スライムスレイヤー ~イシノチカラ~

作者:亜形


第32話 日々成長


 博士の邸宅を出たトウマとセキトモは街にある温泉施設にやって来た。二人は脱衣所で服を脱いでいる最中だ。

 セキトモさん筋肉モリモリだな~、腕の筋肉が凄い。腹は出てるけど。
 身体が大きいから小さく見えるけどあそこは標準って感じだな。うん。

 セキトモと見比べているようだがトウマも標準である。

 他の客がチラチラとトウマの胸に残っている熊の爪痕を見ていく。中には二度見する人もいた。

「この傷見られてますよね?」
「そこそこ目立つ傷だもんな」
「早く消えないかな~、消えますよね?」
「さあ? 僕には分からないよ」

 タオル一枚持っていざ温泉へ。

「「おお~!」」

 周りは目隠しの木板で囲まれ、湯けむりが立つ湯は岩で囲まれた堀の中。四方に柱があり屋根はついているが壁はない。涼し気な潮風も吹き込む露天風呂だった。
 残念ながら男女別で混浴ではない。隣の女風呂ではロッカとバンが温泉に浸かっていることだろう。(妄想)

「いいね~。これがこの街の温泉か~」
「いやっほーい」

 トウマは温泉に飛び込んだ。

「ちょ、トウマ。体洗った? マナー違反だよ」

-----

 二人はしばらく温泉に浸かり温泉施設を出た。

「トウマ、泳ぐのはどうかと思うよ。最後のぼせてたし」
「いや~、あんな広かったら泳いでみたくなりますって。ははは」
「まあ、気持ちは分かるけど。はあ~、癒された~。また行こ、今度は一人で」
「えー。俺も誘って下さいよ~」
「トウマ、はしゃぐし。他の客の目が痛い」
「えー」

 二人が博士の邸宅に戻ると、ホラックが出迎えてくれた。

「お帰りなさいませ。バン様とロッカ様も先ほど戻られたばかりですよ。
 お食事の御用意は出来ております」

 長いテーブルのある食堂に通されると、そこには豪華な食事が用意されていた。

「うお~、凄い!」
「こんなに?」

「今日は特別でございますよ。私も腕を振るいました」

 ロッカとバンも来たようだ。二人は普段とは違いラフな格好だ。石鹸の香が漂ってくる。バンはお団子にしていた長い髪を下ろしていて色気さえ感じる。

「わ~、豪華ね」
「どれも美味しそうです」
「げっ、刺身あるじゃない。私、生もの苦手なんだよね~」
「美味しいのに」

「この刺身は今朝、私が海で釣って来た魚です。
 先ほどまで生きておりましたので新鮮ですよ。お口に合えば宜しいですが」
「ホラック釣りするのね。モンスター出たら危なくない?」
「大丈夫でございます。
 長兄のイラックには敵いませんでしたが私もそこそこやりますよ」

 どうやらイラックというホラックの一番上の兄がロッカを鍛えたらしい。執事は主人を守れるくらい強くあれという教えでホラックは日々鍛錬を欠かしていないようだ。もしかしたらホラックは並みの討伐者より強いかもしれない。

 皆で用意して貰った豪華な食事を堪能した。

「明日はさっそくギルドに行くわよ。どんなクエストがあるか楽しみね?」
「僕でも倒せるモンスターにして欲しいな」
「俺は強いやつがいいです」

「まあ、どれにするかはバンに任せるわ。バンが選ぶのが一番最適な気がするし」

 同意、ロッカは危ないクエストしか選ばない気がする。

翌朝-----。

 トウマ、ロッカ、バン、セキトモの4人はギルドに出向くとまずやる事があった。パーティー名の変更だ。『可愛い女子達とその玩具』から『スレーム・ガング』に変更。アーマグラスの街に着くまでいろいろ考えてこれに決定したのだ。
 せっかくだから名が売れた『玩具』は残そうよ。と言うトウマ以外の意見の合致。あとは何故かスライムをもじった感じの名を前に足してある。ロッカがつけた。
 トウマとセキトモは気づいていないがロッカの『一番弱いトウマ』という小バカにした意味が入っている。バンは気づいていたが面白いと思い、そのまま放置したようだ。トウマは何かカッコよくなったと喜んでいた。

 ギルドのカウンターにいるマスターはお歳を召したおばあちゃんのようだ。老眼鏡をかけている。

 バンが選んだクエストは『巨大蟻討伐』だった。
 バンは「これなら1体ですし午前中には帰って来れますね」程度の肩慣らしのつもりのようだが難易度はCだ。目的地は1時間ほど歩いた目印に1本の大きな木がある平地。この辺りに何か建造したいようだが来た人を襲う邪魔なモンスターらしい。
 自分たちの私利私欲、利便性のために生態系を壊す。それが人間って生き物だが相手は生態系をさらに壊しかねないモンスター。討伐者にはこういう依頼もあるのだ。

-----

 スレーム・ガングの4人は徒歩で目的地に一番近い街道まで向かった。
 今は街道から外れて目印の大きな木を目指している。
 途中、スライムが何匹かいたがそれは問題なく倒してきた。

 縄張りに侵入してしまったのか時折、ゴム兎が襲って来ている。

”ゴン!”

”ザシュ!”

 セキトモが大盾でゴム兎の体当たりを防ぎ、ショートグレイブで倒した。

「やっとゴム兎1体倒せたよ。皆倒すの早いから僕に回ってこないし」
「別にいいじゃない、本命は蟻なのよ」
「注意事項に書かれていた周辺にいるゴム兎は報酬対象ではないですからね」
「倒す意味ないんですか? 俺、張り切って倒しちゃいましたけど」

「さーて、本命のご登場みたいよ」

 遠目に見える大きな木の近くに明らかに大きな蟻がいる。討伐対象の巨大蟻だ。

「でかいな。僕より断然大きくないか?」
「顎の大きなハサミが一番危険です。
 あの大きさで挟まれたら終わりと思って下さい」

「あの蟻、もうこっち警戒してない? 眼が黄色に見えるんだけど」
「縄張りを持つタイプのようですね。
 気づかれていても近づかなければ襲っては来ないでしょう」

「それじゃあ、まずはあんた達二人でやってみなさいよ」
「は?! 俺とセキトモさんでですか?」
「いやいや、無茶だろ」

 ロッカは淡々と話した。

「多分、甲殻は堅いからあまり攻撃は通らないわ。
 まずは動きを鈍くするために柔らかい足の関節を狙って斬り落とすの。
 動きが鈍くなったら頭部の関節を狙って頭を落として。
 とどめで胴体って感じかな?」

「簡単に言ってくれるなぁ~」
「セキトモさん、俺たちだって日々成長してますよ。やってやりましょうよ!」

「・・・そうだな。やってみるか!」

 まずは関節か。
 炎熱剣も無いし、今までは闇雲に斬ってただけだからな。
 狭い範囲を狙って斬れるかどうかだ。

 トウマとセキトモは巨大な蟻に向かって行った。
 蟻は頭に付いた大きな触角をせわしく動かしている。
 すると、蟻の眼の色が赤に変わった。蟻は爪が2本ついた大きい6本の足をのしのし動かし、射程内に入るのを待つかのように正面を向いた。

 セキトモの足が蟻の縄張りに踏み込むと蟻は左右交互に動かす三脚同時歩行に切り替え、猛スピードで二人に襲い掛かって来た。

 セキトモは大盾を構え受けて立つつもりのようだ。トウマは何を思ったのか剣を抜いて蟻に向かって走り出し正面から突っ込んで行った。

「トウマ?!」

 この蟻との戦いからトウマの剣術の幅が広がることになる。

 ある意味トウマの剣術は素直であった。
 縦、横、斜め、本当に真っすぐに斬る。繰り返し鍛錬した証でもある。
 だが、それゆえに融通が利かなかったのだ。
 実戦では不利な体勢からでも剣を振るう必要がある。
 ほとんどが不利な体勢であると言えよう。

 トウマは蟻の顎のハサミの攻撃をスライディングでかわし、蟻の下側に潜り込んだ。勢いそのまま蟻の胸部へ滑ると、蟻の右後ろ足の付け根の関節に角度を合わせるようにして斬り込む瞬間柔らかく持っていた剣に力を入れた。

 ここだ!

 蟻の右後ろ足が見事に切断された!
 急にバランスを崩した蟻がひっくり返ってセキトモに突っ込むがセキトモはなんとか受け止めてひっくり返っている蟻の頭部関節をショートグレイブで斬った!
 蟻の頭が胴体から離れたが、トウマは気にも留めずに飛び込んでひっくり返ったままの蟻の胸部に剣を突き刺した!

 あっという間の決着だ! 巨大蟻が霧散していった・・・。

『巨大蟻討伐』成功だ!

 トウマはロッカの戦い方を散々見てきた。それに部位切断という目標を定めたことにより、それを実現させるにはどうしたら出来るのかという思考が働いた結果だ。トウマの戦い方が変化していく兆しであった。

「やりましたよー!」
「トウマいきなり走り出すんだもん。びっくりしたよ」
「セキトモさんもきっちり対応してくれたじゃないですか!」

 トウマは嬉しそうに少し離れた所にいるロッカとバンに手を振った。

「ロッカ、私たちの出番ありませんでしたね?
 あの二人、日々成長していますよ」
「トウマのやつ、強くなるわよ。あのパーティー名早計だったかな?」

「うふふ。スライムをスレームにもじってますし、トウマさんがスライムすら倒せなかったことを知らなければ誰も分からないと思いますよ」

「あはは、やっぱりバンは気づいてたのね。それトウマに教えちゃダメよ」




※この内容は個人小説でありフィクションです。