スライムスレイヤー ~イシノチカラ~

作者:亜形


第8話 どう名づけするかは人それぞれ


 

 今はバンに『じょうろ』として使われているロッド。

”サーーーーーー”

 じょうろのロッドには真魔玉【青】(しんまぎょく・あお)が使われているようだ。本来は大気中の水分を集めて高圧縮した水を一気に放出する切れ味抜群の切断系の武器らしい。皮は狙いづらいので巨大蛙には使わなかったようだ。

「トウマはここで荷物の番お願いね。私たちはあっちで洗ってくるわ」
「ちょっと行ってきますね」
「覗きに来ないでよ」
「は~い」

 ロッカとバンの二人は衣服に着いた泥を洗い流しに少し遠目の大きな岩陰に向かって行った。

 トウマは討伐者としての力量差に圧倒されていて気にもとめていなかったが、二人共どこにそんな力があるのかと思ってしまうくらい均整の取れた体型だ。小柄な少女たちではあるが十代後半の娘であることに間違いはない。

 恥じらいはあるんだな。
 あんなお強い二人でも女のコだもんな。
 もし、俺一人じゃなく他に兄貴みたいな男がいたら絶対覗きに行こうって話になってるかもな? 男の性ってやつだ。
 さすがに俺だけじゃ見つかったとき半殺しにされそうだから無理。
 一人じゃ罪のなすりつけ合いでうやむやにも出来ないし、う~む。
 悲鳴でも聞こえれば助けに行く名目で覗きに行けるかもしれないけどな~。
 はぁ~、大人しく荷物の番するしかないか~。

 トウマの耳には時折キャッキャ、ワイワイ楽し気な声が遠くで聞こえるだけである。トウマは寝転んでしばらく二人の帰りを待った。

 腹へったな。もう30分くらい経ってないか?
 遅いな、何かあったのか?
 見に行く? 行っとく?

 あ、戻って来た。

「すみません。遅くなりました」
「バンがさ~。それも洗うって言いだして抗魔玉の力溜めるのに時間使ってたのよ」

 バンは先ほど倒した巨大蛙のモンスター素材である蛙の皮を持ってきてトウマに見せた。バンは自慢げに言う。

「トウマさん、見て下さい。こんなにキレイになりましたよ。臭みもありません」

「お~、キレイになってる。こんな色だったんだ」

 蛙の背中側の皮は深緑で腹側の皮は白だった。白のほうが人気があり高値で売れるらしい。

 沼地の泥を被って泥色?だったもんな。
 蛙の成れの果てか・・・せめてその皮上手く使われてくれるといいな。

「それ下敷きにしちゃおうよ。お昼~、早く食べよ~」

 ロッカ・・・。

 蛙の皮を下敷きにしてバンが作って来た弁当を並べ昼食にすることになった。蛙の皮はゴムのような柔らかさでクッションとして中々良い感じである。

 蛙、いい仕事してるぞ。

「どれもおいしそ~、バン最高だわ」
「どう致しまして」
「いっただきま~す!」

”モグ、モグ・・・”

「飲み物もどうぞ」
「ありがと~。うまいうまい」

 二人ともさっきまで蛙と戦っていたとは思えないな。
 おっと、俺ものんびりとはしてられない。
 二人が全部食べてしまう前にいただかなければ。

 一息ついてトウマはバンが使っている武器に名前があるのか気になったので聞いてみた。傷を癒したロッドと水の出るロッドは武器として使われた訳ではないが呼ぶときに効果を説明している感じになるのはもどかしい。すばり武器の名前で呼びたいからだ。

「ところで、さっきの水が出るロッドは名前あるんですか?」
「私が勝手につけた名ですが、『水のロッド』といいます。
 炎が出るロッドは『炎のロッド』、傷を癒したロッドは『癒しのロッド』です」

 まんまだった。

「もっとカッコいい名前考えればいいのにね。
 だけどバンは悩み出したら何日もかかるからね?」
「それは・・・否定出来ませんね」
「私の短剣は、『斬丸1号、2号』よ! カッコいいでしょ?」

 う~ん。それってカッコいいのだろうか?

「どっちが1号なんですか?」
「え?・・・え~とね、こっちが1号でこっちが2号よ」

 随分間があったな。
 こりゃロッカ姉さんも見分けついてないな、どっちも一緒だし。

 二人がロッカをジーと見ていると、ロッカは2本の短剣を両手で持ち言い直した。

「オホン、右手に持つのが斬丸1号で左手に持つのが斬丸2号よ!」

 そうきたか! 何か目印をつけるわけではなくて。

 上手いと思ったのかバンは拍手している。

「トウマの剣には名前つけてないの?」
「はい。俺の剣は『俺の剣』としか呼んでいませんね。二人は2スロットタイプの剣って言ってましたね?」
「ふ~ん、名前つけてないんだ。名付けると愛着わくわよ」
「そういうもんですかね?」

 俺も何か考えようかな?
 じいちゃんに貰った剣だから『じい剣』。
 いやダメだろ? 思考がバンさん化している。

 ちなみに蛙を斬り裂いた大鎌は『長柄の大鎌』。昨日、ゴム兎を殴っていたグローブは『剛拳』と名付けているようだ。剛拳は抗魔玉の力を伝達する部分以外は拳を傷めないようにクッションが入っているだけで単に力で殴っていただけだとか。ゴム兎に後半使っていた短い槍はまんま『スピア』。昔、メインで使っていた武器らしいが最近はあまり使っていないとのことだ。

 バンさんの使っている武器って見た事がない物だけど中央大陸に行けば手に入れられるのかな?
 ロッカが実験台とか言ってたし、博士?とやらが全部作った武器なのだろうか? 

 癒しのロッド
 炎のロッド
 水のロッド
 長柄の大鎌
 剛拳
 スピア

 にしても、もう6種も見てるな。バンさんいくつ武器持ってるんだ?

 ロッドに固定されているタイプらしいけど、真魔玉は【赤】、【青】、【緑】の3種類持ってるし、真魔玉って貴重な品なんだよな?
 凄い高価な物だったりするのかな?
 俺も真魔玉欲しいな~。
 剣の空いているスロットに【赤】を着けてみたいな。炎の剣になったりして。

 昼食後、しばらく沼地ぎわをウロウロしていたロッカが戻って来た。

 魔石拾い逃してないかの確認?
 換金すればお金になるし、見逃して拾い忘れるのは勿体ないからな。

「腹ごしらえも終わったし、もう一つの巨大蜘蛛討伐に行くわよ」
「そうですね。そろそろ行きましょうか?」

 バンは敷物として広げていた大きな蛙の皮を折り畳んだ。それをもの凄く圧縮して紐で縛り、リュックの中にキレイに押し込んだ。凄い力技だ。

「ゴミはトウマが持って行って」
「はい、はい」

 さっきまで機嫌が良かったロッカは今、なんとなく不機嫌そうである。トウマはゴミを集めて袋に入れ、ゴミ袋を圧縮して持ってきた鞄にしまった。

 俺の鞄、ゴミ入れ用に持ってきたわけじゃないんだけどな~。
 さすがにバンさんみたいには圧縮出来ないや。

 バンが山の方角に向かって指をさした。

「次の行先はあの山の麓にある洞窟です。
 蜘蛛は洞窟の中に巣を張っているようで入って行けなくなって困っているとか。
 依頼書に書かれている内容では洞窟の中で鉱石が採れるようですよ」

「巨大蛙があの大きさだったからまた大変なヤツかもね? 蜘蛛キモいし」
「洞窟ですか。暗そうですね?」

 洞窟ってどんな所なのか話は聞いた事あるけど、実際、入ったこと無いんだよなあ。少し楽しみではあるけど目的が蜘蛛討伐だし大丈夫かな?

「トウマ、松明に出来そうな木を見つけたら拾っといてよ」
「一応、松明は持って来ていますので大丈夫ですよ」

 さすがバンさん。どこかのお嬢さんとは大違いだ。

「なんか言った?」
「なにも言ってませんよ」

 ロッカのやつまた何かの能力使いやがった。
 もしかして、俺の心の声、駄々洩れなのか?

 まだ不機嫌そうなロッカだが別にトウマと仲が悪くなったわけではない。

 三人は次のクエスト、巨大蜘蛛討伐の目的地である山の麓の洞窟に向かった。




※この内容は個人小説でありフィクションです。