スライムスレイヤー ~イシノチカラ~

作者:亜形


第92話 か弱い生き物


「これは博士からの受け売りだけど」

 クルーロは突然表情を険しくした。博士に似せようとしたのか、少し声色も変えている。

「トウマ君、人に擬態するスライムが少ないのは何故だと思う?」

「それは・・・、人が好きじゃないから?」

「違うな。人はか弱い生き物だからだよ。
 人が自立歩行できるまで1年以上。
 自身で食料を得られるように成長するまで何年かかると思う?
 人はその間は誰かに守って貰えないと生きられない。
 そんな長い年月守られている生き物が他にどれだけいるだろうか。
 大人に成長したとしても同じさ。虫や小動物が人と同じ大きさだとしたら圧倒的に虫や小動物のほうが強いとは思わないか?」

「言われてみれば」

「大きくなれるなら人より他の生き物のほうが強いに決まっている。
 スライムが人を選ぶ訳がないんだ。だが、人の強さとは頭脳だ。人は考え、先を想像し、言葉で意思を伝え、協力し合い、道具を作り、使う」

 クルーロは組んでいた足を逆に組みなおした。

「そしてスライムが人に擬態しない理由がもう一つ。単に取り込まれづらいからだ。
 人はスライムがどんな生物かを伝え聞かされ少なからず知っている。
 他の生き物は突然スライムに包まれたとき、ギョッとして硬直するだろう。
 何が起きたのか分からず外皮を溶かされ始めたら強者に食われたとすぐに自身の死を悟って諦めている可能性が高い。だがそれがスライムだと知っている人は簡単には取り込ませない。最期まで足掻くはずだ」

 クルーロの表情が元に戻った。

「どう? 博士のマネしてみたけど、似てた?」

 シーン。

「あー、似てなかったか~」
「全然似てなかったにゃ。ボク今のクルーロの話し方、賢そうで好きじゃないにゃ」
「えー、難しい話するときの博士のつもりだったのにな~。
 ってチナ。俺、普段は賢そうに見えないの?」

 なんか博士が言った事だと思うと妙に説得力はあった。

 バンは顎に手を当てて考えている。

「つまり、か弱い人そのものに擬態するモンスターはいないという事でしょうか?
 人型のモンスターがいるとしたら複合体のモンスターだと」

「そういう事になるね。人の部位を強化してもたかが知れてるだろうし。
 討伐者のような強い人はスライムなんかにやられたりしないだろ?」

 俺、やられそうになったんですけど・・・。

「ま、人しか取り込んでいないスライムなら人に擬態するしかないだろうけど、見分けはつくよね? 眼の色が違うし」

 ロッカが言う。

「まるで人そのものに擬態したモンスターに会った事あるみたいな言い方ね?」

「あるよ。1体だけね。
 多分、中型のスライムに取り込まれた幼い少女。
 そいつは着ていた服まで再現してたけど服は体に繋がってて外見だけ似せたって感じ。服と一緒だから複合体と言われればそう。
 まあ、裸でスライムに襲われるって状況はあまりないよね?
 言葉は通じない。問答無用で前のめりに襲ってきたよ。
 さすがに人の姿してるから躊躇したけど、やらなきゃやられるからね。
 斬っても血は出ないし、霧散して改めてモンスターだって実感したよ。
 人型が他の生き物襲って食ってる姿を想像するだけで気分を害するよな~」

「そう。思い出したくもない話をさせたわね、ゴメン」

「構わないさ。これで君たちも人型に出会った時の心構えくらいはできただろ?」

 トウマ、セキトモ、イズハは唾を飲んだ。
 すると、レオが大きな音で一拍手した。

「クルーロ。もういいか? ダンジョン3の話に戻そうぜ」

◇◇

 ダンジョン3は他のダンジョンとは異なるらしい。山脈を登った所にダンジョンの第一層があるようだ。
 1グループで入れる人数は4~6名。モンスターが多いこともあるが食料や荷物を持つ役も必要と判断されて増やしてあるようだ。誰かが明かりを持ったままモンスターと戦う必要もある。
 3名ではダンジョン3に入れないからロッカとバンが呼ばれたのだ。

「8人いるし、ここにいる全員では入れないな。
 手紙出した時はお前らが5人組のパーティーになってるとは思ってなかったぜ」

「正確には俺が手紙出したんだぞ。訂正しろ、レオ」
「細かいことはいいじゃねーか」

「4-4の2組で入って中で合流でいいんじゃないかにゃ?
 入るときボクたちに一人貸してもらうだけでもいいにゃ」

 別れてダンジョンに入るって話、俺たちもしてたな。

 レオはトウマを見た。

「そうだな。トウマ、お前こっち入れ」

「俺?」

「お前がどれだけ成長してるか確かめてやるよ」
「俺もレオリ・・・、オホン。レオがどれだけ強くなったか見てみたいけど」
「じゃ、決まりだ!
 それとそっちの二人。セキトモとイズハだったか、お前ら強いのか?」
「ちょっと、言っとくけどセキトモさんはレオより年上だからね。
 上から目線はやめろよ」
「そうなのか? まあ、いいじゃねーか。同じ契約してる仲間なんだから」

 レオは立ち上がり二人の前に行った。セキトモとイズハも立ち上がった。
 レオは腕組みをして二人を見下ろしている。

「今から威嚇するから二人ともオレを見てろ」

 そう言うとレオは相手を圧倒するような、すぐにでも逃げ出したくなるような殺気を二人に向けた。

 セキトモはぐっと堪えて睨み返した。
 イズハも動じない。

「わはは! 二人とも合格だ!
 試すようなマネして悪かった。
 お前ら何度か強者と相対して死線を潜り抜けてるようだな。大したもんだ」

 セキトモが冷や汗をかきながら言う。

「勘弁してくれよ。怒った熊と相対してるのかと思った」

 イズハも汗を垂らしながら言う。

「い、今ので良かったっすか?」

「イズハ、お前変な奴だな。
 正面から向き合うかと思ったら気配消してオレの威嚇かわしやがったな?」

「ん? 見てろって言うから観察に徹しただけっす。
 もっと距離を空けたくなったっすけどね」

「なんだこいつ?」

「イズハは元観測者なのよ」

「ほーう。面白いやつがいるもんだ」

 明日、ダンジョン3,4の中間にあるスリーフォの町に向かうことが決まった。

◇◇

 ダンジョンに入る準備をする為、スレームガングの5人は都市で買い物中だ。
 都市の店から出てまた城を眺めていたときだった。

「あれ? トウマさん?」

 そこにはユニオン・ギルズのタズがいた。

「どうしたタズ?」
「ギルさん、トウマさんがいますよ。あ、師匠~!」

 ユニオン・ギルズも面々もいた。
 タズはロッカを見つけるなり抱きつきに行った。

「お前らもこっち来たのか、久しぶりだな!」
「ギルさん、お久しぶりです。こっちにいたんですね。
 メルクベルで会えなかったからどこにいるんだろうと思ってましたよ」
「あっちで色々探し回ったけど、欲しいものが見つからなくてな。
 こっちまで出てきたんだ。
 俺もついに真魔玉を手に入れたぜ」
「ホントですか? 良かったですね」
「見ろよ、真魔玉【青】だ。闘技場の催しで勝って手に入れたんだぜ」

 青? 今は俺も持ってるんだけど。
 ギルうれしそうだし言わないほうがいいよな?

 向こうではタズがバンに自慢しているみたいだな。
 タズは欲しがってた治癒のロッドを手に入れたのか。
 持ってる人からしたら自慢されても反応に困るよな~。

「ん? リックやら携行食やら、まるで旅支度みたいだな。
 それは外套か?」
「外套は雨や洞窟での寒さ対策ですけど、皆で揃えることにしました。
 俺たちダンジョン3に入る為に明日スリーフォの町に行く予定で、今、その準備をしてるところなんですよ」

「へー、ダンジョンに行くのか。
 カリーナ、こいつらダンジョンに入るってよ。
 俺たちも行ってみないか?」

「そうねー。わざわざヨゴオートノまで来てダンジョンに入らずメルクベルに戻るってのは勿体ないかもね」

「そうこなくっちゃ。好きだぜカリーナ」

 イチャイチャしだしやがった。

 ユニオン・ギルズの4人は急いで準備をすると言って去って行った。

 スリーフォの酒場で会おうと言ってお別れしたけど、俺たちと一緒でダンジョン3に入る気なのか?




※この内容は個人小説でありフィクションです。