スライムスレイヤー ~イシノチカラ~

作者:亜形


第46話 気持ちの問題


 巨大触手(ダコ)討伐を終えたスレーム・ガングの5人は皆で崩れた風車の瓦礫の中からタコが落とした魔石を探しているところだ。崩壊した風車を見てバンは反省している。

「風車があること忘れていました。・・・すみません」

 ロッカは辺りを見渡し目撃者がいないことを確認した。

「どの道タコは風車に絡まってたんだからこれタコが壊した事にしちゃおうよ。
 説明できないし、風車1基使えなくても停電は解消できるんでしょ?」

 皆が正当性を主張しようと頷いた。ロッカ以外は悪い顔をしているわけではない。

「モンスター討伐に多少の被害が出るのは分かってくれるよ。
 普通に考えたら風車を斬ったなんて言っても信じて貰えないし大丈夫だろう」
「ですよね。にしても飛ぶ斬撃には痺れましたよ!」
「あれは凄かったっす」

「私もまさか飛ぶとは思っていませんでした。
 出力を上げるとしなる? だとすると・・・」

 何やら途中からバンの考察が始まったようだが独り言で終わった。

 その後、タコが動けないと分かった時点でバンの水刃(ウォーターブレード)で斬れば終わったのでは?という話にもなった。
 バンはあそこまで威力があるとは思っていなかったようだ。軟体だから水圧で切れる保証がなかったので最大出力を出してみたとのこと。
 当面は最大出力を封印すると心に誓うバンだった。

 タコの魔石を見つけたあと、悪いので少し瓦礫を片付けて帰ろうということになった。といっても散らばった瓦礫を一か所に集めるだけだ。バンが一番頑張って片付けていた。謝罪の意味が込められているのは確かだろう。

 しばらくすると何人かの討伐者と業者の人がやって来た。

 業者の人は風車の破壊状況を見て驚いていた。

「皆さん、ご無事な様ですね。有難うございました。
 にしても凄い戦いだったみたいですね?」

 バンさんの痕跡が大半なんですけどね・・・。

 バツの悪いバンはセキトモの陰に隠れた。
 業者の護衛で一緒に来た討伐者たちは最初にタコ討伐に向かって軽傷で済んだ人たちのようだ。

「ギルドのマスターがスレーム・ガングが向かったから大丈夫って言ってたけど、ホントに倒したんだな。俺たちは触手1本落とすだけで精一杯だったのに。すげえ」

「何だこれ? 地面に細く深い溝が出来てるぞ!
 風車側から一直線だ。こんな攻撃もされたのか? これくらったらヤバかったな」

 それもバンさんです・・・。

 電気の復旧後にあとの片付けは業者が引き受けるということになった。汚れた傘と合羽もついでに処分して貰う。
 当然のように風車はタコが壊したと思われていたのでやらかしたことは言わない。
 スレーム・ガングの5人はその場を去ることにした。特に問題なくクエスト達成ということにしたのだ。

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 街に戻ったスレーム・ガングの5人はギルドに寄った。
 夕方、街に着いた頃には電気も復旧していて街に活気が戻っていた。暗くなる前に電気が復旧したことで夜間営業の店などは大助かりだっただろう。スレーム・ガングの名も更に上がったようだ。

【巨大触手蛸討伐依頼 難易度B】
 討伐報酬 150万エーペル

【魔石換金報酬】
 魔石・大 1個 16万エーペル

 合計 166万エーペル。
 街からの討伐依頼だったので報酬は高額であった。回収したタコの魔石・大には青いカビみたいな不純物が多めに混ざっていたので魔石の買い取り価格も高かった。
 一人頭30万エーペル分配で残りはパーティー管理費に回す。

「そこまで手強くなかったのに儲かっちゃったわね。ラッキー!」

 バンはまだ気まずそうだ。

「こんなに貰ってよろしいのでしょうか?」
「くれたんだからいいでしょ。もう終わったことだし、さくっと忘れようよ。
 それより中央に向かった船が沈められた件が気になるわ」

「・・・そうですね。では、辺りで情報を集めてみましょうか?」

 皆が頷いた。ユニオン・ギルズのことが気がかりなのだ。
 バンは決めたら切り替えは早い。後ろめたさで立ち止まるのはやめて前に進むことにしたようだ。

 辺りで話しを聞くと、一同がギルドに立ち寄る少し前に巨大背ビレ刃鮫討伐を終えた討伐者たちが凱旋したようだ。死者は出なかったようだが船が何艘か沈められたらしい。陸に戻る最中、船上から風車の方角の海上に勝利を祝うかのような小さな虹が出てそのあと風車が崩れたのが見えたという話もチラホラ。

 うん。最後のは聞かなかったことにしよう。

 前日に船が沈められた付近はすでに捜索済みで生存者は発見出来なかったようだ。
 当日、中央に向かっていたのは5艘。前の船が2艘沈められたところで一番最後に向かっていた1艘は引き返して来たという話だ。先に進んでいた2艘が無事だったかどうかまでは分からない。
 今回は最期の船が戻って来てからの対応だったため初動が随分遅れた。今後の対策として大橋に観測台を作り海上を渡る船の定時観察をするような話が出ているようだ。すぐに助けることはできないが今後は状況を把握できるようになるだろう。

「今、得られる情報としては残念ながらこれだけのようです。
 海の脅威は無くなったみたいですがギルたちの情報はさっぱりでしたね」

 ロッカは溜息をついた。

「仕方ないわ。明日、港のほうに行って何も分からなかったらこの件は諦めよう」

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 翌日、スレーム・ガングの5人は港に足を運んだ。
 現在、港には10艘ほどの船が停泊しているようだ。
 昨日の討伐をまだ祝っている漁師、沈められた船の方と知り合いだったのか、討伐に出した船が沈んだのか、悲しむように飲んだくれている漁師もいる。

 親切な漁師の方の案内で漁業組合の組合長に詳しい話を聞くことになった。

「組合長~、お客さんですぜ。
 何でも中央に向かって沈んだ船の客について詳しく聞きたいそうです」
「おう、ご苦労さん」

 組合長は漁師だけあってがっしりした体型だ。昨日、飲み過ぎたのかアルコールの匂いが残っている。

「すみません。時間を取って頂いて有難うございます」

「構わねえよ。あいつらは不運だったとしか言いようがねえな。
 1番船以外は古い木造船だったし、あの日帰って来た5番船から聞いた情報だから3番、4番船が沈んだのは間違いねえ。
 中央まで行った可能性があるとしたら1番、2番船だな。
 だが今は大橋が渡れねぇから中央との連絡が取りづらい状況だ。
 しばらくは分からんだろうな」

「船にユニオン・ギルズという討伐者パーティーが乗っていたかどうか分からないでしょうか?」

「中央への運航順は決めてるが客の管理は個人に任せていたからな、分からん。
 だが1番船には乗っていなかったと思うぞ。
 あれには急ぎで中央に戻りたい金持ち夫婦とその従者が乗ったはずだ。
 金にものいわせて一番早く出る船を交渉して取ったみたいだからな。
 1番船の船長が喜んでいたのを覚えている。
 こっちで分かってるのもこんなもんだ。悪いな」

「いえ、有難うございました」

 一同は組合長にお礼を言いその場を立ち去った。

 ロッカは下を向いたまま歩いている。

「あいつらが生きてるとしたら2番船に乗ってた場合だけのようね・・・」

 他に何も言葉が出てこない。
 港でもユニオン・ギルズの4人がどうなったかは分からなかったのだ。
 自分たちは彼らが無事かどうかを知りたかったという思いだけだ。
 分かったからといって何かできるわけでもない。気持ちの問題だ。
 無事であれば安心するし、そうでなければ悲しむというだけだ。
 過ぎてしまった事はどうすることもできない。

 ロッカは顔を上げた。

「これ以上は無理そうね。街に戻るわよ」

 結局、何も分からぬままギルドに顔を出したときだった。

「よう! お前らどこに討伐行ってたんだ?」

 そこにはユニオン・ギルズの4人がいた。

『・・・』




※この内容は個人小説でありフィクションです。