スライムスレイヤー ~イシノチカラ~

作者:亜形


第80話 蜘蛛男?


 狩場の山に挑んでいるスレーム・ガングの5人は大型のモンスターを求めて第7層に向かっていた。第7層に着くと少し離れた場所で討伐者パーティーが大型の牙蟻と戦っていた。前衛の人が盾で蟻のカギ爪の攻撃を受け、何とか凌いでいるようだ。

「どうやら先を越されたようですね」
「俺、蟻倒す気満々で来たのにな~。あ、でも蟻の動き少し違うかも?」
「単純な攻撃はしてこないみたいだな。あの人たち大丈夫だろうか?」
「4人いるから心配しないでも大丈夫でしょ。一応、聞いてみる?」

 ロッカは蟻と戦っている討伐者が聞こえるように大声で聞いた。

「おーい! 助けいる?」

 後衛にいる剣を持った目立つ赤い装備をした男がこちらを振り向いた。男は何故か分厚いグローブをはめている。

「要らねーよ! 大型くらいなら問題ねーから邪魔すんなよ!」

「分かったー」

 ロッカはセキトモを見た。

「要らないってさ」
「みたいだね」

 すると歓喜の声が聞こえた。蟻と戦っていた討伐者たちが勝利したようだ。さっきの声をかけた男の剣がメラメラと燃えていた。

「あれって? 炎熱剣?」
「真魔玉【赤】をつけているようですが、力を制御しきれずに刀身が火を噴いていますね。熱すぎてあのグローブをはめてないと持てないのでしょう」
「あれじゃ、すぐに剣がダメになると思うわ。勿体ない使い方するわね」
「やっぱ、こっちには真魔玉持ってる人いるんですね」
「そりゃ、売ってあるんだからいるわ。普段は見せてないだけよ」

 一同は他の討伐者がいる方向とは逆方向に進むことにした。少し進むと赤い眼をした大型の牙猪が突っ込んで来た!

“ドドド・・・”

「こちらに来ます! 避けて!」

 バンの声と共に皆が牙猪の正面から散開。牙猪は勢いよく通り過ぎて牙蟻を倒して喜んでいる討伐者たちに向かって行った。

“どーん!”

 目立つ赤い装備をした討伐者が牙猪に吹き飛ばされたようだ。
 皆はそれを見て呆然とした。

「うん、きっと大丈夫! 良さそうな装備してたし、見なかったことにしよう」
「ロッカ、それはどうかと・・・」
「大型くらいなら問題ないって言ったのはあいつらよ」

 皆に合わせて後ろ向きで歩き出していたトウマが言う。

「お、あの人、起き上がったみたいですよ。生きてた」

 しばらく進むと背後からバタバタと音が聞こえ、次の瞬間、セキトモは足に糸が絡みつき引っ張られ転ばされた。

「うおおおっ、なんだ?!」

 蜘蛛の糸? いったいどこから?

 皆が繋がった糸の先を見ると空中に大型の蜘蛛のモンスターが飛んでいた。見た目は蜘蛛だが背中に蝶の羽が生えている。

「「複合体?!」」

 イズハがすぐさまセキトモの足に繋がった糸を小太刀で斬り、引きずられていたセキトモを助けた。

「生き物同士の複合体って俺、初めて見ましたよ」

「あんまりいないんだけどね。
 あんな高い位置で飛んでるのは厄介ね」

 空を飛ぶ蝶蜘蛛は連続で糸を飛ばしてきたが皆なんとかかわした。
 セキトモのロンググレイブでも届きそうにない。

「くっ、あの高さじゃこっちの攻撃が届かないですよ」

 どうする?
 近くの木に登って戦うか?
 いや無理だ。

「イズハさん、羽を狙って当てられますか?」

 イズハはバンが言ったことをすぐに理解し、腰にある刺突剛糸本体の糸のロックを解除してクナイを構えた。糸の長さは最大25m。投擲なら蝶蜘蛛に十分届く距離だ。
 狙いを定めたイズハのクナイによる投擲が見事に蝶蜘蛛の片方の羽を貫くと、体勢を崩した蝶蜘蛛は地面に落ちた。

「凄いぞ! イズハ」

 トウマは落ちた蝶蜘蛛に向かって真っ先に飛び込んだ。トウマの抜いた剣の薄白い輝きが炎のように揺らめいて蝶蜘蛛の頭から胴体までを縦に真っ二つに斬り裂いた。ブースト2倍だ!

 蝶蜘蛛は霧散していった・・・。

「おっしゃ、倒しましたよ!」

 蝶蜘蛛が落とした魔石・中を拾い上げているトウマを見てロッカは聞く。

「トウマ、今ブースト使ったわよね?」

「気づきました?
 昨日からずっとモンスター相手に試してたんですけど、やっとできましたよ!」

「ずっと?・・・もしかして蜘蛛限定とかじゃないわよね?」

 セキトモも理解したようだ。

「それって蜘蛛に対して異常に解放率高いってこと?
 はは。今のトウマは蜘蛛キラーかもな」
「トウマのブースト戦闘で4回見てるけど、鶏で1回、あとは蜘蛛なのよね。
 ・・・蜘蛛男?」

「蜘蛛男って、俺が蜘蛛みたいじゃないですかー?」

 バンはクスクス笑っている。
 イズハは笑いを堪えながら投げたクナイを回収して伸びた糸を巻き取っている。

「ちょ、ちょっとみんな~! 蜘蛛はたまたまですって!」

 蝶蜘蛛が飛ばした糸がぐしゃぐしゃになって地面に残っていたが、糸は巻き取るのに手間がかかる割に買い取り価格が低かったので回収せずに放置した。

 次に現れたモンスターは足が無数に(正確には14本)ある大型のダンゴムシだった。ダンゴムシはこちらに気づくとぐるんと丸まり防御を固めて動かなかった。

「ねぇ、あいつどうする?」
「襲ってこないですね? デカい固まりだからビビったけど」
「決めつけてはいけませんよ。
 私たちが射程範囲に入っていないだけかもしれません」

 少し近づくと丸まったダンゴムシがゆっくりと前後に揺れ出した。
 次第に揺れの幅が大きくなっていく。

「・・・あれ、なんかヤバい気がしてきた」

 丸まったダンゴムシの前後の揺れが激しくなり、ついに一回転。そのまま回転を速めて勢いを増しトウマの方向に転がってきた。

「うわっ! こっち来た!」

 トウマは転がってくるダンゴムシをかわそうとしたが避けた方向に曲がってきて吹き飛ばされた!

「トウマ! 大丈夫か?」

 トウマはよろめきながらも立ち上がった。

「痛たた、大丈夫です。
 吹っ飛ばされて言うのもなんですけど、重さはそれほど感じませんでした。
 セキトモさんなら止められるかも」
「分かった。僕に任せてくれ!」

 セキトモは再び転がって戻って来たダンゴムシを大盾で受け止めた。
 ダンゴムシはひっくり返り丸まった状態を解除。無数の足をワサワサと宙で動かして起きれない状態になった。

 それを見たロッカは嫌そうな顔をしている。

「こいつキモイ」

 ダンゴムシを倒したのは私に任せて欲しいと名乗りをあげたバンだ。
 それは倒すというより料理のようだった。

 まずはダンゴムシの横から尾部を大剣で一刀両断。ワサワサと動いている邪魔になる足もお構いなし。
 次に頭から2節あたりのつなぎ目を一刀両断。それでも倒せないようだったので頭部へ回り頭を一刀両断。

 ダンゴムシは霧散していった・・・。

 ダンゴムシは魔石・中を落としていた。どうやらこの山の大型モンスターは魔石・中を落とす可能性が高いようだ。それと胸部から腹部にかけてのアーチ状の背中の硬い表皮が5枚、モンスター素材として残った。
 おそらくバンはこれを狙っていたのだろうと皆が思った。

”コン、コン”

「この表皮結構堅いわね。軽いのに」
「装備の素材で使えそうだな」
「でも5枚も台車に乗る? 大き過ぎじゃない?」

 皆でなんとか5枚重ねてロープで台車にくくりつけた。

「バン、もうダンゴムシの素材狙うの禁止~!」
「・・・分かりました」

 その後、一同は大型の牙犬、爪狐、角鹿を討伐してオドブレイクに戻った。

【モンスター素材報酬】
 ゴム兎の耳・中 2本 1万8千エーペル
 爪狸の尻尾・中 1本 1万1千エーペル
 牙蛇の尻尾側の皮・中 1枚 5万エーペル
 爪蜥蜴の爪・中 5本 10万エーペル
 爪蜥蜴の尻尾側の皮・中 2枚 12万エーペル
 爪狐の尻尾・中 2本 6万エーペル
 爪狐の尻尾・大 1本 25万エーペル
 角鹿の角・中 3本 9万エーペル
 角鹿の角・大 1本 10万エーペル
 ダンゴムシの表皮・大 5枚 150万エーペル

【魔石換金報酬】
 魔石・小(不純物あり) 24個 14万4千エーペル
 魔石・中(不純物あり) 5個 40万エーペル

 合計 284万3千エーペル。

 魔石・中は不純物が入っているので他所と同じ不純物ありの買い取り価格だった。中以上は不純物なしの2割増し適用より高い価格なっているからだ。
 分け前は一人50万エーペルずつにして残りはパーティー管理費に回す。

 討伐したモンスターは昨日より少なかったが稼ぎは5倍だった。

「ダンゴムシの表皮が大きかったな。1枚30万とはね」

 ダンゴムシ見つけたらまたバンにやって貰うのはありだなと皆が思った。




※この内容は個人小説でありフィクションです。