スライムスレイヤー ~イシノチカラ~

作者:亜形


第30話 違和感の正体


 皆の予想通り、宿泊する中宿(なかやど)の女将さんからモンスター討伐の依頼があった。セキトモは申し訳なさそうにしている。

「みんな、ごめん! お世話になった人の頼みだったから断り切れなかった」
「まあ、いいんじゃない? まだ夜まで時間あるし、ここから遠くないんでしょ?」
「私も大丈夫ですよ。ギルドに依頼を出す報酬相当を頂けるというお話ですし」
「俺もそろそろモンスター倒したくてうずうずしてたところです!
 ロッカに先を越されてばかりだったんで」
「そう言ってくれると助かるよ~」

 クエスト風にいうと『針蜂討伐』 難易度Dといったところだ。ここは街と街との中間地点なのでどちらの街に依頼するか迷う位置でもある。依頼を出しても難易度D程度の依頼を受けて遠方まで来てくれる討伐者がいるとは限らない。女将さんは隣にあるオドブレイクに立ち寄った討伐者に依頼しようか迷っていたそうだ。

「それに蜂倒して来ればお礼で『特製蜂蜜スイーツ』出してくれるんでしょ?
 蜂蜜入手困難で注文できなくなったやつ」
「ロッカ、それが本当の狙いだろ?」
「えへへー、理由なんてどうでもいいでしょ。楽しみ~、バンもそうよね?」
「はい! 楽しみですね」

 この二人はクエスト報酬無しでもスイーツだけで釣れるだろう。

 針蜂は中宿から30分ほど歩いた割と低めの山の入口付近にいるそうだ。その山には蜜蜂が多く生息していて良質な蜂蜜が採れるとのこと。針蜂がいるのは山の入口付近なので蜂蜜を採って来る人たちが困っているようだ。

 一同は討伐準備をして目的地に向けて出発。馬次郎は宿の馬小屋で荷台と一緒にお留守番だ。

「馬次郎~、行ってくるね~。荷物の番も頼むわよ~」

“ブルル・・・”

 馬次郎は首を縦に振った。

 何だか馬次郎が返事した気がした。
 ホントに分かってるのかな?

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 針蜂討伐に出向いた四人は山の入口付近に到着した。

 バンは新しい武器を持って来ている。拳から爪が生えたような刃が3本ある近接武器だ。両手で6本の刃。握るタイプなので腰の両側に専用の鞘を装着している。巨大爪熊討伐の話を聞いて博士が思いつきで作った武器だ。
 バンは『三刃爪』と名付けた。少し重いが熊並みの力があるかもしれないバンが使うと恐ろしい威力を発揮することだろう。

 バンさんが三刃爪を常時使うようになったら二刀流が二人になっちゃうな。
 博士の気まぐれで俺の剣の改良は後回しになったし・・・。
 にしても博士、出発前までの2日間くらいで作ったんだからホント早いよな?
 剛拳の手の甲部分が基礎になっているらしいけど博士って鍛冶師って感じしないんだよな~。白衣着ているからかな?

 ロッカが針蜂を見つけたようだ。

「あれね。ぱっと見で分かっちゃうわね?
 何か小さい気がするけど・・・うじゃうじゃいてキモっ」

 人間の拳ほどの大きさの針蜂だ。果実のように木に群がっている。落ちた果実のように地面でうろうろしているやつもいる。ざっと見て30体くらいだろうか。

「ほぼ複製体でしょうね。もしかしたら女王蜂的な針蜂がいるかもしれません。
 でも、何か違和感がありますね」

「モンスターの蜂って蜜集めるんですかね?」
「あんなでかい蜂が花の蜜とか集めるの無理じゃない?」
「木の蜜だったらいけるかもしれないよ。
 いや、もしかしたら普通の蜂の巣から奪っているのかも?」
「それはダメでしょ。私の蜂蜜無くなっちゃうじゃない」

「「ロッカの蜂蜜じゃないだろ」」

 何か見えたのかバンは少し横に移動したあと皆に声をかけた。

「何かおかしくありませんか? あの木の下側、こちらから見て下さい」

 針蜂がいる木を正面から見ていたがバンのところに行き角度を変えて見てみると、木の根元辺りに立てかかっている大きな蜂の巣が見えた。巣穴は針蜂が入れそうな大きさだ。その蜂の巣の下に他より大きな針蜂が挟まっている。その大きな針蜂は巣に潰されてもがいているようにも見える。

「・・・バン。東大陸って複合体いるんだっけ?」

 複合体?
 複製体じゃなくて?

「いないとは言い切れませんがここは中央からかなり遠いですからね」
「よく見てあれ。
 大きい蜂の巣に潰されている針蜂じゃなくて、針蜂から巣が生えてない?」
「まさか?! 本当に複合体?」

「さっきバンが『違和感がある』って言ってたでしょ。やってみれば分かるわ。
 皆、蜂退治するわよ! 針の攻撃にだけ注意して」

 トウマは少しずつ近くの地面にいる針蜂に近づいた。気づいた針蜂が襲ってきたが、トウマは針の攻撃に注意しながら難なく斬った。ロッカも同様だ。木の下側にいるやつは石ころを投げてこちらに気づかせ、おびき寄せて倒していった。

 まあ、一斉に襲って来なければ倒せるモンスターだな。
 魔石落とさないし、複製体みたいだ。あの潰れてる大きいのが本体かな?
 本体倒しても複製体は消えないからな~。

「あの下で潰れているやつは放置でよさそうね。最後に回そう」

「木の上のやつらどうします?」
「石投げつけてもいいけど、数いるから少しでも減らしたいところね。
 セキトモ、私たち届かないからロンググレイブで何体かぶった斬ってよ。
 たぶん一斉に襲ってくるわ」
「マジ?!」

「一撃入れたあとは大盾で防ぎながら退いていいから。
 襲って来るやつらは私らで倒すわ」
「・・・そういうことなら。あとは頼むよホント。ちょっと待ってて」

 セキトモは突きで伸ばした音に反応して針蜂が襲って来ないように少し離れた場所に行って武器をロンググレイブにして戻って来た。少しグレイブを振る予行練習もしたようだ。

「いくよー!」

 セキトモは木の上の針蜂群に向けて左下から斬り上げるようにロンググレイブを振り抜いた! 針蜂が4体斬り倒された。次に斬り上げた刃を返して右上からなるべく多くの針蜂が斬れるように振り下ろすと、振り下ろしに3体の針蜂が巻き込まれた。

「よし、7体倒せた。あとは任せたよ!」

 ロッカの予想通り残った針蜂が一斉に木の上から襲って来た!

 セキトモは大盾を構えて後ずさりして行く。針蜂は次々とセキトモの大盾にぶつかって来たが横からトウマとロッカで斬っていく。
 少し遅れて襲って来る針蜂は三刃爪を装備したバンが細かい動きで斬り伏せる。小さい針蜂相手なので熊というより猫が引っかいている感じで針蜂は斬られていった。にゃ、にゃ、にゃ、にゃー!って感じだ。

 あっという間に襲って来た針蜂を殲滅。残るは大きな蜂の巣の下に挟まって動けない他より大きい針蜂だけだ。皆がそこに集まった。

「さてと、あとはこいつね。巣に他の針蜂は入っていないみたいだわ」
「本当にロッカの言う通りの複合体ならおそらく消えますね」
「見ててよ」

 ロッカは動けない針蜂に短剣を刺した。
 すると針蜂は霧散していった・・・蜂の巣と共に・・・。

「やっぱり・・・」

「魔石も落としましたし、複合体でしたね。
 おそらく蜂の巣を丸ごと取り込んだのでしょう」

 複合体とはスライムが生物と一緒に取り込んだ物質を合成再現した特殊なモンスターの事である。他の生物を同時に取り込んだ場合も同様だ。
 この針蜂の場合は最後に倒した針蜂が本体、他の小さい針蜂はこの針蜂の身体の一部だったのだ。身体は離れているが何かしらで繋がっているらしい。
 本体との繋がりが見えないので「念糸で繋がっている」と表現されているようだ。本体の針蜂を倒せば身体の一部である他の針蜂は消えていただろうという話だった。

「こんなモンスターもいるんですね?」

「魔粒子の濃いスライムが発生する中央大陸では珍しくは無いのですが、東大陸にもいるのですね」
「にしても、一緒に再現した巣が重くて動けないなんて。
 間抜けなやつで良かったわ。ぷっ、あはは、おかしい」
「確かにそう言われるとアホなモンスターですね」
「ぶっ、確かに。動けないって、わはは!」

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 針蜂討伐を終えた一同は中宿に戻った。中宿に戻る最中も針蜂のことを思い出し、大笑いしていた。

「ただいま~、馬次郎~」

 馬次郎は荷台見ててやったぜ、的な目配せをした。

 セキトモが針蜂討伐を終えたことを女将さんに告げて、報酬を受け取って来たようだ。受け取った報酬で高いと言っていた宿代を全部賄えそうだとか。
 今は中宿に客も増えてきて従業員が忙しそうだ。

「女将さん喜んでたよ。あとで約束通り特製蜂蜜スイーツ出してくれるってさ」
「やったー!」
「うふっ、楽しみですね」




※この内容は個人小説でありフィクションです。