スライムスレイヤー ~イシノチカラ~

作者:亜形


第101話 組み合わせの答え


 ダンジョン3からスリーフォの町に戻ったスレーム・ガングとワイルド・レオの8人は酒場に寄って夕食を取っているところだ。

 トウマは店内を見渡した。

「ユニオン・ギルズは来てませんね?」
「珍しいわね。扉閉まる前に出て来れなかったんじゃない?」
「思ったのですが1層まで戻ればダンジョンの外に出られるのでは?」
「そっか。1層には扉ないですもんね」

 クルーロは頬張っていた肉を食べ終えて言った。

「気づかなかった? 夜は階段も塞がれてると思うよ。
 見た感じ閉じれそうな扉付きの降り口だったろ?
 まあ、階段を通ろうとするモンスターは微力な抗魔玉の力に屈しないやつだろうからそういうやつが発生した場合の万一の備えだろうけどね。多分1層はモンスターが外に出ないように夜間見張りの衛兵がいるんじゃないかな?」

「決まりね。あいつらが酒場に顔出さないなんてありえないわ。2層までは進んでると思うしダンジョンの中に留まっている可能性が高いわ」

「やっぱセーフティゾーンで待つのが無難だよな。昼間だったら階段降りてクリアしてない層に行けそうだけど、夜間階段が塞がれてるとしたら無理だもんな~」

「クルーロ。またズル考えたにゃ」

「ダン1,2は受付いたから無理だったけどな。
 ダン3は規則無視して一気に最下層まで行くなら昼間は降りれそうって話だよ。
 いくら俺でもそんな事しないって」

 このあとダンジョン第3層攻略について話すことになったのでお酒を飲む連中も今日は控えて馬屋に戻った。

◇◇

 テント設置を終えると、皆でバンがメモして来た内容と3層フロアの左側をマッピングした地図を並べて見ていた。レオは寝転んであくびをしている。話に加わる気はないようだ。

「キーワードは『セーフティゾーン』、『柱』、『右側』だろ?
 それとマークが三種。それぞれ5つの葉先にあるくぼみの位置が違うだけ」

 うーん。考えても俺にはさっぱり分からない。

 セキトモが言う。

「右側だけど、セーフティゾーンか柱の右側とは限らないよな?」

「そうですね。他の見つけていないキーワードの右側ということもあり得ます」

「全部のキーワードを見つけるか当て勘で探すしかないって事か。
 最近、俺の勘はハズレてばかりだからな~」

 皆で考えてみたが明確な答えは出ない。トウマはヒントの3ワードについて考えるのは早々に諦めてマークと地図を何気に見ていた。

「トウマ、あんた何か思いつかないの?」

 おい、おい。ロッカ、そこで俺に振るなよ。

「俺にはさっぱりですよ。マッピングした3層左側の地図が指みたいでマークの左側と似てるな~くらいに見てましたけど。全然ダメです」

 クルーロはトウマを見た。

「トウマ、今なんて言った?」
「全然ダメです?」
「その前」
「・・・地図が指みたいでマークと似てる?」
「それ!」

 クルーロとバンは何かに気づいたようだ。

「お手柄だよ、トウマ」
「言われてみればですね」

 良く分からないけど、何かの役に立ったみたいだ。
 どうだロッカ!

 トウマは自慢げにロッカを見たがロッカは素知らぬ顔でクルーロとバンの話に聞き入っていた。

 おい、ロッカさんやい。振るだけ振っておいてそりゃないだろ~。
 ま、いっか。

 どうやら宝箱の底に刻んであったマークは3層のフロア地図のようだ。中央の大穴付近から先のほうが描かれている。5つの葉は分かれた通路と考えられ、葉先にあるくぼみがヒントの合った宝箱の位置を差していそうだとか。

「3つのヒントが葉先部分に合ったからヒントがある宝箱はあと2つだな」
「そうですね。フロア右側にあと2つ通路があると思っていいでしょう」
「なら明日は二手に別れてヒントを見て来たほうが早そうね」

「あ~、今夜はぐっすり眠れそうだ~」

◇◇

翌日-----。

 ダンジョン3第2層セーフティゾーンにユニオン・ギルズの姿はなかった。もう動き出しているのだろう。3層に降りた一同は、A組(ワイルドレオ+トウマの4人)とB組(トウマを除くスレーム・ガングの4人)に別れてフロア右側の2つの通路に進んで行った。

 A組の行く手を遮ったのはクエスト対象がいる鼠のモンスター群だった。赤い眼をした鼠たちが前方に群がっている。

「猫の獲物だとしてもこれは多過ぎるにゃ~」
「半分くらいは複製体ですかね?」
「どのみち襲って来るやつらは倒すしかないからな。
 レオ、張り切って倒しちゃいな!」
「数いる小型は面倒くせえんだよな」

 レオは持っていた魔石ランタンのパイプ棒を地面に突き刺した。トウマもマネをして地面に突き刺したが、少し斜めになった。

 うーん。倒れないなら大丈夫か。

 トウマが先を見るとチナが鼠の群れに飛び込んで行っていた。チナの両手にはアクセサリーと思っていたモフモフの猫の手グローブを装着されている。

 チナ、弓使わないの?

 チナは両手を合掌して肉球同士を押し潰すと、指先から爪が飛び出した。

「チナのやつ。久しぶりに出したな」
「相手が鼠だからな」
「あれって武器だったんですね?」
「もう売ってないけど、以前、博士が面白半分で武器としてあの1セットだけ試し売りしたんだ。討伐者には武器と思われずになかなか売れなかったんだけど、高いアクセサリーと勘違いして子供に買ってあげた客がいてさ。肉球押したら爪が飛び出して来たって苦情で返却されたんだよ。それをチナが気に入って譲って貰ったんだ」

「へー。あれ抗魔玉着けられるんですね」
「モフモフの内側だからスロットは見えないもんな。
 チナ曰く『かわいい猫にも爪はある』だって」

「おい、クルーロ。これチナが全部倒しちまわねーか?」

 チナが猫の爪で面白いように鼠を引っ搔き回しているのを眺めていたらいつの間にか鼠の数が残り数体まで減っていた。

「成敗にゃ!」

 トウマ、レオ、クルーロの出番はなかった。散らばって落ちている魔石・小の回収といつの間にか倒されていたクエスト対象のタグを拾うのを手伝っただけだ。

 チナの猫の手グローブは内で握るタイプのようだ。肉球を押し潰すと爪が飛び出す。内側にある紐を引くと爪が収納されて肉球が膨らむという面白機能が付いているがバンが使っている三刃爪に近いようだ。爪はそう長くはないので超近接武器といったところだろう。

「チナ、普段でもそれ使えよ。雑魚はお前一人で十分だ」
「これはボクがピンチのときの切り札にゃ」
「今はピンチじゃなかったろ?」
「鼠は別にゃ」

 クルーロは微笑ましい顔でレオとチナを見ている。

「あの二人。なんだかんだでここってときは協力し合うんだよ。
 あ、俺もだけどな」

 ホントかよ? 協力し合ってるの見たことないんですけど。

 通路奥に到達するとやはり屋根付きの石台の上に宝箱があった。宝箱の中には今までと同様にヒントが刻んである。

 文字はこう刻んであった。

 ヒントを集めてクリア証明の在りかを探せ
 『一番』

「一番?」
「オレのことか?」
「レオのことじゃないのは確かだ。
 マークも予想通りの位置にくぼみがあるな。
 よし、とりあえずメモ取って戻るぞ。
 俺たちは打合せ通り、左壁に沿って折り返しまで戻る。B組は右側の壁に沿って戻って来るはずだからそこで合流だ」

 合流地点に着くと、B組のほうが先に戻っていた。B組が見つけて来たヒントは『視点』だった。

「これで揃ったな」

『セーフティゾーン』、『柱』、『右側』、『一番』、『視点』

「柱は沢山あるし『柱』、『視点』はない。
 『一番』、『視点』の組み合わせもないな?」
「『セーフティゾーン』と『一番』もないですね」

「視点はセーフティゾーンで右側にある一番目の柱ってところかな?」
「組み合わせ的にいろいろできますが指しているのはそこだと思います。
 セーフティゾーンから見て一番手前ということはないでしょうから右側の一番奥ですかね。
 階段を降りて一番目にあった柱あたりでしょうか?」

「なるほどね。
 2層の管理者が言ってた『知っていれば簡単』って意味も通る。
 階段降りてすぐに目にした一番目の大きな柱の周囲を探せば難なくクリアだったわけだ。一度通った場所は改めて詳しく探さないだろうからな」

 一同は一旦セーフティゾーンに戻ることにした。




※この内容は個人小説でありフィクションです。