スライムスレイヤー ~イシノチカラ~

作者:亜形


第61話 魔石の使い方


 イズハに牙犬の誘い出しを任せることにしたトウマとロッカは岩が点在する場所から少し後退して隠れた。牙犬の群れにこちらが三人だと気づかれたら追って来る数が増えるかもしれないからだ。もし、群れ全体で追って来るのならそれはそれで対処しようという話になった。

「イズハ、大丈夫ですかね?」

「イズハは元観測者よ。逃げに徹すればピカイチなんだから。
 とにかく牙犬たちがどこまで追って来るかの確認が最優先」

 イズハは気配を消して牙犬の群れに近づいた。突然現れたイズハに驚いた牙犬たちの眼が緑からいきなり赤に変わる。

「グルルル・・・、オン!オン!」
「「オン!オン!」」

 牙犬たちは逃げるイズハを次々と縄張りから追い立てるように追い始めた。イズハは追って来る牙犬から付かず離れずの距離を保ちつつ走った。
 イズハを追いかけて来たのは手前にいた4~5体だ。
 爪犬は追って来ていない。前足の大きな爪で走るのは苦手なようだ。

 イズハが大きな岩が点在している辺りまで逃げると、追って来た牙犬たちは突如追う速度を緩め始めた。岩で遠くに残っている牙犬たちからの視界が切れる位置までくると完全に立ち止まり、イズハがそこに見えているのにも関わらず引き返して行く。

「縄張りの境界はここだったようっすね」

 イズハはトウマ、ロッカと合流。皆で相談した結果、イズハに縄張りの境界ギリギリまで牙犬たちを誘き付けて貰い、そこで三人で迎撃する作戦でいくことにした。

 イズハの息が整ったところですぐに作戦を開始。イズハが牙犬たちを誘き出し、二人が岩陰に隠れて通り過ぎた牙犬を後ろから不意打ちで2体倒す。残りは三人で無難に倒す。数の不利が生じない戦い方でそれを3回繰り返した。
 残りは追って来ない爪犬3体だけだ。

「残りはこちらから行くしかないわ」
「行きましょう!」

 三人は残っている爪犬の元に向かった。それぞれが1対1で戦う。

 ロッカは爪犬の爪による攻撃を軽やかにかわし、短剣で斬り刻んだ。
 イズハは爪犬が突き出した大きな爪のある前足に糸の輪を通して切断し、体勢を崩した爪犬の喉元にとどめの短剣を刺した。
 トウマは爪犬の攻撃を盾で受け流し、牙犬が振り向く前に剣で斬り伏せた。

 『牙犬の群れ討伐』成功だ!

「ふ~、やっと終わりましたね。全部で16体だったか、結構いたな~」
「連携させなきゃこんなもんね。にしても時間かかったわ。
 イズハ、行ったり来たりでご苦労様!」
「これくらいなら大丈夫っすよ。
 それより留守番しているあの二人は心配してるかもっすね?」

「そうね、早いとこ戻るわよ」

 三人は戻る途中でセキトモと会った。

「なかなか戻って来ないから心配で様子見に来ちゃったよ。
 バンは大丈夫だろうって言ってたけど」
「ご心配お掛けしました。
 時間かかりましたけど討伐自体は見ての通り問題なく終わりましたよ。
 ほら、回収した魔石は16個でした」

 皆が無傷なことを確認したセキトモはホッとしたようだ。

「皆を待ってる間、暇だったからさ。
 二人で馬次郎が落ち着くまで周りのモンスター倒そうってことになったんだ。
 結局、倒したのはスライム4匹だけだったけどね」
「やっぱりいたんですね」
「馬次郎は特にスライムが嫌いだからね」

 街道に戻ると、バンは平地に腰かけられそうな岩がポツポツと円のように五つある場所にいた。馬次郎は草をモリモリ食べている。

「お帰りなさい」
「遅くなりました。こんな岩場ありましったっけ?」
「そろそろお昼ですからね。
 皆さんが座れるように周辺からちょうど良さそうな岩を集めてみました」

 マジ?! この大きな岩を?

「あはは、バンよっぽど暇してたのね」

 この場所はのちに小休憩できる『五岩』と呼ばれるようになる。

「それと、これを試してみようかと思いますので少々待ってて下さいね」

「ああ、忘れてたわ。宿場町で買ったやつね」

 バンが持っているのはコンロのような調理器具だ。『魔石コンロ』というらしい。バンが取り出した魔石・小にナイフで切り込みを入れると覆っていた透明な薄皮が1枚剥がれる。

「魔石って皮被ってたんだ。知らなかった」

「この魔石の薄皮は一般では不要として捨てられているものです。
 でも実は耐熱素材として使えるんですよ。
 熱が通りづらく魔石に火が着かないので剥すのですが、この薄皮の性質を有効活用しているものがあります。
 例えば炎のロッドやトウマさんの炎熱剣の素材の一部ですね」

「マジですか?! この薄皮が俺の剣に使われてる?」

 バンは薄皮を剥した魔石を魔石コンロにセットし、スイッチを押すと火が着いた。

「このように魔石は燃料として使えます。
 この魔石コンロは火力調節可能で弱火だと魔石一個で30時間くらいは火が保つそうです。強火だと10時間くらいでしょうか」

「驚いた、魔石ってこんな使い方あったんですね」

「そこらにいるスライム倒せば魔石手に入るし、旅にこれあると便利そうだと思って買ったのよ。これ50万もしたんだから」

「高っ」

「確かに便利だな。
 火を使う料理をするときに焚き木集めなくてもいいわけだろ?
 しかし、魔石1個で強火10時間か。換金すればこっちでは5千エーペルだよな?
 コスト的には悪いかもな~。しかし、持ち運べるという利点があるし・・・」

「あはは、セキトモさん考えすぎですよ~。
 スライム沢山いるんですよ。
 今はクエストやってるし、換金目的でスライム倒してる訳じゃないですよね?」

「あ、すまんすまん。ついつい昔の癖で。
 討伐者になってしばらくはスライム討伐で日銭稼いでたもんでね。わはは」

「ぷっ、セキトモは生活感出し過ぎよ。
 ま、魔石を市場で買ってこの魔石コンロを使うのなら割に合わないかもね。
 討伐者向け、もしくは非常用ってところかしら。
 店でも奥のほうに眠ってたやつだし高いから売れてないみたいだったわ」

「話を戻しますね。
 鍋と調味料も買ってきていますのでこれでスープを作ってみようかなと」

「おおー」

「食材はこの辺に生えていた食用にできる植物と昨日、肉を少々分けて頂いたのでそれを使います。
 水も使いますがあとは保存食用に持って来ている芋などですかね。
 食材はダメになる前に使ったほうがよいかと」

「こうなると食材保存用に冷蔵庫も欲しくなるわね。
 馬車に乗せられるやつ博士に開発してもらおうか?」
「そんな簡単にできるもの?」
「わかんないけど博士がやる気出せば出来るんじゃない?」
「博士次第か~」

 皆で手分けして料理の準備を手伝い、出来上がったスープを頂いた。上出来だ。

「こりゃいいね。
 オドブレイク以外で手軽に料理できるのは遠出したとき重宝もんかもしれないぞ」

「食って大事よね。干し肉や乾パンの携行食だけじゃ物足りないもの」

「ただ使った食器を洗うのに水が必要ですし、飲み水を使うのは勿体ないので水場の近くでないと頻繁にはできません」

「洗うだけなら水を作れる水のロッドがあるじゃない。
 抗魔玉の浄化の力が抜ければただの水だし」

「そうか、それ使って水を溜めておくのもありだね」

「それやるの私ですよね・・・」

「いや、水出すだけならブースト使う必要ないからバンから借りて皆で持ち回りでやればいいわ。馬車で移動中に荷台に乗ってるひとでやってもいいし、今使ってる皿も試しで洗おう」

「そういうことなら。
 ただし、使用はモンスターが出る可能性が低いところでのみとして下さい。
 戦闘で使えなくなってしまっては意味がありませんので」

「当然ね。メルクベル着いたら旅が快適になる道具も揃えていこう。
 食器も何点かあったほうがいいし、水入れる桶とか必須ね」

「なんか遠出する前提みたいな話ですね?」

「メルクベルのクエストは大体一泊前提だと思ったほうがいいわ。
 討伐者が多いから都市の周辺は割と安定してるのよ。
 多くのクエストは街道から遠く外れた場所にしかいないって感じ」

「今日みたいに馬車に残る者と討伐に行く者で分かれることもありそうだな?」

「近くにオドブレイクもなく馬車で行けないところだとそうなりますね」

「え~、そのときは俺、討伐のほうに行きたいです!」
「自分も」
「僕もだよ」
「私だって行くに決まってるでしょ」

「うふふ。では、そうなったときはくじ引きですね。
 そろそろ出発しましょうか?」

「ヤバッ、のんびりしてたけど次のオドブレイクに着くの夜になっちゃうかも。
 急ぐわよ」

「休んで十分回復したので自分が先に歩くっすよ」
「んじゃ、俺も歩こうかな」

 スレーム・ガングの5人は都市メルクベルを目指し次のオドブレイクに向けて出発した。




※この内容は個人小説でありフィクションです。