スライムスレイヤー ~イシノチカラ~

作者:亜形


第48話 大橋の戦い(2)


 橋の入口まで戻ったトウマ、イズハ以外のメンバーは大橋の関係者に街灯の点灯状況を確認した。
 今夜、街灯を点灯するかは未定。今のところ点灯する予定はないようだ。

1日前 点灯 破壊あり 停電復旧。夜に橋を破壊しているモンスターを確認。
2日前 消灯 破壊なし 船が沈んだ日。夜中に雨が降り停電。
3日前 点灯 破壊あり スレーム・ガングはオフ。ユニオン・ギルズは船の調達。
4日前 消灯 破壊なし 狼討伐を終え工事延長を知った日。
5日前 点灯 破壊あり 狼討伐に出た日。この日の夜に初めて橋が破壊された。
6日前 消灯 破壊なし 工事が始まった日。

 大橋の破壊が始まってからの街灯の点灯と破壊が見事に一致した。
 まだ一日置きという線も考えられるので今夜も点灯して貰えないか頼むと、交渉は難航。橋が更に破壊される可能性があるということまで伝えたからだ。最終的に原因の究明とモンスターは必ず討伐するという約束をしてようやく今夜も点灯して貰えることになった。

 街灯に関してはどれか壊れたとしても橋の中に埋めてある電気配線の本線が切れていなければ点灯させるのは問題ないとのこと。日中に点灯確認済みだそうだ。
 よくよく話を聞くと、今回の工事で油を使った古い街灯を電灯に変えていっていたようだ。油を使った古い街灯では暗いし点けるのも管理するのも手間がかかる。今後の夜間通行を考えると電灯のほうが管理しやすいという理由。モンスターに電灯が破壊された付近まで入れ替えが終わっており、点灯試験を開始したばかりだったとか。

「これ間違いないんじゃない?」
「でも、点いていた街灯を全部壊しているわけではないのですよね。
 う~ん。壊した数も多くはないようですし、何故なのか・・・」

「単純に端の街灯を壊すときに一緒に落ちちゃってるんじゃない?」
「いや、いや、いや。んなバカな」

 実際、ロッカの予想通りなのだがそれはここにいる誰にも分からない事だった。

「ま、今夜壊されれば街灯狙いは確定でしょ。
 トウマたちが見てくるわけだし明日ハッキリするわ」
「あの二人、寝過ごしたりしないでしょうね?」

 カリーナの言葉でしばし皆が沈黙した。

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 トウマとイズハは大橋が破壊されている場所に留まっていた。
 穏やかな波の音が聞こえる。

「暇っすね~」

「そうだね~」

 手持ちの携行食と水は分けて貰っているがまだ食べるのは早い時間帯。夜までする事もないので二人は暇を持て余しているようだ。何もする事がないと流れる時間はもの凄く遅く感じるものである。

 すると、トウマは何か思いついたようにイメージトレーニングを始めた。

「イカはあそこから登ってくるんだよね?
 街灯を狙うとして最初に狙うのはあの街灯かな?」
「なるほど!」

 イズハも理解したようで一緒になってイカとの戦いを想定してみる。橋の上での戦い。動ける距離、吹き付ける潮風、夜なので視野も狭いなど。
 実際動いてみてどれ位なのか確かめ始めた。こうなったら時間が経つのは早い。

 トウマは橋の上から下の海面を眺めた。

「イズハ、これ海に落ちたら死ぬかな?」

 海面から橋の上までは30mほどの高さがある。満潮時でも船が橋の下を通れて海のモンスターにも襲いかかられないよう高くしてあるのだ。無論、モンスターが巨大過ぎたり、支柱を登ってくるのは想定外である。

「下は海っすからね。自分には分からないっす。
 運よく落ちて死ななかったとしても多分装備着けてる時点で溺れて死ぬっすよ。
 助かるにはすぐに装備外して支柱まで泳いで陸に上がるとかっすかね?」

「そっかー。泳ぎに自信ないし剣持ってたら捨てる事になっちゃうな。
 それはダメだ。絶対落ちないように気をつけような」

 そうこうしているうちに時間が経ち、沈みゆく夕日と共に辺りが暗くなってきた。
 二人は携行食を食べつつもうしばらく待つと、辺りが真っ暗になった。月の明かりで何とか見えるようだ。

「ロッカの言ってた通りだな。この明るさじゃ戦いづらいぞ」
「そうっすね。ホントに街灯点くっすかね?」

 10分ほど待ったときに街灯が点いた。

「「おお~」」

「この明るさなら見えるんじゃないっすか?」
「暗い所もあるけどこれくらいあれば大丈夫だよね?
 あの中央の点いてる街灯目指して来るとして、もう少し離れて隠れる?」
「そうっすね」

 イカと戦うわけではないし離れる分には問題ない。二人は身体を伏せてイカが来るのを待った。
 最初はドキドキしていたトウマだったが、なかなかイカが来ないので待ちくたびれてそのまま寝てしまった。
 イズハは寝ない。ジッと待つということは元観測者として当然のように鍛えられているのだ。イカが来る気配がないうちは適度に気を抜いている。



 トウマはイズハにゆすり起こされた。

「トウマさん、起きて下さい。来てるっすよ」
「う・・・、ん? 寝てたか・・・ゴメン」

 トウマはまだ状況を掴めていない。

「しーー。イカ登って来てるっすよ」

 暗がりの中、トウマは巨大な2本の触手を先頭に体を引きずるように支柱を登ってくる巨大なイカらしいモンスターを目の当たりにした。思わず声に出しそうになったが何とか抑える。
 イカはズルズルと街灯の明かりに向かって全身が完全に橋の上に乗ったようだ。

 トウマとイズハはお互い顔を見合わせて頷いた。

「でかいな」
「想像以上っすね、タコよりでかそう」

 その後、上体を起こしたイカが眼を赤くして嵐のように暴れまくった。目についた街灯を目標とばかりに左右に揺れながらズルズルと近づいていく。すでにボコボコになっている道もなんのそのだ。
 破壊している範囲は10mくらいなのでそこまで動いていないとも言えるが1つ2つと街灯が壊され十本の触手の叩きつけで舗装されている道がボコボコになっていった。

 二人は中腰になり、イカに見つからないよう少しずつ後ずさりして行った。

「ヤバいな。こっちに気づかれる前にそろそろ逃げる?」
「あのイカが街灯を狙っているのは確認できましたし、十分っすね」

 すると、イカは端に立っている街灯に体ごと突っ込み、その勢いで街灯と共に海に落ちていった。

”ドボーン!”

「・・・あいつ、落ちたよ」
「・・・落ちたっすね。ぷっ」

 イカが海に落ちて気が抜けたのか大爆笑する二人だった。

「ふ~、では帰るっすか?」
「うん。帰ろう」

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 トウマとイズハが博士の邸宅に戻ったのは深夜0時を過ぎていた。
 二人を心配していた三人はまだ起きていたようで出迎える。二人は随分くたびれた様子だが負傷もなく無事なようで安心したようだ。
 二人がくたびれているのも無理はない。松明を持っていなかった二人は足元が見えづらい夜中に2時間ちかくかけて歩いて帰って来たのだ。

 セキトモは二人をねぎらった。

「二人ともお疲れさま」

 ロッカは興味津々だ。

「大丈夫だったみたいね? で、どうだった?」

 イズハが答えた。

「バンさんの推測通りでした。イカの狙いは街灯っす」

 バンは二人にコップに入った水を渡した。

「やはり、当たっていたようですね。
 あれからこちらもある程度裏付けが取れましたよ。
 二人とも今夜はゆっくり休んで下さい」



 しばらくしてバンは何故かお茶を用意していた。ロッカが話を聞かないと気になって眠れないと言い出したからだ。深夜だがラウンジで二人が見て来た状況と集めた情報を皆に展開することになった。

 イカが橋から落ちた笑い話が出るとロッカはドヤ顔だ。

「ほら、私の言った通りだったじゃない? やっぱ落ちてたのよ。あはは」

 バンとセキトモは苦笑いだ。

 経緯を知らないトウマとイズハはロッカがドヤ顔の理由が分からなかった。
 話しは1時間ほど続いたがトウマが眠そうにしていたのでイカ対策は明日立てようということになった。




※この内容は個人小説でありフィクションです。