スライムスレイヤー ~イシノチカラ~

作者:亜形


閑話 博士とバン


トウマが村を出る約四年前-----。

 博士は悩んでいた。
 うーむ。今回も雨の少ない時期に地下室は作れたがさすがに中央大陸と同じようにはいかなかったな。人員が圧倒的に足りない。
 私はどうでもよかったのだがイラックが邸宅は秘密裏に作らないと意味がないと言うせいで随分時間がかかってしまった。

 まあ、地下室はできたわけだし、あとは地下室周りを目隠しすればいいだろう。
 ここからはこの大陸の業者を使ってもいいよな?
 イラックを何とか言いくるめて手配させよう。
 一応、今は私が主なわけだし、時間が惜しい。

 しかし、三つ子、三つ子、双子、双子で十人兄弟とは。
 しかも男ばかり、どういう繁殖力だ、今は亡き先代執事のバイラックじいよ。倍どころか10倍じゃないか? いや、二人で作ったんだ。5倍か。
 皆、私に仕えてくれているが同じような顔だから全員ついてくると異様なんだよな。どうにか分散させないと。

 今作っている各地の邸宅の管理を任せることにしようかな?
 中央大陸に三人だろ?
 東大陸に一人。
 西大陸に一人。
 南大陸に一人。
 北大陸は中央大陸から結構遠いし、未開拓の地だから街と呼べる場所がないな。となると割とモンスターの少ない東大陸の中心バルンバッセと大橋の手前にあるアーマグラスの2カ所に作るか。そこはホラックとリラックに任せよう。まあ、中央に近いほうをホラックが取るだろうな。
 皆に放置されていると思われるとなんだから各邸宅間でできる通信設備も考えてみるか。緊急連絡用にして定期報告とかでもやらせれば大丈夫だろう。
 まあ、各地で何かできることもあるだろうし、追々だな。
 これで7人か、あと3人。

 情報収集能力が長けているチラックにはしばらく観測者になって貰うとするか。リラックの一つ上の兄だったかな? 歳はくってるがあの兄弟の中では若いほうだし能力は十分にあるだろう。影が薄いしな。上手くいけば観測者の上層部にも伝手ができたりしてな。
 情報収集者として各地を回って貰うのもありだ。

 トラックには運送関連をやって貰おう。各邸宅間の物資のやり取りが秘密裏にできるように運送会社でも作らせるか。

 末弟のヌラックが器用なのは知っている。ヌラックには私の研究の役に立って貰うとするか。専用の工房をどこかに用意してやってもいいな。

 よし。大体の方向性は決まった。

 数日後。
 現地雇用する労働者の面接だと?
 労働力を確保するだけでいいんじゃないのか?
 イラック厳格過ぎないか?
 まあ、面接するのはイラックなんだが私まで脇で参加させられるとは思っていなかった。気になる場合は言えといわれてもな。
 邸宅の建築はこれから先イラックに全部任せるつもりだったのに。
 他にも作ってるんだからもう私が支持しなくても知ってるだろう。同じ建物を作るだけなんだから。
 人選を変えるか?

「次の方、お入り下さい」
「失礼します。私はバンと申します。宜しくお願いします」

 ん? 女の子? 子供じゃないのか?
 えーと、歳は14?
 まあ、働いてもいい歳ではあるか。
 両親が亡くなって今は親戚の家に厄介になっているので一刻も早く一人立ちしたい、か。
 仕事はほぼ力仕事なんだがな。
 この小さな女の子じゃきついだろう。

 数日後。
 あの女の子が石材を運んでいる。

「イラック、何であのコがいるんだ?」
「旦那様、ここでは『博士』と呼ばせて頂きます。
 現地の労働者がいますので身バレしないよう研究者という立場で振舞って頂ければと」
「ん、分かった。ではそれっぽくこれからは私は君づけで呼ぶとするか。
 イラック君、それで何故あのコがいるんだ?」
「はは。バンのことですな? 面白いコですぞ、頭も良い。
 最初は断ったのですが、役に立つから力を見て欲しいと言われましてね。
 確認しましたところ彼女は大人の男より力が強かったのです」
「本当か?」
「それも異常なほどです」

 イラックに調べさせた。実際に調べたのはチラックだろう。
 バンという少女。
 かなり分岐しているようだが血筋を遡ると今は滅んだ王家の末裔にあたるようだ。おそらく、その王家が関係しているのだろう。
 太古の昔に存在したとされる『巨人族』の末裔とまで言われ、異常な力でのし上がったとされる王家だ。
 それが本当なら覚醒遺伝か?
 血縁でバン以外に異常に力が強い者はいないという。
 あの小さな体に似つかわない凝縮された力。面白いコだ。

 私の勘でしかないが彼女もできるような気がする。
 是非とも私の計画に加わって欲しい。
 何か口実はないだろうか?

 しばらく彼女の様子を見ていたが、彼女は武器に興味を示しているようだ。
 イラックが剣術の稽古をしているのをよく見ている。
 最初は剣術のほうに興味があるのかと思ったがイラックが剣を抜いて抗魔玉の力を見せると目を輝かせていた。
 どうやら抗魔玉の力のほうに興味があるようだ。
 いいぞ、彼女とは波長が合いそうだ。

 あれから数週間経った。
 あと少しで邸宅が完成してしまう。
 内装はこちらの面子でやるから彼女はもうお役御免になる。
 間に合って良かった。
 彼女用に作った槍。
 普通の槍よりかなり短いがこれでも抗魔玉の力を伝達できる対モンスター用の武器だ。まだ完成していない邸宅の地下室に夜な夜な忍び込んで作った。少し寝不足だ。
 材料や工具もそろってなかったし、私の作品として誇れるものではないが。
 だが、今は逆に未完のほうがいい。

「バン君、ちょっといいか?」
「何でしょう? 博士。
 よくウロウロされていますよね? 研究のほうは大丈夫なのですか?」

 心配されてしまった。

「はは、大丈夫さ。これでも私は優秀なんだぞ。
 それよりバン君。
 もうすぐ君の仕事の契約が終わると思うのだが次は決まっているのかね?」
「いえ。残念ながらまだ・・・」

「良かった。実は君に頼みたいことがあるんだ」
「え? 何でしょう? 私にできることでしょうか?」

「私の作った武器の評価をお願いできないかな?
 根拠はないが私は君が適任だと思っている。
 勿論、契約なのでそれなりの報酬を出すつもりだ。
 但し、この邸宅が完成したら私は中央大陸に戻るので今後同行して貰うことになる」

「中央大陸? 行ってみたいです!」
「それは良い返事を貰えたと思っていいのかな?」

 バンは顔を赤らめながらも頷いた。

「まずはこれだ。この槍を評価して欲しい。
 契約書や評価方法等の書類もあとで用意しよう。
 始めるのは今の仕事が終わってからでいいからな。
 それから武器の評価をするには実戦が必要だろう。
 イラック君にスライム討伐にでも連れて行って貰えるよう頼んでおくよ」

「この槍頂けるんですか?」
「ああ、抗魔玉付きだ。高いから失くさないでくれよ」

「有難うございます! 私、頑張ります!」

 バンは渡した槍を大事にかかえて仕事に戻って行った。

 よし!うまく行った。
 彼女は私の良き協力者になってくれるだろう。
 おっと、何も考えていなかったが契約書の内容を考えないと。
 誰でも契約できるってならないようにバン君の成長と共に徐々に敷居を上げていく感じにしよう。
 まあ、私の計画を実現させるために強さは必要不可欠でもあるからな。

 邸宅の内装工事をしている間、バンをイラックのモンスター討伐に同行させた。

 私の勘は当たったようだ。
 イラックが驚き?興奮?悔しい?何とも言い難い表情で報告してきた。

 抗魔玉の力の解放。

 彼女はこの短期間で力の解放に至ったのだ。凄いことだ。
 イラックの剣術は凄いものだが抗魔玉の力は解放できない。
 ただ知っているだけだ。そういうこともできると口にしただけだ。

 イラックもバンを気に入っているようだし大丈夫だと思うが、腹いせにバンが稽古でしごかれないことを祈ろう。

 中央大陸に戻る日がやってきた。
 バンも旅の荷物を抱えて同行してくれる。
 完成した邸宅はヘラックとその家族に管理を任せた。
 彼らが落ち着いたら何かやって貰おう。

 ただ、一つだけ誤算があった。
 3日前、急にバンが小さな女の子を連れて来た。
 今も自由奔放に駆け回っている。
 一応、基礎的な学習は終えているようだが手を焼きそうだ。
 バンが言うには彼女は凄くなるという。
 討伐者という意味でだ。だがとても信じられない。

 彼女はバンより一つ年下で13歳だ。
 大人になれば大差ないがこの歳の1歳違いは大きい。
 仕事として契約してよいのは14歳からだ。彼女はまだ満たしていない。
 バンのように特に力が強いわけでもない。
 イラックのモンスター討伐に同行させてみるわけにも行かないだろう。

 彼女は孤児のようなのでバンの説得にまけて保護者として預かることにしたが。
 うーむ。小さな少女を二人も連れ帰ったら皆に何と言われるか心配だな。

 まあ、今更か。




※この内容は個人小説でありフィクションです。