スライムスレイヤー ~イシノチカラ~

作者:亜形


閑話 トウマ幼少期の出来事


 トウマ6歳。元気一杯の男の子である。
 トウマは村はずれの小さな一軒家に住んでいる。

「ただいま!」
「お帰り、トウマ。村からは出んかったろうな?」

 トウマのじいちゃん。
 この村では『ケンじい』と呼ばれているが名は『キュウケン』という。白髪のオールバックで髭を長く生やした老人であるが背筋はしっかり伸ばして杖はついていない。

「もう! いつもいつも。分かってるって! じいちゃんしつこいなー」
「この村の規則なんじゃ。
 お前は何度も言わんと守らんじゃろ? この前も出ようとしてたろうが!」
「うっ。それを言われると・・・」

 この村では12歳になるまでは村から外へ出ることを禁じられている。12歳になっても一人で出ていいのは16歳からだ。それまでは誰か大人と一緒でなければ村の外に出てはいけないという規則がある。過去にモンスター被害にあった経緯からできた村の規則だ。

 子供たちにはよく言い聞かせてある。「一人で出たら死ぬよ」と。

 キュウケンとトウマはトウマが3歳の頃、この村に戻って来た。
 キュウケンはこの村の出身なのだが実はトウマが生まれた地は中央大陸である。
 トウマの記憶には残っていないがキュウケンとトウマは中央大陸にいたのだ。
 キュウケンはトウマの両親をモンスター被害で失った。愛する妻も病気で逝ってしまったことでトウマを連れて故郷に戻ったのである。
 両親が亡くなっていることはトウマにもちゃんと教えてある。

 キュウケンは村に戻ったときは普通に話していた。だが、子供たちから白髪の爺さん扱いされて次第に爺さんっぽい言葉遣いになっていった。
 今では子供たちから爺さん扱いだが、大人たちは違う。
 このキュウケンが戻って来たことにより、村の安全性が格段に上がったのだ。
 キュウケンは中央大陸から抗魔玉の力を持った粉を大量に持ち帰った。
 村に戻るやいなや村の周囲の柵や塀、各家の屋根、あらゆるところに粉を混ぜた塗料でモンスター除けの対策をしてやったのだ。
 それからモンスターはほとんど村に寄って来なくなった。
 村の人たちはキュウケンに対しての感謝を忘れてはいない。

 キュウケンにはまだ村の人たちに隠している秘密がある。
 キュウケンは若い頃に中央大陸で名をはせ、剣聖とまで呼ばれた討伐者である。二刀流を得意とするわけではないが良質な二本の剣を村に持ち帰った。
 ひとつは1スロットの剣、もうひとつは2スロットの剣である。どちらも抗魔玉が着いており、2スロットの剣のほうには真魔玉【赤】も着いている。

 村の近辺に出現した危険なモンスターはすべてキュウケンが倒している。
 村の一部の人しか知らないことだ。変に気を使われても困るとキュウケンが口止めしている。
 村で見込みのある三人の若者にこっそりと剣術の指南もしている。村をモンスターから守れる者たちを育成するためだ。
 村長に頼んで高額だが抗魔玉付きで1スロットの剣を三本揃えて貰った。村長でもキュウケンの頼みを断れる訳はない。このことも勿論秘密だ。

 今ではキュウケンが育成した若者タイル、ヨゼ、アービンの三人で村人が村を出る際の護衛をしてくれるまでになっている。

「トウマもあと数年経てば鍛えて始めてもいいかもの。ふおふぉ」
「何か言った? じいちゃん」
「いや、なんでもない」
「ボケたんじゃねーよな!」
「こら、トウマ! 何を言うか、ワシはまだもうろくしとらんぞ!
 それにその言葉使いはなんじゃ! どこで覚えてきた?」

 拳をあげるキュウケンを見て、トウマは逃げる。

「こえ~!」

 トウマが影響を受けているのはよく一緒に遊ぶトウマより4つ年上で村一番のガキ大将レオリットだ。
 レオリットによってトウマは数々のいたずらを教えられる。落とし穴を掘ったり、ドアノブをツタで括りつけて開かなくしたり、食べ物に辛いものを仕込んだり、小さいコの足を引っかけて転ばせて泣かせたり。

「レオリットの奴じゃな。全く余計なことを教えよってからに・・・」

 今、レオリットが熱心なのはキュウケンである。数々のいたずらを仕掛けてもキュウケンには看破されるのだ。トウマにケンじいの弱点は何かないかよく聞いている。
 レオリットは何かいたずらを仕掛ける度にキュウケンにメッチャ怒られている。
 トウマはああいうことをすると怒られるんだなと、レオリットを反面教師として様々なことを学んでもいるのだ。


そんなある日の出来事-----。

 村の護衛の若者の一人、タイルが慌ててやって来てキュウケンに声をかけている。

「キュウケンさん急いでくれ! もう村のすぐ近くまで来ているんだ!」
「分かった、分かった。年寄りを急かすもんじゃないよ」

 村の子供たちは家の中に全員避難させた。
 トウマは近所の家に預けている。

 キュウケンは二振りの剣を腰に携え村の外に向かった。
 村の外に出ると遠くで暴れ狂う巨大牙猪がそこらの木にぶつかってなぎ倒しているのが見えた。

「俺たちじゃ、あいつは無理だ。
 ヨゼとアービンがなんとか村に来ないように引き付けているがいつこの村に突っ込んで来てもおかしくない。
 家なんて吹き飛ばされちまうよ。もうキュウケンさんにお願いするしか・・・」

「ふむ。巨大牙猪か、にしても相当でかいのう。
 この辺の奴じゃないな、食われた猪はどうすることも出来んかったじゃろうて。
 あのでかさで何を食って生きるつもりなんじゃろうな?
 うーむ。あれを迎え撃つのはワシにも無理じゃ、吹き飛ばされるわい」

「そんな・・・。キュウケンさんでも無理なのか?」

「まあ、待て。
 迎え撃つのじゃなく、こちらから仕掛けて倒すしかないと言っておるのだ。
 久しぶりに腕が鳴るわい」

 そう言うと、キュウケンは身体をほぐし始めた。

「これから見せるのは他言無用じゃぞ。いつも通りお前らが倒したことにせい」
「・・・分かりました」

 キュウケンは腰の2スロットの剣に手をかける。

「こいつを使えばいけるじゃろう。多少やり過ぎるかもしれんが・・・。
 では行って来るぞ。お前らは巻き込まれないように離れていろ」

 キュウケンは巨大牙猪の方へ静かに向かい背後に回った。巨大牙猪は全くキュウケンに気づいていないようだ。怒りを露わにしている巨大牙猪にゆっくりと歩きながら近づく。
 次の瞬間、縦、横、斜めと剣線が走る。目にも止まらぬ三連撃だ!

「炎熱剣ブースト2倍じゃ」

 キュウケンが抜いた剣を鞘に納めると同時に巨大牙猪の全身がバラバラに斬り落とされ炎上した。
 巨大牙猪は炎と共に霧散していく・・・。

「うーむ、やはり。やり過ぎだったようじゃ。
 でかいから奥まで斬撃が伝わるようにしただけじゃったが・・・」

 その光景を見ていた三人の若者は口をあんぐりと開けて呆然としている。

「おい! お前ら。何ボケっとしとる。もう終わったぞ!」

 キュウケンは回収した魔石・大をタイルに渡した。

「ワシが持っている訳にはいかんからの。
 大した金にはならんかもしれんが、これはお前らが街へ出向いたときにでも換金してくるといい。その代金で不足している装備でも揃えるとよかろう」

「いいんですか? 有難うございます!」

 村の敷地内ではレオリットが一人でこっそり家から抜け出し、木に登ってその様子を見ていた。

「な、なんだ?!
 ケンじいがバカでかい猪に近づいたと思ったらバラバラになって燃えちまった・・・。
 あれケンじいがやったのか? ウソだろ?!」

 キュウケンと若者三人が村に戻るとレオリットが走って向かって来た。

「ケンじい! オレに剣を教えてくれ! ケンじいみたいに強くなりたいんだ!」
「なんじゃ、レオリット。見ておったのか・・・」

「オレ、ケンじいがあんなに強いなんて知らなかったぜ! なあ、頼むよ!」
「まいったのう。お前のことだ、教えるまで付きまとうつもりじゃろ?」

 今見たことは秘密にすること、習った剣を人に向けないことを条件にレオリットはキュウケンに弟子入りすることになった。
 それからのレオリットは毎日のようにキュウケンの元に足を運んだ。
 雑用なども引き受ける。
 口の悪さは相変わらずだが近所ではあの悪童が突然真面目になったと噂される。

「えい! えい!」

 木の棒で素振りを繰り返すレオリット。それを見ていたトウマがレオリットの真似をしだすのにそう時間はかからなかった。

「「えい! えい!」」

 その後、村最強とまで言われるほど成長したレオリットは討伐者になるためにトウマより3年早く村を出て行った。村周辺で相手になるモンスターがいなかったからである。護衛で街に行った際に討伐者たちを見たことがきっかけのようだ。
 レオリットが一人立ちして会うことは少なくなっていたが、トウマがその影響を受けたのは間違いないだろう。

「俺もいつか討伐者になる!」




※この内容は個人小説でありフィクションです。