スライムスレイヤー ~イシノチカラ~

作者:亜形


第83話 思わぬ再開


 博士が中央に戻って来ていた。親子の感動の再開には立ち会えなかったわけだが娘のメルちゃんがよそよそしいのは分かった。奥さんのルミリアさんにくっついて離れず誰?って感じで博士をチラチラ見ているのだ。
 一方で息子のアルシュは博士にまとわりついていて博士は困り顔だ。

 皆の帰還祝いをすることになった。関係者の来客もあるようなので食堂に入りきれない人数になるらしい。部屋を別けるのもなんだし、天気も良いので裏庭で立食形式ですることになったようだ。椅子はテーブルの周りには置かないが、いつでも座れるように用意はしておく。椅子を持って自由に動いても構わない感じだ。

 客人は俺たちも知ってる人たちって話だったけど、誰だろ?

「トウマ君、誰が来るのか気になるか?」
「それは気になりますよ。知ってる人って話だし」
「まあ、来てからのお楽しみだな。っとそれよりバン君以外武器の評価報告が全く来なかったがどういう状況だ?
 期限は設けていなかったがそろそろ使い慣れてきている頃だろ?」
「あ、忘れてました!」
「おい、おい、頼むよ。契約しているんだ報告は義務だぞ。分かっているよな?
 明日1日やるから明後日には報告してくれ。そこの二人もだぞ!」

 こっそり博士から離れようとしていたセキトモとイズハの二人も捕まって三人は少しお説教された。

 男性陣は会場設置、女性陣は料理の手伝いだ。

 ロッカが料理の手伝いに行ったのは意外だった。
 モンスターも細切れにしちゃうからな。食材を切るのは上手らしい。

 会場の準備が整った頃、客人がやって来た。やって来たのはバルンで一緒に熊討伐に行ったラフロたちだった。タイラー、リフロ、ルフロ、そして姉妹剣使いのエミリー、ケイミーの姿もある。

「トウマ、久しぶりだな!」
「驚きましたよ。皆さん何で中央に来てるんですか?」
「そこの旦那の護衛だよ。ついでにバルンのギルドからのお使いってところだな」

 ラフロたちはバルンでクランを結成したそうだ。クランはいくつかのパーティーが同じルールや方針で協力して活動をする組織だ。
 クラン名は『デフィート・ベア』。クランリーダーはラフロ。残りのメンバーはお留守番らしい。

「全員じゃないが、クランメンバーはあのとき熊討伐に参加したメンツだぜ。
 バルンのギルド所属になっちまったけどな。主に討伐者がなかなか手を付けないクエストを率先して受ける感じだ。
 クラン名に関しちゃ俺たちも熊倒せるくらい強くなろうぜってことさ」

 ラフロは何故かニヤついている。
 エミリーがラフロに声をかけてきた。エミリーも少し笑いをこらえているような感じだ。

「ラフロ。
 私たちは明日この都市で東大陸にない武器や道具を購入して回るでいいのよね?」

「ああ、そうだ。主に2スロットの武器だな。真魔玉をつかった癒しのロッド、炎のロッドが見つかれば必ず手に入れるように言われている」

「ロッド高いですよ。安くして貰って250万とか」
「マジか・・・。予算500万しか貰ってきてねーぞ」

「2スロットの武器もそれなりに高いので全然足りないかもですよ」
「うーん。皆、蓄えもってっかな?
 かかった費用は後でギルドに請求するとして。
 場合によっちゃーこっちで稼ぐ必要があるかもな?」

「メルクベルに滞在する期間ってどれくらいですか?」
「2週間ってところかな。一ヶ月くらいで戻ってこいって言われたが多少遅れても問題ないだろうよ。俺たちも少しは中央を堪能したいしな」

 とりあえず、稼ぐなら狩場の山の低層~中層って薦めておいた。
 命の危険は少ないからね。
 もちろん詳細は伏せて頂上には難易度Aのユニコーンっていう化け物がいるって話も付け加えた。

 皆が裏庭に集まって来た。

 そろそろ始めるのかな?
 何か皆、チラチラ俺のほうを見て笑ってる気がするけど。

 博士が声をかけてきた。トウマにではなくトウマの後ろに。

「キュウケンさん。そろそろいいんじゃないですか?」
「え?!」

 トウマが振り返るとそこにはトウマのじいちゃん、キュウケンがいた。長い髭に白髪のオールバック。背筋はしっかり伸ばしている老人だ。

「いつまで気づかんのじゃ、未熟者が!」
「な、何でじいちゃんがここにいるんだよ!」

 皆が笑っていた理由が分かった。
 いつからか分からないけど、じいちゃんがずっと俺の後ろにいたんだ。
 相変わらず上手く気配を消していやがった。
 そんなの気づけるかよ。

「ははは。トウマ君がキュウケンさんの孫だったとは驚いたよ。
 しばらくここに来ていることは内緒にしてくれと言われてたのでな」
「博士とじいちゃん知り合いだったんですか?」

 キュウケンはトウマの様子を見にバルンのギルドを訪れたらしく、ちょうどその時、護衛の依頼をしにいったリラックと会ったようだ。リラックはキュウケンのことを知っていたので博士の邸宅に招いたそうだ。

「トウマに餞別で渡した剣は昔、ビル坊から貰ったもんじゃ」
「キュウケンさん。もう私もいい歳なんですから坊づけはちょっと。
 トウマ君があの剣を持っていたわけが分かったよ。
 いなくなったキュウケンさんが東大陸に戻っていたとはね。
 てっきり亡くなったと思っていたんだが」
「勝手に殺すな。生きておるわい」
「はは。ま、そんなわけでトウマ君の様子を見にここまで同行してくれたんだ」
「トウマがビル坊と関わって、しかも中央に来ているとは思ってもおらんかったぞ。
 簡単には死なない鍛え方はしたつもりじゃ。
 順調なら抗魔玉を手に入れてそろそろ討伐者になっておる頃くらいなもんかと思っておったわい」
「あ、じいちゃんがくれた剣に抗魔玉も真魔玉もついてなかったのってわざとか?」
「抗魔玉は渡すのを忘れておっただけじゃが真魔玉は何年か前にいつの間にか無くなっておった。たぶん、盗まれたんじゃろうの」
「真魔玉は盗まれた? じいちゃん、心当たりはあるんだな?」
「まあの、真魔玉は滅多に使わんので引き出しに入れておっただけだからの」
「じいちゃん、真魔玉って中々手に入れられない高価なものなんだぞ。
 それを引き出しなんかに?」

「トウマ君、積もる話はあとにしよう。そろそろ始めるぞ」

 皆が揃ったようなので邸宅の主である博士は挨拶を始めた。

「皆さん、集まってくれてありがとう!
 沢山用意して貰ったので遠慮なく飲み食いして楽しんでくれ。
 挨拶は短くするに限るよな?
 では乾杯!」

『乾杯!』

 じいちゃんは皆に挨拶回りをしているみたいだな。
 俺は複雑な気分なんだけど。
 なんか俺だけ親同伴みたいで恥ずかしい。じいちゃんだけど。

 イラックがトウマの元にやって来て、キュウケンは昔、剣聖と呼ばれたほどの剣の達人だったことを教えた。

 知らなかった。俺が中央産まれだということも。
 3歳くらいまで中央にいて俺とイラックさんは何度か会っていたなんて。
 そりゃ今の俺を見てもイラックさんは気づかないよな?

 次にロッカがやって来た。

「トウマ、あんたのおじいさん。凄い人みたいね?」
「俺もさっき聞いたところですよ」
「知らなかったの? あきれるわ。
 ま、あんたを拾った私の目に狂いはなかったってことね!
 剣筋はいいと思ったのよ。仕込まれてたんだ」

 ロッカ、その前に俺は拾われた覚えはないぞ。
 剣筋はどうか分からんがここまできたのは俺の努力の成果なんだからな。
 両親は剣術に長けた人じゃなかったんだ。
 うる覚えだけど、昔じいちゃんが守れなかったって話してくれた。
 まさか中央での出来事だったとは思ってなかったけど。

 ロッカがまた食べに戻るのと入れ替わりでキュウケンがやって来た。

「トウマ、お前のパーティーには凄いのがおるようじゃの?
 若いのに上のステージの者が二人もおるとは。あのコらなら大丈夫そうじゃ。
 他の者も何かに長けておるようじゃし、粒ぞろいじゃな。
 お前が足を引っ張るんじゃないぞ」

「分かってるって。俺も力を解放できるようになったんだ。
 まだ自在じゃないけどね」

「本当か? ならばそれを自在に出せるようになるのじゃ。
 力の解放は皆ができるわけではない。
 知る、見る、触れる、そして何かをきっかけに突然解放に至るんじゃ。
 お前はあのコらの影響を随分受けたようじゃの。
 最初は小さな力でいい、焦るではないぞ。じっくり育てるんじゃ」

「うん」

 会食が終わるとラフロたちとキュウケンは宿に戻っていった。キュウケンはラフロたちに同行してバルンに戻る予定なので行動を共にするようだ。

 俺にずっとついて来るって言いださないか心配だったけど大丈夫だった。
 じいちゃん相変わらずだったな。
 村を出て二か月くらいしか経ってないんだ。急に変わったりしないか。




※この内容は個人小説でありフィクションです。