スライムスレイヤー ~イシノチカラ~

作者:亜形


第62話 都市の周辺事情を聞く


 スレーム・ガングの5人は都市メルクベルに向かって街道を進んでいる。次のオドブレイクに着いたのは辺りが暗くなった頃だった。このオドブレイクには多くの討伐者がいるようだ。周りは暗くて見えづらいが民家のような建物がチラホラ確認でき、他とは違った印象を受ける。

 トウマは辺りを見渡した。

「ここは結構広い感じがしますね?
 周りも柵じゃなく塀で囲まれてて他と違うし」

「都市が近いですからね。少しずつですが発展していますよ。
 ここをクエストに向かう拠点にしている討伐者も多いです。
 辺りが少し暗いですけど松明は要りますか?」

「セキトモさん。外灯あるし、テント張るのは大丈夫ですよね?」

「問題ないよ。にしてもこの辺りって建物多そうだね。
 中宿みたいな宿泊施設でもあるのかな?」

「現状はここで働く衛兵とその関係者が住んでいる感じです。
 そのうち討伐者向けの宿や店などが建つかもしれませんね」

「ここから早馬使えば、メルクベルまで1時間かからない距離だからね。
 周辺は平地だし、立地的にはいい所なのよ」

 一同はテントの準備をする前に掲示板の所に向かった。義務ではないが終えたクエストの処置をする必要があるとか。
 掲示版の横には看板が立ててあった。何やら使い方が説明してあるようだ。

「あれ? バン、これ少しやり方変わってない?」

 ・討伐が終わったクエストの依頼書は一枚だけ残す。
 ・残した依頼書に『済』とパーティーの場合は『パーティー名』を記入。

 都市に向かうギルドの連絡員が済みの依頼書を回収して行くのでパーティー名を記入しておくとギルドで手間なく報酬を貰えるとのことだ。

「前は『済』の記入だけを誰かがやり出してそれが浸透してただけなのよ。
 看板まで立ってるし、ギルド公認になったようだわ」
「そうなんだ」
「パーティー名記入とギルドによる回収対応が加えられた感じでしょうか。
 ギルドも色々やり方考えているようですね」

「先回りして報酬貰って逃げるやつでも出たのかな?
 ギルドはそっちに手間取られたくないのかもね?」
「元々、討伐者同士の性善説が前提の仕組みでしたからね。
 この方法なら多少は未然に防げるのかもしれません」

 セキトモは掲示板の右側を見ている。

「しかし、都市に近いからか右側はクエストが全然貼ってないね。
 貼ってあるのも済ばかりだし」

「討伐者多いからもっと遠方のクエストを貼ってもいいと思うけどね~。
 メルクベルまで行ってクエスト確認するのも面倒だし。
 さ、今日は早々に休んで明日はいよいよメルクベルよ」

◇◇

翌朝-----。

 明るくなってオドブレイク内を改めて見渡すと今までの倍はある広さだった。衛兵の人数も多い。これからメルクベルに向かう者、これから討伐に出る者たちが行き来している。倉庫の周りには討伐者が溢れている状態だ。皆、食料を確保しているのだろう。

「倉庫の周りは人が多いようですね。
 私たちはメルクベルに戻るだけですし、食材の補充は遠慮しておきましょうか?」
「そうね。あっちに着いてからいっぱい食べよう」

 一同は軽く朝食を済ませメルクベルに向けて出発した。

 街道をしばらく歩くと街道脇に『6』の数字の立て札があった。十字に道が別れているが横の道は通って来た街道と比べて道幅が狭いようだ。

「あの立て札って何ですか?」
「ちょうどよいので皆さんに説明しましょうか?」

 一旦、馬車を停めて皆が集まった。
 ロッカは知ってるので説明は聞かないようだ。

「まず、この立て札の数字は第6区域の入口を指しています。
 ここからは都市の管理下だと思って下さい。
 区域は都市を中心に5km毎の円で区切られています。
 1~6区域までありますのであと30kmでメルクベルに着くという距離の目安にもなりますね。
 残り25km地点では『5』の立て札があるはずです」

「へー」

 バンは街道の脇道を指さした。

「この横の脇道は都市を中心に円になっています。
 道沿いに進むと一周してまたここに戻って来ますよ。
 地形的に道が通せない場所は迂回していますがきっと上から見ると都市を中心に輪が6つある感じに見えるでしょうね。
 更に北を0地点として時計回りで12ブロックに分けてあり、おおよその場所が分かって面白いです」

「?」

「この街道はメルクベルの南門に真っすぐ繋がっていますので街道の右側が6ブロック、左側が7ブロックです」
「俺、聞いてもよく分からないや。はは」
「第6区域の7ブロックと言われたらこっち側ってことっすね? なるほど」

「イズハ分かったの?」
「観測者やってたときに場所を数字で表してたので何となくっすけど。
 大まかな住所みたいなもんっす」

 第6区域は主に畜産業が行われているそうだ。牛、豚、鶏など。スライムに食われてモンスター化すると危険なので都市管理下の一番遠い区域に畜産業がある。極力モンスター被害を抑える為、都市の衛兵も定期的に巡回しているそうだ。衛兵ではどうしようもないモンスターが出た場合は討伐者の出番らしい。クエストが出る。

 次の第5区域は主に農業のようだ。セキトモは興味深そうだ。

「へー。各区域で主産業を変えているのか。面白いね」

 第4区域はモンスターが襲って来たときに対処する防衛区域らしく産業的なものは特にない。都市を広げる為に壁を作る領域を空けてあるという噂もあるようだ。弱いモンスターはいるので討伐初心者向けの『訓練の地』とも呼ばれているらしい。

 ロッカは待ちきれなくなったようだ。

「ね~、もう行こうよ~。
 話はメルクベルに着いてからでもゆっくりできるでしょ?」
「そうですね。では行きましょうか」

 一同は街道を進み第6区域、第5区域を抜け第4区域に入った。

「お、第4区域は脇道に沿ってモンスター除けの柵があるみたいですね?」

「先ほど話した通り防衛区域ということもありますが、中で発生したモンスターをなるべく他の区域に出さないようにしているでしょう。
 もう少し進むと討伐者向けの小休憩所がありますのでそこで昼食にしましょうか」

◇◇

 一同は第4区域の街道沿いにある小休憩所に着いた。小休憩所は広くはないが屋根付きの建屋で中にはテーブルや椅子が用意されていた。脇には腰掛られるようにベンチも設置してある。食料はないが水は樽に入れて置いてあるようだ。ご自由にお飲みくださいって感じだろう。

「このペースなら日が暮れる前にメルクベルに到着できますね」
「中入っても博士の邸宅まで2kmくらいあるのよね~。
 早く行ってゆっくりしたいわ」
「やっぱり博士の邸宅はあるんだね。そこも同じ作り?」
「他の街より敷地広いし大きいわよ。メルクベルにあるの博士の本宅だからね」
「どんな所だろ? 楽しみだな~」

「この先はどうなっているの? あとは第1~3区域だっけ?
 見れば分かると思うけど気になって」

「セキトモ~。ま、気になるのは分かるけど~」

「俺も気になる」
「自分もっす」

 バンの説明によると、第1~3区域は住宅が多いそうだ。大きく分けると第3区域は工業。川に面している場所が多いことで水力発電施設もあるとか。第2区域は繊維産業、第1区域は商業らしい。
 都市は高い外壁に囲まれていて外壁のすぐ近くは建物等の建設禁止。
 第6区域までは何をするにもメルクベルの中枢機関の認可が必要だとか。

 三大都市協定で都市の周り100km圏内は管理下に置いてよいらしいが実際そこまで広げているわけではないようだ。先住民がいたり、新たに境界を作るのも大変だろう。場所に寄るのかもしれない。
 管理下の土地は借りることが出来るようだ。購入のようなものらしいが転売目的の売買は御法度。不要になったら都市が買取するらしい。
 治安的に都市から離れているほうがモンスター被害に合う確率が高いので土地の借り入れ価格が安い。資産が少ない者たちが外壁の周りに家を建てているとのことだ。都市に近づくほど借り入れ価格は高くなるらしい。

 メルクベルには東西南北に門があり、南門から北門まで10kmほどあると聞いて知らない三人は驚いた。都市内に川もあるとか。
 ギルドは4カ所あり討伐者が出入りし易い各門の近くにあるそうだ。
 各門は現状、午前6時~午後8時まで開門されているとのこと。門が閉まっている間は当然都市の中には入れない。それを補填するように第1区域には宿や店が多くあるそうだ。閉門までに間に合わなかった業者が一泊することも珍しくはないらしい。

「俺、情報だけでもうお腹いっぱいです」
「お腹に情報はたまらないでしょ!」
「自分、もう半分くらいはどこかに飛んで行ったっす」
「だから話はメルクベルに着いてからゆっくりでいいって言ったのよ」
「わはは。僕は興味深かったけどな」

 昼食を済ませ、一同は再びメルクベルに向けて出発した。




※この内容は個人小説でありフィクションです。