スライムスレイヤー ~イシノチカラ~

作者:亜形


第80話 致命的な行動


狩場の山3日目(最終日)ーーーーー。

昨日の報酬で味をしめたスレーム・ガングは、また狩場の山の第7層へと向かっている。

「9層は危険だとしても8層までならいいかもね?」

「いや、いや、いや。層を上がるごとにモンスター大きくなってるだろ?
 そろそろ巨大サイズいるんじゃない?」

「それは心配ないみたいよ。バンの考察では大型までしかいないようだから。
 あ、頂上にいるやつを除いてね」
「そうなの?」
「ええ、おそらくですが」

バンが言うにはスライムが湧いてくる横穴が大型までしか通れないサイズのようで、穴から出たら早い段階で擬態することから巨大は発生しづらいだろうとのこと。
もし巨大サイズのスライムが通れるような穴があるのなら予想したマザースライムはいないはずだと。

「なるほどね~」

そうこうしているうちに第7層に到着。

「さて今日はあっち側に行ってみようか?」

昨日とは逆方向に進んでみることになった。

拠点を決める前に大型の牙犬と遭遇。
牙犬の攻撃をセキトモが大盾で受け、足が止まったところを全員で囲んでフルボッコだ。
ロッカが斬り込み、注意を引き付けたところで背後からトウマが斬り込む。
怯んだところで大剣でバンが牙犬の後ろ足を切断。
イズハが牙犬に飛び乗り前足付け根に小太刀を刺し、深い傷を負わせて飛び退くと牙犬が横に倒れる。
完全に動きを止めた牙犬にセキトモがとどめの重撃飛槍で頭を粉砕!

牙犬は霧散していく・・・。

「5人だとあっという間ですね」
「先に襲って来たのはこいつだからね。大型に躊躇してたらやられるわ」
「にしても何も声をかけずに見事な連携だったな。
 僕ら確実に成長してるんじゃないか?」
「そうですね。イズハさんも私が斬った後ろ足に合わせて、前足に傷を負わせて横倒しにしたようですから」
「あ、気づいてくれたっすか?」
「マジ?! 俺、気づかなかった~」

スレーム・ガングは拠点を決めて討伐を開始する。
この拠点周辺で遭遇した大型モンスターはゴム兎、牙犬、角鹿、爪狐、牙蛇の5体だった。
小型、中型と合わせて合計14体討伐。

「ダンゴムシ、出なかったわね?」
「蝶蜘蛛も出なかったですね。ずっと空中警戒してましたけど」
「2体とも頻繁に出てくるモンスターじゃなかったんだな」

せっかくだから少しだけ第8層まで登ってみようということになった。

正規ルートに戻って第8層に到着したときだった。
昨日、第7層で見かけた討伐者パーティーと遭遇。
何やら様子がおかしい。急いで逃げ帰ってきているようだ。
負傷して肩で担がれている者、武器や防具を失っている者もいてかなり疲弊している。

ロッカが声をかける。

「あんたたち、何にやられたの?」

目立つ赤い装備をした男が答える。
この男は剣を失ったようだ。

「昨日会ったやつらか。
 俺たちの負傷の大半は大型の山猫のモンスターによるものだ。
 けど、そいつは何とか倒したんだ。その後がな・・・」

男が言うには山猫を倒した後に3体の中型の猿のモンスターが現れたそうだ。
負傷者がいてこちらが満身創痍であることを知ってか、武器や防具を強奪してきたと言う。
猿の目当てに気づいたので装備を投げ捨て、猿がそっちに気が向いている間に逃げてきたとのことだ。

「勿体ないが命には代えられないからな。
 武器の抗魔玉、真魔玉は外したからこれでも被害は最小減だと思いたいぜ。
 お前らも気をつけろよ」

猿のモンスターって武器や装備欲しがるんだろうか? 前もいたよな?

バンは負傷者に治療を施そうか迷ったが、致命傷ではないことと、まだモンスターに遭遇する可能性を考えて止めた。

名も知らぬ討伐者パーティーは負傷者に治療を施したいと言って足早に引き返して行った。

ロッカがバンを見ると意思疎通したかのようにバンが頷く。

「3体の猿か・・・。今回はハズレだと思ってたけど、ここまで登って来た甲斐があったわね」

「猿って例のやつですよね? ヤバくないですか?」

セキトモが問う。

「ロッカの今の言い方って、僕には猿探してた風に聞こえたんだけど?」

「まだ猿いるか分からないけど、ちょっと現場見に行こう!
 とりあえず見るだけね、機会があったらギルから得た情報の真偽を確かめたいってだけよ。
 少し探して見つからなかったら戻るわ」

当然だがロッカは猿に手を出すつもりはないようだ。

「ギル? あー、もしかしてアーマグラスで情報聞き出しに行ったときのやつか?」
「そ」
「何のことっすか?」

「イズハはあのときまだ加わってなかったから知らないか。
 トウマが討伐勝負に勝ったときの条件でギルから中央の情報を聞き出すって話だったと思うけど。
 ロッカとバンだけで聞きに行ったから僕たちも内容は知らないんだ」

「そうなんっすね」

「ロッカ、もう僕たちも中央に来てるんだ。あとで聞かせて貰うからな、秘密は無しだぞ」
「分かった、分かった。戻ったらね」

バンは小回りのきく三刃爪と腰裏に3種のロッドを身に着けた。
武器、防具を強奪する猿がまだいるかもしれないので二輪台車はこの場に置いていく。
大剣は持って行かないようだ。
モンスターや他の討伐者は周りにいないようなので問題ない。

スレーム・ガングは先ほどの討伐者パーティーがやってきた方向へと向かった。
しばらく進むと、武器や防具を抱えている中型の猿を1体発見。
猿は山の頂上方向へ向かっているようだ。こちらにはまだ気づいていない。

「やはり、武器、防具を集めているようですね。
 前に討伐した猿のように身に着ける様子がないところを見ると、ギルが言っていた情報と合致します」

「皆、分かってるわね?」

皆は当然猿には手を出さないということで頷くが、分かっていないやつが一人いた。イズハだ。
小ギルドで猿には手を出すなという話を聞いたとき、イズハはテントの留守番でそこにはいなかった。
皆は注意書きで掲示もしてあったので先に小ギルドを見に行ったイズハも知っているものだとばかり思っていた。
大きな情報共有の漏れ。
それは致命的な行動だった。
イズハは気配を消し、いち早く猿に近づいて小太刀で猿の腕を斬りつけてしまったのだ。

猿が悲鳴を上げる。

「バカ! 何やってんの!」
「え?! この猿倒すんじゃないんすか? 警戒するほど強そうではないっすよ」

「「そうじゃない!!」」

イズハは不思議そうな顔をしているが、皆は一気に緊張感が増して汗が噴き出す。

ヤバい、ヤバい、何か嫌な予感がする。
周囲を警戒しろ!

トウマがそれにいち早く気づいた。
斜め上から無数の何かがイズハに向けて飛んできている。
トウマは声をかけることしかできない。

「イズハ! 右上!」

イズハはそれを聞き、すぐさま顔と心臓を腕で守る防御態勢をとりながらそちらを振り向いた。
次の瞬間、その何かがイズハを襲う。

”ザクッ!ザクッ!ザクッ!・・・”

一つはイズハの額当てに当たり弾かれたが、顔を守っていた右腕、胸を守っていた左腕、両足に何かが刺さる。
それは短剣の刀身だけのような物だった。
イズハに当たらなかった他の短剣のような物は次々に地面に突き刺さる。
少し遅れて更に大きな何かがイズハの脇腹を裂き貫き地面に突き刺さった。
もう1本地面に突き刺さったが、それはかろうじてイズハに当たらなかった。
地面に突き刺さった大きな何かは槍のような物だった。

「ぐはっ!」

イズハに刺さった短剣のような物と槍のような物が引き裂いたところから血が噴き出す。

『イズハ!!』

地面に突き刺さった短剣と槍のような物は地面から抜け、浮き上がり、飛んで来た方向に戻って行った。

イズハはしゃがみ倒れ、苦しみながらも持っていたポーションを取り出し、致命傷となりえる脇腹にポーションを振りかけた。
患部の修復が始まったようだが動けそうにない。

一同が短剣と槍のような物が戻って行った方向を見やる。
そこには頭部に1本の角が生えた巨大な芦毛の馬らしきモンスターが佇んでいた。
距離は離れているが巨大なのでハッキリと分かる。

狩場の山の主。
討伐難易度Aの『ユニコーン』だ。

頭部の1本の角は片刃の剣状。
たてがみと尻尾は全て短剣のような物が束ねられたように見える。
胸部、前足の肩あたり、後ろ足のともには盾のような物が付いている。
更に後ろ足の関節部から後方斜め上に槍のような物が突き出している。
全身武装した馬といっていいだろう。

ユニコーンは足元にある討伐者が落とした剣をくわえ、バリバリと食べ始めた。

誰も声を発することが出来ない。
が、皆、武器を取り出して構えていた。
皆、足が固まり、踏み出すこともできずに滴る汗が止まらない。
一瞬でも目はそらせない。

恐ろしい威圧感を放つユニコーンは傷を負った猿が逃げたことを確認すると、こちらを一瞥して駆けるように第10層へと戻って行った。

一番先に声を発したのはトウマだった。

「・・・た、助かった?」

ユニコーンは去った。
皆が安堵し、へたり込んだ。







※この内容は個人小説でありフィクションです。