スライムスレイヤー ~イシノチカラ~

作者:亜形


第83話 見送る側


翌日-----。

トウマ、セキトモ、イズハ、そしてバンの4人は客室で勉強会だ。
博士に武器の報告書を提出する前にバンにこれで大丈夫か確認して貰っている。
前に確認してもらったときからの追加分の確認だ。
ロッカは何か思うところがあるのか参加せずに自室にこもっている。

「ロッカは報告必要ないからいいよなぁ~」
「僕たちは特別な武器を使わせて貰っているんだ。
 契約しているんだから役目は果たさないとね」
「そうっすね。
 自分は小太刀も追加されたっすけど、完成品なので感想だけでいいって話っすからホッとしたっす」

書類に一通り目を通したバンが言う。

「評価のほうはこれで良いかと思います。
 あとは要望ですね。こうなったらもっといいとか、実現不可能そうなことでも書いたら良いかと思います。
 博士なら難題をクリアするかもしれません。たまに別方向に改造されたりしますけどね」

「グレイブが全然違う武器になったら流石に嫌だな。わはは」




とうとうこの日がやってきた。
三人揃って博士の書斎に入り、それぞれの報告書を提出する。評価対象の武器も持参だ。

緊張する~、大丈夫だよな?
昨日、頑張って書き上げたんだ。

「まずはトウマ君からだ」

博士は黙々と書類に目を通している。

「ふむ、炎熱剣の切り替え機構が緩んでいるか。
 まだ大丈夫そうではあるが確かにこの短期間で緩むのはダメだな、少し考えさせてくれ」

お、大丈夫だった。

「次はセキトモ君のグレイブだな」

博士はニヤニヤしながら書類を読んでいる。

「切り返しが必要ないように片刃ではなく両刃か、それだと矛だな。
 矛を刺突向きに特化させたのが槍なんだが昔に戻ろうというのか?
 今の槍の機能を保ったまま、両刃で斬れる武器の開発、温故知新だな。面白い。
 あとは重さをどう抑えるか・・・」

セキトモさんグレイブの刃先を両刃にしたいって書いたの?

「次はイズハ君だ。これを刺突剛糸と名付けたか」
「バンさんとロッカさんと相談して決めたっす」

博士は書類に目を通しながら話す。

「ほう。弓に代わる投擲武器として作ったつもりだったが糸をメインとして使っているのか?
 面白いな、何? 両腰につけられるようにもう一つ欲しい?
 わはは、二本の糸を同時に使うというのか? それは面白い考えだ」

二本同時? やれるの?
いや、イズハ何気に器用なんだよな、使いこなしちゃうかも?

博士への武器評価の報告は滞りなく終わった。
書斎を出ようとした時ドアがノックされ、ロッカとバンが入ってきた。
ロッカは思いつめた表情をしている。

「どうした? ロッカ君、何かあったのかね?」
「博士、私も契約するわ。私にも武器を用意してもらっていい?」

「やっとその気になってくれたか、待っていたよ」

「え? ロッカって契約してなかったの?」
「言ってなかったっけ?
 武器の評価報告するの面倒だったから断ってたのよ。
 私の武器は自分で買ったものだし、今までかかった費用も全部自費で出してたわよ。博士の邸宅を除いてね。あ、予備の抗魔玉は貰ったわね」

「ロッカ君、どういう心境の変化か分からんが本当にいいんだな?」
「ええ、その代わり私の要望に応えられる武器にしてよ」

「分かった。どんな武器が望みだ?」

「使い慣れた短剣がいいわ、真魔玉の特殊効果が上乗せられる2スロットタイプ」
「少し重くなるぞ。いいのか?」
「私だって普通の剣は使えるのよ。長さが体に合わないから使わないだけ」
「他に要望は?」
「そうね~。雷みたいな凄い威力になるやつがいいかな?」
「わはは。無茶苦茶な要望だな、君というやつは。
 まあ、雷そのものというわけにはいかないだろうが凄い威力か・・・、考えてみよう」

「あ、それから別件だけどもう一つ」
「まだあるのか?」

バンが代わりに話す。

「馬車に載せられるような冷蔵設備を作ってもらえないかと、あれば遠征で便利ですから」
「わはは。それは武器ですらないじゃないか?
 冷蔵設備か。移動するから電気は使えないな、小型の自家発電?
 車輪に発電機構をつけるか、いや。それだと停止しているときがダメだな。
 うーむ、おっと、その前に荷台をもっと軽くしないと重さの問題もあるぞ。
 なかなかの難題を放り込んでくれるな。面白い。
 いっきにやる事が山積みになった。優先順位を決めねばならんか・・・」

「じゃ、頼んだわよ!」
「おい、おい。ロッカ君! 契約書用意しておくからあとでまた来なさい」
「分かったわ」

困った。やる事いっぱいで大変だ。と言っているが博士は何か嬉しそうだ。
俺たちも博士の書斎をあとにした。




俺たちの武器改良は後回しにされ、二週間くらいで馬車に載せられる冷蔵庫が先に完成した。
まず博士は馬車の荷台を軽くて丈夫なモンスター素材を使い軽くした。
俺たちも荷台作りを手伝った。
そこから博士は冷蔵庫の開発に着手。
まあ、同時進行で構想は練ってたみたいだけど。
なんとこの完成した冷蔵庫の裏側には取り外せない固定タイプで抗魔玉4個、真魔玉【青】2個が装着されている。
ゼンマイ仕掛けで1分に1回内部に冷却効果を発動して巡回するようになっているそうだ。
たまにネジを巻く必要があるが巻き忘れなければずっと冷却効果が続く。
ついでに水が溜まり水まで確保できる優れもの。
できた水を直接飲むと下痢になるから時間を置く必要があるみたいだけど。

「博士ホントに作っちゃったわね。言ってみるもんだわ」

俺たちは博士が冷蔵庫の開発に着手したあたりでクエストを数回こなした。
軽くなった荷台で馬次郎のお試し走行も兼ねている。

俺はまた代用の1スロットタイプの剣に戻った。
セキトモさんはグレイブの代わりに2スロットタイプの両刃の戦斧を貰っていた。
バトルアックスという武器だ。
槍のように長くはないが改良するグレイブは重さ的にそのくらいになるので慣れて欲しいと言われたようだ。

「斧だから突きはできないけど、両刃のショートグレイブと思って使ってみるよ」

セキトモさんはすぐにバトルアックスを使いこなしていた。
日頃から鍛えていた成果だろう。

冷蔵庫が完成した後に狩場の山に出稼ぎに行っていたラフロたちが帰ってきた。
じいちゃんも同行していたらしい。
そろそろ東大陸に戻るそうで挨拶に寄ってくれたようだ。

ラフロが話しかけてきた。

「トウマ、お前のじいちゃん凄かったぞ!
 モンスターの素材になる部位全部切り落としてたんだぜ。おかげで随分儲かった」

博士は炎のロッドと治癒のロッドをラフロたちにプレゼントした。

「なかなか手に入らないようだから餞別だ」
「旦那、こんな高価な物いいんですか? 有難うございます!」
「ギルド側が搾取しないように一筆書いておいたよ。
 これはクラン『デフィート・ベア』への贈り物だとな。
 それでも疑われるようだったら邸宅にいるリラックを証人にして構わないぞ。
 それと、君たちも知ったと思うが力を解放できた者がでたら優先して使わせてやってくれ」
「分かりました」

そして博士はじいちゃんに2スロットタイプの剣を渡した。

「キュウケンさん、時間がとれなかったので私が作った物ではないですが」
「ふむ、片刃の剣、太刀と言われているものか。
 よくできておる、腕を上げたようじゃ。これはヌラックが作ったものじゃな?」
「はは、分かりましたか。
 炎熱剣も可能にしておきましたので真魔玉【赤】も渡しておきます」
「まだワシに働けというのか?」
「あっちで彼らが困ったときに頼れる人がいたほうが良いでしょう?」
「仕方ないの。動けるうちは力になってやろう。
 ふむ、この剣は軽いし『炎熱刀』とでも名付けるかの。
 これだけの腕がありながら巷で二等級と呼ばれているとはヌラックが浮かばれんわ。
 お主はズルをしておるようじゃからの? 誰も敵うまい」
「いや~、お気づきでしたか。はは、キュウケンさんには敵いませんな」

別れの時がきた。
今回は俺たちが見送る側だ。

「トウマ、分かっておるの?」
「分かってるよ。じっくり力をつけろだろ?」
「違うわい! 無茶して死ぬんじゃないぞ」

「お、おう。そっちか、分かった。じいちゃんも元気でな!」
「おう、ワシは心配無用じゃ! じゃあの」

ラフロたちとじいちゃんは東大陸に向けて出発した。

『またな〜』







※この内容は個人小説でありフィクションです。