スライムスレイヤー ~イシノチカラ~

作者:亜形


第79話 モンスター出現注意の穴


狩場の山2日目-----。

 スレーム・ガングの5人は今日も狩場の山の中腹を目指して歩いている。
 バンが言うにはこの山は積層構造らしい。正規ルートを進んでいると分かりづらいがある程度平地が続いて一段上がる階段のようになっているとか。正規ルートは土砂崩れで傾斜がなだらかになった箇所だろうという話だ。

「そう言えばルート外れると10mくらいの急勾配があるわね?
 傾斜がない平地が多いのはそういうことか」

「私たちが昨日討伐していた場所は層で言うと第5層あたりでしょう。
 ギルドで聞いたのですが頂上までは10層ほどあるようです。
 頂上に近い9層はモンスターが少ないらしいですよ」

「それって、頂上にユニコーンがいるからですかね?」
「おそらく」

 今日は山の中腹を初日より進んだ位置、層で言えば第6層でモンスター討伐をする予定だ。

 セキトモが言う。

「今日、明日でどれくらい討伐できるかだな。
 せっかく来たんだし、なるべく稼ぎたいよね?」
「頑張ってたくさん倒して行きましょう!」

 今回の遠征で狩場の山に挑むのは3日間で帰りは早朝にオドブレイクを出て1日で都市に戻る予定なのだ。

 一同が第5層から第6層に向かっている途中でまた道を外れた位置に立て札があった。トウマとイズハはまた立て札を見に行った。

《穴↓モンスター出現に注意》

「昨日のより少し穴が大きいっすね?」

 何処にでも注意書きしてある穴を覗く阿呆がいる。トウマは油断していた。穴を覗き込んだ瞬間に中型のスライムが飛び出して来たのだ。

“べちゃ”

 トウマはスライムに顔を覆われて後ろに倒れ、慌てて顔に張り付いたスライムを振り払った。

「トウマさん、大丈夫っすか?」
「ヤバかった! 今、顔の皮一枚くらい溶かされたかも?」

 振り払われた中型のスライムはすぐさま爪狐に擬態して第6層のほうに駆け上がって逃げて行った。

 ロッカがトウマたちの所へやって来た。

「トウマ、何やってんのよ! 注意書きの穴を不用意に覗くなんてバカなの?
 しかも、逃げられてるし」

「すみません・・・。あ、何か顔がヒリヒリしてきた・・・」
「ぷっ。顔の垢をとってもらって良かったわね」

 うー、何も言い返せない。

 三人が戻るとセキトモが言う。

「災難だったなトウマ、やはりあの穴からスライムが湧いてるのかもしれないな。しかし、ここのモンスター多過ぎだよな、何食べて生きてるんだろ?」

「研究結果によると普通のスライムなら水分を取るだけで2週間くらいは生きられるようですよ。大型になるほど養分を欲するようですが。
 小型のモンスターも同様みたいなので大きくは違わないかもしれませんね」
「モンスター同士で食い合うこともあるんじゃない?
 霧散する前に体内に入れちゃえば吸収するようだし」

「二人ともどこでそんな情報仕入れて来てるの?」

「ああ、先日、図書館で最新のモンスター研究誌を読んで来ましたので。
 ロッカは途中から絵物語の本を懐かしいと言って読み漁ってましたけど。うふっ」

「バン、余計なこと言わない!」

「へー、図書館でそういう情報も得られるのか。今度行ってみようかな」

 バンは更に付け足した。

「あと、面白い情報がありましたよ。普通のスライムは核を中心として拳くらいの大きさが液状なのに球状を維持しているそうです。網の上にスライムを落としたら他の部分は網を素通りして垂れたのに核の周りの球状は通らなかったとか。透明な水風船みたいな感じのようです」

「え? スライムってどんな隙間でも通れるってわけじゃなかったの?」

「大きくなるほどその球状の体積も増えるようで通れない所も増えるでしょうね」

「そうなんだ。じゃあ、少なくとも拳以下の隙間からスライムが侵入してきて襲われるってことはないわけだな。いい事を聞いたかも。
 あとさ、この山モンスター以外の生き物そんなに見かけないんだけど、なんでスライムは色々なモンスターに擬態できてるんだ?」

「それは私も思っていました。
 私の想像でしかないのですが・・・先ほどの穴。
 奥がどこかに繋がっていて、そこに取り込んだ生き物の情報を持つマザースライムのような存在がいるのではないかと。それしか考えられなくて」

「なるほど、情報を持つスライムか。ん? もしかしてそのマザースライム大きくてさっきの穴通れないサイズなんじゃないか?」

「そうか! あり得ますね。擬態すると余計に通れなくなるからスライムの形態を維持しているとかですかね?」

 ロッカは呆れ顔だ。

「二人とも考察好きよね。穴に入って行けないんだから確認しようがないでしょ?」
「それはそうですね」

 一同は目的の第6層に着いた。頂上方向の平地の範囲は第5層より狭くなっているようだ。といっても300mはある。
 少し地形に変化があった。直径1~2mほどだがクレーターのような地面の凹みが所々にあるのだ。

「何だろ? 過去に多くの隕石が落ちた跡とかかな?」

「中心部は深い穴になっているようですね?
 スライムは通れそうにないですが・・・」

「そのようだな。
 でも風が通っている感じがするし、この山、中に空洞があるかもしれないぞ」

「あ、そうか。スライムは通れなくても雨が降ればここからスライムの素は流れて入っていけますよね?」

「なるほど! これで中でスライムが発生する条件は満たすな」

 また、ロッカは呆れ顔だ。
 トウマは待ちきれない感じで言う。

「早く拠点決めてモンスター討伐しましょうよ!」
「分かった、分かった」

 この辺りから小型のモンスターが少なくなり中型が多くいるようだ。主にいるモンスターは爪蜥蜴、牙犬、爪狐、角鹿である。中型までしか出ないだろうと言うことで、なるべく声が届く範囲での個人討伐を続けることになった。

 トウマが中型の爪蜥蜴と戦いながら言う。

「トカゲの取れる素材ってどこですか?」

 近くにいたバンが答える。

「主に爪です! 尻尾を切って皮が取れる場合もあります」
「分かりました!」

 ならば腕と尻尾を落とすのが先か。
 位置は低いけど動きは速くない、やれる!

 トウマは爪蜥蜴が飛び掛かってきたのをかわしざまに空中で横から尻尾を切断。都合良くひっくり返ってくれたので両腕も切断してとどめをさした。
 爪蜥蜴の片方の爪と尻尾側の皮が素材として残った。

「やった、素材落ちたー!」

「トウマさん、凄いです!」
「バンさん、ありがとうございまーす」

「トウマ、やるじゃん」

 やって来たロッカは肩に爪狐の尻尾と角鹿の角を抱えていた。

「何それ。ロッカ、2体倒して来たの?」

「たまたま爪狐と角鹿が近くにいたからね。
 爪狐はさっきトウマが逃がしたやつかも?
 互いにケンカしてる感じだったけど両成敗って感じで不意打ちで仕留めたわ」

 不意打ちで2体の部位落とすってどんな早業だよ?

 それからしばらくして拠点としている二輪台車に皆が集まった。お昼にしようという話だ。中型が増えたことにより討伐数は減ったがここまでで倒したモンスターは合計24体。
 セキトモ、イズハもモンスター素材を入手したようで満足そうだ。
 かすり傷を負っている者もいるが傷薬を塗る程度で大丈夫そうである。
 バンはもう少し大きいほうが部位を狙いやすいと言って大剣から三刃爪に換えるか迷っている。

 軽くお昼を済ませると、ロッカとバンは皆から少し離れた所で何やら険しい顔で話している。二人は戻って来ると午後からはもう一段上の第7層に行くと皆に伝えた。

「実はちょっと見て来たんだけど、もう一段上は大型がいるわ。数は少ないみたい。
 個人戦はここまでにしてパーティー戦で挑むわよ!」

「大型って?」
「私が見たのは牙蟻だったわ」
「蟻かぁ~」

「すみません。
 私はまだ早いと言ったのですがロッカが聞かなくって。
 パーティー戦にするということで致し方なく了承しました」

「バンは心配し過ぎなのよ」

「手強くなりそうだけど蟻ならセキトモさんと二人で巨大倒してますからね!」
「気合入れるっす!」
「死んだら意味ないからな、慎重に行こう!」

「そうこなくっちゃ!」
「もう!」

 一同は狩場の山の第7層に向かうことにした。




※この内容は個人小説でありフィクションです。