スライムスレイヤー ~イシノチカラ~

作者:亜形


第81話 それぞれの思い


ユニコーンが去り、しばらくして皆が落ち着きを取り戻しつつあった。
バンが動けないイズハに治癒を施している。
皆のポーションを集め、短剣の刺さった傷跡へも振りかける。

「イズハさん、すぐに脇腹にポーションを使ったのはいい判断でした。
 命拾いしましたね」

バンはイズハの脇腹に治癒のロッドのブースト5倍でできる限りの治癒を施す。
イズハの脇腹の傷がみるみる塞がり治っていく。

「あ、ありがとうございます。
 さっきのはいったい何だったっすか? ユニコーンって頂上にいるんじゃ?」

「イズハさんが猿に手を出したことによってユニコーンが現れたのだと思います。
 ギルドで使いの猿には手を出すなと言われていたのですが・・・」
「そうだったっすか、自分知らなかったっす。申し訳ないっす」

ロッカが山頂のほうを見ながら言う。

「まさか、ユニコーンがあんな一瞬で8層まで降りてくるなんてね。
 あそこまで直線距離でも500~600mはあるわよ。
 まともに戦っていたら私たち全滅してたわ。運が良かったとしか言えないわね」

「ホント、引き返してくれて良かった。
 ユニコーンが全身武装の馬だったなんて。
 僕の見間違えじゃなければ、あれ着込みじゃなくて体から生えてたよな?」

「俺にもそう見えました。それに剣、食べてましたよね?」

イズハの治療を終えたバンが話す。

「ギルから得た情報は正しかったようです。
 『ユニコーンは猿を使って武器・防具を集めさせ、それを食べている』。
 聞いたときは信じられませんでしたが、あの姿を見て納得がいきました。
 ユニコーンは馬と武器・防具を同時に取り込んだ複合体のモンスターです」

体から生えた武器を飛ばす。
飛ばしてきた武器が本体戻ったことを踏まえると、念糸のような物で繋がっているのではないかという話だ。
中宿で討伐した複合体の針蜂の周りにいた針蜂が武器に置き換わった感じだと。

「9層にモンスターが少ないっていうのも頷けるわ。
 あんな化け物が頂上にいたら近づきたくないでしょうね」

第9層にモンスターが少ないのにはもう一つ理由がある。
猿たちが回収した武器に着いた抗魔玉を第9層で石や棒を使って粉砕していて、微量だが抗魔玉の力があちこちに散布されている状態だからである。
猿たちは微量とはいえ抗魔玉の力が平気なのかというとそうではない。
ユニコーンの命令に従順なだけである。

「しかし、納得いかないわ。
 ギルドはユニコーンが武器を食べることを知ってて情報を隠しているってことでしょ?」

「さしずめ狩場の山に来た討伐者はユニコーンへの供え物ということでしょうか?」

「チッ、何も知らない討伐者がいいように使われているってわけね」

「かと言って討伐者がこの山に来なくなったら、餌を求めてユニコーンが麓に降りてくる恐れがあります。
不本意ですが対策が打ち出されるまで、私たちもこの情報は秘匿すべきです」

トウマが割り込む。

「誰かが武器や防具を定期的に持って行くとかすればいいんじゃ?
 お供え物みたいな感じで」
「ギルドがそんなことするわけないわよ。
 費用かかるし、クエスト出してる側の面子もあるだろうし」

誰も知らないことだがユニコーンは狩場の山の頂上に生えている癒し草が主食である。
頂上にいる理由だ。
頂上に生えている癒し草は高品質で上級ポーションの原料として使われているものと同等である。
猿に集めさせた武器・防具はおやつ感覚で食べているのだ。
おやつが食べたくなって降りてくる可能性は十分にある。

スレーム・ガングはモンスター討伐を切り上げて戻ることにした。

「次、ここに来るときはあいつを倒すときよ!」
「ロッカ、それ本気で言ってる?」
「当たり前よ! まだ無理だけど、まだってだけだからね」

あいつと戦うには飛んでくる武器をさばけるくらいにならないとダメだよな?
もっと強くならないと。

イズハは思った。
皆に迷惑をかけた。次は絶対貢献してみせる。

バンは思った。
イズハさんは負傷してしまったけど、ここで見れたのは大きかった。
知らずに挑んでいれば全滅していた。
対策を考えておかなければ。

ロッカは思った。
あいつとやり合うには新しい武器が必要になるかもしれない。
使いたくないけど、盾を使うことも考えないとダメかな?

セキトモは思った。
あの攻撃を防ぎ切れるだろうか。
いや、僕が皆を守ってみせる。

あれほどの脅威を目にして誰も逃げ腰な考えではなかった。
それぞれが思いを抱きオドブレイクへと戻る。

【モンスター素材報酬】
 ゴム兎の耳・大 1本 1万8千エーペル
 爪狐の尻尾・大 1本 25万エーペル
 角鹿の角・大 1本 10万エーペル
 角鹿の角・中 1本 3万エーペル
 爪狸の尻尾・小 1本 7千エーペル
 牙蛇の尻尾側の皮・大 1枚 10万エーペル
 爪蜥蜴の爪・中 2本 4万エーペル

【魔石換金報酬】
 魔石・小(不純物あり) 8個 4万8千エーペル
 魔石・中(不純物あり) 6個 48万エーペル

合計 284万3千エーペル。
分け前は一人50万ずつにして、残りはパーティー管理費へと回す。

「今回の遠征で皆、100万オーバーは稼げたわね!」
「狩場の山はクエストではなかったのに、この稼ぎなら十分な成果でしょう」
「ユニコーンにさえ出会わなければなあ~」
「申し訳ないっす」
「トウマ、あまりイズハを責めるなよ。皆、無事だったんだ、それはもういいじゃないか」
「そうですね。元々、見て見たいって言ってたの俺たちなんで」
「そういう意味では二人の願いは叶ったな。わはは」
「おかげで死にかけたっすよ」
「それは自業自得でしょ。猿に手を出したイズハが悪いのよ」
「ロッカ、もうそれを蒸し返さない!」
「あはは」

オドブレイク最後の夜ということで、夕食は少し豪華にした。
とりあえず、今回の遠征から皆、無事に帰れることを祝った。




翌日-----。

この日のうちにメルクベルに戻るため、早朝にオドブレイクを出発した。
馬次郎に頑張って貰う。
なにせ一日で100km近く運んでもらうのだ。

2時間おきに小休憩。メルクベルに到着したのは夕方遅くだった。

「先にギルドに寄って残っているクエストの報酬を受け取りましょう」
「馬次郎、もう少しだけ頑張って」

馬次郎は少しバテているように見えたが頷いた。

【爪キジ討伐依頼 難易度D】
 討伐報酬 5万エーペル

【角ヤギ討伐依頼 難易度D】
 討伐報酬 6万エーペル

合計 11万エーペル。
分け前は一人2万ずつにして、残りはパーティー管理費へと回す。




博士の邸宅に戻ると、思ってもいなかった事態が発生していた。
もう少し先の話だと思っていた。
その時はあまりにも早すぎた。

博士が戻っていたのだ。

イラックと一緒に出迎えに出てきてくれた博士を見て、一同が驚いた。

「やあ! 皆、生きて戻ったようだな」
「な、なんで博士が戻ってるのよ! 数か月はかかるって言ってたのに」
「おい、おい、ロッカ君。
 せっかく急いで戻ってきたのにその反応はないだろ?」

イズハだけが初対面だ。

「この方が皆さんが言ってた博士っすか?」

イズハは素早く博士の元へ行き、挨拶する。

「自分はイズハと申します。
 アーマグラスの街で契約して頂いた者です。宜しくお願いします」
「ほう。君がイズハ君か。
 バン君からの報告で聞いているぞ。元観測者だそうだな、これから宜しく頼む」

ロッカの表情が険しい。
博士が戻る前に難易度Aのモンスターを攻略するという目標はここで潰えたのだ。

「博士のバカ! 戻ってくんの早過ぎるのよ!」







※この内容は個人小説でありフィクションです。