スライムスレイヤー ~イシノチカラ~

作者:亜形


第23話 特急クエスト


 トウマは早朝からセキトモの旅の準備を手伝っている。セキトモは一人で生活していく上では十分な環境と言える家を借りて住んでいた。狭いが調理場まである。

「旅に必要な物以外は処分していくよ。ここは借り家だしな」
「この鍋とか捨てるの勿体ないですけどいいんですか?」
「博士との契約で生活面での保障があるからね。
 持っていく物は必要最低限でいいんだ。買い取って貰えそうな物は売りに出すよ。
 次の人が使えそうな物は置いて行ってもいいかな?」

「セキトモさんが使ってた1スロットの槍も売りに出しちゃうんですよね?」
「長物を2本持ち歩くのはキツいからね。グレイブだけで槍の役割も出来るし」
「そっか、俺は愛着湧くと中々手放せないかもしれないな~」

「はは、剣なら2本持っててもいいかもね。
 さて、まだまだだけどある程度は片付いたし、お昼はどこか店に食べに行こうか?
 おごるよ」
「マジですか? やった」

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 トウマとセキトモが店で昼食を取っているとロッカが足早にやって来た。ロッカは軽装だが両腕に籠手、脚にも全体的に普段していない装備をしている。

「探したわ、二人ともここにいたのね」

「何かあったんですか?」
「特急案件よ、急いで装備を整えてギルド前に来て!」

 ロッカが言う特急案件とはギルドの特急クエストの事である。
 街、周辺の村及び集落全体からの依頼で直接関係の無い地域からも支援がある緊急度が高いクエストだ。早期に対策しなければ甚大なモンスター被害が予想されるので急を要する案件だ。通常は討伐者総出で対応することが多い。
 過去にバルンバッセの街で特急クエストが出された例は無い。

「僕も特急なんて初めてだよ。とにかく急いで準備してギルド前で落ち合おう!」
「はい! では、あとで」

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 トウマが準備を終えてギルド前に到着するとすでに多くの討伐者が集まって来ていた。現状、30人くらい集まっているだろうか。ロッカ、バン、セキトモの姿もある。
 ギルドのカウンターにいたオッサンが数名のスタッフと共にギルド前にテーブルや椅子を用意して簡易的な受付を設置しているところだ。

 トウマは三人と合流した。

「すみません、遅くなりました!」
「トウマ、来るの遅いわよ」

 バンはギルドで配られている紙を持って来た。

「これに詳細が書かれています。トウマさんもどうぞ」

 討伐者への情報伝達は早い。
 観測者からの情報によると森の奥地で『巨大爪熊』と呼ばれるモンスターが出現したらしい。そのモンスターは縄張りという概念を持っていないようで徐々に移動しているとのこと。まだ森の中にいるそうだが熊の進行方向に集落があるので森から出た場合には多くの犠牲者が出るとの予測だそうだ。

 観測者とはギルドに雇われた周辺地域のモンスターの観測を専門とする討伐者のことである。討伐者といってもモンスターと戦う訳ではなくモンスターを確認して逃げるのに特化した者たちである。機動力はあるものの攻撃に関しては普通の討伐者よりも劣るのでギルドに雇われて生活をしている者たちと言ったところだろうか。仕事上、余程のことがない限り確認したモンスターを倒していくことはない。大抵は二人一組で活動している。

 巨大爪熊は他のモンスターを従えてモンスター集団となっているとの情報もあり、モンスター同士の共闘ではなく他のモンスターを従えている点で熊は相当な脅威とみなされているようだ。下手すると森全体にいるモンスターを従える可能性もある。

 クエストに出ていないモンスターをわざわざ森の奥地まで行って討伐する者はいない。被害があるからこその依頼なので森には今まで放置されていたモンスターが勢ぞろいしている。確認されているモンスターだけでも数多いようだ。

 小型・・・ゴム兎3体、ゴムリス2体、牙蟻20体、爪鼠5体、針蜂7体
 中型・・・牙猪、爪蜥蜴2体、牙蛇2体
 大型・・・角カブト、鱗蛇、爪百足

 大型が人間の大人かそれより少し大きいサイズ、中型でも肩から腰あたりまでの大きさという話で十分大きいモンスターである。
 指揮命令を出している熊を討伐できれば他のモンスターは自分の縄張りに戻って行くだろうとのことだが熊討伐の障害になるのは間違いない。

 ギルドのオッサンがギルド入口前に立ち、集まった討伐者へ向けて話始めた。

「急な呼びかけでよく集まってくれた! 感謝する!
 大体の事は配られている紙に書いてある通りで、今回の特急クエストの難易度はBに決定した! 今後、Aになる可能性もあるので中央に応援要請もしたところだ。
 だが、応援はおそらく間に合わないだろう」

 討伐者たちがざわつく。

「難易度Bって今まであったか?」
「いや、この街では聞いたこともねーよ。相当ヤバいな」
「俺、難易度Dでも精一杯なんだが・・・Bって」
「全体でBってことなんじゃないか?
 倒せそうなモンスターもいるみたいだし」

 引き続きギルドのオッサンが話す。

「特急クエストの参加報酬は一人10万エーペルだ。
 あとはクエスト貢献度によって追加報酬が出る。
 負傷者の救助や防衛でも加味されると思ってくれて構わないぞ。
 但し、報酬に目がくらんで命を落とすような間抜けな真似だけはするなよ」

 更に討伐者たちがざわつく。

「10万+貢献度か~、参加するだけで10万はおいしいな」
「下手すると命持ってかれるからな、考えもんだぞ」
「なるべく遠くで支援でもいいんだろ?」
「生き残ることは最優先だけどよ、討伐者を名乗る以上ヘタレなことはできんだろ? 
 周りも見てるぞ」

 ざわつくなか引き続きギルドのオッサンが話す。

「特急クエストに参加する者はこの名簿に名前を記載してくれ。
 なるべく多くの者に協力して欲しいがモンスターはこいつらだけではないからな。
 残る者も必要だ。それぞれが自分の力量を考えて行動に移してくれ。
 参加する者たちは今から1時間後に出発して貰う」

 トウマたちは当然参加する。難易度Cを達成しているメンバーが参加しないなんて事は無いという周囲の空気もあるが、この街に名のある討伐者がいるわけではないので自分たちしかいない(主にバンとロッカ)、やるべき案件だと分かっているからである。

 セキトモは新しい武器を手に入れた。
 トウマも真魔玉を手に入れた。
 経験は少ないが役に立てるはずだ。

「よう! お前らも当然参加みたいだな? 何だ、セキトモも一緒か」

 声をかけて来たのは巨大蜘蛛討伐に行った際、セキトモとパーティーを組んでいたメンバーだ。毎回話しかけてくるのは剣を持った壮年の男である。

「このガキ、おっと『がんぐ』だっけ? カマキリまで討伐したんだろ?」
「セキトモさんと協力して倒したんです。それに俺の名前はトウマです!」
「そうか、トウマか。名前聞いてなかったもんな、悪い、悪い、わはは。
 俺はラフロだ、メイン武器は見ての通り剣だ。俺たちは共闘するだろうから他のメンバーも紹介しとくぜ。そっちも紹介してくれよ」

 それぞれが互いに自己紹介をした。
 剣使いの二人の男はリフロとルフロ、ラフロの弟達で3兄弟らしい。弓使いの男はタイラー。ラフロの親友だそうな。

 ロッカはラフロに話しかけた。

「これが終わったら私たちは中央へ向かうわ。この街で受ける最後のクエストよ」
「そうか、お前らがまだいてくれて助かったぜ。宜しく頼む」
「勝てる保証はないわよ。でも私たちも最善を尽くすわ」
「OK。俺たちも全力で行かせてもらうぜ!」

 ラフロがトウマに近寄り耳打ちした。

「何となくだがよ、俺は気づいているぜ。あのネーちゃん達かなりやるんだろ?」
「?! ラフロさん、気づいていましたか・・・」
「そりゃ分かるだろ、あんなヘタレな討伐談があるかよ。
 全然詳細喋らねーし、今のお前の反応で確定だわ。わはは」

 しまった・・・。

「安心しろ。黙っててやるよ」

 出発の時間になり特急クエストに参加する討伐者が確定した。総勢20名である。

 討伐者たちは街が用意した二頭立ての馬車5台で森の手前の集落まで移動する。各々馬車に乗り込み出発して行った。

 街に残る討伐者たちの何人かは出発する討伐者たちを見送った。

「「頼んだぞ~!」」




※この内容は個人小説でありフィクションです。