スライムスレイヤー ~イシノチカラ~

作者:亜形


第4話 クエストに挑戦


 バンはギルドの掲示版から剥がしてきたクエストの依頼書3枚を広げた。

『巨大(かえる)討伐』
『巨大蜘蛛(くも)討伐』
『ゴム(うさぎ)討伐』

「手頃なのはこの3つくらいかと思います。蛙と蜘蛛は1体だけですね。
 ゴム兎に関しては草原全体を縄張りとして10体です」

「しかし、モンスター名が安直だと思わない? 大きさがあまり変わらない兎だけがゴム兎なんだもの。それも見たまんまだし、あとは巨大って・・・」

 それに関してはロッカに同意。
 もっと名の付けようがあるだろ?

「トウマはどれ行きたい?」
「う~ん、この中だとゴム兎かな」
「賛成です。そう遠くないですし、このまま行っても構わないでしょう」

 相手が1体だとロッカが一人で倒しちゃいそうだもんな。
 巨大だとそうでもないのかな?

「じゃあ、兎狩りに決定!」

 三人はゴム兎が生息する草原に向かうことにした。

「トウマ、あんたの防具って胸当てと左腕の籠手だけなの?」
「はい。動きづらいので最低限の防具って感じですね」

 ホントは防具揃えるお金が無いだけ。
 全部、村で餞別に貰った物だとは言えません。

「二人も軽装備ですよね?」
「私たちはこの程度のクエストでは必要無いわ」

 道中ロッカはバンに膝かっくんのいたずらを仕掛けた。少し間を置いて忘れた頃にバンがやり返す。クエストに向かう緊張感ゼロだ。
 ロッカがもう一人に護衛を任せていると言っていたのはバンだった。トウマはロッカの態度から逆だと思っていたがロッカよりバンのほうが年上らしい。

 あの二人ってよう分からん。
 護衛を任されるくらいの実力者ってことは確かなんだろうけど。

「そういえば、護衛は大丈夫なんですか?」

「大丈夫ですよ。そもそもあの街に無事送り届けるまでの契約ですし、もう報酬は頂きましたので任務は完了しています。私たちはバルンに1週間ほど滞在して中央大陸に戻る予定なので今は休暇みたいなものですね」

「帰りは護衛の必要無いんですか?」
「大丈夫! 時間かかるみたいだし、博士は---」
「ロッカ!」
「あっ」

 バンがロッカを口止めしたようだった。ヤバって顔したロッカは口を噤んだ。

 何かマズい事でも?
 言ってはいけない何かを言いそうになったのか?
 護衛上の秘密か? 気になる~。

「着きましたよ」

 話を逸らすかのようなタイミングで目的のゴム兎が生息する草原に到着した。今いる土手を下れば草原が広がっている。

「さてと。トウマ、準備はいい?」

 まずは俺がおとりになってゴム兎を誘い出し、個体数と位置を把握して総攻撃する的な作戦らしい。
 俺の役回り酷くない? それって生け贄だよね?

 ゴム兎は縄張りに侵入した者に襲いかかって来るようだ。この草原のどこかに境界線がある。トウマは土手の上からジリジリと草原のほうに下りながら足を進めた。

「さっさと、行け!」

”ドン!”

 ロッカに背中を押されてトウマは土手から草原に転げ落ちていった。

「うおおぁぁあ~」

 トウマは草むらの中に転げ飛び込む形になったが、すぐさま身体を起こし周りを警戒した。何かが草むらを走っている音がする。

 ヤバい、ヤバい、ヤバい。
 何してくれてんだロッカ。
 こっちにも心の準備ってもんがあるんだぞ。

”ガサ、ガサ、ガサ…”

 生い茂った草で姿は見えないが、トウマの周囲を複数体の生き物が移動しているのが分かる。ロッカとバンは土手の上で何やら話ながら呑気にトウマのほうを観察しているようだ。

 ロッカたちまだ把握できていないの?
 絶対いるって、そっちからじゃ分かんないの?

 すぐに援護が期待できないからにはトウマは自分で対処するしかない。

 剣の制限時間は10分だ。上手くやらないと。
 さっきバンさんから借りたこの小さい丸い盾がさっそく役に立ちそうだな。

「キィーー!」

 ゴム兎がトウマに飛び掛かってきた! 当然の如くゴム兎の眼は赤色だ。トウマはなんとか持っていた盾で防ぐことに成功するが当たりは重かった。

「コイツがゴム兎か、初対面だな」

 確かにゴムの塊みたいな兎だ。
 眼は真っ赤だし、普通の野兎と違って全然可愛らしくない。

 ゴム兎はすぐさま切り返してまたトウマに飛び掛かった。斜めにジグザクな軌道でピョンピョン飛び回る。
 トウマは何度か盾で防いだ事でゴム兎の動きに慣れてきた。

「さあ、来いよ」

 トウマは剣を抜き、タイミングを合わせてゴム兎を縦一文字に叩き斬る!

”ズバッ!”

 ゴム兎は霧散していった・・・。

 まだ他にもいる。
 スライムの時みたいな油断はしないぞ!

”ガサ、ガサ、ガサ・・・”

 今度はゴム兎2体が同時に飛び掛かって来た!

-----

 トウマが1体目のゴム兎と相対している頃、ロッカとバンはまだ土手の上にいた。

「おっ、始まったみたいね」
「本当に私たちは見てるだけでいいのでしょうか?」
「あのくらい倒して貰わないとね、何事も経験よ。
 ゴム兎は当たりが強いだけだし打撲くらいで済むでしょ。まぁ、当たり所が悪ければ骨折かな? 死にはしないわ」

「あっ、1体倒したみたいですよ。凄い」
「やれば出来るじゃん、あの辺あと2体いるね?」
「そろそろ援護したほうがよいのでは?」
「・・・そうね。行くわよ」

 ロッカとバンが土手を駆け降りてトウマの元へ到着した時だった。

”ズバッバッ!!”

 横一文字。2体同時にゴム兎を剣で切り裂くトウマの後ろ姿が二人の目に入った。二人は歩みを止め、驚いた表情で顔を見合わせた。

「あ、来てくれたんですね。遅いですよ~、死ぬかと思いました。
 ハァ、ハァ…、こ、これ見て下さい! 3体仕留めましたよ!」

 トウマはうれしそうに成果を報告するがもう霧散してゴム兎の姿形はない。

「手助けする必要なかったみたいね。トウマやるじゃん」
「凄いです! 私たちが来る前に3体も倒すなんて」
「バンさんからこの盾を借りてたおかげでなんとかなりました。有難うございます」

 ロッカは辺りを警戒しながら落ちている魔石を回収した。

「この辺りにはもういないわ、もう少し奥まで行くわよ。今度は連携でいこう」
「もうですかぁ、待って下さ~い」

 バンが小走りでロッカに近づき小声で耳打ちした。

「ロッカ、思わぬ拾い物だったかもしれませんよ。彼」
「ま、センスはあるかもね。もう少し様子見だけど」

 三人は更に草原の奥に足を進めた。

-----

「そっち行ったわ、バン!」
「任せて下さい!」

 バンのグローブのような拳についている金属が薄白く輝いている。

”ドン!”

 一撃! バンに飛び掛かったゴム兎は頭を力強く殴られ爆散した。
 ロッカが駆け回ってゴム兎をおびき出し、短剣で斬りつけながらバンの元へ誘導。待ってましたとバンが一撃でゴム兎を爆散させる見事な連携だ。すでにゴム兎を5体も倒している。

 一方のトウマは少し離れた後方で見ているだけになってしまっていた。

 あの二人、明らかに戦い慣れしてるよな?
 護衛で雇われてるくらいだから当然か。

「情報通りならあと2体ね」
「ロッカ、少し時間を。これはもう時間切れのようです」
「そっか、戦闘中は収納出来ないから放出しっぱなしだもんね。
 博士も変なの作るよな~、バンはいつも実験台ね。あはは」

「これはこれで近距離の短期戦には使えそうですよ」
「バンのバカぢから)があってのものでしょ?」
「失礼な! 私も女ですよ」

 二人とも余裕ありありだな。
 バンさんは不思議な武器使ってるし、俺は何をすれば?

 とりあえず、トウマは落ちている魔石を回収した。

「ん? これはゴム兎の耳?」
「あ、トウマ。それも回収しといて。高く売れるかもしんないから」

 擬態したモンスターはスライムと違って絶命する前に分離した部位が素材として残る場合があるらしい。内部の肉や骨は再現していないようで側だけが残るといった感じだ。こういうモンスター素材を使って作られる道具や装備などもあるとか。

 時々、ロッカがゴム兎の耳を切ってたのはそういう事だったのか。
 てっきり仕留め損なっているのかと思ってたよ。

 残る2体のゴム兎もあっさりロッカが片付けた。楽しんでいるかの如く斬り刻んでとどめをさしているあたり狂気を感じるトウマであった。
 バンは細く短めの槍みたいな武器で戦っていたが、的が絞れない感じでゴム兎にとどめをさすのは難しかったようだ。
 ロッカは運動した~って感じで満足そうに笑顔を浮かべている。

「意外に早く終わったわね。バン、腕落ちたんじゃない?」
「これは久しぶりに使いましたので」

 俺の出番は開始早々で終わってたな・・・。
 いやいや、一人で3体倒したんだから十分だろ?




※この内容は個人小説でありフィクションです。