スライムスレイヤー ~イシノチカラ~

作者:亜形


第72話 負けず嫌いのロッカ


 訓練の地でスライム討伐勝負をすることになった。しかし、ロッカはモンスターが近くにいることが分かる馬次郎を使おうとしていた。

 ロッカは馬次郎の手綱を引きながら方位磁針で方向を確認した。

「街道近くにはスライムいないだろうし、やみくもに探しても効率悪いでしょ? 
 ここからしばらく北に向かって進んで馬次郎が反応したら討伐1回目開始。
 馬次郎が落ち着いたらそこから東に進んで、馬次郎が反応したら討伐2回目開始って感じで繰り返していこうよ。街道の脇道に着いたら終了ってことで」

 バンは感心したようだ。

「なるほど、スライムが全くいない場所で探す無駄を省く訳ですね。
 更に少しずつ東へも進んで行くと」

「そゆこと!」

 ロッカのやつ、ズルする気じゃなかったのか。

「分かった。じゃあ、ロッカが馬次郎引いて行ってよ。
 ロッカが一番先に気づくから俺たちは不利だし」

「そうね。なら馬次郎が反応したら皆にも教えるわ。
 でもそこから周辺のスライムを見つけるのは競争よ」
「それならOK。俺たちが勝っても文句言わないで下さいよ」
「言わないって。さ、行くわよ」

 一同は北に向けて歩き出した。

 トウマ、セキトモ、イズハの三人は歩きながら作戦を練っていた。

「馬次郎が反応してもモンスターが周辺にいるのが分かるってだけですよね?」
「そうだな。僕たちは散らばって探そう。スライムは1匹だけとは限らないぞ」
「進行方向にいるのはほぼ間違いないっすよね?」
「ってことは馬次郎の前方10時から2時の範囲で探すのが確率高いかもな?」
「じゃ、俺10時方向で」
「自分は2時方向に」
「僕は正面の12時方向だな。よし、それで行こう!」

 バンはロッカに話かけた。

「ロッカ、よいんですか? 負けず嫌いなのに」
「いいの、いいの。今回はあいつらの装備の馴らしも兼ねてるからね」

 しばらく歩くとロッカは皆に声をかけた。馬次郎が反応したようだ。

「この辺りにいるようだわ。さあ、捜索スタートよ!」
「よっし、探すぞ~!」

 初回、トウマの捜索範囲はもの凄く狭い。モンスター除けの柵がある街道の脇道がすぐ近くに見えているからだ。

 さすがにこっち側にはいないよな?

 トウマは振り返って他の皆の様子を見た。ロッカとバンはイズハのほうを見ていてまだ動いていなかった。セキトモは大盾から鞘を外してグレイブのみを使えるようにしているようだ。ここで大盾を使う必要はないと判断したのだろう。

 セキトモさん、大盾は背負うのか。
 あ、そういうことか、液状のスライム相手に盾を馴らす意味ないもんな。
 皆、イズハの小太刀の馴らしで最初は譲るつもりなのね。

 狙い通りにいったのかイズハが最初にスライムを見つけた。

「いたっす! 通常サイズのスライムっす」

 イズハは小太刀を構えたがすぐに倒してしまうと馴らしにならないと思ったのか先に攻撃を仕掛けるかどうか迷った。

「イズハ、さっさと倒しなさいよ。そいつだけで終わるわけじゃないんだから」
「そっすね」

 迷っていたイズハにスライムが飛び掛かってきた。だが、イズハは難なく斬り伏せる。というより切れずに叩き割った感じでスライムを倒した。

 イズハは魔石を拾い、恥ずかしそうに振り返った。

「片刃なの忘れてたっす。刃が無いほうで斬ってしまったっす・・・」

「スライムじゃなかったら弾かれてたわね。
 今までと違って刃の向きを意識してないとその武器は使いこなせないわよ」

「慣れる必要があるっすね」

「さ、次行くわよ。この辺りにはもういないわ」

 ここからは東方向に進む。こころなしかセキトモの足取りが軽いようだ。

「いつもより身体が軽いと思ってたけど大盾が軽くなってるからだった。
 これならもう少し速く動けるかも」

 それからはスライムを見つけた者が倒していった。ある程度離れた場所ならロッカに横取りされることもなく倒せる。
 イズハはロッカと同じように小太刀を逆手持ちすることにしたようだ。小太刀で攻撃を防いで押し込まれた場合、自分に刃が無いほうが向いていれば腕を切ることはないからだとか。防御も兼ねた超近接武器として使うようだ。

「攻撃するときは今までより近づいて斬る必要はあるっすけど、基本はこの持ち方のほうが攻防一体って感じでいいっすね。前の短剣でも逆手で持つことはあったっすから特に不便になったわけじゃないっす」

「切れ味は凄そうだよね。
 スライムじゃあんま分からないけど裂くっていうより線みたいな切れ方だし」
「そうっすよね。これヤバい物かもっす」

 討伐勝負の序盤は2-5でトウマたちがリード。セキトモは背負っていた大盾を馬車の荷台に乗せて更に動きを軽くした。
 3-8、4-10といった感じで徐々に討伐数差は開いていった。

「この調子なら勝てそうですよね?」
「ハンデ貰っているようなもんだし、こういうときくらいは圧勝したいよね?」
「こっちは三人だしイズハも武器に慣れてきてるから負ける気はしませんよ」
「楽勝っすよ」

 ロッカは痺れを切らし始めた。

「まったく、あいつら。聞こえてるっての。
 バン、あいつら調子に乗ってるみたいだからそろそろ本気だして勝ちに行くわよ」
「うふっ。やっぱり負けず嫌いじゃないですか」

 馬次郎が反応したところでロッカが皆に教えるのは変わらなかった。だが、ここからが違った。

「バンはあっち方向行って。私はこっちに行くわ」

 ロッカが支持した方向にスライムがいたようだ。6-10少し差を縮めた。

「あ~、今回は取られたか」

 次も同様。8-10。
 次も。10-11。
 周辺にスライムが3匹いた場合のみトウマたちが1匹倒せるといった感じになっていった。

「うそでしょ? もう追いつかれそうですよ」
「僕たちと6も差があったのにもう1だよ」
「このままじゃ追い抜かれるっす」

 次で12-11。トウマたちはとうとう逆転されてしまった。

「そんな・・・」

 ロッカはドヤ顔だ。

「私たちに勝てるとでも思ってた?」

 セキトモがトウマに小声で話しかけた。

「何かおかしくないか?」
「ロッカたちが探しに行った所ばかりにスライム出てますよね?
 俺たちより遅れて出てるのに」
「何かあるのかもしれないな。
 トウマは一旦探すの止めて二人の様子を見ててくれないか?」
「分かりました」

 トウマは気づかれないように二人の様子を観察することにした。ロッカは馬次郎をしばらく見た後、バンに方向を支持しているようだ。

 ロッカ、馬次郎と話でもしてんの? さっぱり分からん。

 14-11。

 セキトモとイズハがトウマの元にやって来た。

「どうだった?」
「見てましたけど、さっぱり分かりませんでした。
 ロッカが方向を支持しているみたいでしたけど」
「モンスターのいる正確な方向が分かるってことっすか?」
「状況から見てそうなんだろうな。ロッカの特殊能力? 馬次郎と話してるとか」
「そんなの俺たちが勝てるわけないじゃないですか?」
「だよな~、こりゃ参った。はは」

 16-12になったところで街道の脇道が見えたので討伐勝負は終了した。

 ロッカは勝ち誇った。

「あはは! 今回も私たちの勝ちね!」
「ロッカ、なんかズルしてただろ?」
「教えな~い」

 単純な話だがロッカはやはりズルをしていた。
 ロッカは馬次郎がモンスターの気配を感じた少し後に一瞬だけモンスターがいる方向を物見するのを知っている。ロッカはそれを見逃さないように馬次郎を観察していたのだ。
 馬次郎ほど遠距離までモンスターの気配を察知することはできないが、大体の方向が分かればロッカとバンはモンスターの気配を察知することができる。方向さえ分かればすぐに見つけられるということだ。
 ロッカはそれを教えるつもりはない。次に誰が気づくのかを楽しみにしている。

 ロッカは馬次郎をねぎらった。

「馬次郎、ありがとねー」

”ブルル・・・”

 結果、皆で魔石・小を28個手に入れた。この短い時間で14万分を稼いだことにもなった。

「普通はスライム探すのもっと時間かかるんけどな。僕たち反則だよね?
 馬次郎で一儲けできそう。はは」
「スライムだけじゃ倒しがいがないし、そんなことに馬次郎は使わせないからね」
「残念~」

「さ、皆さん。肩慣らしもできましたので目的地方向の街道に戻りましょう」

 一同は第4から第5区域の間の脇道に沿って南下し、元の都市東門に繋がる街道まで戻った。




※この内容は個人小説でありフィクションです。