オフ2日目-----。
トウマ、セキトモ、イズハの三人は都市の東門周辺にやって来た。昨日と同様に周辺の店を見て回った後、飲食店で昼食を取っているところだ。
一泊するつもりなのでトウマはいつもの鞄、セキトモは小さめの背負い袋、イズハは腰に巻いている風呂敷に着替えを入れて持って来ている。
「ここは南門周辺とさほど変わらないですね?」
「わざわざこっちに来てまで買う物ってのは無さそうだね。
東門側のクエストに行くときに必要な物があったら寄るって感じかな?
主なところは中央広場から行ったほうが近いみたいだし」
北東側は都市の中枢機関の建物、ギルドの本部、都市の図書館と大きな病院、研究施設や乗合馬車の宿舎などがある。
都市内で利用できる施設が多いのは門周辺と中央広場周り、中央通り沿いに集まっていて他は住宅地や工場等だ。客が入れるような施設はほとんどないので外壁近くの隅々まで見て回る意味もない。
「自分たちが利用するとしたら図書館くらいっすかね?」
「図書館はもっと時間が取れるときに行ったほうがいいね。
本読み出すとあっというまに一日が終わってしまうよ。
南東側は大型店舗以外回ってないからそっち探索してみないか?
確か学校があるって言ってた気がする」
「学校か~。アルシュいるかな?」
「大きいんすかね?
東大陸の街や村の学校と呼べそうな所は小さかったっすけど」
「どうだろうね? 実際、見てみないと分からないな。
夜は北西側の温泉宿に泊まるつもりだけど周辺探索は明日でいいよね?
とりあえず南東側の学校を見に行ってみよう」
店を出ると路上が少し濡れていた。少し雨が降ったようだ。
「雨降ったのか。傘持ち歩いたほうがいいのかな?」
◇◇
三人は都市南東エリアを探索するため一旦、中央広場に向かった。中央広場に着くと食べ物の匂いが漂っている。
「あ~、また匂いに誘われる~」
「分かるっす」
「さっき店で食べたばかりだろ」
大型店舗を通り過ぎてしばらく南東の方向に進んでいると子供たちの声が聞こえだし、柵に囲まれた広場のような場所に出た。少ないが遊具が設置されている。奥に建っている建物の前に子供たちが集まって何やらやっているようだ。
すると三人の元に一人の子供が走って来た。アルシュだ。
「なんか見たことあると思ったらやっぱりトウマたちじゃん。
何しに来たんだ?」
「何しにって、この辺に学校があるって聞いたから見に来たんだよ」
「ここ学校じゃないぞ!」
「え? 違うの? だって子供いっぱいいるじゃん」
「ここは孤児院ってところだ。
親がいない子供が住んでるところなんだぞ。知らないのか?」
「セキトモさん、ここ孤児院だって」
セキトモは子供たちが集まっているほうを眺めた。
「そう言われてみればメルちゃんと同じくらいの幼い子もいるな。
アルシュは何でここに?」
「俺は課外授業ってやつだよ。
これからここでスライムを倒すところを見せてもらうんだ」
「「は?」」
アルシュの説明によると、雨水を集めてスライムを意図的に作り、子供たちが討伐の訓練をしているとか。
「スライム作ってるって・・・」
「なんか常識が一気に覆った気分だよ」
「自分も作るって発想はなかったっす」
「昨日、今日で少し雨降っただろ? 希望出して見学に来たんだ」
メガネをかけたいかにも先生っぽい男性がやって来た。
「アルシュ君、そちらの方々は知り合いかね?」
「あ、ノストル先生。この人たちはうちに来てる討伐者の人たちだよ。
マ、コホン、母から家族と思っていいって言われています」
「ほ~、それはそれは。討伐者の方々ならちょうど良かった。
私はノストルと申します。学校の教師をしている者です。
これから子供がスライムを倒す訓練をするのですが一緒に見てはくれませんか?」
「見ても宜しいんですか?」
「ええ。今、ここの管理を任せている討伐者の方が何処かに出かけておりまして。
その方の帰りを待っていたのですがいつ戻るのか分からず困っていたのです。
広場に降った雨程度ではスライムが発生することはないと思っているのでしょう。
それでいきなりで申し訳ないですが万一のときの対処をお願いできないかと」
「ああ、そういうことですか。分かりました。二人ともいいよな?」
「大丈夫ですよ」
「問題ないっす」
三人はスライムを作っているという場所に案内された。途中で合流した子供たちがぞろぞろとついて来ている。
「ここです」
スライム生成所。それは25m×25m程度の枠で囲まれていて網を被せてあった。枠の中に各所から雨水が流れくるように設計されているようだ。枠の中は微妙に傾斜がついていて床面には細かい凹凸がありスライムの素が引っかかるようにしてある。水だけを排出しているとか。凹凸に引っかからなかったスライムの素は排水口で浄化されるようだ。
それから枠内で発生したスライムが外に出ないように外枠と被せてある網には抗魔玉の粉が練り込んであるそうだ。被せる網が無くてもスライムが飛び出すことはないとのことだが誤って子供たちが入らないように念のため被せてあるらしい。
少し大きい子供たちが被せてある網を外した。
「あっ、スライム3匹も出来てますよ!」
「どれどれ」
三人も枠の中を覗いてみると本当に3匹確認できた。通常サイズのようだ。
ノストル先生が言う。
「狭いですからね。スライムが複数発生して時間が経ってしまうと融合して大きくなってしまいます。早いうちに倒さないと勿体ないですね」
「勿体ない?」
「ああ、1匹と3匹では取れる魔石の数が違いますからね。
取れた魔石は換金してこの施設の運営資金に回されていますので」
スライムが3匹程度融合しても落とす魔石は小のままだとか。
「だから勿体ないか。それは早めに倒さないとですね」
本日の討伐訓練を実習するのは12歳になったばかりの男の子のようだ。長めの棒の先が小さめのハンマーになっているような武器を持っている。男の子は抗魔玉を手渡されて少し緊張しているようだ。
「勿論子供たちに強要している訳ではありません。
やるのは将来討伐者になりたいと志願している子供です。
まだ子供に刃物を扱わせるのは危ないですからね。
まずは叩いてスライムを倒す経験を積んでもらう感じです」
「なるほど。それで小さなハンマータイプですか」
「ジニー、頑張れ~!」
「やっつけろー!」
ジニーと呼ばれた男の子が抗魔玉を武器に装着して恐る恐る枠の中に入った。
すると、ジニーの近くにいたスライムがズルズルとジニーに近づき始めた。ジニーはスライムに向けて何度も武器を振り下ろし1匹目のスライムを倒すと周りで見ている子供たちから歓声を浴びた。
「やった! 倒せた!」
喜んでいるジニーを見て三人は苦笑いだ。
目つぶってたし、あのコ危なっかしいな。はは。
ん?
トウマは枠の中に飛び込み、背後からジニーに襲い掛かろうとしていたスライムを一瞬で斬り伏せた。スライムが霧散していく・・・。
「え?」
ビックリして振り返ったジニーにトウマは言った。
「油断したらダメだよ。スライムは複数いるんだから」
「あ、ありがとう」
「さ、もう一匹残っているぞ。今度は目をつぶらずしっかりと動きを見て倒すんだ。
魔石の回収はスライムを全て倒し終わってからだよ」
「わ、分かりました!」
ジニーはトウマに言われた通りしっかりとスライムの動きを見て叩き倒した。
「よくできました」
「ありがとうございました!」
魔石を回収して二人が枠から出ると子供たちが二人の元に集まった。
「ジニーやったな!」
「兄ちゃん凄いな」
「カッコよかった!」
ワイワイ。
子供たちからようやく解放されたトウマは二人の所に戻った。
「トウマ、ご苦労さま。なんか先生みたいだったね」
「人気者になっちゃったっすね」
「いや~」
アルシュがやって来た。
「トウマ、やるじゃん。強いんだな」
「討伐者ならアレくらい誰でも出来るよ」
「そうなのか~、討伐者って凄いんだな。俺もいっぱい鍛えて強くなるよ!」
「ロッカとバンは俺たちよりもっと凄いんだぞ」
「ウソ?」
ロッカとバンを見る目が少し変わるアルシュだった。