スライムスレイヤー ~イシノチカラ~

作者:亜形


第74話 妙にやる気出してない?


 『巨大クワガタ討伐』は予定していた時間より随分早く終わっていたようだ。そこでロッカがもう一つクエスト行けそうと言い出して難易度Dの『爪猫5体討伐』を追加でやることになった。次の『巨大蜘蛛討伐』の前に少し寄り道だ。

「クエストに挑むのは一日1回でもいいと思いますけどね、やり過ぎじゃ?」
「物足りないのかもよ、クワガタはロッカ留守番だったからね」

「トウマ、セキトモ。聞こえてるからね」

 御者のイズハ以外は全員馬車の中にいるのだ。耳打ちでもしない限りコソコソ話も聞こえてしまう。

「私たちには時間がないのよ。一つでも多くクエストをこなして早く成長しないと」

「どういうこと?」

「それは・・・」

 ロッカは話すのが面倒くさくなったようでイズハと御者を交代した。

 ロッカ、説明せんのかい!

 鼻歌を歌い出したロッカのリズムに合わせるかのように馬次郎が歩き出した。
 ロッカを見やり、やれやれといった感じで代わりにバンが説明してくれた。

 それはトウマとセキトモがバルンで中央大陸行きを決めた日の話だった。

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 博士の邸宅の裏庭でトウマとセキトモが新しい武器の練習をしている時。
 博士とロッカとバンの三人は邸宅のラウンジで口論していた。

「ロッカ君、さっきはトウマ君とセキトモ君の中央行きを認めたがやはり彼らには早すぎるのではないか?」

「博士、一度口にした事は覆らないわよ」

「しかしだな、君らは中央に戻る際に難易度の高いクエストを消化していくつもりなのだろう?」

「よく分かってるじゃない。バンと私だけだとちょっと人手不足だからね。
 あの二人が加われば高難易度クエストも行けると思うわ」

 博士はロッカにビシッと指をさして言う。

「そこなんだよ!
 ロッカ君は彼らの力を認めているのかもしれないがバン君も言っていただろう。
 彼らはまだ初心者同然だと」

「でもあの二人は経験が足りないだけよ。カマキリだって二人で倒してるんだし、数多くのクエストをこなした方が成長は早いと思うわ」

「うーむ。しかし、契約して貰ったばかりで危険なクエストにつき合わせるのはどうかと思うぞ。ロッカ君のクエストの選び方の問題だ、私は分かっているぞ!」

「わ、私だって行けそうと思ったクエストしかやらないわよ。
 それに道中でスカウトできそうな討伐者見つけたら引き入れるつもりだし」

「また勝手なことを・・・」

「勿論、スカウトするかはバンと相談して決めるわ。それならいいでしょ?」

「・・・分かった。道中でメンバーを追加するのは認めよう。但し、条件を満たしている場合だけだ。我々の目的は分かっていると思うが必ずバン君と相談して決めるんだぞ」

「分かってるわよ。
 すぐにでも私たちのパーティーで難易度Aだって攻略できるようにするんだから」

「また大きいことを・・・。クエストで死んだら意味がないんだぞ!」

「博士の言う通りですよ。ロッカ」

「も~、バンまで。目標は高いほうがいいじゃない?
 私は博士が中央に戻るまでに難易度A攻略するつもりでいるのよ。
 勿論、全員生きてね」

「ロッカ、それはどうでしょうか?
 難易度Aとなると他のパーティーとの共闘も考えないといけないレベルですよ」

「私たちだってぬるい相手ばかりじゃ成長できないでしょ。
 バンだって今のままでいいとは思ってないわよね?」

「それはそうですがまずは二人の成長が先ですよ」

「分かってるって」

「とにかくだな。彼らが早々に死ぬような事はするんじゃないぞ。
 バン君、ロッカ君が無謀な挑戦をしようとしたら絶対止めてくれ」

「分かりました。ロッカもいいですね?」

「分かった。バンがダメだっていうやつには行かないわ」

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「で、そのあとすぐにあの街で特急クエストが出ました。
 一応、私たちで難易度Aは達成できたと思うのですが、あれは討伐後の昇格でしたからね。ロッカは納得していないのでしょう」

「なるほどね。
 ロッカは博士が戻る前に正規のクエスト難易度Aに挑んで攻略したいってことか。
 それには僕たちがもっと経験積んで成長する必要があると」

「そういうことになりますね」

「自分たちでやれるっすかね?」
「イズハ、俺たちの成長次第ってことだよ。
 博士が戻るまでなら確かにあまり時間ないかもな」

「僕たちも最初と比べたら成長してるとは思うけど、目先の目標が難易度Aか~。
 もっと頑張らないとな」

「私は皆さん順調に力をつけてきていると思っていますよ。想像以上の早さです。
 今の話で及び腰になる人がいなかったので少しホッとしました。
 それに難易度Aのモンスターをいつまでも放置というわけにはいきませんからね。
 誰かがやらないと」

 そうだよな、目標は難易度Aのモンスター討伐!
 今回、ユニコーンに挑むわけじゃないけど、それなりに強くなって行かなきゃな!

 しばらくして、『爪猫5体討伐』の目的地である廃屋跡地に着いた。大地震前に民家3~4軒があった場所で屋根はなく家の石壁も崩れて瓦礫だらけの所である。

「ほとんど家の面影ないですね。崩れた古い家の枠だけかろうじて残ってる感じだ」

「ここに爪猫5体が住み着いているってことか。
 姿が確認できないから情報通り小型のようだな」

「馬次郎も警戒しているようですし、確かにいるようですね」

 近くにはいくつか盛り土されて上に古い石が置いてある場所があった。おそらく亡くなった方の墓標だろう。花瓶が置いてあり周辺に雑草が少ないことからたまに手入れされていると思われる。

 皆が自然と手を合わせ、故人の冥福を祈った。

「おそらく依頼主はここで亡くなった方々の子孫か関係者でしょうね」

「お墓のすぐ近くにモンスターが住み着いてたらいい気はしないわね。
 私たちで片付けて行くわよ」

「おう!」
「やるぞ!」
「頑張るっす!」

 ロッカは不思議そうにバンに言う。

「何? 何かあの三人、妙にやる気出してない?」

「うふっ。さあ? ロッカのやる気にでもあてられたのではないですかね?」

「何それ」

 今回、バンは久しぶりに炎のロッドを使う。隠れている爪猫を火であぶり出そうという作戦だ。廃屋なので火が着いても大丈夫だろうという判断だ。
 バンは端から順に炎の球を放っていった。ほぼ瓦礫なので炎上するほどではない。

”ガサ、ガサ・・・”

「一瞬見えたっす、素早いっすね。黒猫?」

 するとロッカの背後から爪猫が瓦礫の上に飛び出し襲ってきた。

”シャーーーー!”

 ロッカは難なくかわして着地した爪猫を背後から斬り伏せた。

「まずは1体ね」

 今度は別の爪猫がトウマに襲い掛かってきた。
 トウマは爪猫の攻撃を盾で受けるも倒すことができずにまた物陰へと逃げられた。

「逃げられた! 素早いな」

 的も小さいしこれは斬るの難しいかも。
 縦より横に斬ったほうが当たりやすいかな?

 イズハは気配を消し、飛び出して来た爪猫の背後に回って小太刀で斬り伏せた。爪猫はイズハに気づいてもいなかった。

「2体目っす」

 次に飛び出して来た爪猫をセキトモが大盾で追いやる。

「トウマ、そっち行ったぞ」

 トウマは狙いを定めて片足をつき、横斬り一閃で爪猫を仕留めた。

「よっし、倒した! 3体目!」

 次に出て来た爪猫をセキトモがまた大盾で追いやる。今度はそのまま家の石壁の隅に追い込んでグレイブの一突きで仕留めた。

「ふ~、これで4体だな。あと1体だ」

 最後の爪猫は飛び出して瓦礫の上に乗ったところをバンが炎の球で仕留めた。

「ホッ。当たって良かったです。あやうく私だけ倒せないところでした」

「あはは、小型の爪猫くらい誰が倒しても一緒でしょ」

 何も問題なく『爪猫5体討伐』成功だ!

 魔石を回収して小休憩後にバンが放った炎が消えていることを皆で確認した。

「もう大丈夫そうですね。さ、次行きましょう!」
「おう!」
「行くっすよ!」

「何張り切ってんのよ。気合入れ過ぎて空回りしないでよね」
「あはは、可笑しい」

 スレーム・ガングの5人は次のクエスト『巨大蜘蛛討伐』に向かった。




※この内容は個人小説でありフィクションです。