スライムスレイヤー ~イシノチカラ~

作者:亜形


第38話 カニ食べたい


 巨大爪猫討伐を終えた5人は街に戻りギルドに寄った。

【巨大猫討伐依頼 難易度C】
 討伐報酬 25万エーペル

【魔石換金報酬】
 魔石・小 10個 4万エーペル
 魔石・中 1個 5万エーペル

 合計 34万エーペル。

 イズハから今回は分け前は要らないという申し出があり、皆でどうするか相談した結果、今回の報酬は全額パーティー管理費に回すことになった。
 辞退したイズハの前で分配するのも何だか気が引けるというのもあった。ついでにイズハをメンバーに加えるパーティー更新手続きも行った。

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 博士の邸宅に戻り、執事のホラックにイズハを紹介した後、バンとロッカはイズハに契約内容の説明をしている。

「新しい武器のモニター? 生活保障?
 こんな契約してたっすか、それで条件を満たす必要があったっんすね」
「まあ、そんなとこね。私たちは中央に行く予定だし、嫌なら断ってもいいわよ。
 その場合、口止めの誓約書にサインしてもらうけど」

「イズハさん、どうなされますか?」
「考えるまでもないっす。
 こちらから仲間にして欲しいとお願いしたことっす。宜しくお願いします!」

 イズハは契約を済ませ、正式なメンバーになった。事後報告になるがあとで博士に契約済みの書類を送るようだ。

「イズハさん、二階の空いている部屋を使って下さい。
 あと4部屋空いていますのでお好きなところでいいですよ」

「ここに来ていいんっすか? 自分の荷物少ないんですぐ取って来ます」

 イズハは自分の宿に荷物を取りに行った。

 トウマとセキトモはイズハの契約が無事終わったことを聞いた。

「歓迎会でもする?」
「そうですね。ホラックに頼んでまた料理を豪華にしてもらいましょう」
「やった!」

 夕食まで各々自由な時間を過ごした。イズハは30分くらいで戻って来て部屋を選んだ。その後、バンから新しい武器を貰って説明を受けていたようだ。

 夕食になりイズハを歓迎して豪華な食事を堪能しているときだった。
 突然ロッカが訳の分からないことを言い出した。

「・・・やっぱり無いわね」
「何がっすか?」
「カニよ。カニ」
「カニ?」

「ホラック、カニは無いの?」

「申し訳ございません、ロッカ様。
 漁で蟹が獲れるのは稀でして高価でございます。
 それに最近は不漁のようで市場でもあまり見かけないのでございます」

「だと思ったわ。そこでこれよ!」

 ロッカはテーブルにクエストの依頼書を叩きつけた。皆が集まってそれを見た。

 『鋏蟹討伐』。食用の蟹が獲れる川辺で蟹のモンスター2体の討伐依頼。難易度はDのようだ。

「このモンスター倒せばこの辺でカニ獲り放題じゃない?
 海じゃなくて川のカニだけど食用のカニって書いてあるし」

 バンは呆れ顔だ。

「なるほど、カニが食べたいわけですね。ロッカ」
「そう! カニが食べたいのよ!」

 ロッカは今朝、この依頼書を見て無性に蟹を食べたくなったらしい。いかに蟹がおいしいかを皆に熱弁した。

 え? そんなんで次に挑むクエスト決めちゃうの?

 なんだかんだロッカの熱弁を聞いているうちに皆蟹を食べたくなった。

翌日-----。

 ロッカは仁王立ちで網を持っていた。肩に担いだ網が大きいので垂れ下がって地面についている。

「さあ、みんなカニ獲りに行くわよ!」
「「おう!」」
「皆さん、先に鋏蟹討伐ですよ。忘れないで下さいっ」

 今回も途中まで馬次郎に乗せて行ってもらう。馬次郎がいれば日帰り可能な距離なのだ。目的地近くにオドブレイクがあるので討伐から戻るまでそこに馬次郎を預ける予定。費用を払えば一時的に預かってくれるらしい。

 目的地に向かう道中、ロッカはイズハに忍者を仕込み中だ。

「こうよ。にん、にん」
「こうっす、でご、ござるか。にん、にん」

 イズハはクナイのような投擲武器を貰っていた。抗魔玉付きだ。
 クナイと違うのは特殊加工された切れない細い強靭な糸(ピアノ線のような糸)が腰横の本体に繋がっている点だ。投げたら回収する必要があるのが欠点だろう。だが、糸の長さは最大25mほどまで引き出せる。自動巻き取り式の巻き尺のようになっていて本体側に抗魔玉用のスロットがあるので繋がった糸にも抗魔玉の力が伝達するようだ。
 糸付きクナイは本体から着脱可能だが回収できなければ捨てることになる。
 しかし、投げて刺す、糸を絡めて引いて斬るという2つの使い方ができそうだ。
 イズハにピッタリの軽い武器だろう。糸付きクナイを本体にセットする手間はあるが予備の糸付きクナイは2本あるようだ。

 イズハはロッカとバンに相談して武器名を『刺突剛糸』と名付けた。

 あの武器でイズハの忍者感が更に増した気がするな~。

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 一同はオドブレイクに馬次郎を預け目的地の川辺に到着した。
 広めの川原には大きな鋏を二本携えた十本脚の蟹のモンスターが2体いるのが見える。2体とも人間の大人ほどの大型だ。

「あの2体ですか。横歩きであちこち動き回ってますね」
「さあ、イズハ、刺突剛糸の威力みせてあげなさい!」
「自分っすか? まだ上手く扱える自信ないっすけど」

 イズハは「甲殻堅そうだし刺せそうにないっすね。となると糸で関節を斬る? 長さは5mくらいで大丈夫っすね」と呟いてしっかりやる気のようだ。

「とどめはセキトモさんにお願いするっす」
「ん? 分かった。任せてくれ」

 イズハは2体の蟹が距離を離したところで近いほうの蟹に向かって行った。
 セキトモも後を追った。
 蟹がイズハに気づき、両鋏をあげて威嚇した。
 イズハは蟹に向かって走り込んだ。5mほど糸を伸ばすとクナイを地面に投げて深く突き刺す。それから糸の輪を作るように素早く蟹の両方の鋏に通して軽く絞めると、イズハは蟹から少し離れた位置で糸を引いた。

ピン! ”バシュ!”

 抗魔玉の力を帯びた糸の締め付けで蟹の両鋏が関節から斬れて落ちた。
 相手に気づかれずに糸を通す。
 イズハには造作もないことだったがその効果は絶大だった。

「これで鋏の攻撃は無いっすよね? とどめは宜しくっす!」

 セキトモは両鋏を落とした蟹に重撃飛槍でとどめをさした。
 カニが霧散していく・・・。

 離れて見ていた三人もイズハとセキトモに合流した。

「イズハ、遠くて見えなかったけどカニの鋏落としたのその糸だよね?
 凄いな。もう使いこなしてる感じしたよ」

 イズハは照れて糸付きクナイを回収しながら話した。

「思ってた以上っすよ。この糸、凄いっす。
 でも混戦だと厳しいので短剣と併用っすかね?」

「やるじゃない。戦力として十分役立つわ」
「あっ、ありがたき幸せ・・・でござる」
「ぷっ。やっぱ無理があるわねその言い方。あはは」

 俺もイズハに負けてられないな。

「あそこにいる残りのカニ1体は俺、倒していいですか?」
「何言ってんの? 早い者勝ちよ!」

 トウマとロッカは競うようにもう1体の蟹に向かって行った。
蟹は二人に脚の関節を全部斬り落とされ、動くこともできなくなった。もう口からブクブクと泡を吹いているだけだ。

「こいつの甲殻堅いからトウマ、とどめさしていいわ。ブースト使いたくないし」
「了解っ!」

 トウマにとどめを刺された蟹が霧散していく・・・。
 『鋏蟹討伐』成功だ!

 セキトモとバンは苦笑いだ。

「あそこまでしなくてもよかっただろうに。カニかわいそ」

 斬り落とした蟹の鋏はモンスター素材として残らなかった。どうやら消えてしまったようだ。鋏の使い道があるか分からないので落ちてなくても問題ない。

「さーて、本命のカニ獲るわよ。
 いるいる、甲羅は手のひらサイズだけど大きいわ。
 バン、持って来てる網を使おう」

 皆でワイワイ。浅い川の中にも入り食用蟹を30匹は獲った。



 少し上流には川岸の大きな岩に乗ってる狼のモンスターがいた。
 その狼は騒がしい下流のほうを見て警戒していた。
 しかし、スレーム・ガングの5人は気づくこともなく何も起きなかった。もし彼らが川の上流まで登って行ったら狼のモンスターと交戦することになっただろう。

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街に戻ったスレーム・ガングの5人はギルドで報酬を貰った。

【鋏蟹討伐依頼 難易度D】
 討伐報酬 5万エーペル

【魔石換金報酬】
 魔石・小 2個 8千エーペル

 合計 5万8千エーペル。一人1万ずつ分けて残りはパーティー管理費に回す。

 博士の邸宅に戻り、獲って来た食用カニを料理してもらった。カニ祭りだ!
 最初はおいしい、おいしいと騒いでいたが静かに食べる時間のほうが長かった。




※この内容は個人小説でありフィクションです。