スライムスレイヤー ~イシノチカラ~

作者:亜形


第29話 中宿


 中央大陸を目指してバルンバッセの街を旅立ったトウマ、ロッカ、バン、セキトモの四人は次の街を目指している。次の街は海に近いアーマグラスという街だ。

 馬車に乗って出発したはずの四人は今歩いている。何故かというとバルンバッセの街を出てすぐに馬車の荷台を引く馬がへばったのだ。
 巨大爪熊討伐で乗った馬車は御者がいて馬二頭立てだったが今回は馬一頭で荷台を引いているので旅の荷物が重過ぎるのだろう。

 トウマは歩きながらバンに聞いた。

「バンさん、次の街まで何日くらいかかりますかね?」
「来る時は馬車で4日くらいだったと思いますけど今は歩きですからね。
 少なくとも4日以上かかるのは確かです」

「そっか~。セキトモさん、大盾くらい荷台に載せたらどうです?」

「僕はまだ大丈夫だよ。
 それに少しでも馬への負担を軽くしてあげたほうがいいよね?」

 セキトモは装備を着けて大盾も背負った状態で歩いている。普段から重装備に慣れて鍛えると言っていたが馬の負担を軽くしてあげたいという今の言葉が本音だろう。

「弱っちー馬だな、お前は」

”ポコ!”

 ロッカは拾った細い木の棒でトウマの頭を軽く叩いた。

「トウマ、馬次郎をバカにするんじゃないわよ! このコは頭いいのよ」

 何だよ、その馬の名前は。
 次郎ってこの馬2頭目か、2代目なのか?

「ロッカが言うには馬次郎は人の言葉が分かるそうですよ。
 本当に通じているのなら凄い馬ですけどね」
「バンはまだ疑ってるのね! 本当よ。ね、馬次郎~」

 馬次郎が頷くような仕草をしてロッカに撫でられている。

「あ、あそこスライムがいるわ。ちょっと倒してくる!」

 ロッカは街道を離れてスライムを倒しに行った。

「あんな所よく見えるね。僕は全然気づかなかったよ」
「俺もスライム見つけたら倒しに行こうーと」
「構いませんけど私たちは待たずに先に進みますよ。
 はぐれないようにして下さいね」
「はーい」

 しばらくして、ロッカが戻って来た。

「お待たせ」
「ロッカにしては随分時間がかかったようですね?」
「それがさー、聞いてよ。スライム倒した近くに牙犬がいてね。見つけたと思ったら逃げちゃうし。それで追っかけて倒して来たってわけ」

「そっか、スライムだけとは限らないか。
 しかし、牙犬に逃げられるロッカって・・・」

「俺もモンスター倒したいんだけどな~」
「見つけたもん勝ちよ!」

 日が暮れそうになった頃に討伐者が休めるオドブレイクという施設に到着した。
 オドブレイクは100m四方をモンスター除けの柵で囲ってあるだけの所で内側にはポツンと小さな倉庫が建っている。倉庫には定期的に届く物資が入れてあるようだ。交代制の見張り役的な衛兵さんが常に2~3人いる。
 オドブレイクに泊まる場合は柵の内側にテントを張って一夜を過ごす。常備されているテントが残っていれば貸し出してくれるが、なければシートに雑魚寝だ。なお、討伐者の宿泊費は無料である。
 必要とあれば最低限の食料や水も提供して貰える。それ以上を求めるなら費用を支払う必要がある。それ相応の魔石と交換でもよい。

 この施設は主要な街道沿いに大体一日で歩いて行ける距離の間隔で建設されている感じだ。モンスター討伐の臨時拠点としても利用されるらしい。
 街道沿いでも絶対モンスターが現れないとは限らない。要は討伐者が夜を安心して過ごせる場所だ。ちなみに一般の人でも宿泊費を払えば利用可能である。

「こういう所あるの便利ですね」
「ここはギルドと街道を維持する機関が共同で運営してるんだよ。
 実は僕、ここの衛兵のバイトしたことがあるんだ。
 抗魔玉付きの槍が用意されててね、その影響で槍買っちゃったんだ。はは」
「あ、もしかして集落のときテント張るの早かったのって」
「そう。ここで討伐者のテント張る手伝いを何度もしてたら覚えちゃったんだ」

「討伐経験がなくても衛兵として働けるんですか?」
「そんなことないよ。僕はバイトだったから主に倉庫の棚卸とかの手伝いで臨時って感じ。ちゃんと働くにはそれなりに厳しい審査を通過しないとダメみたいだし、ほぼ元討伐者でけっこう年配のひとが多いよ」

「意外と敷居高いんですね。ま、衛兵になる気はないけど」

「当時の知ってる人はいないみたいだな。
 勤務地交代があるからずっと同じ所にいる人はいないか」

「セキトモー。テント張って~」

「分かった。トウマも手伝ってくれ」
「はい! 俺もしっかり覚えよっかな」

 ロッカとバンは馬次郎の世話をした後、食料と水を貰いに行ったようだ。

 あの二人のことだ。
 お金も持っているし、追加食料を買ってきそうだな~。

 しばらくすると、ロッカとバンは大量の食料を持って来た。

「やっぱりな」

「何がやっぱりよ。
 トウマ、火・・・は着けられないか。あとで衛兵さんから貰ってくるわ」

 トウマは剣が変わっている。2スロットの剣と真魔玉【赤】は今、トウマの手元に無いのだ。代用として1スロットの剣を持っている。
 トウマは博士が少し改良を加えてみたいという提案に乗って、2スロットの剣を預けているのだ。出来上がり次第送って貰える手筈になっている。
 代用している1スロットの剣は博士から頂いた物で、切れ味、頑丈さも量産品より上だそうだ。トウマ次第だが改良された2スロットの剣が戻ってくれば二刀流も可能かもしれない。

「セキトモさん、あとで模擬戦付き合って下さい」

「おう。いいとも」

 以前のセキトモのグレイブは大盾が鞘になっていた。しかし、セキトモの要望で鞘を簡単に取り外し出来るように改良して貰った。そのおかげで鞘付きの模擬戦が出来るようになったのだ。

「私がやってやろうか?」
「ロッカは速過ぎるからダメ! 俺がもう少し強くなってからにして」
「残念~」

2日後-----。

 一同は二度目のオドブレイクを出て街道を進んでいる。時々、封書マークの付いた馬車とすれ違うことがある。その馬車は呼び止めて費用を支払えば手紙を配達して貰えるようだ。
 配達する方向が合っていないと一旦、次の街に着いてから折り返すことになるので届ける方向が合っている馬車に頼んだほうが早く届くとのことだ。いずれ博士への報告で利用するかもしれない。

 セキトモが言う。

「次のオドブレイクの隣側には宿屋があるよ。小さいけどね。
 以前、僕そこで働いてたんだ」

 バンは思い当たらなかったようだ。

「そうなのですか?
 私たち来るときは馬車で寝ていましたので素通りしたのかもしれないですね」

 ロッカが思い出したかのように言う。

「私が御者してたときかも。通ったの昼時だった気がするわ。
 なら、そこ泊まって行こうよ。食事も出る?」

「食事付きにすれば出るけど、宿泊だけでも高いよ。
 あそこ街の間の中継地点だから高めに設定しても客は入るんだよね。
 当時はテント疲れしている討伐者も利用してたな~」

「熊の報酬でお金持ってるし、高くてもいいんじゃない? 
 セキトモの顔で割引してくれるなら嬉しいけど」
「はは。もう僕、辞めちゃってるからね。割引はして貰えないと思うよ」

 一同は歩きに慣れてきたのか予定より早く次のオドブレイクに着いた。更に進むか迷うところだが急ぎの旅でもない。中途半端な位置で夜を明かしたくないので予定通りセキトモが働いていた宿屋『中宿(なかやど)』での宿泊が決定した。

「あれ? 前より大きくなってる、儲かったのかな?」
「確か、小さな宿って言ってましたよね?」

 セキトモが働いていた時は20人ほど泊まれる小さな宿だったようだが、今は50人ほど泊まれそうだ。まだ早い時間帯なので他の客は見当たらない。

「こんにちは。
 二人部屋を2室で一泊、4名でお願いできますか? 食事付きで」
「かしこまりました。二人部屋2室4名様一泊、食事付きですね」

「ここ大きくなりましたね?」

「そうですね。1年くらい前に増築改装したばかりなのですよ。
 あら? あなたもしかしてセキトモじゃない?」
「ご無沙汰してます。女将さん」

「まあ、随分逞しくなって。
 突然、あなたが出て行ってから2、3年くらい経ったかしら。
 上手くやれているのか心配してたのよ。
 その様子だと討伐者になれたみたいね?」
「おかげさまで」

「お連れの方々も討伐者なの?」
「そうですよ。
 ああ見えて僕より強い人たちです。
 今、僕たち中央大陸目指して旅しているところなんですよ」
「まあ、ちょうど良かったわ!
 セキトモにお願いしたいことがあるの。昔のよしみで聞いて貰えないかな?」

 何やらモンスター絡みの予感。




※この内容は個人小説でありフィクションです。