スライムスレイヤー ~イシノチカラ~

作者:亜形


第9話 人工と天然


 トウマ、ロッカ、バンの三人は巨大蜘蛛討伐に挑む為、山の麓の洞窟を目指していた。山の麓までは思ったよりも遠く、山に向かって進むに連れ目指す山が大きかった事が分かる。

「もうそろそろ到着ですかね?」
「遠いよ~」
「もう少しですよ、ロッカ。
 蜘蛛に挑む前に疲れていてはいけませんのでこの辺りで一旦休憩にしましょう」
「「はーい」」

 ロッカとトウマは足に疲れが溜まっていたようですぐさま座り込んだ。ロッカの機嫌の悪さはいつの間にか解消したようだ。

「疲れた~、バンお水ちょうだい」
「ちょっと待ってて下さいね」

 バンさんはまだまだ平気そうだな。
 力持ちな上にタフときたもんだ。どんな鍛え方してるんだろ?

◇◇

 しばらくすると、目指している山の方角から人の叫び声がした。声は反響音っぽく聞こえる。

「「ひぇ~!!」」
「早く逃げろ!!」
「まだ追って来てます!」
「全力で走れ!」

 少し経つと、5人の武装した男たちが走って来るのが見えた。男たちは荒れた息を整えながらすぐ傍まで来て話し出した。剣を持った男が三人、弓を持った男が一人、槍を持った男が一人。皆、討伐者だろう。

「ハァ、ハァ・・・。この辺でいいだろ」
「ハァ、ハァ、ハァ・・・。ありゃ、ヤベぇ。場所が悪い」
「聞いてたより大きかったですね?」
「あれ倒せんのかよ?」
「いや、無理っしょ。下手すると俺ら餌になるよ」
「ん~、今の俺たちじゃ無理だな。帰るか?」
『賛成~』

 トウマたちがその様子を見ていると、剣を持った壮年の男がこちらに気づいて話しかけてきた。

「よう、お前らも蜘蛛討伐に来た口か?」
「ええ、そうよ」

 男はトウマたちを見回すと話を続けた。

「お前ら見ない顔だな。ちっこい女2人とガキ1人だけであれは無理だと思うぞ。
 俺たちは即興のパーティーだったが5人で挑んでみても倒せる気がしなかったんだぜ。諦めたほうが身のためだ」
「余計なお世話よ」

「チッ、忠告はしたぜ。お~い! お前ら、街に帰るぞ!」
「「うぃ~す」」

 ま、この人たちはロッカとバンさんの強さ知らないだろうからね。
 俺はまだまだな自覚はありますけど。

「あ、これあげますね。
 使いかけだけど僕たちはもう使わないので良かったら使って下さい」

 トウマに話しかけてきたのは槍を持った恰幅のいいトウマより大きい青年だ。彼は背中に大盾を背負っているので防御メインの人だろう。
 トウマは火の消えた松明を彼から受け取った。

「洞窟暗いのでお気をつけて」
「有難うございます」

「じゃあな! お前ら生きて戻れよ~」

 男たちはあーだこーだ言いながら街の方角に帰って行った。

 何だかんだ良い人たちだったのかもな。

「洞窟は割と近いみたいですね。私たちもそろそろ行きましょうか?」

 トウマは自分の頬を叩いて気合いを入れた。

◇◇

 三人が少し歩くと木々が余り生えていない岩山に洞窟。というより崖に穴が空いている部分が見てとれた。入口は人工的に掘られているようで添え木が建てつけてある。三人は洞窟前に着いて中を覗いて見たが奥のほうは暗くて何も見えなかった。

「俺が思ってたより穴は大きかったな。
 この広さなら十分に剣を振れますよ」
「採掘用に掘った穴なんじゃない?
 ここからじゃ暗くて奥を確認できないわね」

 採掘用に掘った穴か。
 結構古そうだな。何年もかけて掘った穴なんだろうか?

「さっきの方たちの状況から察するに蜘蛛が入口付近まで追いかけて来た可能性がありますね。すぐそばにいるかもしれません。慎重に行きましょう」

 バンは松明の準備をし、トウマもさっき貰ったばかりの松明に火を貰った。ロッカは何があるか分からないので手ぶらで周りを警戒している。重い荷物はこの洞窟の入口付近に置いて行く事にした。

「少しずつ進んでみましょう」
「静かにね」

 三人は洞窟の中に入った。ゆっくり警戒しながら奥に進んで行く。静かで自分たちの足音がやけに大きく、松明の火が燃える音もよく聞こえるほどだ。

 蜘蛛に見つからないよう、三人は小声で話した。

「ここで少し右に曲がっているようね?」
「この堅そうな岩が邪魔で真っすぐ掘れなかったのでしょうか?」

「あ、見て下さい。何か奥のほう少し明るくないですか?
 出口じゃないですよね?」
「ちょっと待って。あそこにいるわ」

 何故か洞窟の奥のほうが明るいので明らかに蜘蛛の形をしている影が宙に浮いているように見えた。奥に進めないように全面に蜘蛛の巣を張っている感じだろうか。今のところ蜘蛛に動きはなさそうだ。

「あいつか。蜘蛛大きそうですよ?」
「足が長いだけよ。身体のほうは蛙よりだいぶ小さいと思うわ。
 こっちは見てないみたいね。眠ってる?」

「蜘蛛って寝るんですか?」
「知らない」

「二人とも、壁側を見て下さい。この辺から人工で掘られた感じがしません」

「掘ってたら自然に出来た洞窟とつながったってこと?」
「この先の空間もここまでとは違っているようですね?」

 バンが松明で上空を照らすと、鍾乳洞らしきものが確認できた。真っすぐだった洞窟の穴道も途中に岩が点在していて若干蛇行しているようだ。

「確かに天然っぽいわね。あの蜘蛛の先の空間、柱みたいなのも見えるし、所々光が入り込んでいるように見えるけど随分広そうよ」
「洞窟の奥は天井に穴が空いているのではないでしょうか?
 小窓のようになっていて光が入ってきているのかもしれません」

「なるほどね、それ当たりかも。
 明るい所のほうが戦いやすいし、どうにかあっちの広い所に出られないかな?」
「蜘蛛の巣もありますし、近づいたらさすがに気づかれますよ。
 ですが、このまま松明を持って戦うのは厳しいですね」

「トウマ、囮になる?」
「え?! 流石に無理でしょ? 逃げ場無いですよ」

 また俺を餌にしようとする~。勘弁してよ。

「まず、向こう側に行くとしてあの蜘蛛の巣が邪魔ですね。でも蜘蛛が反対側に通れる隙間はあると思います。蜘蛛がこちら側にしか来れない事は無いはずなので」

「そうね。あの蜘蛛の巣の下側かな?
 上側は無理だとしても下側に私たちが通り抜けられる隙間はありそうよ。
 バン、炎の球をあの蜘蛛に当てて怯んだ隙に通り抜けるのはどう?」

「蜘蛛のどこかに当てるだけなら。通り抜けた後の勝算は?」
「あの広い空間に出ればこっちのもんよ。あそこは明るいし、私たちならやれるわ」

「・・・分かりました。やってみましょう」

 バンが炎のロッドで炎の球を投げつけ、蜘蛛が怯んだ隙に洞窟奥の広い空間に走り抜け出て戦うという案を実行する事になった。三人は岩陰に隠れながら少し近づいてみたが蜘蛛の眼は緑でまだ警戒していないようだ。

 こっちは松明持ってるし、向こうからは丸見えな気がするんだけど。
 いつ襲って来てもおかしくないよな?
 急がないと。

「バンが炎の球を投げたら全力で走るわよ。
 途中で松明の火が消えても構わず明るい方に走って。
 私たちが抜け出したら蜘蛛をおびき寄せるからバンはそのあとに来て」

「分かりました。では行きますよ!」

 バンは炎のロッドで炎の球を出すと、狙いを定めて蜘蛛に向けて放った!

”ボッ!”

「当たったわ! 怯んでる、今よ、走って!」

 ロッカとトウマは蜘蛛の巣の下側を通り抜けるべく全力で走った。蜘蛛の目が黄色に変わり、警戒を始めた。最初にロッカが蜘蛛の巣の下を通り抜ける。ついでと言わんばかりに短剣で巣を張っている糸の1本を切って巣を揺らした。
 次にトウマが通り抜け―――

”シュルルッ・・・ガシッ!”

「うお?! 何だ!? 蜘蛛の糸?」

 蜘蛛の巣に引っかかったわけでは無い。トウマの身体に蜘蛛の糸が巻きついてきて引っ張られたようだ。

 蛙のときと同じ?! また?

”ザクッ!”

「痛っ!」

 トウマは背中に鋭い痛みが走った。蜘蛛の足でクルクルと回されたトウマは糸の締め付けが強くなっていくのを感じた。

「トウマ!」
「トウマさん!」

◇◇

 背中が熱い。
 何も見えない。
 周りがぐらぐら揺れてる。

 どこかに運ばれているのか?

 うっ、意識が遠のいていきそうだ・・・。

 俺こんなところで死ぬのか・・・。




※この内容は個人小説でありフィクションです。