スライムスレイヤー ~イシノチカラ~

作者:亜形


第17話 治癒の薬と決意


 街に辿り着いたトウマは先に走るバンを追いかけて尚も街中を走り続けている。遅れてはいるがセキトモも何とかついて来ているようだ。ロッカはトウマの腕の中でまだ気絶したままである。

 ロッカ・・・、生きてるよな?

 しばらく走り続けると、街外れの壁に囲まれた二階建ての邸宅に辿り着いた。少し遅れてセキトモも到着した。皆、息が荒れている。

 ここは?

 バンは邸宅の玄関ドアを勢いよく開けてトウマを導いた。

「トウマさん、早く中へ!」

 トウマはロッカを抱きかかえたままバンと共に邸宅の中に入った。セキトモは一緒に邸宅に入っていってよいものか迷って足を止めた。

「バン様、如何なさいましたか?」

 執事のリラックが声をかけるが説明している暇はない。

「博士! 居ますか? 早く来て!」

 奥から何があったのやらといった様子で白衣を着た博士が出て来た。

「何だね? バン君、慌てているようだが」
「良かった! 博士、すぐにロッカを診て下さい。腕を切断しています!」

 博士はトウマが抱きかかえているロッカの腕を見て表情が一気に青ざめた。

「・・・何てことだ。すぐに奥の部屋のベッドへ!」

 トウマはバンに導かれて左奥の部屋にロッカを抱きかかえたまま連れて行き、ベッドに寝かせた。ロッカはまだ気絶したままだ。

 博士がアタッシュケースを持って急いで部屋に入って来た。

「バン君、ロッカ君の切断されたほうの腕はあるのかね?」
「はい。ここに」
「良かった、まだ間に合う。君、ちょっとどいててくれ」

 トウマは博士に言われるがままベッドから少し離れ、邪魔にならないよう静かにその様子を見守る。

「バン君、いい判断だった。処置も完璧だ」

 博士は切断されたロッカの腕を繋げるかのように置き、アタッシュケースから液体の入った瓶を取り出した。

 あれは?
 見た事がある。ロッカが俺に使った治癒の薬の瓶にそっくりだ。
 もしかしてこの博士とやらから貰った治癒の薬だったのだろうか?

 博士はロッカの腕が切断された部分にそっと液体を注いだ。すると、液体が傷口に集まり、切断された腕がみるみる繋がって修復されていった・・・。あっという間の出来事だった。

「これでいい。腕は繋がった。ロッカ君はもう大丈夫だ。
 だが血を流し過ぎているな。しばらくは安静が必要だ」

 バンは涙ぐんでいる。

「良かった・・・。ありがとう。博士」

 博士は隅で様子を見ていたトウマを見た。

「君もご苦労だった、有難う。悪いが向こうで少し待っていてくれ」

 トウマは部屋から出て、セキトモが待っている入口近くのラウンジへ戻った。セキトモは執事のリラックから案内されてここで待っていたようだ。

「トウマ! 彼女どうなった?」
「セキトモさん。信じられないけどロッカの腕、繋がりましたよ!
 今は安静にしている状態です」

「ホントに?! 嘘じゃないよな?」
「はい。俺、目の前で見てたんで。あっという間で、不思議な感じでした」

「そっか、嘘じゃないんだな・・・良かった。
 僕たちのせいでああなったようなもんだから申し訳なくて。
 本当に良かった・・・」

 セキトモは涙を流し、トウマも涙ぐんだ。

 グスッ・・・。本当に良かった。

◇◇

 しばらく二人が呆然として待っていると、博士がやって来た。バンはまだロッカに付き添っているようだ。

「待たせたね。
 で、どちらがロッカ君が拾ってきたコだい? 年からして君のほうか?」

 ロッカに拾われた覚えはないけど、俺のことだよな・・・。

「初めまして、トウマといいます。ロッカさんとバンさんにはお世話になってます。こちらはセキトモさんです」
「セキトモです」

「私はバン君とロッカ君の保護者みたいな者でね。
 二人からは『博士』と呼ばれている・・・が、医者でもある。
 まあ、普通の医者とは言えないがね。はは。
 改めて礼を言わせてくれ、ロッカ君を運んでくれて有難う」

「いえ、こちらこそ。有難うございました」

 博士はトウマの持っている剣を見るなり目を見開いた。

「おっ、それがロッカ君が言ってた2スロットタイプの剣か。
 少し私に見せてくれないか?」
「いいですけど・・・。ロッカは大丈夫なんですか?」

「あのコはもう大丈夫だ。
 そうだな、ああなった経緯を聞かせて貰えるかい? いや待て・・・」

 博士は二人の姿を上から下まで見回した。

「話を聞く前に二人ともまずシャワーを浴びて来なさい。
 服も血だらけだ。替えの服はこちらで用意させよう。
 その間にトウマ君のその剣を見せてくれないか?
 見せてくれるだけでいい、何もしないことは約束しよう」

 剣に何かされるとは思ってもいなかったけど・・・。

◇◇

 二人は執事のリラックに案内され、交代でシャワーを浴びに行った。そして用意してもらった服に着替えてラウンジに戻った。

「二人とも服のサイズは大丈夫みたいだな?
 今着ている服は君たちにあげよう。金には困ってないから遠慮無用だ。
 前の服は捨ててもいいな?
 あ、トウマ君、剣を見せてくれて有難う。では改めて話を聞かせて貰おうか?」

 博士に預けた剣を返してもらったトウマは少し戸惑いながらもここに至るまでの経緯を説明した。

「そうかカマキリにやられたのか? ロッカ君らしくないな。
 大方油断でもしたのだろう」
「すみません。俺らのせいで」
「気にするな、皆生きて帰ってるんだ。喜んでいいくらいだよ。
 まだ明るい時間だが今日は帰って休むといい。
 ロッカ君も今日は目覚めないだろうし、安静にさせておきたい。
 バン君も看てくれているから心配ないだろう」

 トウマとセキトモは邸宅を出る前に博士にもう一度お礼を言った。邸宅の門を出ようとしたところでバンが慌てた様子で邸宅から出て来た。

「トウマさん、ロッカは大丈夫です。
 くれぐれもロッカのかたきを取ろうなんて考えないで下さいよ!」
「分かってます。ロッカをお願いしますね。では、また来ます」
「失礼します」

 二人は邸宅を後にした。

 バンさんにはああ言ったけど・・・、取るに決まってるだろ!
 あのカマキリ、放っておくと被害が広がるかもしれない。
 俺たちで倒すなら片腕の今しかない!

「セキトモさん、協力して欲しいことがあります」
「分かってる。トウマなら言うだろうと思ったよ。
 今度はしっかり準備して行こう!」

 蟷螂を倒す決意を固める二人であった。

◇◇

 トウマとセキトモは再び蟷螂がいた林の中に来ていた。林の外に出て見つからない可能性も考えられたがどうやらこの林が蟷螂の縄張りらしい。

「よう! カマキリ、さっきぶりだな」

「ギッ?!」

 ロッカに斬り落とされていた蟷螂の後ろ足の2本は再生が終わっているようだ。だが、左腕の鎌はまだ四分の一程度しか再生されていない。鎌がない状態だ。
 今の蟷螂は二刀流では無い事に二人の勝機がある。

「トウマ、分かってると思うけど失敗したらすぐ逃げるよ! 命は大事にしよう」
「はい! 飛ぶ可能性もあるので気をつけて!」

 セキトモはトウマを見て頷いた。

 今、トウマはセキトモが前に買ってサイズが合わなくなったという古い籠手を譲り受けて両腕に装備している。今回は購入した丸い盾も持参。守備面を少し強化したといったところだろう。
 途中スライムを見つけたが戦いは避け、二人とも抗魔玉の力を十分に温存して来た。今は蟷螂を倒すためだけに集中している状態だ。

 2対1だけど卑怯と思うなよ、カマキリ。
 弱肉強食の世界なのはお互い様、さっきのお礼だ。
 俺たちを襲ったことを後悔させてやるよ!




※この内容は個人小説でありフィクションです。