スライムスレイヤー ~イシノチカラ~

作者:亜形


閑話 バンとロッカ


 私は物心ついたときには周りの人たちより力が強くなっていました。
 周りからはバンは特別なコと言われて大事にされていました。
 ですが、両親を失った私は親戚の家に行くことになりました。
 その親戚の家族は優しいのですが、私をどう扱ってよいか迷われているようです。ご迷惑をおかけしているかもしれません。
 今は、一刻でも早く自立して出ていなかければと思っています。

 雇って貰える歳になったので仕事を探していたら、ある邸宅の建設に労働者として雇って貰えました。少し恥ずかしかったですが、力があるところを見せてアピールしたのは正解でした。

 主な仕事は石材を運ぶことです。
 皆、大変だろうと声をかけてくれます。
 そこまで力は必要ないのですが・・・。

 しばらく経つと慣れて頂けたのか、一緒にもっと重い物を運ぶことも任されるようになりました。私もようやく一人前として認められたのです。
 でもこの仕事には期限があります。
 この仕事が終わったら次の仕事を探さなければなりません。

 邸宅の建設状況を見によく依頼主のイラックさんが来ます。彼は休憩時間になると剣術の稽古を始めます。私はそれをよく見ています。
 彼は討伐者でもあります。たまにモンスター討伐の話をしてくれます。
 聞いたことはあったのですが抗魔玉という石の力を使ってモンスターを倒すそうです。実際、剣に抗魔玉の力を伝達させた状態を見せて貰えました。
 何か不思議な感じでした。興味深いです。

 たまに現場をウロウロされている博士と呼ばれている方がいます。何を研究されている方かは分かりません。
 博士が声をかけてくれたのは仕事の契約終了が近づいていたときでした。
 制作した武器の評価をして貰いたいと。
 何かを研究されている方だと思っていましたが、博士は武器を制作しているようです。
 武器の研究家?
 未経験の私に武器の評価なんてできるのだろうかと思いました。でも、博士は何の根拠もなく私が適任だと言ってくれました。必要とされた感じがしてうれしかったです。しばらく顔が真っ赤になっていたかもしれません。
 ですが、決して恋というものではありません。
 契約を結ぶと博士に同行して中央大陸に行かなければならないようですが私にとっては有難い話です。自立したらいつか行ってみたいと思っていたので。

 まずは博士から頂いた槍を評価しなければいけませんでした。
 今の仕事が終わってからでよいという話でしたが、槍を突く練習くらいはこっそりやっています。

 仕事の契約が終わるとイラックさんのモンスター討伐に同行させて貰いました。
 最初はクエストにないスライム討伐からでした。
 私の槍を刺すだけでスライムは倒せてしまいます。武器の力は凄いです。

 抗魔玉の力には解放という次のステージがあるようです。
 力の出力を通常より増やして武器の威力を上げることができるとか。使えればモンスターに対して通常以上の力を発揮できるようです。
 ですが、剣術に長けたイラックさんですらできないという話でやり方も判明していないそうです。
 きっと、私には無理でしょう。でも興味深いです。

 イラックさんのモンスター討伐に同行していたある日の出来事でした。
 いつもは私がドジをすると、イラックさんがフォローしてくれるのですがたまたま距離が離れてしまいました。
 イラックさんが中型のトカゲのモンスターと戦っているときに私がスライムを見つけて離れたのがいけなかったのです。
 小型ですが私は複数の蛇のモンスターに囲まれました。
 私はもうダメだと思いました。蛇は槍を刺しただけでは倒せなかったのです。
 私は必死で抵抗しました。
 イラックさんが慌ててやってきて驚いていました。
 気づいたときには蛇たちが霧散していたのです。
 イラックさんを見て安堵したのか私は気を失ってしまいました。
 あとで説明してもらいましたが、私は抗魔玉の力を解放していたそうです。

 その後、イラックさんの稽古が厳しくなりました。
 自在に力を解放できるようになれと。
 何か期待されているような気がしたのでもっと頑張ってみようと思います。

 力の解放はすぐには再現できませんでした。
 でも少しずつ感覚がつかめてきて集中すれば解放できるようになりました。
 イラックさんは興奮していました。
 どうするのか教えて欲しいと言われましたが上手く説明できないのが残念です。

 用事があってイラックさんが数日空ける日がありました。
 ダメだと言われていましたが、私はこっそりスライム討伐に出かけました。
 そこで一人の女の子と出会いました。
 私より一つ年下のコでした。彼女の名前はロッカ。
 ロッカは20cmほどの短いダガーナイフでスライムを倒していたのです。ダガーナイフは抗魔玉の力を伝達させる武器ではありません。
 山道を歩く際に茂みや木の枝、ツタなどを伐採するときに使うような堅めのナイフです。他は皮をむいたり、野外での調理などに使う感じでしょうか。
 なぜそれでモンスターを倒せるのかというと、ロッカはもの凄く動きが速いんです。モンスターに何もさせないで一方的に切り刻んでしまうのです。
 戦っているときの彼女はちょっと怖いくらいです。

 ロッカはあっさりスライムを倒してしまいますが抗魔玉の力無しで倒すのは大変なことです。
 スライムは二等分してしまうと複製体ができて増殖します。
 端から少しずつ削っていくのがコツだそうです。
 堅い地面なら手当たり次第踏んづければ倒せるとも言っています。私の知らなかった倒し方です。
 もしスライムを分裂させてしまったら本体を倒したあとで複製体を切ればすぐに消えるらしいです。
 色々試したのでしょう。イラックさんでも知らない倒し方かもしれません。

 ロッカは孤児だそうでお小遣い稼ぎにモンスターを倒しているらしいです。モンスターが落とした魔石はお金になりますからね。
 ロッカはスライムより擬態したモンスターを倒すほうが楽だそうです。手あたり次第切り刻んで動けなくして頭か中心付近を刺しまくればいつか霧散すると言っています。小型しか狙わないのは大きいとその分倒すのに時間がかかるからだそうです。ナイフが刺せない堅そうなのも狙わないようです。
 理屈では分かるのですが、それを実際にやれるかは別な話ですよね?

 ロッカは将来討伐者になりたいようです。今の私と一緒ですね。
 私はロッカに抗魔玉の力を伝達させる武器を使えばもっと楽にモンスターを倒せることを教えました。
 ロッカは知っていました。武器は高くて買えないだけだと言われました。
 少し恥ずかしい思いをしました。

 私はこれなら知らないだろうと思ってロッカに抗魔玉の力の解放を見せました。
 やっと驚いてくれました。
 それから会うたびに私の槍を使わせろとしつこく言ってくるようになりました。
 でもこれは大事な物です。絶対、貸しません。
 そのうち自分で武器を手に入れるからもういいと言ってくれたときはホッとしました。

 お別れの時が近づいていたので仲良くなったロッカに中央大陸に行くことを伝えました。ロッカは迷いなくついて行きたいと私に言ってきました。

 私はロッカの力になってやりたいと思いました。
 それに討伐者としてならロッカは将来凄くなる気がします。
 抗魔玉の力無しでモンスターを倒してしまうコです。他は分かりませんけど。

 あとは博士をどう説得するかです。
 二人は秘密にしているつもりなのでしょうけど博士が邸宅の本当の主なのはもう分かっています。

 イラックさん、たまに旦那様って言うんですもの。




※この内容は個人小説でありフィクションです。