スライムスレイヤー ~イシノチカラ~

作者:亜形


閑話 イースト・ヘッドとセキトモ


 東大陸の中心に位置するバルンバッセという街を拠点とする討伐者パーティー、『イースト・ヘッド』。パーティー名は東大陸の頭という意味でつけられた。周りにいる討伐者パーティーより力量はあるほうだが、現状、名に恥じないとは言えない。

 メンバーは、ラフロ、タイラー、リフロ、ルフロの4人組である。

 イースト・ヘッドは明日、難易度Cの『巨大蜘蛛討伐』に挑むべく、もう一人臨時メンバーを加えた。
 彼は討伐歴半年ほどの初心者。だが、防御面に関しては申し分ない力量を持つことを最近知られるようになった。彼は大盾を軽々と持っているので見た目でも分かる。使用している武器は槍だ。
 高難易度のクエストに一人で挑むのは自殺行為だ。そのうち彼もどこかのパーティーに加わるだろう。今の彼はモンスター討伐のほとんどをスライム討伐に費やしている。名はセキトモという。

◇◇

 セキトモは今日も街の外に出て、スライムを討伐している。

「ふ~、これでスライム5匹か。
 魔石5個で1万5千エーペル。何とか日銭は稼げたな」

 僕一人じゃ遠出もできないし、スライムを見つけるのも大変だ。
 ま、スライムが少ないのはいい事だけど。

 セキトモは換金所で魔石を換金した後、ギルドに顔を出した。そこにはイースト・ヘッドのメンバーが来ていた。何やら騒いでいるようだ。

 セキトモに気づいたラフロが声をかけてきた。

「セキトモ、ちょっといいか?」
「ラフロさん、何かあったんですか?
 クエストに挑むのは明日という話でしたよね?」

 最近、難易度Cのクエストには誰も挑んでいなかった。なのに今日、依頼書が1枚剥されているという話だった。しかも『巨大蛙討伐』と『巨大蜘蛛討伐』のクエスト2つだ。

「これって。
 僕たちが明日挑もうとしてたクモ、取られているじゃないですか?」
「そうなんだよ。参ったぜ~」

 依頼書を1枚取られていても依頼書は全部で3枚ある。先に達成すれば報酬はこちらのもの。だが、逆に先を越されれば無駄足になる。なので1枚でも依頼書が剥されているとクエストに挑む事自体を躊躇してしまうのだ。
 依頼書を剝いでいない場合でも偶然遭遇して倒した後に依頼内容と一致していたら剥して報告でも問題ない。すでに剥がされているのなら尚更だ。

「ここらで難易度Cを倒せるパーティーいなかったよな?
 だとすると、パーティー共闘か俺たちみたいに臨時で戦力補強したかだな。
 俺たちが挑もうとしてるこのタイミングでくるとは、先越されたぜ」

「どうします? 僕は解散でも構いませんけど」

 すると、タイラーがやってきてラフロに言う。

「明日、来てみれば分かるんじゃない?
 もし依頼書が補充されていたら達成できなかったってことだろ?」

 クエストの蜘蛛がいる場所は一日あれば街に戻って来れる距離である。未達成と判断されたクエストの依頼書は時間経過で補充される仕組みなのだ。

「そうか、タイラー。お前頭いいな!」
「ラフロがバカなだけだろ?」
「なんだとー?!」
「あはは」

 タイラーがラフロをからかうのはいつもの事だ。二人は仲のいい幼馴染なのだ。

 明日、依頼書が補充されるかどうかで、クエストに挑むことが決まった。

◇◇

翌日-----。

 クエストの依頼書が補充された。クエストが未達成と判断されたのだ。

「よし! 予定通り、クモ討伐に行くぞ!」
「「やるぞ~!!」」
「リフロ、ルフロ気負い過ぎじゃない?」

◇◇

 イースト・ヘッドの4人とセキトモは巨大蜘蛛がいる山の麓の洞窟入口までたどり着いた。洞窟に入る前に小休憩。軽食を済ませ、今は松明を準備しているところだ。

「やはり中は暗そうですね?」
「だよな。セキトモは防御に専念してくれ。
 松明を持っててくれてるだけでも助かるぜ」
「分かりました」

 一同は慎重に洞窟内に入って行った。

 セキトモは思った。
 大盾を構えて松明を持つと僕の槍は使いたくても使えないからな。
 これじゃあ防御に専念するしかないよね?
 そして一番先頭に立ってモンスターの不意の襲撃から皆を守りつつ進む。
 モンスターに遭遇したら散開して皆で力を合わせて攻撃する手筈だ。
 最低限の明るさを確保するため、この松明の火は消してはならない。
 それが今回の僕の役目だ。

 洞窟を少し進むと、右に曲がっていた。そして、先が少し明るい。

 出口だろうか?
 その手前に全面に張った蜘蛛の巣が見えるけど、肝心のクモが見当たらない。
 何処だ?

 ラフロが皆に声をかけた。

「用心しろ。絶対どこかにいるぞ!」

 不意に洞窟の天井から蜘蛛が降りて来た。

「上にいやがったのか!」

 セキトモの目の前で赤い眼をした巨大な蜘蛛がゆっくりと脚を動かしている。

 デカい。
 上からそのまま襲い掛かられなかっただけマシか。これはヤバい。

 蜘蛛はセキトモに襲って来たが大盾で防ぐことに成功した。押し込まれるほどの重い攻撃ではなさそうだ。
 蜘蛛の背後に回り込んだラフロ、リフロ、ルフロの三人が剣で斬り込んだ。

 少し蜘蛛に傷を負わせたか?
 だけど、蜘蛛の動きは全然鈍っていないぞ。

 タイラーは後方で弓を構えて狙いを定めていたが、暗い上に洞窟の天井まで這いまわる蜘蛛に翻弄されて矢を放つことさえできていなかった。

「ダメだ、ラフロ! 俺の弓では狙えない。暗すぎる」

「くそっ! 撤退するぞ!」

 ラフロの判断は早かった。

 撤退するとなったら皆が逃げ切れるように僕が守って行くしかない。
 たとえ僕の命が奪われたとしても皆が生き残れるのなら。
 そういう役目だ。覚悟を決めろ!

「セキトモ、何やってる! お前も一緒に逃げるんだ!
 俺たちのことなんて考えなくていい。死にたいのか?」

 死にたいわけがない。
 僕は全力で走った。
 洞窟を出てもなお。
 手に持った松明の火はいつの間にか消えていた。
 疲れた。でも死ななかった。
 そして皆も無事だ。
 ラフロの判断が正しかったかどうかは分からない。
 ただ、普通なら僕を犠牲にして置いて行っただろう。
 僕は何かあったときの犠牲要員ではなかった。
 それが分かっただけでもこの人たちは信用できる。
 またクエストに誘われたら引き受けよう。

 気が付くと、ラフロが三人の討伐者パーティー?と話をしていた。
 小さな少女二人と若い青年だ。
 抗魔玉を着けた武器を持っている。
 あの人たちもクモ討伐に来たのだろうか?
 まあ、あれ見たらすぐに引き返してくるだろうな。
 使いかけだけど、僕の松明はもう必要ないし、渡しておくか。

 僕たちはラフロの「何の成果も得られなかったら悔しいだろ?」という提案に乗って、帰りに遭遇したモンスターを全部討伐していった。スライムやゴム兎、針蚊など弱いモンスターばかりだったが。

「セキトモ、付き合わせて悪かったな」
「いえ、大丈夫です。いい経験になりました」
「これに懲りずにまた誘ってもいいか?」
「はい! そのときは宜しくお願いします」

◇◇

 翌日、ギルドに顔を出すと、騒ぎになっていた。
 難易度Cのクエストが達成されていた。しかも、2つ。

 パーティー名から推測すると、攻略したのは間違いなく洞窟近くで会ったあの三人だ。変なパーティー名だけど。

 凄い。あのクモをたった三人で倒すなんて。
 それにもうひとつのカエルまで倒していたとは。
 相当な実力者だったんだな。見た目では分からないものだ。

 今日は雨降ってるけど、ここで待っていれば会えるだろうか?
 直接話を聞いてみたいな。
 顔は覚えているし、もし来たら声をかけてみよう。




※この内容は個人小説でありフィクションです。