スライムスレイヤー ~イシノチカラ~

作者:亜形


第73話 危ない人


 スレーム・ガングの5人は第6区域を抜け都市の管理区域から出たところだ。このまま進むとあと1時間くらいでオドブレイクに着くようなので時間的には早過ぎる。予定通り少し遠回りしてクエスト2つこなして行くことになった。

 街道を外れてまずは難易度Dの『爪キジ討伐』に向かった。
 爪キジは中型のモンスターで林に生息する野生のキジを食ってモンスター化したようだ。多少飛び回るくらいだったので皆で追っかけ回して難なく討伐成功!

 次に向かったのは丘の麓にいる難易度Dの『角ヤギ討伐』。
 角ヤギは大型のモンスターで頭を下げて角で突き上げる攻撃をしてきた。セキトモが新しくなった大盾で攻撃を受けるとヤギの角のほうが砕けた。すかさず全員で斬りかかってあっさり討伐成功!

「熊爪の勝ちでしたね」
「ここまでとはびっくりだよ。受けた衝撃も随分少なかったし、ガライさんいい仕事してくれたみたいだな。頼んで正解だった」

 夕方になり目的地のオドブレイクに到着した。

 ロッカは掲示板を見ながら言う。

「方向的に倒されているか判別は難しいけど剥されてはいないようね。
 一応、ここの依頼書も1枚剥しておくわ。明日は予定通り難易度Cの『巨大蜘蛛』と『巨大クワガタ』の2つを途中でやるわよ」

「難易度Cか、ここからだな」
「今の俺たちなら行けますって」

翌日-----。

 最初に挑むのは林を縄張りとする『巨大クワガタ討伐』だ。道中が荒れた道で途中から馬次郎を連れて行けなくなった。くじ引きでロッカとイズハが居残り決定。ロッカは悔しそうに「さっさと倒して早く帰って来なさいよ」と言っていた。

「僕たちだけでやれるかな?」
「バンさんがいるから大丈夫じゃないですかね?」
「私に頼られても・・・」

 トウマとセキトモはバンの持っている武器に視線を移した。突っ込み所満載だが、今回バンは小柄な身体に似つかわしくない1スロットタイプの片刃の大剣を肩に担いでいる。鞘に納めていないむき出しのバカでかい包丁を肩に担いでいるといった感じだろうか。

 切れ味凄そうだし、その武器持って街中歩いたら完全に危ない人だよな?
 肩に担いでるから近くにいて振り向かれでもしたら吹き飛ばされそうだ。
 気をつけよう。

 二人の視線に気づいたのかバンは言い訳を始めた。

「荷台から取り出したときは何も言われませんでしたけど、やなりこの武器のこと気になりますよね?」
「さっきは聞きそびれちゃいました」
「僕もどう聞いたらいいもんかと。その見た目がね・・・」

「こうやって持ち歩くには余りにも物騒な物ですからね。
 私の部屋に置いていた物ですが今回は関節を狙いたいので切れる武器をと。
 三刃爪だと攻撃面が広いですからね。これを使うのは久しぶりです」

「鞘を荷台に置いて大剣だけ持って来たのはどうして?」

「ああ、この大きさですからね。
 鞘への出し入れが面倒なので抗魔玉の付け替えだけで済まそうかと。
 鞘から取り出している最中にモンスターに襲われたら攻撃できませんので」

「なるほど」

「その大剣、凄い重そうですよね?」

「大体20kgくらいでしょうか。通常は両手持ちで扱いますし、見た目より軽いと思いますよ」

 20kgが軽い?
 バンさん、それ振り回すんですよね?

 バンは軽く片手で大剣を振ってみせた。

「やはり体重乗せるなら両手持ちですね」

 いや、いや、いや。
 今、普通の剣のように振ってたじゃん。

 バンにドン引きするトウマとセキトモだった。

 三人が林の中に入ってしばらく経つと、あちこちで木が倒れている所があった。

「あれってクワガタの仕業かな? クワガタって木にとまってる虫のイメージですけど巨大は木にとまれませんよね?」
「大型のカブトもそうでしたけど、地上にいるでしょうね。
 でも、飛ぶことは忘れないようにしましょう」
「おそらく甲殻は堅いだろうからまずは関節狙いってところか」

 トウマとセキトモはバンが持っている大剣を再び見て、脚の関節ではなく胴体の関節をぶった切るつもりなんだろうなと予想した。

 更に進むと三人は巨大クワガタと遭遇した。黒々としたテカった体。頭部に巨大な鋏を持ち左右にある眼はすでに赤でやはり甲殻は見るからに堅そうだ。

「大きいですね。注意すべきはあの大きな鋏でしょうけど、大き過ぎるので挟まれるほうが難しいかもしれませんね?」
「セキトモさんなら挟みやすいかもですよ」
「バカ言うな。それだと僕、死んじゃうだろ」
「挟まれないように気をつけましょうってことですよ。あはは」
「冗談言ってる場合じゃないぞ。クワガタの眼はすでに赤だ。
 トウマも気をつけろ!」
「はい!」

 おっと、まだクワガタとの距離があるから気を抜き過ぎてたな。
 集中しよう。

 クワガタはゆっくりと体を正面に向けると、羽を広げて飛んで来た!

「ヤバっ、もう飛んで来た!」

 トウマとバンはクワガタの急襲を素早く回避した。
 セキトモは大盾でクワガタの鋏の先がぶつかって来たのを防いだが身体ごと吹き飛ばされた。大盾にぶつかったクワガタの鋏は破壊できなかったようだ。それだけで相当な堅さということが分かる。

「セキトモさん、大丈夫ですか?」
「大丈夫! 踏ん張れなくて身体ごと持っていかれたけどね。
 この盾のおかげで衝撃はそこまで伝わってこなかったよ。
 しかし、いきなり飛んでくるとは厄介だな」

 周りの木をなぎ倒しながら大きく旋回して、再びクワガタが襲って来た!
 トウマはクワガタの攻撃をかわし、大きな脚の関節を1本斬った。

「やった! 脚1本落としましたよ!」

 セキトモは二度目のクワガタの突撃を大盾で受け流し、クワガタを背後にある木にぶつけるが逆に木のほうがなぎ倒された。

「あのクワガタ止まらないな・・・。バン?」

 急にセキトモの前に出たバンにセキトモは戸惑った。

「私に任せて下さい!」

 バンは再び旋回して襲ってくるクワガタの正面に立つと大剣の横の面を向けて構え、飛び上がった。そしてクワガタの大きな鋏で挟まれる直前でクワガタを地面に叩き落とした。

”ズシン・・・”

 うっそ、そんな大剣の使い方あり?

「今です!」

 トウマは飛び上がり羽を広げたままのクワガタの羽の付け根を切断した。

「これでもう飛べないだろ?」

 飛べなくなったクワガタだがすぐに地面で旋回するように暴れ出した。
 トウマはクワガタから少し距離を置いた。

 カマキリのときみたいだな。
 これじゃ近づけないや、どうする?

 地面で旋回するクワガタを今度はセキトモがしっかりと踏ん張り大盾で受け止め、動きを止めた。日々のトレーニングの成果が出始めたのかセキトモは力強くなっていた。

「よし! 止まったぞ」

 すると、トウマが向かうより早くバンがクワガタの頭と胴体の付け根を大剣で縦に一刀両断した。クワガタが霧散していく・・・。

 『巨大クワガタ討伐』成功だ!

「凄っ!」
「僕は受けるだけだったな。はは」

「セキトモさんが動きを止めてくれたおかげで関節を狙うことができたのですよ。
 ありがとうございました」

「どういたしまして。にしても凄い切れ味だね、その大剣。
 そのまま甲殻ごと切れたんじゃない?」
「そうかもしれませんが確信持てなくて。
 博士が作ったものですから切れたかもしれませんね」
「普通なわけないし切れそうだな。わはは」

 それを扱うバンさんも普通じゃないと思いますけどね~。

 三人は巨大クワガタが落とした魔石・中を回収してロッカたちが待っている所へ戻った。

「やけに早かったわね?」
「もうクワガタ倒してきたっすか?」

「「バン(さん)が凄かった」」

 バンはちょっと照れ臭そうにしていて表情だけを見ると可愛らしいと思えるが、持っている大剣が似つかわないことは言うまでもない。




※この内容は個人小説でありフィクションです。