スライムスレイヤー ~イシノチカラ~

作者:亜形


第63話 都市メルクベル


 スレーム・ガングの5人は第3区域、第2区域を抜け第1区域へと到達した。もうすぐメルクベルに着きそうなので皆、馬車から降りて歩いて向かっている。
 すれ違う人も多くなり街道沿いにある建物が増えてきた。クエストに出て行く何組かの馬車に乗った討伐者パーティーともすれ違う。

 セキトモは不思議そうに言った。

「馬車でもここから先のオドブレイクに着くの3時間くらいはかかるよな?
 夜になるんじゃないか?」
「街道沿いで野宿でもいいと思ってるんじゃない?」
「そんなもんなのか」

 まだ遠いが今は平地の直線なので街道の正面には視界に収まりきれない都市の外壁がハッキリと見えている。外壁が高いのである程度近づくと外壁しか見えなくなるだろう。

「あれがメルクベルですか?
 外壁しか見えないけど凄く大きいのは分かりますね」

「外壁は三階建ての建物より高いですよ」

 一同は更に歩を進めた。時折、他の馬車から追い越されるがこちらは歩く速さなので仕方がない。門に近づくにつれて店や宿が増えていき酒場なども見当たりだした。

「閉門までに間に合わなかったらこの辺りを利用することになるわ」
「一部の店はこちらのほうが安いらしくわざわざ出てくる方々もいるようですよ」
「そうなの? それは知らなかったわ。ま、商売は客の取り合いだもんね」

「お、店先にポーション並んでますよ。3万だ。こっちが安いんじゃ?」
「あー、それ効果が薄いって話よ。かすり傷程度ならキレイに治るらしいわ」
「マジ?! それで3万は高いかも」

 都市の門に辿り着くと門番の衛兵が四人いて一人が声をかけてきた。

「パスを確認させて貰おう。初めて都市に入るやつはいるか?」
「この三人が初めてですのでパスの発行をお願いします」

 バンとロッカはカードのようなものを衛兵に見せた。どうやら初めて都市に入る場合はパスを持つ者と一緒に来てパスを発行して貰う必要があるようだ。パス発行料として一人1万エーペル徴収された。

 高くない?

「あんたたち、何か問題起こしたらパスは没収されるから気をつけなさいよ」

「他の都市も同じなのか?
 パスを持った知り合いが一緒にいないと入れないとか不便だな。高いし」

「このパスは都市共通の永久パスだからもう大丈夫よ。どちらかというと何も知らない中央大陸以外から来た人を警戒してるって感じかな?」

「僕たち危ないやつ認定されてるのか? 参ったな。はは」

「他の大陸から来た人たちはまず人脈作りをする必要が出てきますよね?」

「あ、なるほど。
 そこで中央の人からの信頼を勝ち取らなければならないわけか。
 僕らは二人がいるからその辺は省けて幸運だったかもな」

 トウマ、セキトモ、イズハが発行して貰ったパスを受け取って門を通り、ようやく都市メルクベルに入ることができた。

 中央通りは物資の搬入もあるので街道よりだだっ広く、余裕で馬車4台並走できそうだ。人通りも多く店や宿も建ち並んでいて活気がある。二階建て三階建ての建物もあちこちにあるようだ。

「外からは分からなかったけど建物も多いし、かなり人多いですね?」
「門の近くは人の出入りがあるし特に多いからね。
 中央通りから外れれば落ち着くわよ」

「まずは牙犬の群れ討伐をギルドに報告しましょう」

「イズハ、うろうろしない! 迷っても知らないわよ!」
「申し訳ないっす!」

「ロッカに怒られてるし。わはは」

 南門の近くにあったギルドはギルド南支部らしい。二階建てだった。支部というくらいだ。どこかに本部があるのだろう。

 今まで寄ったギルドより大きいじゃん。これが支部?

「一階はクエスト難易度Cまでしか貼ってないわ。
 難易度B以上は二階に貼ってあるから二階にいる討伐者は熟練者が多いかもね」

 受付のお姉さんにクエストの成果報告。ここのギルドのマスターは二階の職務室にいて普段は出てこないらしい。

【牙犬の群れ討伐依頼 難易度C】
 討伐報酬 45万エーペル

【魔石換金報酬】
 魔石・小 26個 13万エーペル

 合計 58万エーペル。
 分け前は一人10万エーペルずつで残りはパーティー管理費に回す。

 少し周りの討伐者がざわついている。ロッカとバンを見ているようだ。
 「あの二人。とうとうパーティー組んだのか」とか言われていて二人は多少有名なようだ。

「お腹空いたわ。早く博士の邸宅に行こ」

 掲示板のクエストは確認せずに博士の邸宅に向かうようだ。
 ギルドを出て中央通りから外れると比較的静かになり人通りも減っていった。

「おー。帰って来たかー」
「久しぶり!」

 すれ違う人がバンとロッカを見て笑顔で挨拶していく。

「知り合いですか?」
「まあ、そんなとこね。この辺の人たちとはよく会うことになるから顔くらいは覚えておいたほうがいいかもね」

 博士の邸宅は塀に囲まれ他の街と似た様な造りの二階建てだった。しかし、明らかに大きいし敷地も広かった。
 邸宅の周りも博士の所有地らしく、囲むように建っている建物は全て関係者が住んでいるというから驚きだ。つまり、この区画に見知らぬ者が入ってきたら警戒されるようにできているということだ。関係者以外がこの邸宅を訪ねてくることはまずないだろう。

 顔覚えておけってそういうことか。

「警備体制が凄いっすね。
 周りが全て関係者だと人に紛れ込めないし観測者でも入るの難しいかもっす。
 やるとしたら夜間っすね」
「イズハ、何忍び込もうとしてんのよ」

 博士の邸宅を訪ねるとリラックでもなくホラックでもないイラックが出迎え入れてくれた。

 邸宅に入ると手前側がラウンジ。邸宅の中央には大きい円柱が立っており天井は二階まで吹き抜け。広くなってはいるがここまでは他の邸宅とさほど変わりない。

 トウマたちはイラックに二階の部屋を案内された。
 表からは分からなかったが邸宅はH型のようで部屋数が増えて全部で12部屋あるようだ。(他の邸宅は8部屋、凹を反対にしたような形)
 二階にシャワー室もあって男女別で3人まで同時に使える。トイレも男女別で二階にもあり、一階には風呂もあるとか。

「マジか~、部屋数増えてるし。
 二階にシャワー室とトイレまで設置してあるなんて」
「一階の風呂も事前に申し出れば準備してくれるって話だったし、凄いよな。
 ホントに僕ら使っていいのか?」
「いいの、いいの。博士お金持ちだし無駄に広いんだから使ってやってんのよ」

 バンはロッカを見て呆れ顔だ。

「博士が戻られるまでここを拠点とするのは間違いないですし問題ないですよ。
 それに私とロッカの部屋はすでにあります」

 二人の部屋は左の棟で位置的にはアーマグラスで使っていた所のようだ。旅に持って行かなかった荷物が置きっぱなしにしてあるとか。
 とりあえず、男は右の棟、女は左の棟にしようということになった。階段の右側に男性用、左側に女性用のシャワー室とトイレがあるからだ。

 トウマたちは右の棟から部屋を選ぶ。
 結果、裏庭側の角部屋からトウマ、セキトモ、イズハの順になった。アーマグラスで使っていた部屋順だ。

 今は不在のようだが右の棟の邸宅正面側2部屋はすでに埋まっているらしい。
 右の棟の空き部屋はあと1部屋になった。
 左の棟の空き部屋はあと3部屋でロッカとバン以外で1部屋埋まっているらしい。

 つまり、他に3人お世話になっている人がいるということだ。その人たちは旅に出ているのでいつ戻って来るか分からないらしい。もう三か月ほど連絡が途絶えているそうだ。
 3人とも討伐者なので亡くなっている可能性もある。半年以内に音沙汰がなければ部屋の物は処分されて部屋は解放されるそうだ。

 それぞれが自分の部屋に入った。
 各人に割り当てられた部屋は10畳くらいの広さだ。ベッド、机、椅子、クローゼット完備、書棚まであるが何も置いて無い。

 当面はここが俺の部屋だな、広くなって快適じゃん。
 でも廊下に出ないと裏庭が見えなくなっちゃったな。

 それぞれが部屋を確認した後は馬車から荷物の運び出し。

「まるで宿ですよね?」
「自分が今まで泊まった中では一番広い部屋っすよ」
「これが個人宅なんだからビックリだよな。
 まるで人が集まって来ること前提で作られた感じだ。
 二階の窓から見えた裏庭は囲まれているから中庭って感じだし。
 敷地外からは何をやってるか見えないだろうな」
「あそこなら周囲の目を気にせず武器の試しができますね」

「早いとこ終わらせちゃお。
 今日はイラックが御馳走用意するって言ってたわよ。楽しみね!」




※この内容は個人小説でありフィクションです。