スライムスレイヤー ~イシノチカラ~

作者:亜形


第22話 急ではあるが


 トウマはロッカに連れられて裏庭のひらけた場所に移動した。

「トウマもこっち来たんだ。で、何貰ったの?」
「あとで教えますね。今はこっち」

 トウマはロッカを指さした。 ロッカは身体をほぐしている。

「分かった! じゃ、あとでね」

「さてと、トウマ。リハビリの相手して貰うわ。剣は鞘のままで模擬戦よ!」

 ロッカはすぐにトウマに飛び掛かった。トウマは何とかロッカの初撃をかわし、慌てて鞘付きで剣を構えた。

「早いですって!」
「モンスターが待ってくれるとでも?」
「この! 病み上がりのくせにー!」

 喧嘩ごしにロッカに挑むトウマだが剣を当てることすら出来きない。

◇◇

 肩を落としていた博士はようやく立ち直った。

「バン君から見て彼らはどうかね? 上手くやっていけると思うか?」
「そうですね。二人とも大丈夫だと思います。
 セキトモさんは真面目で飲み込みも早いですし、トウマさんはロッカが鍛えようとしています。まだまだ二人とも経験は足りないですが伸びしろは十分にありますよ」

「ところでもう一つの話はされたんでしょうか?」
「いや、まだ先の事だからな。その時までに彼らが生き残っていたら話すさ」

 トウマは未だロッカに一太刀も入れることが出来ていない。ロッカが手加減しているとはいえ、すでにトウマは全身打撲だらけになっていた。

「ハア、ハア、全然、当たる気がしない」

 ホントに病み上がりか? ロッカ。

「トウマ、もういいわ。私が十分動けることは分かったから。
 もうトウマの動きのほうが鈍くなってるし、これ以上やる意味ないわ」
「ですか~。ハア、ハア・・・」

 仰向けになって寝転んだトウマの元にセキトモがやって来た。

「トウマ、ご苦労様。ロッカの相手は大変そうだったね?」
「大変ですよ~。こっちの攻撃は全然当たらないし」

「何が大変よ。トウマがヘタレなだけでしょ。今度はセキトモが相手する?」
「え、イヤだよ。見てたけどロッカは速過ぎる」
「的が大きいから叩きがいがあると思ったんだけどな~、残念」
「いや、いや、サンドバックか僕は。勘弁してくれよ。はは」

 この二人いつの間に仲良くなったんだ?

「あ、そうだ!
 明後日にはこの街を出るから中央に戻る準備しなきゃ。
 宿の部屋散らかしたままなのよ。
 ということで私のリハビリは終了。トウマありがと!」

 え? あ、そうだった。
 ロッカたちは中央大陸に戻るんだった。
 護衛の仕事でこの街まで来て、今は休暇中って話だったな。

「ロッカたち中央に戻っちゃうのか。なんか寂しいですね?」
「知り合ったばかりなのにもうすぐお別れなのか。僕も寂しいよ」

「は? 何言ってんの? あんた達も行くのよ」

「「え?!」」

 トウマとセキトモは驚いて顔を見合わせた。

 ロッカは伸びをしながら言う。

「まあ、中央に行けない事情あるなら仕方ないけどさ~」

「俺は・・・、荷物も少ないし大丈夫ですけど。ホントに?」

「うーん、2日後か。僕だっていつか中央大陸目指すつもりだったからな。
 うん! それが2日後になっただけか。どうにかするよ!
 悪いけど、トウマも僕の旅の準備を手伝ってくれないか?」

 セキトモは中央大陸行きを決めたようだ。

「やった! セキトモさん、行くんですね!
 俺も旅の準備手伝いますから行きましょう!」

 そこに博士が割り込んだ。

「おいおい、ロッカ君。彼らも中央に連れて行くなんて聞いてないぞ?」

「いつか行くんだから一緒でいいでしょ。
 それに私たちといた方が二人の生存率高まるわよ?」

 バンも話に割り込んだ。

「博士、私もロッカに賛成です。
 二人はまだ初心者のようなものですから一緒のほうが良いと思います」
「バン君まで・・・。う~む。分かったよ。
 トウマ君、セキトモ君、二人と一緒に中央大陸に行ってくれるか?」
「「はい!」」

 急ではあるが2日後、トウマとセキトモの二人も中央大陸に向かう事が決定した。

◇◇

「ところでトウマが博士から貰った物はいつお披露目?」

「そうですね。お披露目兼ねて今からもう少し練習しちゃいます?
 俺、明日は朝からセキトモさんの旅の準備手伝うんで」
「それなら僕もこの短い時間での上達ぶりを見て欲しいな」

 2日後なら旅立つ準備は明日でも構わないだろう。二人はそれぞれの武器の練習をして帰ることにした。博士の邸宅の裏庭は人目につかず武器を試すのに都合が良いし、二人は手に入れたばかりの武器をまだまだ試したくてうずうずしていたのだ。

 トウマはセキトモのグレイブを一度持たせてもらった。しかし、持つことは出来るものの突いたり振ったりして武器として扱うには重すぎるようだ。

「これ重いですね。俺には扱えないや」
「はは、だろうね。僕も少し重く感じるし」

 セキトモはグレイブの短い状態をショートグレイブ。長い状態をロンググレイブと呼ぶことにした。更にグレイブのショートからロングへ伸ばす勢いをそのまま利用する1回限りの大技。それを『重撃飛槍』と名付けた。ショートに戻してやればもう1回使えるが、戦闘中にショートに戻す余裕があればの話だ。

“ズドーーン!”

 セキトモが的にした丸太に中心から外側に向けて何本もの亀裂が入り、粉々に砕け散った。

「やっぱりな。重撃飛槍は伸びる力と僕の力。
 それがちょうどかみ合う距離で的に当たると凄い威力になるみたいだ」
「それ、凄いですね!」

「でも距離がピッタリ合ってないと最大の力は発揮できないね。
 ずれると単なる突きか、伸びきれない状態で当たると弱い当たりになってしまう。
 今のところ動かない的で10回に1回成功って感じ。これは距離感を掴む練習あるのみだな」

 トウマも負けずに丸太を持って来て真魔玉【赤】を着けた炎熱剣の威力を披露した。炎熱剣で切り裂かれた丸太が炎上すると、消火する水を持って来ていないことに気づいた。

「水、水~!!」
「早く消火しないとヤバいね。博士に怒られるかもよ?」
「そんなこと言ってないで消火するの手伝って下さいよ~」

 鎮火。

「ふ~、炎熱剣の威力が凄いのは分かったよ。
 トウマは元々剣を扱えるんだから素早い真魔玉の着脱練習が最優先だな」
「それ博士にも言われました。いつも真魔玉着けてるわけにはいかないですからね」

「では問題です。
 抗魔玉2つをつけた状態で10分間戦いました。
 その後、抗魔玉を真魔玉に付け替えたら炎熱剣は何回使えるでしょう?」
「えーと、20分使えるうちの10分残ってるから10回! いや9回かな」
「ブブー!
 抗魔玉2つは同時に消費しているから1つ残した状態で使える時間は5分だよ。
 なので5回、いや4回が正解かな?」
「俺の答えの半分以下じゃん。ムズい・・・」

「そうだな~。
 炎熱剣1回で抗魔玉の力を1分消費なんだよな?
 トウマは体感で1分がどのくらいか分かるようになったほうがいいかもね?
 残り何分あるか、あと何回放てるかを自然に把握できるまで」
「そんな無茶な~」
「でも話を聞いた感じバンはロッドでやってるっぽいよね?」

 改めてバンの凄さを痛感するトウマだった。

 ちなみにセキトモのグレイブのスロットに真魔玉【赤】を着けたらどうなるかを博士に聞いてみた。真魔玉【赤】用に作った武器ではないから柄が熱くなり過ぎて壊れる可能性が高いとのこと。武器にも相性があるらしい。

 あぶねっ。興味半分で試す前に博士に聞いて良かった。

◇◆

3日前、祭りが開催された日のある森の奥地での出来事-----。

 一日中続いていた雨が上がり、偶然なのか森の奥地でスライムが集まっていた。このスライムたちは争うこともなく徐々に融合していった。
 次々に融合したスライムたちはやがて巨大なスライムになった。巨大なスライムはズルズルと移動して近くの川に浸水していった。

 巨大なスライムはしばらく川の流れに身を任せて漂っていたが、川の流れの先に待っていた滝にそのまま落ちた。

 これもまた偶然なのか巨大なスライムが落ちた滝の下にある川辺に一頭の熊がやって来ていた。
 熊は警戒すらしていなかった。あっという間の出来事だった。その一頭の熊は川の中から津波と見間違うかのような巨大なスライムの波に飲み込まれた。

 やがて巨大なスライムは取り込んだ熊に擬態したモンスターになった。擬態元の熊を更に巨大化し、前足の爪を大きく鋭利に特化させていた。

 この熊のモンスターはすぐに『巨大爪熊』と呼ばれることになる。

 巨大爪熊は餌場を求めて周囲の生物を食い散らかし、時には空腹を満たす為ではなく遊ぶように生き物を狩った。ゆっくりと、だが確実に森の奥地から人里の方向に向かい始めた。




※この内容は個人小説でありフィクションです。