲にモンスターはいないようね?
 トウマたちが倒して行ったかも」

「そういう意味では同じ方向に向かう僕たち後発組のほうが楽に進めるね」

「つまんないわ」

「おそらく一番奥に腕輪があるので1組は真っすぐに進み大穴を迂回するルートで向かっていると思います。
 所要時間は増えますが私たちは左側から時計回りに迂回して行くというのはどうでしょう?
 各所に宝箱も置いてあるという話でしたので探索は被らないかと」

「それいいわね!
 同じルートを行かなければ倒されてないモンスターがいるかも」

 2組は左側からエリアの端を進んで周回することにした。
 しばらく進むとロッカはスライムを発見し、すぐに倒した。

「もしかして手強そうなのいない?」

「第1層ですからね。
 大物は倒されてもういないでしょう」

「仕方ないわ。2層目以降に期待しよう」

 しばらく進むとイズハが岩壁に埋まっている宝箱を発見した。

「罠あるわよね?」
「どうでしょう?
 岩に埋まっていますし、あるとしたら箱を取り出したタイミングでしょうか」

 バンは注意を払いつつ宝箱をそっと取り出したが罠はなかったようだ。

「イズハ、あんたが見つけたんだから開けてみなさいよ」

「その前に報酬をどう分けるか決めませんか?
 見つけた人が貰うのか、皆で分配するのか」

 相談した結果、一つも見つけられなかった人から不満がでて協力関係が崩れるかもしれないということで報酬は皆で分配することになった。

 イズハはおそるおそる宝箱を開けた。
 宝箱の中には大銀貨3枚。30万エーペルが入っていた。

「おおー」

「クエスト難易度Cくらいの報酬だね。こんな楽に手に入れられるなんて」

「トウマいないからこれは4人で分配ね。あっちも稼いでるかな?」

「合流できたら結果を聞いてみましょう」

「先に聞いて向こうが多かったら合わせて分配しようって言ってみる?」

「それはズルいだろ? わはは」

 一同は先に進んだ。

 ロッカは言う。

「二層目以降はこっちの組が有利かもね、洞窟だし」

「どういうこと?」

「こっちにはセキトモがいるでしょ?
 もし、狭い通路でモンスターと遭遇したら大盾が活きるわ。
 それに槍の役割も兼ねたグレイブを持つ唯一の槍使い。
 狭い所で剣を振るうより突けたほうが有利よね?」

「なるほどね。確かに周りが壁だと大盾でせき止めしやすいかもな」

「向こうは盾持ちトウマだけだからね。防御面では危ないメンツよ」

「ロッカ、忘れてますよ。レオの大剣は盾の役割でも使えます」

「あ、そっか。でもレオが防ぐ役に回るとは思えないわ」

「うふっ、確かに」

「あと、悔しいけど私たちの体が小さいのも狭い洞窟内では活きると思うわ。
 他の人たちと比べて動きやすいだろうから。
 イズハは・・・特にないわね」

「そんな~、自分も何かできるはずっすよ~」

 しばらくしてイズハはまた宝箱を見つけた。今度は木が二股に別れているところに設置してあった。
 特に罠もなく宝箱を開けると大銀貨5枚。50万エーペルが入っていた。宝箱に苔が生えていたので長い間見つけられていなかったようだ。

「イズハは観察眼に長けてるね。僕だったら木の上のあんなとこ見つけられないよ。
 これも僕たちのほうが有利なんじゃない?」

「自分も役に立ってるっすよね!」

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 一方、1組のトウマたちは中央の大穴を迂回していた。大穴を覗くとなかり深く、下層まで続いているようだ。外周200~300mはありそうな大穴だ。

「ここ落ちたら死にますね」

「水が集まって下に流れ落ちてるから足元気をつけなよ。
 地盤が柔らかくなって緩んでるかもしれないぞ」

“ズカン!”

 突然襲ってきた中型の牙犬をレオが大剣で叩き斬った。
 その影響で大穴の淵が崩れ落ちた。

「ちょっと、レオ!
 ここで大剣使うなよ。地盤崩れて俺たち落ちたらどうすんだよ。
 お前が一番重いんだから気をつけろよな!」

「そうか、悪い」

「そう言えばレオって昔は大剣じゃなくて普通の剣使ってたよね?」

「ちまちま狙い定めて斬っていくの面倒だろ?
 力任せに一撃で仕留めたほうが気持ちいいことに気づいた」

「そんな理由?」

「力任せってのがダメなんだよ。レオの報告書どう書いてるか分かる?
 毎回武器がもろすぎてすぐに壊れるって書いてるんだぜ。
 博士はもうハンマータイプでいいんじゃないかと言ったくらいだ。
 レオが『オレは大工じゃない』って言ったときは笑ったね。
 それから壊れる度にどんどん大剣が大きくなって今、その大きさと重さだよ」

「今度のやつは耐久性ありそうだぞ」

「レオ、それボクたちに毎回言ってるにゃ」

 昔から力は強かったけど、レオそこまで強くなってるのか。
 バンさんと力比べしたらどっちが勝つかな?
 普通に考えたら体格のいいレオなんだろうけど、バンさんはそれとは違う見た目では分からない力の強さだからな。

 途中で見つけた宝箱は全部周辺に落とし穴が仕掛けてあった。

 そう何度もはまるかよ。
 先に剣で地面をつついて確認しながら宝箱を開けていったもんね。
 中に入っていたのは銅貨、銀貨が1枚ずつ、最高で銀貨の千エーペルだったけど。
 まあ、第1層だし、こんなもんかもな。

 その後、一番端と思われる場所に到着した。屋根付きの石台に大きめの宝箱が置いてある。この中に証明の腕輪が入っているのだろう。ダンジョン1、2でも同様だったようだ。宝箱を開けると中にはどっさり腕輪が入っていた。

「これ持ち帰るのは組に一つでいいって言ってましたよね?」

「大量に持ち帰っても多分回収されるんじゃない?
 全部持ち帰って次の組に腕輪を入手させないっていじわるはできそうだけど。
 そうだな。宝箱自体を隠してもいいな」

「おま、よくそんなこと思いつくな」

「クルーロはそんなことしないにゃ。みんなが楽しめなくなるにゃ」

 チナに言われ、クルーロはしぶしぶ腕輪を一つ取り出した。

「さ、戻ろうか」

 1組は昼過ぎに管理者のいる受付に戻った。管理小屋に2組の荷物が置いてあったのでまだ戻っていないようだ。追い抜かれてはいないらしい。
 持って来た証明の腕輪を受付に見せると回収され、しばらくして腕輪にクリア証明である印が刻まれて戻ってきた。

 管理の人が言う。

「これを持つ組はあの階段から第2層に降りることができます。
 ここで一旦ダンジョンから出ても構いません。次回はすぐに第2層に進めますよ」

 1組は2組の戻りを待つことにした。
 2組が戻って来たのはそれから1時間ほどしてだった。2組は左側から回って証明の腕輪を取った後は真っすぐここに戻ってきたらしい。

 クルーロは少々不満顔だ。

「遅いよ~。俺たち待ちくたびれちゃったぞ~」

「あんまり遅くなるとあんたたちが心配するかもって話になってね。
 これでも戻りは急いだのよ」

 1組が宝箱から得た報酬は1110エーペルだったことを伝えると、笑われた。
 どうやら2組は高額を得たようだ。

 う~ん。報酬に雲泥の差があったのかもしれないな。
 あっちの報酬額は教えてくれないし、ロッカがニタニタしてやがった。




※この内容は個人小説でありフィクションです。