スライムスレイヤー ~イシノチカラ~

作者:亜形


第97話 嫌われ者の黒いやつ


 合流したA組とB組はとりあえず第2層のセーフティゾーンに向かうことにした。管理の人の話では階段を下りて壁伝いに歩けば着くらしい。
 一同は魔石ランタンを2つ使い前後を照らしながら下層への階段を降りるとそこそこ広い空間に出た。
 周りを見渡すとダンジョン側には3つの通路があるようだ。

 階段とセーフティゾーンまでは道のように舗装されており、道の端には抗魔玉の粉を混ぜた高さ3cmほどの薄いブロックが並べられている。

 このブロックがあるだけで弱いモンスターは近づいてこないかもな。

 セーフティゾーンになっている部屋の入り口にはドアがあった。洞窟の壁の中にポツンとドアがある感じだ。ドアにも抗魔玉の粉を混ぜた塗料が塗ってありそうだ。

 ドアを開けて部屋の中に入ると30m四方、高さは3mといった空間に出た。
 ダンジョン外側の上の壁には土管のようなものが斜め下に少し飛び出しており、そこから光が入ってきていて少し部屋が明るい。穴を除ける角度からは外が見える。

 ま、空だけど。空気穴か明かり窓みたいなもんかな?

 部屋には今誰もいないようだ。正面の奥に大きめの扉があり、それがダンジョンの出入口の扉だろう。扉から外に出る分には層をクリアしてなくてもよいらしいので運営の人が立ち塞がっている訳ではない。
 部屋は左右に別れるように中間まで仕切りの壁がある。2部屋あるといっていいだろう。一同は左側にいるので左部屋にいる感じだ。扉が左部屋のほうにあるので左側は幅広い通路ともいえるかもしれない。

 レオはロッカとバンを見た。

「お前らを待ってる間に携行食少しつまんだが、もう腹減ったぞ。
 ここでメシにしようぜ」

「そういえばレオとクルーロは朝、あまり食べてなかったわね」

「もうお昼を過ぎていましたね。
 昼食をとりながら先をどうするか考えましょうか?」

 クルーロは右側の部屋を覗いた。

「おお、こっちの右奥には棚やら石台あるみたいだから料理もできそうだよ。
 水道もあるっぽい」

「食材も調味料も皿も持ってきてないわよ。
 右側は管理の人が使う場所なんじゃない?」

「いざとなったら強奪してでも」

「アホか。扉から出て帰ればいいだけでしょ」

 一同が左部屋の壁際に座って昼食をとっている間に外扉から二組入って来て、ドアからダンジョン側に出ていった。新規でなければ10分間隔くらいで入れるようだ。

 突然、石台のある右側奥から管理の人が出てきた。棚で見えていなかったが奥にも部屋があったようだ。

「こっちの部屋に置いてある物は自由に使っていいですよ。
 あまりに酷い扱いであれば腕輪は没収しますけどね」

 道具を持ち帰るようなせこい輩はダンジョンには入ってこないという事が前提のサービスだとか。
 管理の人の説明によると、第二層のどこかにあるクリア証明を探し出して持ってくればここで腕輪に印を刻んでくれるらしい。クリア証明を複数枚持って来て偽造や売買に使うのは禁止。不定期で変更されるのでそんな事は考えないようにと言われた。

 クルーロはそうきたかと言っていた。良からぬ事を考えていたようだ。

 外壁の上についている土管は換気と雨水を取り込む為のもののようだ。他のダンジョンは穴を掘って下に水を流せばよいだけだが、ここは地上より上にあるので水の確保が困難だからだとか。土管の下側には雨樋が設けてあり、流れ入って来た雨水を集めているようだ。集まった雨水を何層かのフィルターを通してタンクに溜め、水道水として出るようにしてあるらしい。
 現在なら地上から水をポンプでくみ上げることも可能なので昔の人の工夫だとか。外階段で時折見られた放水はセーフティゾーンからの排水だったようだ。

 夕刻6時を過ぎると管理の人は外扉の鍵を閉めて帰るようだ。その際に食材を少し置いていくらしい。つまり夜間は外扉からダンジョンの外に出られなくなる。
 複数の組が同じセーフティゾーンで夜を過ごすと限られた物の使用権をめぐって大抵ケンカになっているとか。
 譲り合いは大事ですよ。と言って管理の人は奥の部屋に戻って行った。

「右側の部屋も使って良かったみたいですね?」

「そういう事なら次から調味料くらいは持って来てもいいかもね。
 夜間ここで過ごすならだけど」

「ロッカ、今日は俺とお泊りしないの?」
「するか! 泊まることになってもクルーロはダンジョン側に出てなさいよ」

「それはないよ~。小さい頃はあんなに可愛かったのに」
「そんな古い付き合いじゃないでしょ」

 おっと、忘れてはならないものがもう一つ。
 ダンジョン内にクエストがあるという掲示板の確認だ。

「あれ? 一つしかないですよ」

 残っていたクエストは台所によくいる嫌われ者の黒いやつ。
 『ゴキ〇〇(中型)討伐』 難易度C?だ。

 C? 何故『?』がついてるんだろ?

 ロッカは依頼書を見るなり言った。

「これはヤダ」

「ボクもヤダにゃ」

「私もできれば避けたいです」

 女性陣は全員拒否した。

 レオは呆れ顔だ。

「カブトやクワガタと大して変わらんだろ?」

「もし出たらあんたたちで倒してよ!」

 手持ちの懐中時計を見ると午後2時を回ったところだ。
 まだ扉が閉められるまでには時間がある。

 バンは提案した。

「第1層が5kmほどのエリアでした。
 真っすぐ隆起している山脈ですので第2層も広さは変わらないはずです。
 今日はダンジョンから出られる時間までに戻って来れる範囲で第2層を探索してみませんか?」

 クルーロは賛成のようだ。

「そうだね。第2層からは洞窟みたいだからマッピングしながら行こうか。
 分かる範囲でいいって言われたけど、ロラックからダンジョン内の地形調査も頼まれてるんでね」

 一同は一息ついて再びダンジョンの第2層に戻った。

 まずは3択の通路だ。左、中央、右、どの道を選ぶか。
 多数決で中央の道に決定した。

 一同が中央の通路をしばらく進むと空の宝箱が置いてあり、行き止まりだった。

「ハズレだな」

「引き返しましょう」

 元の場所に戻って次は右か左の2択の多数決だ。
 意見が4-4に分かれることなく左に決定した。

 左の通路を進むと途中から少し広くなった。

「当たりだったんじゃない?」

「いや、迂回してたから多分、右も左も繋がってたようだね」

 振り返ると、通路が二股になっていた。

 どっちに進んでもここに繋がってたわけか。
 中央だけが行き止まりだったみたいだな。

 更に進むと広い空間に出た。分厚い柱が所々で天井を支えている。
 先が少し明るい。

 あれだ。第1層の中央付近にあった大穴に着いたんだ。

 先を歩いていたロッカは大穴の淵近くまで行った。

「ここ上が少し崩れてきてるわ。真新しいし、危ないかも」

「あー、それ上でレオがやった」

「バカなの?」

「スマン」

 しばらく大穴を中心とした広い空間を皆で探索することになった。
 先に進める通路は8カ所あるようだ。
 一同が周囲を探索している間に何組かの討伐者たちが先の通路から戻って来てセーフティゾーン方向に帰っていった。

 ロッカは懐中時計を見た。そろそろ時間のようだ。

「おーい。そろそろ戻るわよー」

 すると、トウマの元に音もたてずにイズハがやって来て小声で話しかけた。

「トウマさん、あっちにやつがいたっす。
 セキトモさんにも知らせてあるっす」

 イズハは3つ先にある大きな柱の裏側に例のクエスト対象のやつがいると言ったのだ。やつには蛍光塗料でマーキングがしてあるようだ。
 とりあえず、イズハに声をかけてきてもらい男性陣集合だ。

「どうします?」
「僕もさっき遠目に見て来た。確かにいるね」

「倒せばいいだけだろ?」
「バカレオ! やつを甘く見るな。台所にいる普通のやつを倒すのも大変なんだぞ。
 近づくとシャカシャカ捕らえられない速さで逃げて行くんだ。壁や天井どこにでも移動するし狭い所を好むし、時には飛ぶ。それのモンスター版だぞ。幸いなことにここは大穴の近くで明るいからやつを倒す絶好のチャンスでもあるけどな。
 もし狭い洞窟の暗い所に逃げられたらお手上げだと思え」

 あ、分かったかも。
 難易度Cに『?』がついていた理由。
 普通なら中型1体で難易度がCってあり得ないもんな。

「近くにいるのに襲って来ないんだな?」
「それは俺にも分かんねーよ。こっちが多人数だからかもしれないし。
 皆、一人にはなるなよ」

 女性陣も集めてやつがいることを話すと明らかに嫌そうな顔をされた。

「ねえ。ホントにあれ倒すの?」




※この内容は個人小説でありフィクションです。