スライムスレイヤー ~イシノチカラ~

作者:亜形


第47話 大橋の戦い(1)


 ギルドにいたギルを見るなりロッカが発した言葉はこうだ。

「ギル、ぶっ殺す!」

 ギルは何の事だか分からず模擬戦さながらロッカにボコボコにされている。
 ロッカの気持ちは分からないでもない。スレーム・ガングのメンバーは誰もロッカを止めない。

「痛っ、痛えよ! 俺が何したって言うんだよ!」
「うるさい! 黙って叩かれてなさいよ!」
「痛っ! 悪かった! やめてくれぇ~」
「師匠~」

 タズはロッカを必死になって止めている。まあ、じゃれ合っているようなものだ。致命傷にはならないだろう。
 他の討伐者はやれ!やれ!みたいに面白がって騒いでいる。
 とりあえず、理由が分からず唖然としているカリーナとサイモンに今の状況の説明がなされた。

 カリーナが驚いたように目を丸くして言う。

「私たちギルとタズの我がままで命拾いしたみたいだわ。
 最悪だと思ってたけど・・・」

 サイモンもカリーナを見て頷く。

 話を聞くと、2日前の中央へ向かう船に乗る予定だったようだ。モンスターが船を襲った日である。ユニオン・ギルズは1番船を手配できていたが金持ちから大金を渡されてギルが譲ったらしい。
 そのとき3番船以降はまだ空いていたようだ。でもギルは金入ったし古い木造船に乗るのはイヤだと言い出し、タズがそれなら砂浜がある所に行きたい!と言い出し、仕方なく砂浜がある南の海岸へと行っていたそうだ。

「海岸についたら雨降り出すし。
 近くの旅館に泊まったけどボロくて最悪だったのよ」

 サイモンが言う。

「でも、翌日の昼過ぎには晴れて。
 砂浜でバーベキューまでしてもう一泊して来ましたよね?」
「まあ、お酒は美味しかったし、お金もあったしぃ~」

 ギルたちが船を譲った代わりに金持ち夫婦から受け取った金額は200万エーペル。モンスター討伐だと難易度Bの高額報酬を上回るかもしれない金額だ。それなら譲るよねと皆納得。

 やっと気が晴れたのかロッカはギルをボコボコにするのをやめたようだ。
 やり過ぎだと思ったのかバンはギルの治療に向かう。

「あ~、スッキリした!」

 皆が落ち着いたところで事の経緯を改めて話すことになった。

 当然ギルは怒る。

「それ俺は悪くねーじゃねーか!」

 カリーナが苦笑いしながらまあまあとギルを抑える。

「このコたち私たちのことを心配してくれてたんだから。
 それにバンが治療してくれたおかげで傷一つ残ってないわけだしね」
「しかしだな・・・」

 カリーナが黙れ!という感じでギルの顔を自分の胸に押し付けた。ギルはすぐに大人しくなった。むしろヘラヘラしている。

 しばらくして落ち着いたギルは何かの依頼書をテーブルに置いて話を切り出した。

「さっき出たばかりのヤツだ。今度はこっちに付き合えよ。
 狼討伐のときは乗ってやっただろ?」

 皆が集まってテーブルに置かれた依頼書を覗き見た。
 『巨大触手烏賊(イカ)討伐』依頼。難易度はBだ。

『タコの次はイカ?!』

 と声を揃えて言ったのはスレーム・ガングのメンバーだった。

 ギルが言う。

「全部コイツのせいだ、俺たちで倒す!」

「?」

 大橋の工事が延期になった原因。橋を破壊しているモンスターはイカだったということだ。

 ロッカが言う。

「仕方ないわね。大橋は私たちにも関係してくることだし協力するわ」

 昨夜、確認されたばかりのモンスターなのでまだ情報が少ない。橋は何度か破壊されて日に日に範囲が広がっているようで痕跡から難易度Bと設定されているようだ。破壊された場所近くの橋の支柱を登って来ていると断定されている。

「しかしこのイカ、何が目的なんだ?」
「確かに何か理由があるはずですよね?」

「それもそうだけど、問題は夜にしか出現しないってところじゃない?
 確実に来るの?」

 難易度Bに設定されていることから無策で挑んだら死ぬ可能性が高いだろう。まずは情報収集と対策を練る必要がある。
 タコで痛い目にあったせいか今のところ他の討伐者が手を出す気配はないようだ。もし手を出すとしたら漁師専門の討伐者たちだろう。だが、船を何艘か沈められたばかりなのでそっちの復旧作業に注力する可能性が高い。なにせほぼ漁師なのだから。

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 一同は場所を大橋に移した。
 大橋は通行止めになっているがクエストが出たことにより討伐者は立ち入ることができるようになった。現地調査ができるのだ。モンスターの仕業と判明してからは工事も中断されている。

 まずは具体的な破壊状況の確認。中央に渡る次の中継の島までは約8km。破壊されている場所は真ん中の4km地点といったところだ。歩いて一時間くらいかかる位置だ。海の深さでいったら一番深いところかもしれない。
 橋の幅は約30m。橋としてはかなり広いのではないだろうか。大橋と言われるだけはある。まさに海を一直線に渡る道。簡単には崩落しない頑丈さを感じる橋だ。

 現地に到着した一同は近くまで馬車で来たほうがよかったと後悔した。1時間ちかく歩くことになるとは思っていなかったのだ。
 セキトモは普段から鍛えようとフル装備で来ていたのでキツそうだ。実は腰袋に重りになる石を詰めたりもしている。途中、何度も重りを捨てようか迷ったようだ。
 トウマとタズは海を眺めてはあちこち動き回り、まだはしゃいでいる。
 サイモンは時折、眼鏡の位置を直しながら橋の構造を興味深そうに見ている。

 皆で橋が破壊されている箇所を確認したところ、どうやら上部だけと分かった。
 橋が崩れ落ちる心配はなさそうだ。道はボコボコで馬車で通るのは無理そうだ。

 カリーナが言う。

「私たち歩きでも大丈夫よね? このまま渡って中央行けるんじゃない?」

 ごもっともな意見である。
 今までは工事の為立ち入り禁止だっただけなので歩いて渡ることは可能だ。
 物資の運搬も中央との連携が取れているならばお互い近くまで馬車で運んで破壊された箇所だけ人手で受け渡せばいいのだ。

 ギルもそれを理解はしたようだが。

「俺たちを足止めしやがったんだ。これは俺たちに対する挑戦状みたいなもんだろ?
 きっちり始末してから渡るぞ!」
「もう、仕方ないわね」

 ということで共闘することは変わらないようだ。現地調査は続く。

 トウマが不思議に思って聞く。

「この橋の石畳には抗魔玉の力入ってないんですかね?」

 近くにいたサイモンが答える。

「いや、入っているはずだ。
 だが、難易度Bに該当するような強力なモンスターだとこの程度の微量な力に屈することはないと思っていい。街道も同じだ。街道にいれば安全ということではないぞ。そう滅多にあることではないけどな」

「てっきり街道にはモンスター来ないと思ってました」

 支柱のある海面には元からあったのか盛り土でもしたのか支柱を支える陸地が見える。でも支柱から陸地に降りてモンスターと戦うには狭すぎる。陸地はほぼ支柱で占めているといっていい。モンスターと戦うならやはり橋の上だろう。

 ロッカは言う。

「橋幅広いから立ち回りは大丈夫そうだけど月明りでの戦闘は暗すぎると思うわ。
 夜この辺の街灯は点いてると思っていいのかな?」

 ロッカが言う街灯とは所々に橋の両端、橋の真ん中に建っている街灯のこと。遠くから見れば人が立っているかと思われる高さだ。

 ギルは街灯をポンポン叩きながら言う。

「そりゃそうだろう。そのための街灯だし夜は点くだろうよ。
 こいつは電気使ってるみたいだな?」

 バンが何か思い当たったかのように言う。

「ちょっと待って下さい。もしかして明かり?」

 それからバンの支持で破壊された箇所の痕跡を調べた。
 思った通りだったようだ。

「やはり街灯があったと思われる箇所の破壊具合が他と比べて酷いようです。
 イカは街灯を破壊しているのではないでしょうか?」
「なるほど。夜に出現してるしその可能性は否定できないな。
 しかし何で急に壊しだしたんだ?」
「モンスターの気持ちなんか分かんないし」

「イカの目的が街灯だという確証が欲しいですね。
 目的がハッキリすれば対策も立てやすくなります」
「戻ってその辺の情報聞き出してみるか?」

 夕方になったのでこの日は切り上げて街へ戻ることになった。
 但し、トウマとイズハは残る。

 イズハは夜間行動の経験があるということで今夜モンスターの観察に徹し、あわよくば考察の真偽を確かめるために残るのだ。
 昨夜、モンスターが現れたのは午後10時くらい。一回確認されただけだ。今夜もその時間に現れるとは限らない。空振りに終わる可能性もある。
 イズハは問題ないと言ったが一人残すのも心配なのでトウマが志願して一緒に残ることにした。




※この内容は個人小説でありフィクションです。