スライムスレイヤー ~イシノチカラ~

作者:亜形


第71話 クエストいろいろ


 ここは都市メルクベルの南門付近にあるギルド。
 スレーム・ガングの5人(トウマ、ロッカ、バン、セキトモ、イズハ)は二階にある難易度B以上のクエストが貼ってある掲示板の所にやって来た。

 トウマはロッカに聞いた。

「いきなり難易度B以上に行くんですか?」

「どのクエストが残っているか確認するだけよ。
 知らずに遭遇したら大変なことになるのは経験済みでしょ?」

 あー、カマキリのときがそんな感じだったな。あれはヤバかった。

 バンは補足した。

「一応、一階に危険エリアをまとめた地図が掲示してありますが、詳細を確認するならこっちですね」

 一同はまず難易度Aのクエストが貼ってある掲示版を見た。

 うわっ、難易度Aのクエストが4つも貼ってあるよ。

『ヒュドラ』
『サーベルタイガー』
『ユニコーン』
『フェンリル』

「あー、やっぱり残ってる。コイツらは倒されてないか。
 前は挑むやつら少しはいたんだけど今は誰も手を出してないみたいだわ」

 中央大陸の難易度Aのモンスターには似た様な幻獣や古代生物などから名を拝借して固有名がつけてあるようだ。
 難易度Aといってもピンキリだ。固有名がつくモンスターは格が違うようで現状はこの4体がメルクベルの難易度Aクエストの不動の4強らしい。
 不確かな情報を頼りに興味半分で挑まないよう依頼書でも場所以外の詳細は伏せてある。挑むには情報を集めることから始めなければならないようだ。縄張りを持っているタイプなので近づかなければ大丈夫だとか。

「熊は倒した後に難易度A昇格だったから固有名はついてなかったわね。
 熊の幻獣みたいなの何かいたっけ?
 私が名をつけるとしたら|皇帝熊《エンペラーベア》かな? あいつ偉そうだったし」

「あの時の熊はまだ未熟な状態でしたからね。
 長い日数が経過していたらもっと強くなっていたでしょう。
 私たちは幸いでした」

 そうなんだ・・・。あいつはかなり強かったと思うけど。

 続いて難易度Bのクエストを見て回った。

『巨大鰐』
『角鹿の群れ』
『巨大触手花』
『双頭の巨大蛇』
『巨大毒蜘蛛』
『巨大爪鷲』
『荒ぶる巨大牙猪』
『牙狼5体』

 こちらは依頼書の3枚のうち1枚が剥されているものもあるので挑んでいる討伐者がいるようだ。時々難易度Cから昇格で入ってくるクエストもあるとか。

「なんか植物までいるんですけど・・・」

 元観測者であるイズハも困惑気味だ。

「巨大牙猪って『荒ぶる』って付いてるっすよ」

「でも俺たち猿倒してますからね。難易度Bなら行けるんじゃ?」
「あれは猿がバカだったからよ。
 あれは下の下。カウントに入れちゃダメ」

「中央のモンスターは知能が高いですし、どれも一筋縄ではいかないですよ。
 角鹿は数が少なければ倒せそうですが10体以上となると群れの中に入った時点で多方面から囲まれて角で串刺しですね」

 セキトモは串刺しを想像したのか痛々しい表情をした。

「バンって怖いことさらっと言うよね」

 一通り確認が終わったので次は一階に降りて難易度Cのクエストを確認した。

『牙蝙蝠の群れ』
『巨大蟷螂』
『荒ぶる角牛』
『巨大ダンゴムシ』
『針蚊の群れ』
『巨大角カブト』
『巨大クワガタ』
『巨大百足』
『巨大蜥蜴』
『巨大蛇』
『巨大爪猫』
『巨大牙犬』
『巨大嘴鶏』
『巨大ゴム兎の群れ』
『巨大蟻の群れ』
『巨大蜘蛛』
『巨大鼠の群れ』

「巨大か群ればっかじゃん。
 2枚剥されている依頼書もあるし、ピンだけ残ってて確認できないやつもあるや。
 この辺になると結構挑んでいる討伐者多いみたいですね?」

「討伐は早い者勝ちだからね。都市周辺の難易度高いやつは遠いから追い抜けると思って被せてくるパーティーもいるわ」

「トウマ、カマキリもいるぞ。僕たちが倒したやつと違いあるのかな?」
「ホントだ。どうでしょうね。
 ところで俺たちはどのクエストに挑むんですか?」

「私たちが行く所はもう決めてあるから。
 それに該当するクエストはこれとこれかな?」

 ロッカは2枚の依頼書を剥ぎ取った。『巨大蜘蛛』と『巨大クワガタ』だ。

 蜘蛛は二度目だな。あのときの俺とは違うぞ。

 セキトモはロッカに問う。

「さっき行く所決まってるって言ったよな? どういう意味?」

「私たちはモンスターが多く生息している東の『狩場の山』に行くつもりなのよ。
 今はその道中で受けられそうなクエストを取ったって感じね」

 そう言うとロッカは該当する難易度Dのクエストも剥ぎ取っていった。

 トウマとセキトモは困惑して顔を見合わせた。

「狩場の山って確か難易度Aのモンスターいませんでしたっけ?」
「僕もそう思った。さっき見たばかりだから間違いないよな?」

 狩場の山の頂上は岩が点在する平地の草原になっており、そこには先ほどクエストを確認したばかりの難易度Aの『ユニコーン』がいるのだ。

 バンの話によるとユニコーンに挑む訳ではなく周囲のモンスターを討伐しに行くだけだとか。ユニコーンの縄張りに入らなければ大丈夫らしい。

「焦ったー」
「いくら何でもいきなり難易度Aは行かないよな。はは」
「ユニコーン見るだけならいけるっすかね?」
「俺ちょっと見たいかも」
「バカ言うな! 熊相当だとしたらとんでもないモンスターだぞ。
 あの時は熊に擬態して間もない頃だったし、こっちをなめて掛かって来てくれたからどうにかなっただけなんだ。僕らが倒せたのは奇跡みたいなもんなんだぞ」

「う~ん。最初からロッカが全力出せばなんとかなる気が」

「ロッカの全力って・・・。
 時間制限あるから倒せる目処が立たないとやらんだろ。相当疲れるみたいだし」

「難しいか~」

 クエストを確認し終えた一同は狩場の山への遠征準備の為、博士の邸宅に戻った。

 久しぶりに馬次郎の出番だ。
 馬次郎はやる気に満ちている。

”ブルㇽ・・・”

「馬次郎、今準備してるからもう少し待っててね」

 イズハはボロくなっていた短剣の代用にバンから日本刀の小太刀のような武器を貰ったようだ。博士の邸宅に残してあった未使用の武器らしい。
 武器名はまんま『小太刀』。

「片刃っすけど、この剣軽くていいっすね。切れ味も鋭そうっす」

 一同が出発の準備を終えた頃、博士の奥さんのルミリアと娘のメルちゃんが見送りに出て来た。

「みんなどこかいっちゃうの~?」
「皆はこれからお仕事に行くのよ。メル、お見送りしてあげて」
「はーい。みんなー、きをつけていってきてね~」

『行ってきまーす!』

 帰る場所があるのはいいものだと思うトウマだった。

 絶対、皆無事に生きて帰るぞ!

 スレーム・ガングの5人は馬車に乗って東門から狩場の山に向かって出発した。目的地までは2日ほどかかるらしい。狩場の山の近くにもオドブレイクがあるようで狩場の山に挑む討伐者はそこを拠点とするようだ。

「そのまま進むだけなら次のオドブレイクに早く着いちゃうのよね。
 だから途中でモンスター討伐していくわよ」

 都市の外周第4区域、訓練の地で馬車を止めると、街道を外れた北側の平地に移動した。周りに所々草木が生えているが見晴らしは悪くない所だ。

「三日休みましたし、この辺で肩慣らして行きましょう。
 新しい装備や武器の感覚にもここで慣れて下さい」

「どうせなら時間決めて何匹スライム倒せるか勝負しようよ。
 スライム以外がいてもカウント1ね」
「えっ、それじゃあ速く動けない僕が不利だろ~」
「じゃあ、前やったみたいにバンと私、そっちは三人のチーム戦でいいわ」

「セキトモさん、それなら勝てるんじゃないですか? 今回はイズハも加わるし」
「そうだな。イズハがいればいい勝負になるかもな」
「自分まだ新しい武器使ってないっすから慣れるまで数倒せないと思うっすよ」
「そうだった!」

 すると、バンが荷台から何やら持って来た。それは手のひらより小さめな懐中時計だった。一人ひとつずつ、皆の分が用意されていた。紐が付いているので首にかけてもいい物だ。定期的にネジを回して時間を合わせる必要はあるが、二つ折りになっていて方位磁針もついている。開いて方位磁針側を水平に向けると指針が南北を指す。一つ5万したらしい。

「出発する前に皆さんに渡せば良かったのですがすっかり忘れていました。万一はぐれたりしたときの為に方向が分かるものを各自が持っていたほうがよいかと」

「これいいですね」
「ロッカが5つ買うからおまけしてって20万まで値切ったのですよ。うふふ」
「バン、何思い出し笑いしてんのよ」
「ロッカに圧倒されている店主の顔が思い浮かびまして。あはは」
「も~、安くなったんだからいいじゃない」

 イズハは方位磁針を自前で持っていたようだがこっちの方が小さくて時間も分かっていいと自前の物は荷台にしまったようだ。

 それぞれがバンが持つ懐中時計の時間に合わせて準備完了。
 スライム討伐勝負開始だ!

 すると、ロッカは何故か荷台を引いた馬次郎を連れて来た。

「え? ロッカ、馬次郎連れて行くのズルくない?」




※この内容は個人小説でありフィクションです。