スライムスレイヤー ~イシノチカラ~

作者:亜形


第69話 隠れ温泉宿見つけた


 トウマ、セキトモ、イズハの三人はアルシュとノストル先生、何人かの生徒と一緒に学校へ向かっている。学校を案内してくれることになったのだ。
 歩いて10分もかからないで学校に着いた。孤児院より更に大きい広場と宿舎のような飾り気のない三階建ての建物。そこは孤児院よりもっとたくさんの生徒がいるようだ。

 ノストル先生は歩きながら話す。

「学校の校舎の中までは案内できませんが広場に入ったり、外から眺める分には問題ありませんよ。学校に迷惑をかける行為をしなければですが」

 校舎の1階は練習生と1回生、2階は2回生、3階は3回生が勉強していると言う。
 6~12歳の子供が入学できて練習生から始まるそうだ。回級を上げるには試験に合格する必要があり、卒業証明を貰うには3回生になって最終試験に合格する必要がある。試験は半年に一回行われるため最短2年ほどで卒業証明が貰えるそうだ。
 ただし、受け入れ限度年齢までは残ってもいいので平均は12歳くらいで卒業していくようだ。14歳になると働く能力があると判断されて強制退学か卒業らしい。
 都市の補助で無料で開校しているからだろう。
 家庭の事情で通えなくなり途中で辞めていく生徒も多くいるとか。

 アルシュは最近試験に合格して1回生だそうだ。一緒にスライム討伐を見学に来ていた生徒も1回生とのこと。

「俺、戻るから! 勉強もしないとな。
 いつまでもトウマたちの相手はしてられないんだよ」
「はは。またな!」

 アルシュと他の生徒は自分の教室に戻っていった。

 大きい広場で遊んでいる子供たちを眺めているとノストル先生が言う。

「ここ広いでしょ? 子供たちには土や草に触れて駆け回って欲しいですからね。
 あえて石畳で敷き詰めることはしていません」

「この広場ならスライム発生しそうですけど、どう対処しているんですか?」

「万一、スライムが発生した場合はすぐに担当の討伐者が来てくれて処理して貰うようになっています。ですが大抵はスライムになる前に浄化してしまいますね。掃除と一緒ですよ。抗魔玉の粉を混ぜた浄化棒でスライムの素に触れたり突いたりして浄化していきます」

「へ~、さっきみたいに集めてスライムにしたほうが儲かりそうだけど」

「スライムになると襲ってますからね。それに広場に散らばっている少量のスライムの素を集めるのは大変ですから誰もやりたがりませんし」

「広場の管理は大変そうですね」

「浄化は楽しそうに生徒がやってくれますのでそうでもありませんよ。
 スライムの素を探して浄化するのが面白いんでしょうね? はは」

「あー、霧散しますからね。それが楽しいのかも。
 子供たちにとって雨降った後は小さな祭りかもしれないな」

 三人はざっと学校の外回りを見せて貰った後、ノストル先生に案内のお礼を言い、中央広場に戻ることにした。

「学校けっこう大きいところでしたね」
「外回り見るだけだったけど学校の仕組みまで教えて貰ったからね」
「自分卒業生には学力負けてるかもっす。試験とかなかったっすから」
「それは俺も」
「僕もそうだし、それは言わないでおこう」

 三人は北西の温泉街までやって来たが案内所で貰った案内図を困った顔で見ていた。何件かの宿を回ったがどこも満室で断られてしまったのだ。

「人気の宿はどこも満室かぁ~、なかなか厳しいね」
「博士の邸宅に戻ります?」
「いや、まだ諦めるのは早いよ。もう少しこの辺りで探して見よう」

 色街の人なのか妙に着飾った綺麗な女の人が時々歩いていく。

「自分ちょっと先を見てくるっすよ。宿見つけたら知らせるっすね」
「イズハ、色街に行く気じゃないよな?」
「そ、そんなことないっすよ。宿探すだけっす」
「別れると俺たちが何処いるか分からなくなるんじゃない?」
「この辺りにいると分かっていれば見つけられると思うっす」

 あっという間にイズハはいなくなった。トウマとセキトモは「イズハ、怪しい」と疑っていた。

 周囲には土産物屋が並んでいて主にお菓子やガラスの食器、飾り物などが置いてあるようだ。二人はあまり動かず周辺のお土産物を見ながらイズハの戻りを待ってみることにした。

「都市内に住んでたらお土産を買う人ってそんなにいないですよね?
 この都市以外から来てる人が多いってことですかね?」
「僕たちは博士の邸宅に世話になってるから大丈夫だけど普通は宿をとるからな。
 他の土地から都市観光で来た客がお土産を買っていくのかもね」

 トウマは店先に並ぶ試食用のお菓子を一口食べてみた。

「うまっ! 何これすっごい甘い。日持ちするなら買って帰ろうかな」

 二人がしばらく時間を潰しているとイズハが戻って来た。泊まれる宿を見つけたようだ。案内図には載っていない少し外れた所にある宿だけど良さそうな所だとか。

 イズハ、疑ってゴメン。

 イズハの案内で向かった宿は隠れ温泉宿『忍屋』。

「忍屋だって。あはは、イズハの知合いの宿?」
「違うっすよぉ~」
「こんな隠れた所に宿があるなんてな、気づく客少ないんじゃないか?
 自ら隠れ温泉宿を名売ってるからあえてこんな所にしたのかな?」

 忍屋は宿としては珍しく玄関で靴を脱ぐ必要があった。板張りの廊下で部屋は個室ではなく2人部屋、4人部屋、6人部屋から入る人数で部屋が選ばれる。価格帯も高めの設定のようだが客もそこそそ入っているようだ。

「普段は利用しないから贅沢してもいいよね? 食事付きだし」

 三人は4人部屋に通された。部屋は畳張りでベッドがなく所謂和風の部屋だ。背の低いテーブルと座布団のみ。食事は時間になると部屋に持って来てくれるそうだ。

「畳張りって初めてだ。何か気持ちのいい空間ですね」

 イズハは畳に寝転んだ。

「悪くないっすけど、ここで雑魚寝っすかね?」
「押し入れに入っている布団を敷いて寝るようだよ」

 奥の大きな窓からは手入れされた小さな庭が見える。部屋の外周りは竹細工で仕切られていて目隠しがなされているようだ。

「この庭、小さな池まであって魚泳いでますよ。何かここ落ち着く~」

 三人は少し部屋でくつろいだ後、お目当てであった宿内の温泉に行った。温泉の入口前に的当ての遊びが出来るところがあったので皆で一勝負。結果はイズハの圧勝。

「当てるだけなら楽勝っす!」

 三人は温泉に入った。

「お~、アーマグラスより狭いけど露天風呂ですよ」
「いいっすね」
「隠れ宿だけのことはあるかもね」

「泳ぐにはちょっと狭いかな?」
「トウマ、温泉は泳ぐ場所じゃないから」

 三人は温泉に浸かり、食事の時間に少し遅れて部屋に戻ると、鍵をかけていたはずの部屋に豪華な食事が用意されていた。

「おおー。すげえー、こんなに食べていいの?」
「刺身まであるっすよ」
「貴重品はなくなっていないようだね。ビックリした。
 スタッフは出入り出来ちゃうのか」
「言われてみれば危ないですね。風呂とか貴重品持っていけないし」
「そこはこの宿を信用するしかないね。でもこんないい所だとは思ってなかったよ。
 完全に旅行者向けの宿だな、せっかくだからゆっくり楽しもう。
 僕はお酒を少し貰おうかな」

 部屋に備え付けてあるベルを鳴らすとスタッフが部屋に来てくれるようだ。しばらく食事を堪能。泊まりなのでトウマとイズハも少しだけお酒を試してみた。

 即効でやられたようで二人は眠たくなったようだ。イズハはベロベロだ。

「まだ二人には早かったかな?」
「おいしいんですけど・・・なんかフラフラして眠くなってきますねぇ~」
「じ、自分もっ、こんな状態じゃ戦えないっすぅ~。
 じ、自分の事はお構いなく、仕事っすっから」
「いやいや、戦わないし、仕事もしてないから。わはは。
 もう片付けてもらって寝られるようにして貰うからちょっと待ってろ」

「ふああ~い」




※この内容は個人小説でありフィクションです。