スライムスレイヤー ~イシノチカラ~

作者:亜形


第35話 観測者現る


 タズとの討伐勝負に勝ったトウマはバンに左腕の傷を治療して貰っている状況だ。

「目の前のモンスターから一瞬でも目を離すなんて危な過ぎですよ」
「すみません。ありがとうございます」

 ギルが魔石を拾ってきてトウマに渡した。

「これはお前のもんだ」

 潔い男だ。トウマがタズを助けなくてもギルかロッカが助けていただろう。

「しかし、力の解放ができるタズが負けるとはな。
 参ったぜ、お前も解放できるなんてよ。
 あれはブースト2倍ってところか、剣への力の乗せかたも良かったぜ」

「え?」

 ロッカが話に割って入った。

「トウマは意識して解放できないのよ」
「は?! 鶏の首斬ったの狙ってやったんじゃねえのかよ?」

 え? え?
 俺が抗魔玉の力を解放した?
 そう言われれば堅かったニワトリの首切れたな。

「トウマ、さっきの感覚忘れないようにね」

「・・・覚えてないかも? 無我夢中だったし」
「はあ?!」

「ぶっはは! お前らギルドに報告終わったら昨日の酒場に顔出せよ。
 いいもん見せて貰ったし、昼飯くらい奢ってやるよ」
「情報の件も忘れないでよね!」
「分かってるよ」

 ユニオン・ギルズは泣き止んだタズを慰めながら去って行った。スレーム・ガングも街に戻ることにした。

 セキトモが興奮している。

「いや~、トウマ凄かったな。タズが抗魔玉の力を解放したと思ったら最後はトウマまで解放するんだもん。応援してて興奮したよ~」
「もう~、戦闘中にセキトモさんが解放とか言うから油断したじゃないですか」
「ごめん、ごめん。ブーストって言ったほうが良かった?」
「どっちも一緒でしょ!」

 ロッカとバンはスッキリしたようで笑顔だ。

「いい勝負でしたね。トウマさんが勝ってくれて良かったです」
「昼飯も奢ってくれるって言うし、ガンガン食ってやろう! トウマお疲れ~」

 結局、頑張ったの俺とタズだけじゃん。

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 スレーム・ガングの4人は街に戻りギルドに立ち寄った。

【嘴鶏討伐依頼 難易度D】
 討伐報酬 8万エーペル

 魔石・小 2個 8千エーペル

 トウマの「今回、頑張ったの俺だけですよねー?」という主張が通り、全額トウマの総取りでOKになった。

 次にユニオン・ギルズのいる酒場に行った。

「おー、来たか、先に始めちゃってるぜ~。
 好きなもん頼んでいいぞ」

 ギル、カリーナ、サイモンはお酒を飲んでいるようだ。

「昼間っから酒飲んでるの?」
「いいじゃねーか、もう今日は何もしね~。
 さっきの討伐だけで酒が飲めるぜ。面白かったな?」
「はぁ~、これじゃ情報聞き出すのはしばらく無理かもね」

 抗魔玉の力を解放できるのはギルとタズだけらしいがタズは安定して解放できないので訓練中だとか。カリーナとサイモンは熟練者ではあるが抗魔玉の力は解放できないとのことだ。解放できる人は皆感覚派なのかやり方を上手く説明できなかった。
 若いほうが力を解放できやすいのではないか?という説がサイモンとセキトモの間で浮上したが根拠はない。

 今、タズはトウマの腕に抱き着いている。タズは助けて貰ったひとに無条件で抱き着く生き物だった。

「トウマさ~ん」

 タズちゃん、小さい胸が当たってますよ。
 もっと大人になってから抱きついて欲しいな。まだまだ伸びるコだよね?

「トウマ、えらくタズになつかれたわね。私は助かるけど」
「師匠~」

 今度はロッカに抱きつくタズ。

「離せ、タズ」

 ロッカは中央でタズを助けたことがあるようだ。そこでユニオン・ギルズと出会ったようでそれからタズになつかれているとか。タズが短剣を持っていたので少し戦い方も教えたらしい。その時からバンはギルに追われるようになったようだ。
 バンはもう追われる心配が無くなって平然と食べている。切り替えは早いようだ。

 ギルがロッカに話しかけた。

「お前ら今どこに泊まってんだ?」
「私たちは街外れの邸宅で世話になってるわ。いいとこよ」
「へー、泊めて貰えるとはいい客捕まえてるんだな?」
「まーね」
「さすが師匠です~」

 うまい。今のでユニオン・ギルズが俺たちを訪ねてくることは無くなったかもな。
 客先にまで来ることは無いだろうし。

「それより。酔いが醒めたら約束の中央の情報しっかり喋ってもらうからね?」
「覚えてたか~、分かってるよ」

 タズがギルに抱きついた。

「ギルさん、すみませ~ん。私がトウマさんに負けたから~」
「タズのせいじゃねえよ。トウマが上だったってだけだ。俺の判断ミスさ」

 昼食を終え解散になった。

「トウマ、セキトモ。私たちはギルから情報を吐かせてくるわ。あんた達がいても分からないだろうし、あとは好きにしてて」

 ロッカとバンはギル達について行くようだ。
 トウマとセキトモは一旦、博士の邸宅に戻ることにした。

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 博士の邸宅に戻った二人だがセキトモは今日何もしてないからと言って裏庭で何かやり始めたようだ。トウマは部屋の窓から裏庭を覗けるのでそれを見ていた。だが、セキトモはじっとして中々動かないので飽きて見るのを止めた。

 短い戦いとはいえ疲れたしな~、俺は何か別のことをしよう。
 よし、街ブラしながら買い物でもするか!

 トウマはベッドで寝転んでいたが飛び起き、邸宅から出て行った。

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 トウマは替えの服を何着か買った。高い買い物はしなかったようだ。トウマは考えながら街中を歩いていた。

 真魔玉は無いと思ってたけど、この街の道具屋にも抗魔玉すら無かったな。
 すぐ売り切れるそうだし。
 ま、今は必要ないしいいか。
 武器はここも1スロットタイプしかなかったな。
 バルンより質のいい物もあったけど、今の剣のほうが優れてるみたいだしな~。
 防具も今は必要ないな。
 熊に壊された胸当てはバルンで買い替えたばかりだし中央で新調しよう。

 その時だった。トウマの後ろに人の気配。トウマが振り向くと黒ずくめの軽装備の男が立っていた。背は160cmくらいだ。

「うお?! 誰?」

「驚かせて申し訳ないっす。自分の性分なもんで。
 トウマさんが一人になるのをずっと待ってたっす」
「どういうこと? 何で俺の名前知ってるの?」

 男はいきなり土下座した。

「お願いがあるっす」
「ちょ、こんなところでやめて下さいよ。話聞きますからあっち行きましょ」

 トウマと男は人通りの少ない路地裏へと行った。

「その恰好、もしかして観測者の方ですか?」
「やはり分かるっすか?
 でも今は観測者じゃないっす。辞めたので元観測者っすね」

 この男の名は『イズハ』。整った顔だがトウマよりも童顔。トウマと同じ歳だ。

 イズハは観測者としてバルンバッセの街での特急クエストを隠れて見ていたようだ。トウマたちの勇ましい戦いぶりに感動したようで仲間に入れて欲しくなって、観測者を辞めて追って来たとのこと。
 いきなり皆の前に現れるのは怖かったみたいで、まずは歳が近いであろうトウマに話を通して貰いたいと、トウマが一人になるのをずっと待っていたようだ。

「イズハはいつから俺たちを追ってきてたの?」
「中宿あたりからっすね。観測者辞める手続きがいろいろ面倒で。
 旅立ったことを知って急いで追いかけたっす。見つかって良かったっす」

 そんな前からかよ。気づかなかった・・・。

「トウマさんたちが二人で巨大蟻倒したときも痺れたっす~」
「はは。それも見てたのね」

「自分は非力なので討伐者には向いていないと言われたっす。
 けど、諦め切れなくて。
 トウマさんの弟子でいいのでお願いできないっすか? 師匠~」

 師匠~って、タズか。弟子はお断りだ。

「イズハ、悪いけど弟子はちょっと。それに同い年だしトウマでいいよ」

「それはダメっす。一番下っ端なので師匠がダメならトウマさんと呼ばせてもらうっす。お願いっす。仲間に入れて下さいっす!」

 イズハは再び土下座して頼む。

「う~ん。そんなこと言われても俺じゃ決められないからなぁ~。
 皆に紹介するだけでいいなら」

 イズハはトウマの手を両手でがしっと掴んだ。

「本当っすか? 是非、お願いしたいっす」




※この内容は個人小説でありフィクションです。