スライムスレイヤー ~イシノチカラ~

作者:亜形


第14話 雨上がりの約束


 トウマは自分たちのパーティー名を知ったことで何故自分が『がんぐ』と呼ばれていたのかを理解した。周知されてしまった以上、今更パーティー名を変えて貰ったところで遅いだろう。

 もっと早く気づけよ俺。・・・いや、悪いのはロッカだ。

 トウマは槍使いの青年を待たせていた事を思い出し、彼の所に戻った。

「お待たせしました。パーティー名を確認して理解しましたよ。
 教えて頂いて有難うございました」

 トウマは彼にお礼を言ったものの引きつった顔のままである。察した槍使いの青年は聞いた。

「もしかしてパーティー名ご存知なかったんですか?」

「アレはですね。メンバーが断りもなく勝手につけた名でして・・・」
「あはは。それは災難でしたね。
 僕は『セキトモ』といいます。
 がんぐさん、じゃなくて、お名前教えて貰えますか?」

「俺は『トウマ』です。16歳です」

「トウマさんですか。見た目通り若い方なのですね。僕は23です。
 もういい年なんですがモンスター討伐歴はまだ半年ほどで初心者とあまり変わらないんですよ。昨日は僕が大盾を持っていたので防御要員であのパーティーに加えて貰ってたんです。蜘蛛討伐は断念したのですぐに解散になりましたけどね」

 トウマはセキトモが熟練の討伐者だと思っていた。初心者同然ということを聞き、親近感が増したので正直に話すことにした。

「実は俺、セキトモさんよりもっと初心者でして、2日前にスライム初討伐成功したばかりなんですよ。それなのに難易度高いクエスト達成したもんだから周りから勝手に持ち上げてられてしまって」
「え? トウマさん、初心者なんですか? でも実際に蜘蛛を見た僕としてはあれを倒すのは難しいと思っていましたし、それを小さな女のコ2人を含めたたった3人で討伐してるんですからやっぱり凄いですよ」
「いや~」

 二人は他の討伐者の邪魔にならないように長椅子のある場所に移動して隣り合わせに座った。トウマはこれ以上話すと口止めされている事を話してしまいそうなので話題を変えた。

 「セキトモさんはどうして討伐者になったんですか?」

 話を聞くと、セキトモは元は小さな宿屋の従業員だったとか。宿に泊まる討伐者から話を聞いているうちに興味を持ったようだ。討伐者たちに促された訳ではないが力もそこそこ強く体格も良かったので一念発起したそうだ。
 セキトモは討伐者を志すのが遅かったのでまずは年相応の装備を揃えようとしたようだが、途中で手持ちの資金が尽きたそうだ。形から入るタイプなのかも知れない。それから金策のため掛け持ちでバイトしたりして、ようやく討伐者としてやっていけるようになったとか。
 セキトモは抗魔玉を手に入れるまでに2年くらい要したそうだ。抗魔玉を手に入れるのが討伐者になる為の最初の試練だったらしい。

 俺は何の苦労もせずにロッカから抗魔玉貰っちゃった。
 セキトモさんには言えないな。

「奮発して買った槍の練習もしてるんだけどね。
 僕、この大盾持ってるでしょ?
 パーティーで連携するとどうしても防御主体になっちゃうんだよね。
 今のところ最初に突撃させられるか、誰かを守るかのほぼ2択だよ」
「選択できるだけいいですよ。それはそれで重要な役目ですし、俺なんか囮というより餌扱いされてますからね。ははは」

 セキトモはけっこう年上なのに気さくで話しやすい人だった。もしかしたら、宿屋で自然に得たスキルなのかもしれない。それから短い時間で『トウマ』と呼んで貰えるくらいセキトモとトウマは打ち解けた。

 トウマはセキトモと仲良くなれたし、セキトモなら大丈夫だろうと思った。とりあえず口止めしつつ、誤解を解くためにロッカとバンが凄い事まで話してしまった。意外にもセキトモは「へ~、そうなんだ、その二人は師匠みたいなもんだね」くらいの反応だった。

 もっと驚いて欲しかったな~。

「トウマ、なぜ街でモンスターが出現しないのか知ってる?」

「そういえば何でだろ? 街道とかも出ないですよね?」
「砕けた抗魔玉の欠片を粉にして、撒いたり、塗料に混ぜて塗り込んだりしてあるからなんだ。微量だけど、粉にしたものでも力は残っているらしいよ。
 スライムになる前に素を浄化できるくらいの力はあるんじゃないかな?
 モンスターに対しては虫よけみたいなもんだね」
「へー。だったら世界中に撒いちゃえばいいんじゃない?
 いずれモンスターいなくなるかもですよ」
「はは。そもそもそんな量、抗魔玉がないでしょ。それに体に良いわけじゃないし」

 あ、下痢になるとか言ってたな。

「抗魔玉は力溜めないと使えないのに粉だとずっと力出てるんですかね?
 粉のほうが優秀?」
「粉から出ているのは微量な力だからね。
 粉を集めても大した力にはならないんだな~、なぜか。
 だから粉を武器に塗ったとしてもモンスターを倒せるほどではないらしいよ。
 昔の人がやってみた事あるんだって。
 モンスターからしたら嫌な感じがするって程度なのかもね?」
「セキトモさんは情報通ですね」
「それほどでも。全部、宿屋時代からの受け売りだよ」

 セキトモはちょっと照れていた。

「良かったらだけどさ、この雨が上がったら祭りが始まるでしょ?
 トウマ、僕と一緒にスライム討伐に行かない?」
「祭り?」

「あー、これも初耳なのね。
 雨が降るとスライムが湧くから雨上がりに討伐者たちでスライム掃除をするんだ。
 スライム討伐でクエストは出ないからね。
 そのときはギルド主催で約1日間だけ魔石2倍の額で買い取ってくれるんだよ。
 討伐者の僕たちにとっては祭りだよね?」
「へー、そんなのがあるんだ」

「普段は魔石換金せずに持っておいて、祭りの時に換金する討伐者もいるよ。
 祭りには参加せずにスライムがモンスター化して討伐依頼が出るのを待つ討伐者も少なからずいたりする。討伐者にとっては死活問題だからね。
 湧いたスライムを根絶やしに出来るほど討伐者はいないからその辺は人それぞれの考えって感じだよ」
「なるほど」

「僕は擬態する前のスライムをなるべく倒したい派かな?
 簡単な事もそうだし、擬態したモンスターを相手にするのは厄介だからね。
 何より擬態しているって事は少なくとも犠牲になった生き物がいるって事だから」
「そっか。大人な考えですね」

「ま、本当はいろいろ理由つけて楽な方に逃げてるだけかもね? はは」
「俺は逆に強いやつを早く一人で討伐出来るようになりたいですよ」
「言うね~。あ、あと、あれあれ。確認しなきゃ」

 セキトモは何やらギルドの会報みたいなものを持って来た。

「このスライム予報によると今日はずっと雨だね。
 明日のスライム発生確率80%だって。間違いなく祭りが始まるよ。
 あ、ちなみに当日70%以上で祭りの開催が決定するんだ」

 スライム発生確率って・・・。

「普通の雨の場合もあるからね。
 中央大陸から流れてくる雲の魔粒子濃度も計算に入れてあるらしいよ。
 凄いよね?」

 専門家がいるっぽいな。マジすごっ。

「じゃあ、スライム討伐、おっと、祭りに出るのは明日ってことですか?」
「そうだね。トウマ行ける?」
「たぶん、今は予定入って無いし大丈夫だと思います。
 もし何か用事が出来たらゴメンです」
「いいよ、いいよ。その時は遠慮なく言って。
 じゃあ、明日ここ、ギルド集合ってことで。またね」

「いろいろ教えてくれて有難うございました! セキトモさん。また~」

 なんか段々敬語が減ってきてたな。
 セキトモさんは随分年上だけど、この街に来て初めて気軽に話せる友達ができた感じがするよ。
 明日の約束は守りたいな。

 トウマはその後、ギルドで時間を潰したがロッカとバンが来ることはなかった。

 あの二人、今頃何してるんだろう?
 この街にいるんだよね?
 ・・・考えても仕方がないか。今日は帰ろう。




 この日のロッカとバンはというと。
 街のスイーツ店巡りをして普通にオフを楽しんでいた。




※この内容は個人小説でありフィクションです。