博士の邸宅を出たトウマ、セキトモ、イズハの三人はの中央通りに繋がる大通りに来ている。皆、都市内ということもあり防具は着けていない恰好だ。
トウマは肩掛けの鞄と1スロットタイプの剣。イズハは短剣を携行している。セキトモは武器すら持っていない。
「武器持って行かないのは僕だけか。
グレイブしか持ってないからな、あれ持ち歩くのもね。
僕も護身用に短剣だけでも調達しておくべきかな?」
「いや~、都市内は広いみたいですからね。
場所によってはスライムや小型のモンスターは出るって話だったので一応です。
俺の剣持ち歩くのは面倒ごとが起きそうなので1スロットのほうにしましたよ」
「自分も何も持たないのは不安っすから」
「まあ、二人が武器持ってれば万一モンスターと遭遇しても心配ないか」
「そろそろ来ると思いますけど、ホントに利用するんですか?」
大通りは5~10分毎に乗合馬車が通るそうだ。セキトモの提案でまずは南門行きの馬車に乗ってみようと馬車が来るのを待っているところだ。
「南門まで歩いて行っても30分かからないっすよね?」
「乗合馬車を利用すれば10分かからないという話だったからさ。
タイミング良ければ100エーペルで20分の短縮になるわけだ。
しかも、歩き疲れ無しでだよ。混みあってるときに初めて利用すると乗り方や降り方分からなくて周りに迷惑かけるかもしれないだろ?
だから空いてそうな所で一度試しておきたいってのもある」
少し待つと『南門行き 空6』という札が付いている乗合馬車がやって来た。手を上げて御者に合図すると止まってくれる。
「僕たち初めて利用するんですけど、どうすればいいですか?」
「おう、乗り方知らないのか。南門まで近いがこんな所で乗っていいのか?
今は客も乗ってないし、乗ってくれるならこちらとしては助かるけどよ」
「構いませんよ。お試しで乗ってみるようなものなので」
「そういうことなら」
御者は札の数字を3に変えた。空きが残り3席になったということだ。
乗る時は前側から乗って、その際に木箱に100エーペル入れるようだ。荷台に引き回してある紐を引くとベルが鳴るようになっていて、降りるときはそれで御者に伝えるようだ。速度を歩く速さまで落としてくれる。荷台の後方の降り口から降りる仕組みらしい。
「降りるときは止まらないんですね?」
「ま、たまに上手く降りられなくてコケるやつもいるけどな。
降り口は地面まで20cmくらいの高さにしてあるのによ。わはは」
「上手く降りれるかな?」
「どうしても止めて欲しいって言ってくる客のときは止めてやってるぞ」
南門の近くまで来た所でトウマが紐を引いてベルを鳴らし、馬車の速度が落ちたところで後方の降り口から皆飛び降りた。
「何か面白かったですね」
「余裕っすね」
「僕、降りるとき少し足元ぐらついちゃったよ。はは」
各門周辺に大型の店舗はない。この都市では武器・防具を扱う店舗と道具を扱う店舗が別れていることが多いらしい。小型の店舗が複数あり価格競争しているそうだ。
「中心部に大型の店舗があるらしいけど、まずはこの辺りの店を回ってみよう。
僕らがお得意様になれる店があるといいな」
「飲食店はもちろん、食品、衣類、家具、雑貨、装飾専門店もあるっすからね。
ここだけでも結構回りがいがあるっすよ」
「イズハ、調べたの?」
「最初に通ったとき色々目にしただけっす。情報収集っすよ」
「あー、イズハうろうろしててロッカに怒られてたな。わはは」
お昼前まではこの辺を探索。それから中心部へ馬車で行き、中心部の飲食店で昼食を取ろうということになった。
皆でしばらく周辺の店を回ってみた。
売ってある武器に関しては1スロットタイプが10万~50万、2スロットタイプが50万以上といった感じで価格はピンキリ。店によって低価格、切れ味、耐久力、カッコよさ、軽装備向け、重装備向けなど特色が違うといった感じだった。
「競争しているだけあるね、売りにしている点が店によって違うし。
防具も店によって扱う品が変わってるよな?」
「どこで買ったらいいか迷いますね?」
「一つ気になる店があるっす」
「何処?」
イズハは勿体着けて話す。
「各店でどこの店がお薦めか聞いてみたっす」
「他の店を薦める店ある?
自分の店が一番だって言うんじゃない?」
「コツがあって3軒くらい教えて貰うっすよ。
そうしたらある店の名前が多くあがったっす。
気にならないっすか?」
「複数の店から名前が出たってことは、それ実質一番お薦めってことだな」
「その店は裏通りにあって結構高額だけど質がいいという話っす。
各店もそこから時々商品を仕入れさせて貰っているという裏話まで聞けたっす。
見るだけなら行ってみるといいって。
自分じゃ買えないと思われたっすかね?」
「店なのに他の店が仕入れる?」
「工房一体型らしいっす」
「凄い情報収集力だなイズハ。そこ行ってみようか?」
「そう言われると興味湧いてきますね」
三人は裏通りにある工房一体型の武器防具屋『雷神』に行ってみることにした。
裏通りに行きその店を見つけて入ると中は見渡せる程度の狭さだった。
「何か他の店と比べて狭いですね」
「でもこれは・・・。凄いかも」
店主と思われる大柄な髭のオッサンが声をかけてきた。
「いらっしゃい!
あんちゃんたち見ない顔だな。討伐者か?」
「はい。僕たち昨日、この都市に来たばかりなんです」
「ほー。それでここに来るたー、大したもんだ。
偶然入って来た訳じゃないんだろ?
ここを知ってる知り合いでもいるのかい?」
「いえ、他の店から情報集めてここを知ったって感じですね」
セキトモがイズハを見るとちょっと照れ臭そうにしている。
「そりゃ凄いな。
何も宣伝してねーし、ここは裏通りだからな。
噂を流してくれるような客は来てないと思ってたが」
「?」
「ああ、ここに来た客はここを他の客に知られたくないんだろうさ。
いい品を揃えても全然噂にならねえんだよ。
ま、早いうちにそれに気づいて良かったぜ。
今は逆に質のいい高額な品しか扱わないようにしたのさ、狭いしな」
「そうなんですね。にしても凄い品ばかりですね。
詳しくない僕でも品質がいい物だと分かります。
値札がない物も多くありますけど、これって?」
「あー、値札が付いてない物は売り物じゃねーんだ。
客寄せで飾ってるんだよ。うちで作ったもんでもないしな。
値札がついてないやつは俺のコレクションよ」
このコレクション。
なんとなく博士が作ってる武器に似てる感じがするな~。
どこが似ているかって言われると説明できないけど。
セキトモが飾ってある2スロットタイプの槍を見て言う。
「この槍は僕が見てきた中では一番いい感じがするな」
「それな。『ワイルド・ライツ』ってところの武器でな。
抗魔玉の力を伝達できる武器を作った最初の工房、いや今は会社かな。
そこの二等級品でなかなか手に入らないもんだぜ。
ワイルド・ライツは次々に新しい武器を生み出すパイオニアと言われてる存在だ。
マジですげえんだ。
今の鍛冶屋は真似するように武器を作ってるわけさ、品質は遠く及ばねーがな。
この店の名もワイルド・ライツの刻印の一部の雷を拝借してつけた。
風神、雷神の雷神じゃないぜ」
雷の刻印。それって博士の会社じゃね?
三人は顔を見合わせて苦笑いした。
オッサンがトウマの剣を見つめている。
「ちょっと、その剣見せて貰えないか?
1スロットタイプのようだが何か気になるんだよな。
これでも目利きはあるほうだぜ」
「この剣ですか?」
まー、代用の1スロットタイプの剣だし、これは見せても大丈夫かな?
トウマは剣をオッサンに見せた。オッサンはトウマから剣を受け取り、しばらく剣を眺めると唸り出した。
「おいおい!
あんちゃんのこの剣、『ワイルド・ライツ』の品じゃなねーか!
しかも最上級の1本線!
手に取って見せて貰ったのは初めてだ。
ぬおおぉぉ~、コイツはすげえもんだ」
「えっ」
見せたのマズった?