スライムスレイヤー ~イシノチカラ~

作者:亜形


第34話 勝負のゆくえ


 スレーム・ガングの4人は博士の邸宅に戻った。一同は玄関近くの天井が二階まで吹き抜けになっているラウンジに集まって口論中だ。

「ロッカ! 何であんな討伐勝負受けたのですか?」
「バンだって何も口出さなかったじゃない?」
「それは・・・」
「勝てばいいのよ。バンもしつこく追われることもなくなるわ」

 トウマが割り込む。

「というか、何で俺が勝負を受ける羽目になってるんですかー?」

「パーティー戦だとあっちは熟練者三人だからこっちの分が悪いからよ。
 ギルも分かってたみたいだし、相手がタズならトウマでもなんとか勝負になるわ」

 ユニオン・ギルズとの情報をかけた討伐勝負を受けてたったスレーム・ガングという形だが内容は一番若い者同士(トウマとタズ)で1対1の討伐勝負。先にモンスターを倒したほうが勝ちってことらしい。
 一旦解散となり、勝負は明日になったのだ。

 セキトモはサイモンが槍使いと聞いて少し仲良くなっていた。

「僕、サイモンと話してて聞いてなかったけど、そういうことになってたんだ。
 トウマ負けるなよ!」
「俺、完全にとばっちりですよ~」

 まあ、2コも年下の女の子には負けてらんないけどね。

「タズはああ見えてけっこうやるわよ」
「マジ?!」

翌日-----。

 スレーム・ガングとユニオン・ギルズはギルドに来ている。難易度Cをこなしているパーティーが2組いることでギルド内が少しざわついている。

「ちょうどいいクエストがあったぜ。これなら分かりやすくていいだろ?」

 勝負に選ばれたクエストは、『嘴鶏(くちばしどり)討伐』。
 相手はニワトリのモンスターだ。

 場所は街の近くで卵や食肉を目的として飼育されている養鶏場。鶏のモンスターが2体いるらしい。2体とも大型のようだが難易度はDだ。名に嘴とつくだけあって嘴が特化しているのだろう。

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 スレーム・ガングとユニオン・ギルズは養鶏場に場所を移した。

「逃げないし、中に入らなければ襲われない。
 大型2体で難易度がDなのはそういうことだったのね」

 モンスター除けの柵に囲まれた場所に大型の嘴鶏が2体。柵は50m×25m。
 鶏同士が敵対しているもののそれぞれ自分の縄張りを持っていて、お互い縄張りに侵入しなければ争うことはない拮抗した状況のようだ。柵内に人が入ると襲ってくるが縄張りに入られたほうの鶏しか襲ってこないらしい。
 今は適度に餌を投げ込んでいるという話で、空腹になるとどうなるか分からないのでクエストとして出してあったようだ。

「あいつらバカなんじゃない?
 普通の鶏でも柵飛び越えれば出られそうなのに」
「僕だったらここに居れば餌を貰えるから出て行かないって感じかな?」

 セキトモさん、自分が戦うわけじゃないから気楽そうだな~。

「そもそも何で大型が2体いるのよ?」

「状況から察するに・・・」

 バンの考察の時間だ。
 外からスライムが入ってくるのは考えづらいので柵内でスライムが2匹発生した。その時点で倒していればよかったのだが放置されていたか気づかれなかった。それで2匹のスライムが競争するように周りの鶏を取り込んで質量を増やした。最終的に取り込む鶏がいなくなって擬態したと予想。
 元は鶏が30羽くらいいたようなので正解だろう。

 ギルがロッカを見て言った。

「俺がクエスト選んだからな、どっち倒すかはお前らが決めていいぜ」
「見た感じどっちも一緒でしょ」
「だな。わはは」

 現在の立ち位置でトウマが右、タズが左の鶏を倒すことになった。

「頑張れ、トウマ!」
「トウマ、頼むわよ! バンが持ってる情報がかかってるんだから」

 ロッカのやつ、あくまでもバンしか知らないってフリすんのね。
 一人で倒せるのが大前提のようだけど、大丈夫だよな? あのニワトリ。

 バンはちょっとヒロインっぽい演出をした。

「トウマさん、どうか私を助けて下さい! お願いします!」
「はい、頑張ってみます」

 バンさん、実は楽しんでない?
 バンさん強いんだからどうとでもできるでしょ。

 ユニオン・ギルズの連中はタズに声をかけた。

「タズしっかりやれよ!」
「あんなコに負けんじゃないわよ!」
「タズなら大丈夫」
「はい! 頑張ります!」

 タズはロッカと同じで短剣を2本持っているようだ。ロッカを師匠と呼ぶのはそういうことなのだろう。

 ロッカみたいな化け物ではないと思うけど戦い方は似ているんだろうな。
 年下だし、討伐経験は多くないよね?

 タズはトウマを見て不敵に笑った。勝つ気満々のようだ。

 両陣営が左右に分かれると、ギルは鶏が大体同じ距離に来たところを見計らって合図した。討伐開始だ!

 トウマとタズは同時に低い柵を飛び越えて枠の中に入った。鶏の縄張りが2等分されているので一人が動ける範囲は25m×25mだ。
 2体の鶏がそれぞれ入って来たほうに襲い掛かった。
 トウマは剣を抜くがタズはまだ抜かない。

 さあ、集中だ。

 トウマに襲い掛かった鶏は頭を地面に叩きつけるように嘴で攻撃してきた。トウマは後ろに飛び、嘴の攻撃をかわした。

”ずがん!”

 鶏の嘴の攻撃で地面に穴が空く。

 マジ?! 今の食らったらヤバくない?

 トウマはタズのほうをチラッと見た。タズは鶏から距離を置いて逃げている。

 ロッカが声をかけた。

「トウマ急げ!」
「そんなこと言われてもっ」

 トウマは反時計周りで鶏の連続した嘴攻撃をかわしていった。

 先に動いたのはタズだった。
 タズは少し鶏に近づき嘴の攻撃を誘った。鶏の攻撃をかわして嘴を地面にめり込ませた隙にすぐには襲って来れない所まで距離を置いた。
 タズは目を閉じ、一息して2本の短剣を抜く。タズの短剣の薄白い輝きが炎のように揺らめいた。ブースト2倍だ!
 目を開けたタズは勢いよく鶏に向けて走り込み、ロッカさながら鶏の身体を斬り裂いていく。鶏が悲鳴をあげる。

 様子のおかしかったタズを見ていたセキトモは驚いていた。

「力の解放?! あの子もできるの?」

 セキトモの声にトウマは一瞬タズのほうを見た。次の瞬間、トウマの左腕に鶏の嘴がかすった。軽傷だが血しぶきが飛ぶ!

 痛っ、くそっ。油断した!

 ロッカが叫ぶ。

「トウマ! 自分のことだけに集中しなさいよ!」

 力の解放って聞こえたんですよ。気になるじゃん!
 ・・・いや、今はこいつに集中しなくちゃ。

 タズは鶏の攻撃をかわしながら追いかける。
 トウマは鶏の攻撃をかわしながら逃げる。

 少しずつ二人の距離が縮まっていった。
 両陣営も応援しながら徐々に近づいていき熱が入る。

「さっさとやっちまえタズ!」

「トウマ逃げてばかりいないで攻撃しなさいよ!
 まだまだ勝負のゆくえは分からないわよ!」

 トウマは嘴が地面にめり込んだ鶏の首を狙った。鶏の首に少し傷をつけるものの両断とはいかなかった。不器用に羽毛のような形に作られた堅いものが何枚も重なっていてそれが鶏の首を守っているようだ。

 こいつ、思ったより刃が通らないぞ。
 タズがとどめさせないのはそういうことか、ならば。

 トウマは再び攻撃のタイミングを見計らった。

 一方のタズは鶏を追いかけて斬撃を加えているが鶏の動きを鈍くすることまではできていない。時間切れなのかタズのブーストが解け通常に戻ったようだ。

「あっ、とけちゃった」

 集中力を切らしたタズがこの戦いの中で再び力を解放することはないだろう。

 ロッカはそれを見て一言。

「タズ、まだまだだね」

 先に鶏を倒したのはトウマだった。

 トウマは狙いを首から2本の足に変え、嘴が地面にめり込んだ隙に鶏の両足を切断した。そして横に倒れてバタバタとしている鶏の頭に飛びかかり、全体重を乗せて剣を突き刺した。鶏はピクピクしながら動かなくなり、やがて霧散した・・・。

「勝った!」

 トウマは安堵して身体から力を抜いた。トウマが剣を抜いて8分、タズが力を解放して5分だった。

 トウマが振り返えると、地面の穴につまずくタズの姿が目に入った。今にも転んだタズに鶏が襲いかかりそうだ。トウマはタズに向かって走り出していた。

「危ない!」

 トウマはタズに当たらないように下側から上に剣を振り上げて鶏の首を切断した! 頭を失った鶏が力なく前のめりに倒れ鶏が霧散していく・・・。トウマの剣の薄白い輝きが炎のように揺らめいていた。

 タズのすぐ横には剣を構えたギル。
 トウマのすぐ後ろには短剣を構えたロッカがいた。

「二人ともいつの間に?!」

「やるじゃねーか、トウマ。こりゃ、完全に俺たちの負けだな」
「当然よ!」

 何故かロッカが自慢げだ。
 バンがトウマの腕の傷を治しに来た。他のメンバーもやって来る。

 死ぬかと思ったタズが思い出したかのように泣き出した。

「ほら、タズ。トウマに礼を言え」
「うえーん、ありがとうございましたー! トウマさーん」




※この内容は個人小説でありフィクションです。