スライムスレイヤー ~イシノチカラ~

作者:亜形


第33話 中央絡みのいざこざ


 スレーム・ガングの4人は巨大蟻討伐の報告でギルドに立ち寄った。このギルドはギルド内に魔石の換金所もあるようだ。大抵は一緒になっているらしいので別の所にあった前の街が不便だったとも言える。

【巨大蟻討伐依頼 難易度C】
 討伐報酬 18万エーペル

【素材】
 巨大蟻の牙×2 10万エーペル

【魔石換金】
 魔石・中 1個  5万エーペル
 魔石・小 32個 12万8千エーペル(今まで換金していなかった分を含む)

 分け前は一人11万7千エーペルだ。
 毎回、細かく割り勘にするのは面倒なのでそろそろパーティー管理費を誰かに一任して残りを切りのいい金額で分配にしようという話になった。
 パーティー資金の管理者にはバンが任命された。契約で支援されている資金もバンが管理しているからだ。と言っても服や防具は個人で購入するし、管理費を使うのは主に共通で使える道具購入費、交通費、支援額を超える宿泊費、食費くらいだろう。
 パーティー管理費の初期費用としてまずは5万ずつバンに渡して20万からスタートだ。もちろん抜け駆け的な私用で使うのは無し。パーティー管理費はメンバーの同意を貰った上で使う。解散するときは人数割で分配という取り決め。

 沢山たまったら豪華な食事にしようって話はロッカとバンが得しそうなだな~。
 ま、いいけど。

 カウンターのおばあちゃんが声をかけてきた。

「ほう、あんた達、難易度Cを達成したのかい。やるようじゃね?
 そうそう、最近この街に来た『ユニオン・ギルズ』もなかなかやるようじゃよ」

「「ユニオン・ギルズ?!」」

 ロッカとバンは驚いたように顔を見合わせた。

「知ってるパーティーですか?」
「ちょっとね~、中央絡み」
「あの人たちもこの街に来ているんですね・・・」

 ロッカとバンの表情からして親しいパーティーでは無さそうだ。

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 ギルドを出て博士の邸宅に戻る途中、男女二人組の討伐者に出くわした。体躯のいい180cmくらいの男と長い髪を後ろで束ねた175cmくらいのグラマラスな女だ。
 噂をすればってやつだ。早速出会ってしまったようだ。

「ギル?! 何であんた達がここにいんのよ?」
「何だロッカとバンじゃねーか?
 こんな所にいたのか・・・バン、探したぜ!」
「相変わらず小さいコたちだね、ギルどうする?」

 バンはトウマの後ろにサッと隠れた。

「まったく、しゃーねーな。おらよっと!」

 ギルと呼ばれた男にロッカがあっさり捕まり、肩に担がれた。

「ちょっと、何すんの! 離しなさいよ!」
「ロッカを返せ!」
「あん? 誰だよお前ら」

 ギルと呼ばれた男に向かっていったトウマは即座に鳩尾を殴られ、動けなくなった。セキトモも向かって行ったが蹴り飛ばされた。

「バン分かっているよな? コイツと引き換えだ。
 俺たちはしばらく酒場にいる。いい加減、いい答えを待ってるぜ」
「離しなさいってば!」

 ロッカは担がれたまま手足をバタバタさせているがギルと呼ばれた男は意に介さずといった感じだ。ロッカは連れて行かれた。

 トウマとセキトモはしばらく動けずにいた。

「くそっ、あのギルって男強いですよ・・・」
「痛っつつ、僕も油断してたよ。
 あのロッカが簡単に捕まった時点で警戒すべきだった」

「すみません。私のせいです!
 私がギルからずっと逃げていたからです」

「何があったのか分かりませんけど、バンさんは何も悪くないんでしょ?
 だったらロッカを助け出しましょうよ」

「そうだよね。事情は分からないけど、いきなりで一方的過ぎるよ。
 話はロッカを助け出してからだ」

 三人はロッカを取り返すため、ギルがいると言った酒場に向かった。

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 冷静さを失っているトウマとセキトモは酒場に入った。バンは二人の後ろに隠れながらついて行く。店内を見渡してもギルたちの姿は確認できないようだ。

 トウマは店員に聞いてみた。

「小さな女の子を担いだ男女の二人組ここに来ませんでしたか?」
「ああ、あれか。もうびっくりしたさ。
 『知り合いだから大丈夫! 気にすんな』って笑顔で言うしさ」
「それで何処行きました?」
「奥の部屋だよ。何だか分からないけど騒ぎは御免だからなー」
「向こうの出方次第です。有難うございました」

 三人は急いで奥の部屋に向かって部屋に入ると想像していたものとは全く違う光景が目に入った。テーブルの上でロッカがギルの頭を踏んづけていたのだ。周りの他の男一人と女二人が足をぐりぐりしているロッカを止めようとしていた。ロッカが軽いのが幸いだ。

「痛て、てて、わーったよ。参った! ロッカ、もう勘弁してくれ!
 カリーナ、こいつなんとかしてくれよ!」

 どういうこと?

「あ、トウマ、セキトモ。遅かったじゃない」

 話を整理しよう。まず、この部屋いるスレーム・ガングの4人以外のメンバーは、ユニオン・ギルズというパーティーのメンバー4人だ。

・ギル(リーダー)
 25歳。180cm。
 ロッカを連れ去った男。均整の取れた体格に整った顔。
・カリーナ
 24歳。174cm。
 ギルと一緒にいた女。ギルと恋仲。グラマラスねーさん。
・サイモン
 22歳。176cm。
 セキトモが持っているグレイブを興味深そうに眺めている眼鏡の男。
・タズ
 14歳。145cm。
 ロッカより小さい。今ロッカに「師匠~」って抱き着いて離れない少女。

 ロッカが簡単に捕まったのはギルが殺気を持たずに素知らぬ顔で近づき、不意を突いたからである。虫や小動物を捕まえる要領だ。
 この部屋に着き、ロッカを離した瞬間にあの様になったようだ。

 で、バンが逃げ回っていてギルが探していた理由とは。
 バンが何処で真魔玉を手に入れたのかを吐かせる為だった。ギルがギラギラした目でしつこく聞いてくるのが怖かったそうだ。

 ユニオン・ギルズはギルドの要請を受けてバルンバッセの街の特急案件の応援に向かっている最中だったようだ。しかし、案件が片付いた知らせを受けたので、この街に留まっていたらしい。その特急案件とはもちろん巨大爪熊のことだ。

「その熊倒したの私たちよ」
「何だよ、お前らだったのかよ。
 せっかく中央から急いで向かってたのによお。
 最終的に難易度Aになったらしいじゃねーか?」
「どのくらいの強さだったか分からないけど、このコたちがバルンに居るって分かってたら応援は必要なかったかもね?」

 タズがロッカにまた抱き着いた。

「さすが師匠~」

 タズを引き離そうとするロッカ。

「で、そこの二人がお前らの新しいパーティーメンバーってわけか。
 てっきりお前らをナンパしてきてた男たちかと思ってたわ。
 わはは、トウマとセキトモだっけ? 悪りー、悪りー」

 誤解もあったようだし、笑顔で謝罪されて怒る気も失せた二人だった。

「だがなー、真魔玉の情報は諦めてねーぜ、バン」

 ビクッとするバン。

「しつこいわねー、バンが怖がってるわ。
 それに真魔玉だったら中央で探せば売ってあるでしょ?」
「それが全然見つからねえから聞いてんだよ」

 もしかして博士が独占している可能性ないか?
 俺の真魔玉、今持ってなくて良かった~。

 そこでギルが思い立ったように言った。

「一つ勝負をしねーか?
 俺たちが勝ったら真魔玉の情報をよこすって条件だ。
 物を奪う訳じゃねーからいいだろ?」
「何それ。私たちに受けるメリットないじゃない」

「そうだなー。そっちが勝ったらもう情報を寄こせとは言わない。約束するぜ」
「それは当たり前でしょ。そっちが一方的に聞いてきてんだから。話にならないわ」

 俺たちとか私たちとか、これ完全に全員巻き込まれる流れじゃないか?

「なら、俺たちが現時点で得ている中央の情報を全部お前らに渡す。
 質問には全部隠さず答えるってのならどうだ?」
「ちょっと、本気? ギル?」

 カリーナが割って入るがギルは構わないそぶりを見せた。

「・・・それなら釣り合うかもね。情報は貴重だもの。で、勝負の方法は?」

「決まってるだろ、俺たちは討伐者だぜ。
 だがそっちは経験が足りないヤツが二人もいるみたいだしな~。
 そうだ、タズ。お前でいい」
「ふぁえ?」

 ロッカに抱き着いていたタズが驚いた表情でギルを見た。

「タズ。一番若いお前が俺たちの代表だ。
 そっちはそこの一番若いの、トウマと討伐勝負ってのはどうだ?」

 トウマとタズが顔を見合わせた。

「俺たちが討伐勝負?」




※この内容は個人小説でありフィクションです。