スライムスレイヤー ~イシノチカラ~

作者:亜形


第5話 成果は甘いもの?


 トウマとロッカはギルドに寄って『ゴム兎討伐』の報告をしているところだ。バンは所用があるそうで今ここにはいない。

【ゴム兎討伐依頼 難易度D】
 討伐報酬 6万エーペル

【素材】
 ゴム兎の耳×5 3万エーペル

 換金所で魔石10個を換金してきた分が3万エーペル。
 合計 12万エーペル。
 分け前は一人4万エーペルだ。

「ボウズ、さっそく討伐成功したか。耳まで取って来るたーやるなぁ、お前ら」

 耳は全部ロッカが切り落としたやつです。
 うま味があると知っていれば狙うよね?

 この街のクエストはなかなか引き受けてくれる討伐者がいないらしい。そもそも討伐者自体が少ないのだろう。あまり稼げないので他の仕事を持ちつつたまにしか活動してない討伐者もいるようだ。

 カウンターのオッサンは上機嫌だ。

「ゴム兎が生息してた草原は良質の薬草が採れるんだ。あいつらが邪魔で採りに行けない状態だったからな。これで依頼主も助かるってもんだぜ。
 他のクエストもじゃんじゃんやってくれて構わないぜ、ガハハ」

 そういえばバンさんが何か帰りにちょこちょこ草採ってたな?
 あれは薬草だったんだ。抜け目ないな。

「トウマ、ご飯行くよ~」

 ロッカも上機嫌だな。
 ん?! ちょっと待て。
 昼に3人で3万エーペル分くらい食ってなかったっけ? 俺のおごりで。
 すごい稼いだ気になっていたけど意外に金使うのかもしれないぞ。
 あとで合流するって言ってたバンさんは何処行ったんだろ?

「バンさんは今から行く店知ってるんですか?」
「もちろんよ。もう先に行ってるかも」

 二人はギルドを出て食事ができる店に向かった。

◇◇

 店がある所に向かってるはずだよな?
 裏路地を進んでるんですけど・・・。

「お、やっぱり先に来てたみたいよ」

 バンは店の前で待っていた。

「良かった。二人が迷ってないか心配していましたよ」

 人通り少ないのに自分の心配はしないのですね。

《お食事処スイーツ亭》

 お食事なのにスイーツ? 店の名前が気になる。

「いらっしゃいませ~」

 裏路地で小さい少女を2人連れて店に入る男の図。
 俺たちどういう風に見えてるのだろうか?
 お兄ちゃんと妹二人かな? うん。

 店に入り三人掛けのテーブル席に案内されるやいなやロッカは注文した。

「スイーツ定食3つでお願い。以上で」
「かしこまりました」

 メニューは見ないのですね。
 どうやら俺に選択権は無いらしい・・・。

 すると、普通に定食が出て来た。肉に魚に白ご飯、お味噌汁と卵焼き。

 米は久しぶりだな~。

「お昼は沢山食べてたのに今回は普通なんですね?」
「普段はこんなものよ。あれはおごりだったから」

 あなたたち、人のおごりだとあんなに食うのですか?
 高いのばかり頼んでましたよね?

 バンはロッカと目を合わせた。

「それに、食べ過ぎますとね?」

 あれか? 女子の悩み的な、つまり太るって意味ですね。

 食事中ではあるがトウマは気にせず討伐中に気になったことを聞いた。

「そういえば倒した時もそうでしたけど、ゴム兎の耳切断した時も血が出てませんでしたよね?
 それに残った素材の耳も皮だけというか中身がない感じで」

「モンスターは私たちの知る動物とは別の生き物ですからね。血は出ず、主に裂ける、潰れる、崩れる、弾けるって感じです。
 元がスライムですし、擬態で似せるのは外見だけで中身は別物と思って下さい。特性を色濃く引き継いでいる場合は中身の一部も再現するようですが」

「モンスターは切り刻んでも服は汚れないし、返り血を浴びないから助かるわ。
 たまにドロッとした液体みたいなの出るやつは嫌い」

 さらっと切り刻むって言ってるよ、このひと・・・。

◇◇

 三人が完食して会話をしていると店員が声をかけて来た。

「そろそろ宜しいでしょうか?」
「待ってました! お願いします!」

 なにを?!

 ロッカとバンは急にそわそわしだした。

「お待たせしました。当店名物、食後のスイーツ『パフェ』でございます」

「きゃー、来ましたよ」
「街のガイドラインに載ってたやつー」
「おいしそうです」
「絵より実物のほうが豪華なんじゃない?」
「ステキです」

 ワイワイ。

 こいつらこれが目当てだったのか。

「トウマ、食べないんだったら食べてあげるわよ」
「ですよ」
「俺も甘いもの好きなんです。もちろん食べますよ」
「あー、残念、甘党か」
「残念です」

 こいつら俺の分まで食べようと企んでやがった。
 渡すものか、早く食べねば。

”パク”

 おおっ、想像以上に甘くてうまい。絶妙だな。

 完食!!!

「おいしかったですね」
「スイーツ亭最高! また今度行こうね」

 今回は割り勘で一人1800エーペルだった。選択権のなかったトウマも満足したようだ。

「トウマ、明日は朝からクエスト行くからね」
「今日行けなかった巨大蛙と巨大蜘蛛に挑みますよ!」

 おおっと、今日だけじゃなかったのか。
 頼もしい二人がいてくれるのなら大歓迎だ。
 ちょっと道具屋に寄ってみたかったけど、明日じゃなくてもいいか。

「分かりました。ではまた明日ですね」

「じゃーなー」
「おやすみなさい」

「おやすみなさい」

 ロッカとバンは同じ宿を取っているらしく一緒に帰って行った。

 短い時間で随分打ち解けたな。俺も自分の宿に帰ろう。
 おっと、日課の鍛錬もしておかないとな。

◇◇

「この辺りでいいか」

 じいちゃん曰く。
 剣士は怪力じゃなくていい、肝心なのは瞬発力だ。瞬間火力が最大であればいい。
 重い物を持ち上げて鍛えるのではなく、剣より少し重い物を素早くあらゆる角度に動かして瞬発力のある筋力作り。
 剣は手首を固定せずに柔らかく持ってしなるように振る。とにかく速く、限界まで速く。
 移動速度も上げる。長い距離でなくていい。2~3メートルほどの近距離を弾むように限界まで速く走る。

「ゼェ、ゼェ…、オエっ。吐きそ」

 汗だくだ。

 トウマが空を見上げると星が煌めいていた。美しい夜空だ。

「疲れた~。今日はこれで終わりにしよう」

◇◇

 宿に戻ったトウマは明日の準備で遠足に行くような気分になっていた。

 遠出みたいだから肩掛けの鞄くらいは持って行こうかな?
 またモンスター素材も取れるかもしれない。
 非常食用のパンも持って行こう。

 それと、トウマが試しに抗魔玉の力を実験してみて分かった事がある。力が切れるまで放出した後、鞘に納めて再び使えるようになるまで30分かかった。力を溜めている途中で剣を抜くと抗魔玉の力は出なかった。力を放出し切ってしまうとフル状態になるまで使えないようだ。

 小まめに力を溜めたほうが効率的に使えるって事だな、なるほどね。

 ロッカ、バンに聞けばすぐに分かる事だが体験してみるのも大事なことだ。体験した事は間違った認識をしないので聞いた話だけとは大きく違ってくるだろう。

 これが経験ってやつだ。なんちゃって。
 そういえば、ロッカが着けてくれたこの抗魔玉は貰っていいんだよな?

「はぁ~、今日は過去一で濃密な一日だったな。
 なんか世界が大きく変わった気がする」

 トウマはスライムを分裂させて逃げた。その後、ロッカと出会い、抗魔玉の力を知り、スライムを倒した。バンとも出会い、ゴム兎のクエストまで成し遂げたのだ。

 知らなかった事も多かったなぁ~。
 昼間は高いメシを奢らせられたっけ。あの時はマジでヤバいと思った。
 クエスト報酬がそれを超えてくれて助かったよ。
 あ、パフェも食ったな。甘くてうまかった。

 トウマは長かった一日を振り返り、明日の事を考えていたがそのうち疲れ果てていた身体が眠気を促し始めた。

 ベッドに寝転んだトウマはすぐに深い眠りについたようだ。




※この内容は個人小説でありフィクションです。