スライムスレイヤー ~イシノチカラ~

作者:亜形


第64話 博士の家族


 皆が荷物を部屋に運び終えてラウンジに集まっていた。すると、イラックが急ぎ早にやって来て告げた。

「入れ違いになったようですが先ほどルミリア様たちがお戻りになりました。
 皆さまがいらしていることをお伝えしましたので挨拶に来るそうです」

「ルミリア様って?」

「博士の奥さんよ。
 あー、すっかり忘れてたけど平和なときが早くも終わったわ・・・」

「?」

 ロッカの言ってることは分からんけど、博士、奥さんいたんだ。

 家族がモンスター被害に合って亡くなっていることは少なからずある。もし、モンスター被害で亡くなっていたら聞くと悲しい思いをさせるかもしれない。孤児だった可能性もある。家族のことを聞くことは御法度というわけではないが本人が言わない限り聞くことは余りないのだ。本人から話し出した場合は遠慮なく聞いても問題ないだろう。

 トウマは剣のことでじいちゃんがいることを話しているが他の家族については話していない。
 トウマの両親はモンスター被害にあって亡くなっているのだ。両親との思い出はない。じいちゃんと住んでいた村の住人が家族のようなものなのだ。

 他のメンバーも家族については話したことがなく、今は一人の人間としての付き合いである。執事のイラック兄弟が家族のことを話しているほうがこの世界では珍しいと言えるのだ。

 男の子が走って来てロッカに飛びついた。6~7歳くらいだろうか。

「ロッカ~!」
「アルシュ。飛びつくなって!」
「久しぶりなのに~~~」

「このコ、誰?」

「博士の息子よ、アルシュっていうの。
 コイツすぐ飛びついてくるから面倒なのよ。
 かわして怪我させるわけにもいかないし」

 アルシュはロッカのほっぺをつまんで引っ張る。

「アふしゅ。しゃふれないって」

「うふふ。ロッカは何故かアルシュに好かれていますからね」

「アルシュ、バンのほうに行け!」
「イヤだー。バン、ちょー強いんだもん。知ってるだろ?」

「私だって強いわよ」
「ロッカちから弱いじゃん」
「バンと比べるな」

 博士の奥さんも来たようだ。着飾っていない格好だが聡明な女性のように見える。後ろにはもう一人小さな女の子が隠れてチラチラこちらを見ている。

「お帰り。バン、ロッカ。こちらの方々が新しいメンバーですか?」

「そう。トウマ、セキトモ、イズハよ」

「初めましてルミリアと申します。このコはメルでそのコがアルシュよ。
 皆さんどうぞ宜しくお願いしますね」

「「「お世話になります!」」」

 バンが屈んでメルちゃんの頭を撫でるとメルちゃんは嬉しそうにしている。

「二ヶ月ほど会ってないだけで二人とも少し大きくなった感じがしますね?」

「そう? 毎日会ってるから分からないけど子どもの成長は早いからね」

「バンとロッカは大きくなってないね? 小さくなった?」
「アルシュ。私たちは子供じゃないのよ。もうあんま背伸びないの」
「よーし。すぐに追い抜くぞ~」
「大きくなったら私に飛びついちゃダメだからね」
「えー」

「ところでビルはいつ戻るか言ってた?
 あの人契約者増えたって連絡してきたっ切りなのよ。
 全く研究バカなんだから」

「数か月はかかるだろうと言っていましたがそれ以上は」

「そっか~。ま、気長に待つしかないわね。
 こっちに戻っても研究ばかりだろうし、あの人は何処にいても一緒か。
 子供の成長には興味ないのかしら?」

「ロッカ、もしかしてビルって?」

 博士は『ビルド』という名前らしい。皆、博士としか言っていなかったのでトウマ、セキトモ、イズハの三人は一瞬誰のことだか分からなかったが話の流れで博士のことだとすぐに分かったようだ。

 博士の名前ってビルドだったのか~。

 契約書を見れば博士の名前は載っている。博士の名前だと気づいていなかっただけだ。武器の評価報告書を一度でも送っていれば宛先を記入する際に分かっただろう。
 だが、三人とも報告内容だけ書いてまだ送ってはいなかった。最初は博士に直接手渡しで提出したいよね。と言い訳を作って先延ばしにしているのだ。

 ルミリアが言う。

「皆さん気兼ねなくゆっくりしていってね。
 私、ここに集まる人たちは家族として扱う主義だから。
 討伐者なんだからこういう時に栄養あるものしっかり食べておかないとダメよ。
 あと、アルとメルが迷惑かけるかもしれないけど、仲良くしてあげてね」

「有難うございます。家族かぁ。二人ともこれから宜しくね。俺、トウマ」
「僕はセキトモだよ」
「自分はイズハっす」

「男三人か。で、どいつがロッカの男だ?」
「バカ! どいつでもないわよ。
 皆、仲間よ。子供のくせに博士みたいなこと言わない!」

「「「あははは!」」」

 メルちゃんは人見知りなのかまだモジモジしている。

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 夕食になり一同は歓迎の豪華な食事を堪能させて貰っている。

 メルちゃんも少しは打ち解けたようだ。最初は体躯のあるセキトモにビビッていたが今では背中によじ登るほどだ。

「せきとも~、おおきいね~」
「はは。メルちゃん、余り動くと落っこちるから危ないよ」
「メルもバンにまけないくらいつよくなるの~」

 メルちゃん、それはどうだろう?

 ロッカが言う。

「明日から三日間はオフにするわ。
 皆この都市を見て回りたいでしょ? 環境にも慣れて欲しいし」
「マジ? やったー!」

「都市は広いので乗合馬車を利用すれば移動も楽ですよ。
 席が空いていれば移動距離に関係なく銅貨一枚、100エーペルで乗せてくれます。
 途中で止まる馬車もありますので馬車の目的地の札を見てから乗って下さいね」

「こまめに乗り換えちゃうと高くつくからね。
 目的地を考えて効率のいい乗り方をするといいわ。
 ま、お金で時間と楽をとるかどうかだけの話だから手あたり次第利用するのもあり。ちなみに私とバンはスイーツ店巡りするから」

「そこは変わらないのな。わはは」

「広いから行ってないところ沢山あるのよ。
 新しい店も出来てるかもしれないし、久しぶりに行きたいところもあるし。
 3日で回りきれるか心配だわ」
「一気に回らなくてもいいんじゃ?」
「私は行けるときに行っておきたいの。
 行先で泊ってもいいようにここの食事は日持ちするものでお願いしておくわ」

「泊まり掛けでもいいのか。温泉施設探そうかな?
 こっちにもあるって言ってたよね?」

「あるわよ。
 ただ周りに高い建物がある場所はアーマグラスみたいな露天風呂じゃないけどね」

「そっか。高い建物があると中丸見えだもんな」

 トウマとイズハはセキトモをジーーーと見ている。

「もう、分かったよ。分かったから! 三人で一緒に回ろう」
「やった! 俺、道に迷わないか心配だったんですよ」
「良かったっす。自分は一人で見て回るより一緒のほうが楽しいかと」

「そうだな~。じゃ、明日は南門周辺と中心部の大型店舗を探索してここに戻る。
 もし何か買ったら荷物になるからな。
 明後日は東門周辺を探索して中心部付近で泊るって感じでどうだ?」

「いいっすね」
「俺もそれでいいです!」

「そうそう。防具は新調せずに見るだけにしてすぐには買わないほうがいいですよ。
 色んな店がありますし、オーダーメイドで作ることも可能なので相場を知る程度でよいかと思います。皆さんの防具はまだ損傷している訳でもないですからね」

「そうだな。とりあえず見るだけにしておくよ。ありがとう」

「あ、北門近くのギルドは過疎ってるから周辺の店にはあんまいい品ないわよ。
 あっちは海が近いから行ける範囲が狭いのよ。
 駆け出しの討伐者が腕試しで行ってるようだけど、私たちが行くのは微妙って感じ。新鮮な海の幸を堪能したいなら北に行くのもありだけどね」

「なるほど、じゃあ北門周辺の店を回る必要はないか。
 探索の時間が省けるな。ありがとう」

「ママー、俺も探索行きたい!」
「アル、あなたは学校があるでしょ? 読み書きや算術を覚えるのが先よ」
「メルもがっこういきたーい」
「メルはもう少し大きくなってからね」

 へ~、学校ってのがあるんだ。
 俺の村は時間があるときに子供たちが集まる習い場って感じだったけど似た様なもんかな?
 じいちゃんにいつも行ってこいって言われて仕方なく行ってたし。
 ま、おかげで読み書き、算術もできるようになったから感謝だけどね。




※この内容は個人小説でありフィクションです。