スライムスレイヤー ~イシノチカラ~

作者:亜形


第50話 大橋の戦い(4)


 時刻は午後10時を回り、夜空が広がっている。
 巨大触手烏賊討伐を受けたスレーム・ガングとユニオン・ギルズの二組はイカが来るのを大橋の上で待ち受けている。

 定刻通り橋の街灯は点けて貰っているがサイモンの手配で点いているのはイカが現れた区間のみだ。今は端にある街灯も点いている状態で、合図を送ると両端の街灯が消える手筈になっている。
 乗って来た馬車、合図を確認する橋の関係者は念のため300mほど離れた位置で消灯スイッチを持って待機して貰っている。

 トウマとセキトモは街灯の明かりの中、飛ぶ練習中だ。カマキリ戦で使ったセキトモの大盾を足場にして飛ぶという作戦をイカにするつもりなのだ。

「夜なので若干感覚が違いますけど、おかげで高く飛べそうですよ」

 トウマは長いロープを腰に巻き着けていてロープの先をバンが持っている。決してバンに捕まっている訳ではない。

 肝心のイカの墨袋部分に的となる火を着ける作戦だが、トウマがセキトモの大盾を足場に飛んでイカの的となる部分を剣で串刺しにする。
 剣を刺した状態からそのままバンに思いっきりロープを引っ張って貰い脱出する。
 そして脱出したトウマをセキトモが受け止めるという手筈となっている。

「僕がトウマを受け止められるかどうかは確実じゃないからね?
 悪いけど転がることも覚悟してくれ」
「そのときは仕方ないですね。
 脱出できないとイカに踏み潰されますし、それよりはマシですよ」

 イカの墨袋を破壊した後の大まかな人員配置はこうだ。

 前衛 サイモン、ギル、ロッカ、セキトモ
 後衛 イズハ、カリーナ、タズ、バン、トウマ

 攻撃の中心はギルとロッカ。サイモンとセキトモはなるべく攻撃を防ぐ役割だ。
 サイモンは狼戦で盾が使い物にならなくなったのでギルの盾を借りた。
 トウマとイズハは橋の横側からの攻撃を担当。夜の大橋にいた経験から他の人より立ち回りがよいだろうという話だ。
 カリーナとバンは後方からの支援。
 タズは最後方だ。今回は役に立たないから後ろで見てろという話。

 不満を言うかと思われたタズは短剣では不利と自覚しているようで回避に集中する様子だ。救護要員としてバンの癒しのロッドを渡されている。
 使い方は事前に教えてあり、抗魔玉は自前のを使って貰う。
 動かずに済むからかタズは安定したブースト2倍の治癒ができるようだ。

 ギルは待ちくたびれていた。

「イカまだ来ねーのかよ。もう来てもいい頃だろ?」

 ロッカは身体をほぐしている。

「今夜来ない可能性が出てきたわね?」
「そりゃないぜ。せっかくここまで準備したのによ」

 急に最後方にいたタズが叫んだ!

「ちょ、皆さん! こっ、こっちから何か音がしますよ!」

『え?!』

 皆が後ろを振り返りその様子を見ると、遠目だが後方の支柱付近から2本の巨大な触手が這い上がって来ているのが見えた。

「やべえ、あっちから登って来やがった。
 イカは反対側だ! 位置を入れ替えて向こうに行くぞ。急げ!」

 一同はイカが橋の上に登りきる前に急いで配置に着いた。

「ふ~、何とか間に合ったな。焦ったぜ」

「いきなりの想定外か。こっちから来るのもありえたわね。
 トウマ準備OK?」

「大丈夫です!」

 イカの全身が橋の上に乗ったのを確認してバンが炎の球を空に打ち上げた。
 これが合図だ。次の瞬間、橋の両端の街灯が消え、辺りが少し暗くなった。そして中央にある街灯だけが点いた状態になった。

 イカは中央にある街灯を目指しズルズルと進んでいる。狙い通りだ。

 トウマには確信に近いものがあった。
 それは昨夜じっくり見たイカの動き。次にどう動くのか予想できてしまう。

 イカが中央にある街灯の正面に来た時、イカが上体を起こした。

「セキトモさん、今です!」

 トウマは迷わず動いた。トウマとセキトモはイカに向けて走り出した。
 先を行くセキトモの後ろでトウマは剣を抜く。

 最初から炎熱剣だ!

 トウマの逆手に持った剣が薄い赤色の輝きを放っている。

 炎熱剣のことを聞いていなかったギルは目を見張った。

「何だあれ?! トウマの剣、赤くなってねーか?」

 セキトモは予め決めていたイカとの距離で立ち止まり、大盾を上に向けた。トウマは大盾を足場にして飛ぶ。
 トウマはセキトモの押し上げる力も加わり大きく飛躍した。そして上体を起こしたばかりのイカの胸部中心に剣を突き刺した。

「バンさん、OKです!」

 バンはトウマの声でロープを思い切り引っ張った。イカから剣が抜けトウマは腰から後ろにすっ飛んだ。イカの剣が抜けた箇所からは炎が噴き出す。
 セキトモは飛んでくるトウマを受け止めようとしたが、トウマはセキトモを大きく飛び越えて転げ落ちた。

「痛って~」
「トウマさん、ごめんなさい。強く引っ張り過ぎました」
「大丈夫です! それより」

 トウマとバンはイカを見て、的となる箇所に火が着いたことを確認した。
 バンは急いで剛槍弓を放つ準備に取り掛かった。トウマは腰のロープを外した。

 バンは剛槍弓を構え固定砲台となるべく定位置に狙いを定めたが、射線上に街灯の明かりがあり邪魔をして的の火が見えづらい事に気づいた。

「ロッカ、手前の街灯を壊して!」

 ロッカはすぐさま街灯を壊した。そして火が着いてもがいているイカの視界に入りイカを射線上に誘導した。

 バンは的の火が射線上に入るタイミングに合わせて剛槍弓を放った!

”ビュン―――”

 放たれたバカでかい矢が回転しながら薄白い輝きの線となりイカの火の着いた的を貫き突き抜けた。貫通すると同時に着いていた火は消えたようだ。

”ドバババ・・・”

 イカの背後から墨が噴き出したようだ。巨大なイカは怒り狂い暴れ出した。

「よっしゃ! 次は俺たちの番だ!」

 ギルが左の長い触手を、ロッカが右の長い触手を狙う。サイモン、セキトモも続いた。ここからは乱戦だ!
 カリーナとバンは視界を確保するために松明に火をつけて橋の脇に置いていく。それくらいなら手伝えるとタズも加わった。
 トウマとイズハは少しイカに近づき橋の脇で屈んで様子を見ているようだったが、二人は目を合わせると、意を決して横から攻撃をしかけるべく走り出した。

 ギルは左の長い触手を斬り刻んでいたが切断したのはイズハだった。軽やかに刺突剛糸の糸を通し、街灯に巻き付けて固定した糸を引いて触手を落とした。切り落とされた触手は霧散した。

「イズハか。美味しいとこ持って行きやがって!」

 ギルはすぐさま残りの触手に狙いを変えた。

 一方のロッカは触手を斬り刻んではいるものの斬り落とすことは出来ていない。

「セキトモ! やっぱ私の短剣じゃ無理。あんたが斬って!」

 セキトモは大盾で触手攻撃を防いでいたが動きを鈍くしている右の長い触手をロンググレイブで斬り落とした。
 あとは短い8本の触手だけだ。
 地面はボコボコになりつつあるがここまでくればあとは時間の問題だ。
 カリーナ、バン、トウマも攻撃に参加して押せ押せだ。
 タズだけが後方で待機している。

 サイモン、カリーナの援護でギルが触手を2本斬り落とす。
 ロッカがイカの左目を斬り裂く。セキトモがまた触手を1本斬り落とす。
 バンが三刃爪で触手を1本ギタギタに破壊する。
 残りの触手は4本だ。
 触手を全部切断する必要はない。
 邪魔な触手を取り除き、核があるであろう頭部に攻撃ができればいいのだ。

 ロッカにより左目を潰されたイカの死角から飛び込んだトウマの炎熱剣がイカにとっての致命的な一撃となった。大きく斬り裂かれた頭部から炎が噴き出し、暴れていたイカの動きが止まった。

 決着だ!

「やったか!」

 しかし不幸はその時に起きた。
 霧散しながらよろめいた巨大なイカがトウマのほうに倒れてきたのだ。
 トウマの近くにいたロッカは素早く脱出した。トウマも飛び退いてはいたが幅の広いイカの胸部を回避できるほどの余裕はなかった。

「どぅわあああ~!!」

 トウマは橋の外、海の方向に吹き飛ばされた。

「「トウマ!!!」」

 ロッカとセキトモが吹き飛ばされたトウマを追おうとするが間に合わなかった。
 トウマは暗闇の海に身体を投げ出された。
 手放したトウマの剣だけが橋の上に転げ落ちている。

 倒れた巨大なイカは霧散していった・・・。

 しばらく皆が呆然とする中、イズハがスタスタと歩いて行く。

「多分、大丈夫っす」

 イズハはトウマが落ちた所とは違う消灯してある端の街灯付近に行き、海面に向かって声をかけた。

「トウマさーん、無事ですかー?」

「無事だよ~。早く引き上げて~! 宙吊りつらいんですけど~!」

 皆がイズハの所に駆け寄った。
 トウマは糸で宙吊りだが海に落ちずに済んでいた。
 イズハの予備の糸で足と街灯を結び付けていたのだ。

 今は取り外しているがイズハも同様に結びつけていた。二人は誤って海に落ちた場合の保険をかけていたのだ。
 バンとセキトモで宙吊りになったトウマを無事に引き上げた。

「ありがとうございます。いや~キツかった」

 ロッカはトウマの背中を叩いた。

「先に言っときなさいよ!」

 『巨大触手烏賊討伐』成功だ!




※この内容は個人小説でありフィクションです。