スライムスレイヤー ~イシノチカラ~

作者:亜形


第15話 祭り


 一夜明け、祭りの日がやってきた。空はまだ曇っているが雨は止んだようだ。

 快晴ってわけじゃなかったな。小降りの雨はまだ降るかもしれない。
 でも約束守れて良かった。

 今、トウマは約束を守りギルドに来てセキトモと合流している。セキトモは確認したいクエストがあると言い残し掲示板を見に行っている。

「トウマ、お待たせ」
「いえいえ、まだ祭りは始まってないんですよね?」

「うん。先走ってもう出発している人らもいるけどね。
 せっかくだから僕らは祭り開始の合図を見て行こう。
 それ見ると『始まった!』って感じするよ。そろそろだと思うけど・・・」

 少し待つとカウンターのオッサンが何やらでかい樽のような物を抱えてカウンターの奥の部屋から出て来た。

「お、来たみたい」

”ドン!”

 オッサンがカウンターの上に置いたのはバカでかい砂時計だ。サラサラと砂が落ち始めている。

「さあ、大掃除の始まりだ! 討伐者ども!
 この砂が落ちきるまでは魔石2倍で買い取ってやるぜ! 行ってこい!」
「「うっしゃー!」」
「「「おおー!!」」」

 皆それぞれに声をあげてギルドから出発して行く。

「ね、気分乗るでしょ?」
「上がりますね!」

「ちなみに、あの砂時計は24時間くらいで落ちきるみたいだよ」
「明日のこの時間までの丸1日ってことか。
 セキトモさん、俺たちも早く行きましょう!」

 二人は気合いを入れてギルドを出た。討伐者たちはそれぞればらけた方向へと向かっている。

「俺たちはどっち方面に行きます?」
「あっちかな。なるべく他の討伐者と被らない方向に行かないと」
「ですね」

「トウマ、いきなりで申し訳ないけど、少しだけ僕のクエストに付き合ってくれないか? 難易度はEだ」
「Eですか。それくらいなら全然、すぐ終わるんですよね?」
「うん。さっき見たらまだ残っててさ、あまりやりたく無い案件だけどね。誰かがやらないと・・・」

「? どんな案件なんです?」
「行けば分かるよ。トウマは何かあったときの援護だけでいいからさ」
「分かりました」

 セキトモは他の討伐者と被らない方向に向かう。トウマはとりあえずセキトモについて行った。しばらく歩くと街道沿いの民家に着いた。

「ここだ」

 民家? お宅訪問的な案件だったのか。

 セキトモは家のドアをノックした。

「すみません! 討伐依頼の件で来ました!」

 家の中から主人と思われる男が足を引きずって出てきた。腕と足に包帯を巻いている。奥の方には御夫人とその後ろに隠れるようにして小さい女の子も見える。女の子は娘のようだ。その娘も腕に包帯をしている。

 モンスターに襲われたと考えるのが自然だな・・・。

「やっと来てくれたか、悪いね・・・。
 引き受け手がいないようだったら武器を借りてこちらで対処しようかと考えていたところだったよ」
「遅くなり申し訳ないです」
「いいや、いいんだ。来てくれただけ有難い」

 主人は二人を家の近くにある納屋に案内した。

「ここに誘い込むのは大変でしたけど、この中から出られないように何とか閉じ込めています。あとは宜しくお願いします」
「承知しました。
 終わりましたら知らせますので家で待ってもらって構いませんよ」
「では、そうさせて頂きます」

 主人は頭を下げ、家に戻って行った。

「セキトモさん、この納屋の中にモンスターがいるってこと?」
「そうみたいだね。トウマは入口付近で待機しててくれ。
 万一、僕が仕留め損なってそっちに逃げたときは頼むね?」
「了解です」

 セキトモは槍を鞘から抜き、大盾を構え、納屋の中へと入って行った。

「ガルル・・・」

 少し見える。あれか?

 比較的小さい牙犬のようだ。牙犬と言われるだけあって牙が鋭く特化しているようだ。口から大きくはみ出しているわけではない。セキトモは牙犬の退路を断つように大盾を構えた。そして牙犬が飛び掛かって来る前に薄白く輝いた槍で貫いた!

「ぎゃいーーん!」

 牙犬は悲鳴と共にゆっくりと霧散していった・・・。
 セキトモは魔石を回収し、納屋の中から戻って来た。

「終わったよ」

「あっさりいけたようですね?」
「まぁ、あれくらいならね。主人に報告に行こう」

 二人は家に向かい、討伐が終わった事をセキトモが報告した。奥のほうでは娘が泣きわめいている。

「本当に有難う。自分たちで手を下すのはな・・・分かるだろ?
 家族で可愛がっていたんだ・・・あんな事になるなんて・・・」

 それってあの牙犬、元は飼犬だったって事?
 ・・・残酷だな。

「お気の毒ですが、こういう事も稀にあります。致し方ありません」
「・・・そうだな。有難う」
「では失礼します」

 二人は民家をあとにした。

「やりたく無い案件って、そういう事だったんですね?」
「気持ちいいもんじゃないよね?
 でも代わりにやってあげたほうがあの家族にとっては幾分かマシでしょ?
 付き合わせてごめんね」
「セキトモさんは優しいな」
「そんなことないよ。
 さて、少し気分が落ちちゃったけど、僕たちも祭りに参加しよう!」
「ですね、気分変えて俺たちでガンガンスライム討伐しちゃいましょう!」
「おう!」

 それから二人は先ほどの事を振り払うかのように出現したスライムを次々に討伐していった。

「トウマ、ごめん。少し待って」
「どうしたんです?」
「時間切れしそうだ。僕も剣にすれば良かったな。
 槍って基本モンスターと相対したら出しっぱなしだからさ。
 距離で有利はとれるけど、いざってときに倒す力がなかったりするんだよね」
「そっか。俺はモンスターとの距離が空いてたら鞘に納めるようにしてるから」
「突撃して速攻で倒せるようになればいいんだけど、僕はまだまだ未熟だよ。はは」

「少し休憩にしましょうか? 剣と槍の連携とか考えてみます?」
「それいいかもね? 何かいい方法あるかな」

 二人は休憩であーだ、こーだと話し合ったが他愛もない話で終わった。

 休憩後にスライム討伐を再開。現在、二人合わせてのスライム討伐数は12匹。もちろん複製体はいなかったので魔石は合わせて12個。回収した魔石は全てセキトモが預かっている。
 防御の役割をしているセキトモが不利なので個人討伐数とは関係なく魔石換金した額を二人で分けることに決めたのだ。セキトモがいることで例えスライムが複数体いても安定して討伐できる状態でもある。今のところ二人は怪我ひとつ負っていない。

「2倍だからもう3万6千エーペルも稼いでますね。
 昼からはあっちの林のほうにも行ってみましょうか?」
「あんまり遠くに行くと危険だけど、意外とスライムいないもんだね」
「祭り中ですし、すでに倒されちゃってるのかもですね?」

 二人はスライム討伐に夢中になっていた。スライムのことしか考えていなかったと言っていい。街道から少し外れた林には危険なモンスターがいるという事も知らずに・・・。

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 一方、トウマがギルドにいたとき姿を確認できなかったロッカとバンの二人は街の外に出たばかりのようだ。

「トウマのやつどこ行ったんだろ? せっかく祭りに誘おうと思ってたのに」
「ロッカが寝坊するからですよ。いつまで経っても起きないから」
「仕方ないじゃん。まだ雨降りそうだったし~」
「天気のせいじゃないですよね?
 ギルドで聞いたらトウマさんは誰かともうとっくに出たと言われてましたし、祭りには参加されているのでしょう」

「どっち方面だと思う? 私の勘だとこっちかな。
 あいつ持ってるからな~、いい意味でも悪い意味でも」

「そうですね。何事もなく合流出来ればよいのですけど・・・」




※この内容は個人小説でありフィクションです。