スライムスレイヤー ~イシノチカラ~

作者:亜形


第49話 大橋の戦い(3)


 時刻は昼過ぎ、スレーム・ガングとユニオン・ギルズは大橋近くの建物に集まっていた。ここは大橋を管理する管理室のようなところだ。

「すみません。遅くなりました」
「お前ら何だか慌てて来た感じだな? 馬車ならすぐ来れるだろうが」

「トウマたちがいつ戻るか分からなかったからね。
 昼食後集合にしといて良かったわ」

 寝坊したから大慌てで出て来たんですとは言えない。
 いや~、ビックリした。
 誰も起こしてくれないんだもん。
 多分、全員寝坊だな。

「その様子なら問題なかったって感じか?
 とりあえず、イカ対策は中で話そうぜ」

 一同は管理の人の案内で会議室に通された。
 さっそくバンが昨夜の状況をまとめてユニオン・ギルズに話した。

「おいおいマジかよ?! 落ちたって・・・」

 昨夜に続き再びロッカがドヤ顔だ。

 ギルは地図のようなものをテーブルに広げた。
 それは橋に被害のあった該当する区間の地図だ。急ぎで作って貰ったようで街灯のある位置が分かるようにしてある。
 確認すると橋の中央にある街灯は支柱間で8本。今日までで4本壊されたようだ。両端にある街灯は7本壊されている。現状は全部で11本壊されているとのこと。

 ロッカが地図を指さして言う。

「イカはここから登って来てるんでしょ?
 これ見ると半分くらいまで進行しているみたいね。
 4回壊しに来て半分だから随分遅いわよね~。
 それだけ落ちてるってことでしょうけど。ぷっ」

 ここは皆、笑うのを我慢した。真面目そうな橋の関係者が同席しているからだ。

「動きは遅そうだな。
 しかし、倒すとなったら逃がすわけにはいかねえからな。さてどうすっか?」

 サイモンが橋の関係者を見てばっさりと言う。

「この区間が破壊されるのは仕方ないですね。
 橋の中央にある街灯だけを点けるというのは可能ですか?」
「なるほどな。端の街灯が点いてなきゃ中央に来るしかねえわな。そこを叩くか!」

 破壊されるのは仕方ないと聞いた橋の関係者は引きつった顔で言う。

「げ、現状は全部点灯します。
 少し時間を貰って手を加えれば区間を限定することも可能になるかと・・・」

「念のため、具体的な要望としては---」

 サイモンが橋の関係者と打ち合わせを始めた。
 具体的な話はちょっとついていけなので別なところで話して貰うことになった。

 ギルが言う。

「さっきのサイモンの話で中央におびき寄せるってのはおそらくできるだろう。
 そこはあいつに任せて俺たちはイカをどう倒すか考えようぜ」

「イカも墨吐くわよね? タコのときと一緒でまた傘か合羽着る?」

 ギルたちにタコを倒したときの対策を教えた。

 ギルはしばらく考えて言う。

「確かイカの目がある部位が頭らしいぜ。
 上のデカい頭みたいなところは胸部って言ってたっけな?
 その胸部の下側の真ん中あたりに墨袋があるはずだ。
 そこに穴開けちまえばいいんじゃねーか?
 特性として残してるとしたら多分モンスターでも一緒だろ?」

 カリーナが言う。

「それって砂浜行ってたとき旅館の人がうんちく語ってたやつじゃない?」
「わはは。何が役に立つか分からないもんだな」

 ロッカとバンが驚いたように顔を見合わせた。

 バンは何か思いついたようだ。

「そういうことなら一つ手を思いつきました。
 墨の対策はこちらに任せて貰えませんか?」

 そのあとバンは何故かトウマをチラリと見た。

「そうか? んじゃそれは任せた!
 そしたら・・・あとはイカをぶった切っていくだけじゃねーか?」
「まあ、それくらいしか対策打てないわね」

「夜遅いしタズは別に来なくてもいいぞ? 子供だしな」
「え? 何で? 私も行きたいです! 私も大人ですぅ~」

 ポコポコとギルを叩くタズ。

「分かったよ、邪魔すんなよ。タズは夜の戦闘したことないだろ?
 俺たちだって不慣れだ。守れる保障はねーからな」

 少しピリッとするタズだった。

 各々準備して夕方になったら大橋の前に集合ということでざっくりとした橋の上のフォーメーションだけ考えて一旦解散となった。
 その後、もっとも慌ただしくしていたのはサイモンに要望を指示された大橋の関係者たちだっただろう。
 スレーム・ガングは一旦、博士の邸宅に戻った。

-----

 トウマは何やらロッカとバンが相談しているところに呼び出された。ロッカが不敵な笑顔を見せている。

 ロッカの笑顔、嫌な予感しかしないんだが。

「おほん、トウマに重要な役割をやってもらうことにしたわ。イカの墨対策よ」
「な、何やらせるつもりですか?」

 バンが言う。

「イカの目印になるところに炎熱剣で火をつけて欲しいのです。
 イカの胸部を中心線で縦に斬るか、刺して1点に火をつけるかですが。
 それで墨袋が破壊できれば一番良くて、ダメなら火が着いたところを狙った攻撃をしかけようかと」

「あ、ギルが言ってた真ん中。ってイカの真正面じゃないっすか?!
 無理ですよあんな高い位置。
 例え出来たとしても降りたときイカの足に踏み潰されますって」

「タコのときと違って動くから厄介よね?
 動かなければ目印つける必要もないんだけど」
「火矢で打ち込むとかは?」

「それも考えましたけど、水気を含んだイカに普通だと火はつかないでしょう。
 火力の高い炎熱剣だからできることです。
 そもそも狙えるのなら火をつける必要ないですし、あれは一発限りなので少しでも精度を上げられればと」

「あれって?」


 一旦、席を外したバンはしばらくして弓のような武器を持って来た。

「これは使う機会がないので眠らせていたのですが・・・」

 以前、博士に威力が凄い弓とやらを渡されてバン以外重くて使えないからとすぐに返却した武器。その後、違う方向に改造されて返って来たので封印していたとか。

 その名は『剛槍弓』。

 多分、バンさんが馬車の荷台から運んでいたあの箱の中身だ。
 馬車の荷物が重かったのはコイツのせいかもしれない。

「これは弓のほうではなく何故か矢の方に抗魔玉を装着するように改造されていまして・・・」

 バンは分かりますよね?って感じでトウマを見る。
 要は放った矢と共に取り付けた抗魔玉も飛んでゆくので1回限り。矢を回収出来なければ抗魔玉を失うことになるって事だ。
 矢尻が30cmほどでバカでかい短めの槍のようにも見える矢。これが回転しながら風や空気抵抗をほぼ無視して一直線で飛んでいくそうだ。貫通力が凄いので破壊範囲は直径30cmの円にしかならないとか。
 矢の軌道が変わらない理論射程は驚きの100m。矢を放てればの話なので完全にバン専用の武器と化していた。

「博士そっちに特化させちゃったんですね。はは・・・」

 博士のようやくこの弓を使う時がきたようだな。わはは。って感じのしたり顔が目に浮かぶよ。

「セキトモさんの重撃飛槍が何処までも飛んでいく感じに近いかもしれませんね?
 相手は軟体の巨大イカなので30cmの穴を空けたところで倒せはしないと思いますが墨袋を貫くことは可能かと」

「なるほど」

 重撃飛槍は的に当たったときの衝撃拡散だけど、これは貫いていくから別物。
 とんでもない威力かもしれないぞ。

「それに今回は場所が橋の上なので一直線に飛ばすにはやり易そうです」

 道が一直線なので橋や街灯を目標のガイドラインにできる。的に火がついていれば定めた位置に火が重なった時に放てば当たるだろうということらしい。
 的を追うのではなく的が動いて狙った位置に入ったときに放つ固定砲台といったところだろう。的をおびき寄せて動かす役も必要だ。

 ロッカが言う。

「火をつけた後、イカを誘導するのは私とイズハでやってもいいわ。
 あとはトウマ次第ってところね」

 トウマは意図を理解し、的に火を着けるにはどうすればいいか皆を集めて相談することにした。




※この内容は個人小説でありフィクションです。