スライムスレイヤー ~イシノチカラ~

作者:亜形


第37話 新しい玩具


翌日-----。

 討伐難易度Cに挑む5人はギルドに集まっていた。イズハは白の上着に変えたようだ。白下地に黒の軽装備が映える。頭には白く長い鉢巻きをして気合十分な姿だ。

 クエストを確認してきたロッカは依頼書を持って来た。

「これで行ってみない?
 少し遠いし、厄介かもしれないけど他の討伐者には手を出されてないと思うわ」

 バンは気難しい顔で依頼書を見ている。
 クエストは『巨大爪猫討伐』。難易度はCのようだが巨大な猫で爪まで特化となると厄介な相手だろう。街から北へ3時間ほどいった林に生息しているようだ。

 イズハは少し震えていた。

「自分、前に巨大爪猫見たことあるっす。
 その時は手練れの討伐者10人くらいでようやく倒せたって感じだったっす。
 重傷者も出たっす」

 セキトモも不安気だ。

「な、なんかヤバそうじゃない? 僕たちで大丈夫かな?」
「多分、難易度Bに近いと思うわ。
 けど、こっちは5人もいるんだからいけるでしょ」

 ロッカ、どういう見積もりだ?

「少し遠いので途中までは馬次郎に連れて行って貰いましょうか?」

「バン、それいい考えね。
 馬次郎なら荷台の荷物全部降ろせば5人運ぶなんてわけないわ」
「馬次郎、そんな力強かったの?」

 一旦、博士の邸宅に戻り馬車の準備をすることになった。

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 馬次郎は重量のある荷物がなければ大人6人くらいは余裕で運べるようだ。走ることはできないが人が歩くよりは倍速いとのこと。
 セキトモは重いがロッカとバンが軽い。バンが重い武器を持っていても合わせて大人3人満たない重さだろう。トウマとイズハを加えても余裕で運べる重量だ。

「馬次郎! 頼んだわよ」

”ブヒヒーン!”

 馬次郎はやる気を見せた。

 馬車の準備が終わり、一同は巨大爪猫のいる林に向けて出発した。
 道中に御者を誰でも出来るよう代わる代わるバンに教えてもらう。
 基本的には素直ないい馬だ。トウマが御者のときだけ止まって街道脇の草を食べたり、蛇行したり、少し悪さをするくらいで。

「馬次郎! 絶対、わざとやってるだろ!」

”ブルㇽ・・・”

 馬次郎は首を横に振った。皆に笑われるトウマ。

 そうこうするうちに目的の大きな林近くの街道まで到着。

「ここから先は歩きよ」
「付近にモンスターの気配はないので当面は大丈夫そうですね?」
「馬次郎はここで待ってて。何かあったら叫びなさいよ、飛んでくるから」

”ブルㇽ・・・”

 馬次郎は首を縦に振った。

 何処にも繋がれていない馬次郎は素直に待っているようだ。繋がないのは危険が迫ったら逃げていいぞという配慮。分かっているのだろう、本当に賢い馬だ。

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 林に入る前に小型の牙蟻がいたがロッカが瞬殺。スライムも見かけたら倒した。
 林に入ると木にぶら下がっていた小型の牙蛇がトウマの横から襲って来たがトウマはそれを難なく切り伏せた。気づきさえすれば小型は問題なく倒せる。

 少し面倒なのが羽刃蝉だった。羽が刃のように鋭い上にクルクルと曲線で飛ぶ。そこはセキトモが大盾で受けてふらふらと落ちたところを近い人が倒した。羽刃蝉は計3体襲って来たが誰も傷を負うようなことはなかった。

 一同が林を進んでいるとロッカが最初に気づいた。

「いたわ。もうこっちを警戒してるみたいね?」

 人間の大人より明らかに大きく、爪が特化した猫のモンスター。灰色の毛並みは雑に再現していてボサボサだ。猫は長いしっぽをふらふらと揺らしながらこちらをジッと見つめている。

「化け猫?」
「明らかに俊敏そうですね」

「皆、分かってるわね。
 私たちはイズハのサポートだから弱らせるだけで止めておくのよ」
「頑張るっす!」

 とは言え、手加減して勝てる相手ではなさそうだけど大丈夫だろうか?
 どの程度で攻撃すれば倒さずに済むのかなんて分からないし。

 「まずは僕が様子をみよう」と男前なセリフを吐き、大盾を構えたセキトモが前に出て猫に近づいて行った。猫の眼の色は赤に変わっている。

「シャーーーー!」

 猫は頭を低くお尻を上げていつでも飛び掛かれる体勢でこちらを威嚇した。
 セキトモは猫を刺激しないようゆっくりとグレイブを抜いて歩を進めた。射程内に入ったら重撃飛槍で攻撃するつもりだろう。

 あの猫に重撃飛槍がまともに当たったらそれで終わらないか?

 トウマは何気に振り返った。後ろにいたはずのイズハがいない。トウマはすぐさま前を向くと、猫の後ろ側の木の上にいるイズハの姿が視界に入った。

 いつの間に? 気配消してあそこまで行ったのか。
 上着が白だから気づけたけど、やるな~。

 セキトモは更に足を踏み入れて猫に重撃飛槍を放った! 猫は素早く後ろに飛んで攻撃をかわすとすぐにセキトモに飛び掛かって来た! セキトモは大盾で猫の攻撃を受け止め動じていない。猫は一旦後ろに飛び退いた。

「くそっ、外したっ。でも猫の攻撃はそこまで重くないよ!
 爪の切れ味がいいだけかも? 爪に気をつけて」

「「「了解!」」」

 トウマ、ロッカ、バンは猫を中心に散開した。周りに立っている木が盾変わりだ。
 バンは三刃爪を装備している。爪対爪の対決も面白いかも?と思ったトウマに猫が襲いかかる!
 トウマは木を盾に猫の攻撃をかわすが木には猫が引っ掻いた爪痕が大きく残った。

 確かに爪はヤバそうだ。

 猫の背後を取ったロッカは短剣で後ろ足を狙った。

”ぶん!”

 猫の長いしっぽがロッカの攻撃の邪魔をした。

「チッ、威力はないけど、こいつのしっぽ邪魔くさいわね。
 先にしっぽ斬っちゃうか? トウマ、しっぽ狙って!」
「分かりました!」

 猫は素早い動きであちこちと引っ掻き回して周りの木が傷だらけになっていく。

 しかし、あの猫まったくイズハに攻撃しないな。
 視界には入っているはずなのに見えてないのか?

 セキトモが勢いよくロンググレイブを振り回すと猫はたじろぎ、セキトモから距離を置いた。セキトモを睨みながら猫の動きが一旦止まった。

 今だ!

 トウマは猫のしっぽの付け根目掛けて走り込み剣を振るった。しっぽが切れ落ち、猫が悲鳴を上げた。

「トウマ、よくやったわ!」

 猫は奇声をあげながらびよんびょん飛び跳ねて暴れ回った。一同は暴れる猫から距離を置いたが、イズハは木の上から猫に向けて飛び降りた。猫の首裏を狙い、短剣で横斬り!

”ズバッ!”

 猫の首裏が浅く切れた。
 昨日帰ってから随分練習したのだろう。イズハの斬り方が様になっていた。

「イズハ、まだ早いって! 猫の首裏は皮が厚いの知らないの?」
「え? そうなんすか?」

 きょどったイズハに猫が左手の爪で引っ掻くように襲い掛かった!

「危ない!」

 バンがイズハを庇うように三刃爪で猫の爪を受け止めた。バンは受け止めた猫の爪をもう片方の三刃爪で叩き壊した。悲鳴を上げる猫。

「バンさん、助かったっす」
「イズハさん、油断しないで下さい」

 爪を壊され少し立ち上がった猫の後ろ足をロッカが二足共斬り裂いた! 猫は後ろ足に深い傷を負ったようだ。

「これでもう飛び掛かりはできないはずよ。イズハ、狙うなら首元!」
「分かったっす!」

 再び木に登るかと思われたイズハは木に対して駆け上がるように走った。途中で猫の首元目掛けて勢いよく飛ぶと白く長い鉢巻きがそれについて行った。イズハの短剣による横斬り一閃!

”ズバッ!”

 猫の首が半分くらい裂けた。イズハは着地と同時にもう一度裂けた猫の首めがけて地上から飛んだ!
 イズハは左手に短剣を持ち替え、横斬りで斬ろうとしたが猫の右爪がイズハを撃ち落し、イズハは左腕に深い傷を負ってしまった。
 イズハは左手に力が入らなくなり持っていた短剣を地面に落とした。

「油断したっす・・・」

 イズハはすぐに猫の追撃が来ると死を覚悟し、目をつぶった。
 だが、猫の追撃は来なかった。

「イズハさん、終わったみたいですよ」

 バンの声にイズハは目を開け、見上げると猫が霧散し始めていた。

「最初の首元への一撃で終わってたみたいね。近くに核があったのかも?
 追い打ちするのは悪くないけど悪あがきを食らうなんてバカね」

 僅かな時間しか動いていないはずなのにイズハは汗だくだ。
 バンが治癒のロッドで傷ついたイズハの左腕を治療し始めた。

「イズハさん。これで条件達成ですね」
「ハッ?! ってことは自分も仲間に入れて貰えるっすか?」

 トウマとセキトモの二人が同時に声をかけた。

「「おめでとう!」」

「ありがとうっす! ありがとうっす! 皆さま宜しくお願いしますっす」
「何? すっすって。わはは!」

 ペコペコと頭を下げているイズハの背中をバンが叩いた!

「ぐほっ!」
「まだ治療中です」
「すみません・・・っす」

 ロッカは嬉しそうにトウマを見た。
 合掌して人差し指を立てた握りをし、胸の位置へ持ってきて一言。

「忍者ゲット!」
「ぷっ。それイズハのことですよね? にん、にん、じゃなくて? あはは」

 ロッカはイズハの契約が済んだら仕込むと言っていた。
 新しい玩具を手に入れたようだ。




※この内容は個人小説でありフィクションです。