スライムスレイヤー ~イシノチカラ~

作者:亜形


第70話 何かの縁だよな


オフ三日目-----。

 トウマ、セキトモ、イズハの三人は隠れ温泉宿『忍屋』を後にした。

「いい宿でしたね」
「イズハのお手柄だな」

 イズハは照れている。

 北西側の探索は奥に色街があるので余り近づかず軽く済ませた。朝だからか色街側は人通りが少ないようだった。トウマは店でお土産のお菓子を購入した。

「ここから西門まで歩いて行けば中央通り沿いの南西側も見れそうだ。
 歩きでもいいよな?」
「今朝も沢山食べましたし、運動がてらに歩いて行きましょう!」

 三人は中央通り沿いを歩いて西門側に向かうことにした。途中、やたらと鉄骨を引いた馬車が通っていく。

「あれ何に使うんでしょう? 建物? 橋?」
「さっきから多いよね。西門に着いたら誰かに聞いてみようか」

 西門に着くまでもなく途中に張り紙が張られていたので分かった。西門に近づくにつれ張り紙も多くなっていった。どうやら都市ヨゴオートノへ繋がる鉄道を作っているらしい。メルクベルの南西側に鉄を加工してレールを作っている工場があるようだ。部品の多くは都市ヨゴオートノで作られているようだがメルクベルでも一部を引き受けているのだ。
 西門を出たところには駅を建設中だとか。
 鉄道が出来ればモンスター対策をした蒸気機関車という乗り物で4~5時間ほどで都市間を移動できるようになるというから驚きだ。しかも一度に百人以上運べるという情報。至る所に完成予想図の張り紙も貼ってある。
 絵図によると蒸気機関車は先頭が尖った形状で武器化してあり、多少大きなモンスターが立ちふさがっても吹き飛ばすようだ。抗魔玉が30個くらい連結されているらしい。

 まだ先の話みたいだけど、乗ってみたいな~。

 三人は西門周辺を探索したが鉄道以外の有益な情報はなく、店も特に目を引くものはなかった。

「今じゃないね、蒸気機関車が運行されるようになってからだな。
 先はここが一番発展するかもしれないぞ」

「セキトモさん、そろそろ戻りましょうか。雷神にも寄るんですよね?」
「そうだった。大盾がどうなったか見に行かないと。
 できてるといいけど最悪は盾なしでクエストに挑むことになるかも」
「それは痛いっすね」

 三人は乗り合い馬車で南門側に戻った。
 ギルドでお金を降ろして雷神に行くと、店主のガライがタオルで汗を拭きながら店奥の工房から出てきた。

「おう、いらっしゃい。
 さっき嬢ちゃんたちが装備を引き取りに来てたぞ。入れ違いだったな。
 あんちゃんたちは大盾の件だよな、もう少し待ってくれ。
 あとはふき取りの仕上げだけだ」

 しばらく待つとガライがセキトモの大盾を持って来てくれた。大盾の熊の爪痕だった箇所は盛り上がり黒光りした爪がついている。新品のような仕上がりだ。

「おお~!」
「いいもんが出来たぜ。
 代金は見積もりの100万を少し超過しちまったが100万にまけとくよ。
 ちょっと確認だがよ、お前らもしかして東大陸から来たのか?」

「そうですよ」

「やっぱりか! いやな、ピンときちまったんだよ。
 材料仕入れに行ったら東大陸から流れて来たモンスター素材で巨大爪熊の爪ってのがあってな。フフフ、爪痕の部分の強化にその爪を使ってやったぜ!
 爪痕が本物の爪になったって訳よ。わはは」

「マジ?」

「あれ? よく見たら爪痕の向きが逆になってませんか?」

 大盾の斜めに右上から左下に入っていた爪痕が左右逆向きに変わっているようだ。

「お、気づいたかい。あんちゃん盾左持ちだろ?
 相手の攻撃をこの強化した爪の部分に当てるなら逆向きがいいと思ってな。
 ここに当たればこの爪より硬度の低い爪や牙なんかは砕けるかもしれんぞ。
 なにせコイツの素材を切り分けるのにこの工房一番の硬度をもつカッター機材を使う必要があったからな」

「それは凄いな」

 ガライが言うには硬度の高いモンスター素材は鉱石などと同様で高熱を通すと変形加工が出来るらしい。同時に別の物は作れないので素材を余すことなく使うには必要量に応じて切り分ける必要がありそれが大変なのだそうだ。一度、溶かして固まった素材を再度溶かすと素材自体の品質が落ちてしまうことが多いらしい。

「それに加えて盾の中には緩衝材として巨大蛙の皮を入れてあるぞ。
 盾の爪への衝撃も吸収するからこの爪は早々には砕けないはずだぜ。
 蛙の皮も東大陸からの物だったが広い一枚ものでかなりいい素材だった。
 色が緑で人気がなかったようだが中に入れてしまえば分からないし、これしかねーと思ったぜ」

 東大陸からの巨大蛙の皮?
 それって前にバンが剥いだやつじゃ?
 あとでセキトモさんに教えてやろ~と。

「他の部分も前の鋼鉄より軽くて堅い物に変えてある。
 全体的に前より2割くらい軽くなってんじゃねーかな?」

「重い爪着いたのに軽くもなっているのか、それは有難い」

「正直言うと爪痕の形をとって形だけ逆向きに反映した感じだ。
 元の外枠以外ほとんど変えてしまったし、別物になったと言っていいだろうな。
 ということで悪いが『ライジング・ベア』の名を小さく刻ませてもらった。
 その分、超過した代金を割り引いたと思ってくれ」

「はは。ガライさん、しっかりしてますね。僕は問題ないですよ。
 出来が凄いのは分かりますし、有難うございました」

「そう言ってくれると思ったぜ」

 セキトモは100万エーペルを支払った。

「こっからは売り込みの話になるかな。ちょっと待ってな」

 そう言うとガライが奥から胸当てと籠手を持って来た。

「コイツは弟子たちが素材を加工してる間に俺が作ったもんだ。
 初出しの一品物だぜ。売りに出す前に見せてやろうと思ってな。
 買うならあんちゃんたちに売ってもいいぜ?」

 巨大爪熊の爪を加工する際に残った爪の端材を埋め込んだ胸当て。それと巨大蟷螂の牙を加工して作った籠手。籠手には緑のラインが入っていてそれが地の色だとか。

 説明を聞き、トウマとセキトモは驚いた顔で見合わせた。

「トウマ、これって」
「多分、あれですよね?
 ガライさん、この籠手、巨大蟷螂の牙を使ったって。
 牙も東大陸から入手した素材ですか?」

「そうだが、言わなかったのによく分かったな。
 珍しい物だしついでに仕入れたもんだ。何に使うか迷ったぜ」

「やっぱり! 俺、胸当てと籠手両方とも買います! 売ってください」

 自分たちで倒したモンスターの素材が使われていると分かっての衝動買いというやつだ。胸当てが50万エーペル、籠手が二つで20万エーペル。計70万エーペルだったがトウマもギルドでお金を降ろしていたので足りたようだ。

「そこそこ高いのにトウマさん即決っすね?」
「思い入れ優先って感じだけど、いずれ装備強化するつもりだったからね」

 ここで出会ったのも何かの縁だよな。
 熊の素材もそうだけど、セキトモさんと二人で倒したカマキリの素材が使われているとなるとこれは他の人には譲れないよ。

 イズハも我慢しきれなかったようだ。柔らかいモンスター素材で作られた肩までカバーしてある胸当てを買って10万エーペル支払った。

 三人とも新装備をしてご機嫌で博士の邸宅に帰った。
 博士の邸宅に戻っていたロッカとバンに「今回は装備見るだけにするんじゃなかったの?」とツッコまれたが満足した買い物だったので問題ないと言い張った。

「セキトモさん、形状変わったしその大盾で飛ぶ練習しときます?」
「イヤだよ。まだ使ってもいないのにトウマに踏みつけられるなんて」
「ですよね~、冗談ですよ。あはは」

 それと、トウマはお土産で買って帰って来たお菓子を一人1個ずつ配ったのだが・・・残りはロッカとバンに全部食われた。

 残りは俺がちょっとずつ食べようと思ってたのに・・・。

 こうしてスレーム・ガングの3日間のオフは終わった。
 明日からはメルクベルのクエストに挑む予定だ。




※この内容は個人小説でありフィクションです。