スライムスレイヤー ~イシノチカラ~

作者:亜形


第13話 噂の真相


翌朝-----。

「天気悪いな。夜からずっと雨降ってたのか」

 トウマはよほど疲れが溜まっていたのか昼過ぎに起きてしまった。だが寝坊という訳ではない。

 オフで良かった~。
 お昼ご飯を食べた後、道具屋に行ってみよう。

◇◇

 トウマは食事を済ませると道具屋に行った。まずは存在すら知らなかった抗魔玉が店に置いてあるかどうか探してみている。

 さすがに真魔玉は置いてないよな?
 いくらくらいするんだろ?

 しかし、トウマがいくら店内を探してみても抗魔玉すら見つけられなかった。トウマは少し恥ずかしい気持ちもあったが店員に聞いてみることにした。

「すみません。あの、この店に抗魔玉は置いてないんですか?」
「あー、抗魔玉はこの街では入手困難ですよ。元々数が少ない物ですからね。
 引退した方かお亡くなりになった方から譲り受けたほうが早いかもしれません。
 それか売られた中古を探してみるのといいかも知れませんね。
 拾われた物は闇で流れていることが多いですから」

 抗魔玉でさえそんなに入手困難な物だったのか。

 トウマは今後、抗魔玉を手に入れたときの為に腰のベルトに着ける蓋つき3ポケットの抗魔玉入れだけ買うことにした。普段は武器から外して入れて置いてもよい。

 これで5千エーペルもするのか。
 うずらの卵を入れても多少の衝撃では割れないってホントかな?

 抗魔玉を諦めたトウマは武器を見ることにしたが、すべて1スロットタイプしかこの店には置いていなかった。形状の違う武器が2、3種あるがざっくりな価格はこんな感じだ。

 ・1スロットタイプの剣 10万エーペル
 ・1スロットタイプの短剣 5万エーペル
 ・1スロットタイプの槍 15万エーペル
 ・1スロットタイプの弓 7万エーペル
 ・矢30本セット 3万エーペル

 武器って思っていたより高いんだな~。
 少なくとも俺の2スロットタイプの剣はこれ以上するってことだよな?
 弓は金銭的にきついな。矢は使い捨てになる事が多いし、抗魔玉の力を矢のほうに伝達して数秒保持しなきゃならないから特殊加工してあるみたいで高い。戦いが終わったら飛ばした矢を回収する事になりそうだよな~。弓使いは大変だ。ま、俺は弓を使ったことがないから心配無用だけど。剣以外買うつもりもないし。
 
 トウマは防具を見てみた。一式揃えると破産しそうなので買うのは控えようと思ったが、盾を見ていたら兎討伐でバンから借りた丸い盾と似たようなものを見つけた。

 うーん。バンさんが持ってた感じの丸い盾くらいは買っておこうかな?
 モンスターの攻撃を防ぐ物はあったほうがいい。
 実際役に立ったし、これなら他のよりは安そうだ。

 丸い盾 5千エーペルで購入。

 トウマはロッカが使った治癒の薬の相場を知りたくて店内を探してみたが同じ物は無かった。置いてあるのは塗り薬で軽傷向けのみのようだ。中央大陸にならポーションという治癒の薬が手に入るらしいが高額とのこと。

 あの治癒の薬がポーションという物だろうか?
 一通りみたけど、まあ、こんなもんか。
 俺が言うのもなんだけど、ここは東大陸だからな。
 
 トウマは道具屋を出て空を見上げた。豪雨ではないが淡々と雨が降り続けている。

「まだ雨降ってるなぁ~」

 トウマは傘をさし、ギルドに向かった。ギルドに向かう途中、トウマを見てコソコソと話し出す討伐者っぽい人たちを何人か見かけた。

 さっき俺の噂話されてたような?
 傘もさしていたし、雨音で聞きづらかったし、気のせい?

 トウマはギルドの中に入り、カウンター、掲示板、備え付けのテーブル、椅子周りと討伐者がいる辺りを見渡した。

 ロッカとバンさんは来てないか。
 ここに来れば会えるかと思ったけど。

 カウンターのオッサンがきょろきょろしているトウマに話しかけた。

「おう、ボウズ。今日も来たのか?」
「今日、ロッカとバンさんは来ませんでしたか?」
「連れの女たちか。いいや、今日はまだ見てねーな」
「そうですか。有難うございます」

 トウマはクエストの依頼書が貼ってある掲示板を見てみることにした。

 俺一人でも出来そうなクエストないかなぁ。
 このあたりなら難易度Eでモンスターも1体だけだからいけそうな気もする。

 『牙犬討伐』
 『ゴム兎討伐』
 『爪猫討伐』

 クエストには難易度がA~Eの5段階で記載されている。難易度Eが一番簡単なクエストだ。
 難易度は討伐者がクエストを受ける参考として掲示してあるだけである。条件を満たさないと難易度が高いクエストを受けられないという訳ではない。討伐者が無謀な挑戦で命を落とさないようにするためのギルド側の配慮なのだ。クエストを受けるかどうかは討伐者の自己判断。無謀な挑戦もありではある。
 今のところこの街で受けられるクエストは難易度C以下のクエストしかない。

 気づいてなかったけど、昨日のクエスト二つとも難易度Cだったよな?
 いきなり高難易度のクエストに挑んでいたってことだよな。
 あの二人、なんちゅークエスト選択してくれてんだよ。
 俺一人では蛙、蜘蛛、どっちも無理だっただろうな。実際死にかけたし。
 難易度Dのゴム兎10体も初見では厳しかったかもしれない。
 難易度Cで残っているのは最近出たばかりの依頼の『巨大蟷螂(かまきり)討伐』だけか。こいつは殺傷能力高そうだし、避けたいモンスターだな。うん。

 他の討伐者がトウマのほうをチラチラ見て何やら話している。トウマはさっきからそれが気になっていたので素知らぬふりをして聞き耳を立てていた。

「今日も来てるみたいだぜ。がんぐさん」
「破竹の勢いで難易度高いクエスト達成してるもんな」
「まー、がんぐさんも今日は行かんだろ?
 雨降ってるし、雨があがれば俺たちの祭りが待っているし、こんな時くらいゆっくりしてればいいのにな?」
「そう言う俺たちだって暇持て余してここに顔出してるじゃん」
「だな。ははは」

 何か俺のことを話してるっぽいけど、昨日から何なの? 『がんぐ』って。

「あ、がんぐさん?」

 自分に声をかけられた感じがしたトウマが振り返ると、そこには昨日トウマに松明を譲ってくれた槍使いの青年が立っていた。

「あ、どうも。昨日は松明有難うございました」
「噂になってますね。蛙と蜘蛛討伐。僕も聞いてびっくりしましたよ」

「いや~、あれは・・・。
 ところで『がんぐ』って何なんですか? さっきから言われてる気が・・・」

「あ~、ごめんごめん。名前聞いてなかったからさ、パーティー名からね。
 よくあんな名前にしたよね?」
「え?! ちょ、ちょっと待ってて下さい」

 トウマは青年を待たせて慌ててオッサンのいるカウンターに自分たちのパーティー名の確認に向かった。

「オッサン、俺たちのパーティー名って何なの?」
「お前らふざけた名つけてると思ってたが一気に有名になっちまったな。ガハハ」

 パーティーを結成して登録すると、パーティーでクエストを達成した場合にギルドの履歴に残るのはパーティー名だけである。
 複数人でモンスター討伐に挑むことがほとんどなので臨時でパーティー登録、解散することも頻繁にある。どの時点でどのパーティーに誰が属していたかを調べるのは容易ではない。なのでクエストをどのパーティーが達成したということは分かっても個人名を知るのは難しくなるのだ。

 トウマはバーティ―名を知って皆が自分の事を『がんぐ』と言っていた理由が分かった。

 パーティー名:『可愛い女子達(じょしたち)とその玩具(がんぐ)

 その玩具って、どう考えても俺のことじゃねーか!
 ロッカのやろう、こんなところで俺にいたずらを仕掛けていやがった・・・。

 トウマはいろいろ納得した。




※この内容は個人小説でありフィクションです。